国税庁の運用が否定された事例
東京地裁H24.12.7
法人税法施行令121条1項1号に規定するヘッジ取引の有効性判断の方法に、オプションの基礎商品の時価変更額とヘッジ対象の時価変更額とを比較する方法(いわゆる基礎商品比較法)は当たらないとして、法人税法61条の9第2項、同法施行令122条の3に基づき、その保有する外貨建資産に係る外国為替換算差損の額を損金の額に算入することを認めなかった法人税更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の一部が取り消された事例
<法規制>
事業年度終了時において保有する外貨建資産につき、当該事業年度において、その外貨建資産に係る外国為替の売買相場が著しく変動した場合(法人税基本通達13の2-2-10により概ね15%を越える場合)には、その取得等の基因となった外貨建取引を当該事業年度終了時に行ったものとみなして円換算し、その時の帳簿価額との差額に相当する金額を損益金の額に算入する(法61条の9第2項、第3項、施行令122条の3)。
しかし、当該外貨建資産について、その価額の変動に伴って生ずるおそれのある損失額(「ヘッジ対象資産等損失額」)を減少させるためにデリバティブ取引が行われており、かつ、法61条の6第1項(繰延ヘッジ処理による損益額の繰延べ)の適用がある場合には、上記処理をすることはできない(施行令122条の2)。
<主張>
X:法61条の6第1項を適用するための要件のうち、施行令121条1項に定められた方法により当該デリバティブ取引がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であるかいなかの判定(「有効性判定」)を行い、有効であると認められる場合との要件について、本件通貨オプション取引は、施行令121条1項1号に定められた方法により有効性判定をおこなえば、本来米ドル建社債のヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であるとは認められないから、法61条の6第1項の適用はない。
<判断>
施行令121条1項1号は、有効性判定の方法について、「期末時又は決済時におけるそのデリバティブ取引等に係る法61条の6第1項に規定する利益額又は損失額とヘッジ対象資産等評価差額とを比較する方法」と規定するところ、基礎商品比較法にいう「オプションの基礎商品の時価商額」とは、オプションの想定元本と当該基礎商品の時価変動額とを掛け合わせた金額をいい、施行令121条1項1号にいう「デリバティブ取引等に係る法61条の6第1項に規定する利益額又は損失額」に当たらないことは明らかである⇒基礎商品比較法は、施行令121条1項1号に規定する有効性判定の方法とはいえない。
租税法規は侵害規範であって、法的安定性の要請が強く働くものであるから、みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではないところ、企業会計上は基礎商品比較法が認められていることや法61条の6の趣旨を考慮してもなお、施行令121条1項1号の文言を離れ、明らかに同号に規定する有効性判定の方法には当たらない基礎商品比較法を、同号に規定する有効性判定の方法として取り扱うべき合理的理由は見出すことはできない。
基礎商品比較法が同号に規定する有効性判定の方法として認められるか否かは、専ら同号の解釈により決せられるべきものであり、課税実務上の取扱いにより、その結論が左右されるべきものではない。
<解説>
租税法規の解釈については、最高裁H22.3.2が、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきではない旨判示。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html
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