重要文化財に指定する処分の義務付けの訴えと原告適格
大阪地裁H24.12.21
文化財保護法に基づく重要文化財に指定する処分の義務付けを求める訴えにつき、建築に関する学術研究者等である原告らの原告適格が否定された事例
<事案>
研究者である原告が、文部科学大臣に対して、旧大阪中央郵便局庁舎を重要文化財に指定する処分をすることの義務付けを求めた行政訴訟。
<争点>
①原告適格の有無(本案前の争点)
②文部科学大臣が本件建物を重要文化財にしている義務の一義性(本案の争点)
<規定>
行政事件訴訟法 第37条の2(義務付けの訴えの要件等)
第三条第六項第一号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、一定の処分がされないことにより重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができる。
2 裁判所は、前項に規定する重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たつては、損害の回復の困難の程度を考慮するものとし、損害の性質及び程度並びに処分の内容及び性質をも勘案するものとする。
3 第一項の義務付けの訴えは、行政庁が一定の処分をすべき旨を命ずることを求めるにつき法律上の利益を有する者に限り、提起することができる。
<判断>
原告適格を否定し、訴えを却下。
行訴法37条の2第3項の「法律上の利益を有する者」の意義につき、当該処分がされないことにより自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいい、行政法規が当該利益を個々人の個別的利益としても保護する趣旨を含むと解される場合には、このような利益も上記の法律上保護された利益に該当するとした上で(いわゆる「法律上保護された利益説」)、文化財保護法及びその関係法令の規定において、文化財の学術研究者の学問研究上の利益や、国民が文化財の保存・活用から受ける利益を個々人の個別的利益として保護すべきものとする趣旨を導くことはできない。
原告らは、学術研究者としても、本件建物の保存・活用を求める団体の構成員としても、本件建物を重要文化財に指定する処分の義務付けを求める法律上の利益を有しない。
<解説>
学術研究者の原告適格の有無が問題となった事例
最高裁H1.6.20:
「法律上の利益」の有無の判断基準について「法律上保護された利益説」を採用することを明らかにした上、条例及び文化財保護法において、文化財の学術研究者の学問研究上の利益の保護について特段の配慮をしていると解しうる規定を見出すことはできず、学術研究者の上記利益について、一般の県民あるいは国民が文化財の保存・活用から受ける利益を超えてその保護を図ろうとする趣旨と認めることはできないとして、原告らの原告適格を否定。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html
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