公益に基づく裁量的開示処分と行政行為の撤回
横浜地裁H25.3.6
処分行政庁が、行政処分の一部非開示決定に対する異議申立てにつき棄却決定をした後、市長の交替及び市議会が非公開部分の公開を求める請願を採択したことを理由とし、公益に基づく裁量的開示処分として、非公開部分を公開する旨の決定をしたことは、行政行為の撤回等にあたり、かつ、その適法要件を欠き、行政庁の裁量権の範囲を逸脱して違法であるとされた事例
<事案>
前市長が情報公開条例に基づく行政文書の開示請求に対し一部非開示の原決定をし、かつ、原決定に対する異議申立に対する棄却決定をした後、現市長が市議会による非公開部分の公開を求める請願の採択を契機とし、その公益に基づく裁量的開示処分(同市条例8条)として、非公開部分を公開する旨の決定(「本件決定」)。
⇒Xは、本件決定が行政行為の撤回にあたり、かつ、その適法要件を欠き、行政庁の裁量権の範囲を逸脱する違法なものであるとして、Yに対しその取消しを求めた。
<判断>
●
原処分の撤回が、原処分がその名宛人に対する不利益処分であると同時に、利害関係人の権利ないり私益を保護する複効的処分である場合には、原処分がその名宛人に対し権利ないし利益を与える授益的行政行為である場合(最高裁昭和63.6.17)と同様、その責めに帰すべき事由がないにもかかわらず利害関係人の権利ないし利益を侵害することによりその行政行為に対する信頼を裏切り、しかも、法的安定性を害するものとなりうる
⇒後発事情をも基礎とすると、利害関係人の権利ないし利益の保護の必要性が減少し、他方、原処分の効果を消滅させて公益適合性を確保する必要性が発生ないし増大するなどして、私的権利ないし利益よりも当該公益が優先されるべき状況となったと認められる場合でなければ、許されない。
異議申立棄却決定が市条例6条1号に基づきXに関する個人情報ないし個人識別情報、すなわち、プライバシーの権利及び平穏な生活を送る利益を、同条2号に基づき法人である不動産業者Aに関する情報に係るものでその競争上の地位その他正当な利益を、それぞれ保護することを目的とするもの。
⇒異議申立棄却決定の撤回は、後発的事情により、本件非公開部分を公開する何らかの公益上の必要性が発生又は増大し、他方、X及び不動産業者Aの前記権利ないし利益保護の必要性が減少するなどして、前者が後者を上回り、前者を優先させるべき状況となったという場合でなければ、処分行政庁の裁量権の範囲を逸脱する違法なものというべき。
●
本件については・・・異議申立て棄却決定後の後発事情により、本件非公開部分を公開する公益上の必要性が発生ないし増大し、他方、X及び不動産業者Aの前記権利ないし利益の保護の必要性が減少するなどして、前者が後者を上回り、前者が優先されるべき状況となり、異議申し立て棄却決定を撤回することが許されるに至ったとは到底いうことができない(なお、Y及び被告補助参加人の、本件決定が市条例所定の裁量開示として適法である旨の主張は、同制度が処分行政庁において職権で異議申立棄却決定を撤回した上本件決定をおこなう場合に関する規定でなことは自明である。)。
●
(傍論で)本件決定は、行政不服審査法に基づく異議申立てに対する一部棄却決定を撤回するものであり、当該異議申立手続が争訟裁断的性格を持つのであれば、異議申立棄却決定には、いわゆる不可変更力が認められ、行政庁自らこれを取り消し、変更することは原則として許されないと解されるところ(最高裁昭和29.1.21)、藤沢市条例に異議申立手続に関して審査会への諮問及びその際の諸手続の規定(条例第3章)が置かれ、争訟裁断的性格があることにかんがみると、上記不可変更力が認められる場合に当たると解され、本件決定の撤回の要件がより厳格に解されることとなる。
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