地方公共団体の長の専決処分(地方自治法179条1項)の要件と契約の私法上効力
千葉地裁H25.3.22
1.普通地方公共団体の長が補助金の支出をする旨の債務負担行為を専決処分によって行ったことにつき、その専決処分に地方自治法179条1項の要件を欠く違法があるとして、右専決処分をした長の不法行為責任が認められた事例
2.右専決処分に基づく贈与契約は違法ではあるが、同契約の相手方が、同契約が適法に締結されたものと信じ、そう信じることにつき正当な理由があったという事情の下では、同契約が私法上無効とまではいえないとされた事例
<事案>
平成22年当時千葉県a市長であったAは、市議会の会期最終日に、B鉄道会社に対し補助金を支給する旨の補正予算案を提出。but議事が混乱し、審議未了のまま会規満了して閉会。
⇒Aは「議会において議決すべき事件を議決しない」場合(地方自治法179条1項)に該当するとして、B鉄道会社に対し補助金の支出をする旨の債務負担行為を専決処分によって行った。
本件はa市の住民である原告らが、本件専決処分には、法179条1項の要件を欠く違法があり、これに基づいてB鉄道会社と締結した贈与契約は私法上無効であるから、公金の支出も違法・無効であると主張して、被告に対し、Aに対しては債務不履行又は不法行為に基づく補助金支出額の損害賠償請求を、B鉄道会社に対しては不当利得返還請求をすることを求めた住民訴訟。
<規定>
地方自治法 第179条〔長の専決処分〕
普通地方公共団体の議会が成立しないとき、第百十三条ただし書の場合においてなお会議を開くことができないとき、普通地方公共団体の長において議会の議決すべき事件について特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき、又は議会において議決すべき事件を議決しないときは、当該普通地方公共団体の長は、その議決すべき事件を処分することができる。ただし、第百六十二条の規定による副知事又は副市町村長の選任の同意については、この限りでない。
<判断>
●
専決処分制度(法179条)の趣旨に照らせば、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」という要件を形式的に満たすとみえる場合であっても、普通地方公共団体の長が、議会が議決することができないような状況をことさらに作出・利用して専決処分をした場合や、その案件の経過や内容等客観的な事情に照らして、議会が議決しないことが社会通念上相当なものとして是認されるべきであるのに、あえて専決処分をした場合等、専決処分制度の趣旨を潜脱ことが明らかである場合には、「議会において議決すべき事件を議決しないとき」に該当せず、当該専決処分は違法となることがある。
①従前から議会が3度にわたって補助金に反対する意思を明らかにしていた
②Aは議会の会期前には補助金に係る予算案は提出しない旨表明していたにもかかわらず、会規最終日の朝になって突如予算案を提出する旨述べ、予算案が提出されたのは同日午後であった
③予算案の審議が開始されるも議長の突然の討論希望表明を受けて議事が混乱し、議会は正常化の努力をしたものの時間が足りずに会期満了となった
④Aは会期終了後、議員から臨時会の招集を要求され、これに応じる時間的余裕があったにもかかわらず応じなかった
等の本件専決処分に至る経緯。
⑤予算の議決は議会の本来的な権原であって、本件補正予算案は突発的に発生した事態に緊急に対処するためのものでもない。
⇒
議会が本件補正予算案を議決しないことは社会通念上相当なものとして是認されるべき場合にあたるというべきであって、本件専決処分は、違法であると判断した。
●
Aについては不法行為責任を認めたが、
B鉄道会社の責任については、本件贈与契約が違法であるからといって、私法上当然に無効になると解すべきではないところ、B鉄道会社が本件専決処分により本件贈与契約が適法に締結されたものと信じ、そう信じるにつき正当な理由があったこと等にかんがみ、本件贈与契約が私法上無効とまではいえない。
<解説>
地方公共団体の締結する契約にも、民法の表見代理等の規定が適用され(最高裁昭和34.7.14)、取引の相手方の保護を図る余地がある。
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