少年の不起訴処分と成人後の公訴提起
最高裁H25.6.18
少年の被疑事件につき一旦は嫌疑不十分を理由に不起訴処分にするなどしたため家庭裁判所の審判を受ける機会が失われた後に事件を再起してした公訴提起が無効であるとはいえないとされた事例
<事案>
犯行時16歳の少年の業務上過失傷害被疑事件について、検察官への事件送致までに約2年11か月を要した上、一旦は嫌疑不十分を理由に不起訴処分(家庭裁判所へ送致しない処分)とされたため、被疑者が成人に達して家庭裁判所で審判を受ける機会が失われた後、被害者からの検察審査会への審査申立てを機に、事件を再起してした公訴提起の有効性が争われた事案。
<規定>
少年法 第41条(司法警察員の送致)
司法警察員は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
少年法 第42条(検察官の送致)
検察官は、少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、犯罪の嫌疑があるものと思料するときは、第四十五条第五号本文に規定する場合を除いて、これを家庭裁判所に送致しなければならない。犯罪の嫌疑がない場合でも、家庭裁判所の審判に付すべき事由があると思料するときは、同様である。
<被告人の主張>
本件控訴提起は、
①捜査機関が不当に捜査を遅延・放置した結果、被告人の家庭裁判所で審判を受ける権利が奪われた後にされたものである上、
②検察官が、少年法42条1項の全件送致義務に反して不起訴処分としながら、検察審査会への審査申立てを機に、事件を再起して嫌疑不十分のまましたものであって、少年審判制度の趣旨を没却し、違法・無効である。
<判断>
●本件における捜査及び当初の不起訴処分について
本件においては、被告人が否認する一方、長期間にわたり被害者の供述が得られない状況が続いたこと、鑑定等の専門的捜査が必要であったこと、捜査の途中で目撃者の新供述を得るなどして捜査方針が変更されたことあど、運転者を特定するまでに日時を要する事情が存在し、当初、事件送致を受けた検察官が家庭裁判所に送致せずに不起訴処分にしたのも、被告人につき嫌疑が不十分であり、他に審判に付すべき事由もないと判断した以上、やむを得ないところである。
捜査官の各措置には、「家庭裁判所の審判の機会が失われることを知りながら殊更捜査を遅らせたり、不起訴処分にしたり、あるいは、特段の事情もなくいたずらに事件の処理を放置したりするなどの極めて重大な職務違反があるとは認められず、これらの捜査等の手続に違法はない」
●本件公訴提起自体について
「被告人が成人に達した後、検察審査会への審査申立てを機に、検察官が、改めて補充捜査等を行い、被告人に嫌疑が認められると判断した上、事件を再起してした本件公訴提起自体にも違法とすべきところはない」と判示。
⇒本件公訴提起が無効であるとはいえない。
<解説>
最高裁昭和44.12.5:
「少年の被疑事件について、家庭裁判所に送致するためには、司法警察員または検察官において、犯罪の嫌疑があると認め得る程度の証拠を収集し、捜査を遂げる必要があり、このことは少年法41条、42条の明記するところである。したがって、捜査機構、捜査官の捜査能力、事件の輻輳の程度、被疑事件の難易等の自浄に左右されるとはいえ、その捜査にそれ相応の日時を要することはいうまでもなく、捜査に長期の時期を要したため、家庭裁判所に送致して審判を受ける機会が失われたとしても、それのみをもって少年法の趣旨に反し、捜査手続を違法であると速断することのできないことも、また、多言を要しない。」
「捜査官において、適時に捜査が完了しないときは家庭裁判所の審判の機会が失われることを知りながら、ことさら捜査を遅らせ、あるいは、特段の事情もなくいたずらに事件の処理を放置し、そのため手続を設けた制度の趣旨が失われる程度に著しく捜査の遅延をみる等、極めて重大な職務違反が認められる場合においては、捜査官の措置は、制度を設けた趣旨に反するものとして、違法となることがあると解すべきである」
少年法42条1項の全件送致義務は、あくまで少年の被疑事件について捜査を遂げた結果、検察官が販売の嫌疑があると思料した場合に家庭裁判所への送致を義務付けているのであり、犯罪の嫌疑が不十分であると思料した場合にまで家庭裁判所への送致を義務付けるものではない。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html
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