障害者自立支援法の支払決定の行政処分性(否定)
東京地裁H25.1.29
1.障害者自立支援法29条1項に基づく支払決定が行政処分に該当しないとされた事例
2.入院中の介護が「重度訪問介護」に該当しないとされた事例
<規定>
障害者総合支援法 第29条(介護給付費又は訓練等給付費)
市町村は、支給決定障害者等が、支給決定の有効期間内において、都道府県知事が指定する障害福祉サービス事業を行う者(以下「指定障害福祉サービス事業者」という。)若しくは障害者支援施設(以下「指定障害者支援施設」という。)から当該指定に係る障害福祉サービス(以下「指定障害福祉サービス」という。)を受けたとき、又はのぞみの園から施設障害福祉サービスを受けたときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該支給決定障害者等に対し、当該指定障害福祉サービス又は施設障害福祉サービス(支給量の範囲内のものに限る。以下「指定障害福祉サービス等」という。)に要した費用(食事の提供に要する費用、居住若しくは滞在に要する費用その他の日常生活に要する費用又は創作的活動若しくは生産活動に要する費用のうち厚生労働省令で定める費用(以下「特定費用」という。)を除く。)について、介護給付費又は訓練等給付費を支給する。
障害者総合支援法 第5条
3 この法律において「重度訪問介護」とは、重度の肢体不自由者その他の障害者であって常時介護を要するものとして厚生労働省令で定めるものにつき、居宅における入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与することをいう。
行政事件訴訟法 第3条(抗告訴訟)
2 この法律において「処分の取消しの訴え」とは、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為(次項に規定する裁決、決定その他の行為を除く。以下単に「処分」という。)の取消しを求める訴訟をいう。
<争点>
①障害者自立支援法29条1項に基づく支払決定に処分性が認められるか否か
②入院中の介護が重度訪問介護に該当するか否か
<判断>
争点①:
行政事件訴訟法3条2項に規定する「処分」には該当しない。
←
①障害者自立支援法29条1項は、支給決定障害者等が、所定のサービスを受けたときは、そのサービスに要した費用について、介護給付費等を「支給する」と定めているのみで、介護給付費を支給するに当たって市町村において何らかの決定をする旨の規定、あるいはその決定を支給決定障害者等に対して通知することを示す規定はなく、介護給付費は、同法29条3項及び4項並びにこれらの委任を受けた告示及び政令によって具体的に定まることとされている。
②他に、市町村等による決定等の形成行為又確認行為によって初めて具体的な権利が発生することとされていることをうかがわせる規定はない。
③市町村が支払決定という文言を用いることがあったとしても、それは、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものにご該当せず、また、同法上、これが処分であることをうかがわせる手続規定も何ら存在しない。
争点②:
障害自立支援法5条3項に規定する「居宅」とは、同法1条が障害者及び障害児が自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行うことなどを目的とすると規定していることを考慮すれば、重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者が、同法5条3項に規定する重度訪問介護として、便宜の供与を受けなければ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができない場所をいうものと解されるところ、支給決定障害者が病院に入院した場合には、患者である支給決定障害者に対し、健康保険法又は国民健康保険法が規定する療養の給付として保険医療機関の従業員により看護が全て行われることが予定されているため、病院は、重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者であっても、重度訪問介護として、便宜の供与を受けなければ自立した日常生活又は社会生活を営むことができない場所には該当せず、同項に規定する「居宅」には該当しないと解すべきであり、同法は、支給決定障害者が病院入院した場合には、支給決定障害者が入院中に重度訪問介護を受け、これに関して介護給付費を支給することを予定していないものと解される。
<解説>
争点①について :
支払決定に処分性が認められるとすれば、本件のような事案の場合には、各支払決定について処分の取消しの訴えを提起すべきことになるが、同法105条が審査請求前置について規定しているので、同法101条に規定する審査請求の期間に留意することが必要。
支払決定に処分性が認められるか否かは、介護給付費の受給権、すなわち社会保障関係給付日の受給権が実体法上いつどのように発生するかにも係る。
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