檜原村債権放棄議決事件第1審判決
東京地裁H25.1.23
1.損害賠償の請求を目的とする訴訟を提起することの義務付けの訴えは、地方自治法242条の2第1項4号の請求に係る訴訟類型には該当しないとされた事例
2.村がその雇用していた非常勤職員に対し地方自治法に違反して手当を支給したことにつき村長に過失があるとする住民訴訟の係属中にされたその請求に係る村野損害賠償請求権を放棄する旨の村議会の議決が違法であり、当該放棄が無効であるとされた事例
檜原村債権放棄議決事件第1審判決
<事案>
原告の1人である檜原村議会議員Aが地方自治法242条の2第1項4号本文の規定に基づき提起した住民訴訟について、檜原村村長であるBに対し個人としてのBに損害賠償の請求をすることを命ずる判決が確定したところ、当該判決が確定した日から60日が経過しても損害賠償金が支払われないのに、檜原村の代表監査委員である被告が同法242条の3第2項及び第5項の規定に基づき檜原村を代表してBに対し当該損害賠償の請求を目的とする訴訟を提起しないとして、檜原村の住民である原告らが、被告に対し、
①同法242条の2第1項4号の規定に基づき、檜原村を代表してBに当該判決に係る損害賠償金の請求を目的とする訴訟を提起することを求めるとともに、
②同項3号の規定に基づき、被告が檜原村を代表して上記の訴訟を提起することをしないことは財産の管理を怠る事実に該当して違法であるとして、その旨の確認を求めた事案。
東京高裁は、平成20年12月24日、Cに対して支給された合計1932万112円のうち各種手当の支給に当たる合計756万3800円は、同法に違反するものであったとして、先行訴訟の第1審判決を変更し、「被控訴人(B村長)は、Bに対し、756万3800円及びこれに対する平成17年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員の請求をせよ」とのAの請求の一部を認容する判決
⇒
B村長の上告受理の申立てについて、平成22年2月16日、事件を上告審として受理しないとの決定がされ、確定。
<規定>
地方自治法 第242条の2(住民訴訟)
普通地方公共団体の住民は、前条第一項の規定による請求をした場合において、同条第四項の規定による監査委員の監査の結果若しくは勧告若しくは同条第九項の規定による普通地方公共団体の議会、長その他の執行機関若しくは職員の措置に不服があるとき、又は監査委員が同条第四項の規定による監査若しくは勧告を同条第五項の期間内に行わないとき、若しくは議会、長その他の執行機関若しくは職員が同条第九項の規定による措置を講じないときは、裁判所に対し、同条第一項の請求に係る違法な行為又は怠る事実につき、訴えをもつて次に掲げる請求をすることができる。
三 当該執行機関又は職員に対する当該怠る事実の違法確認の請求
四 当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求。ただし、当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方が第二百四十三条の二第三項の規定による賠償の命令の対象となる者である場合にあつては、当該賠償の命令をすることを求める請求
地方自治法 第242条の3(訴訟の提起)
前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合においては、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から六十日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならない。
2 前項に規定する場合において、当該判決が確定した日から六十日以内に当該請求に係る損害賠償金又は不当利得による返還金が支払われないときは、当該普通地方公共団体は、当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない。
5 前条第一項第四号本文の規定による訴訟について、普通地方公共団体の執行機関又は職員に損害賠償又は不当利得返還の請求を命ずる判決が確定した場合において、当該普通地方公共団体がその長に対し当該損害賠償又は不当利得返還の請求を目的とする訴訟を提起するときは、当該訴訟については、代表監査委員が当該普通地方公共団体を代表する。
<解説>
●
争点①に係る原告らの請求を却下。
争点②に係る原告らの請求を認容。
●争点①について:
原告は、地方自治法242条の2第1項4号の規定に基づき、檜原村の代表監査委員が同村を代表してBに対する前訴確定判決に係る損害賠償金の請求を目的とする訴訟を提起することを求めるが(本件義務付けの訴え)、同号は「当該職員又は当該行為若しくは怠る事実に係る相手方に損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関又は職員に対して求める請求」とされており、この請求を命ずる判決が確定した場合には、普通地方公共団体の長は、当該判決が確定した日から60日以内の日を期限として、当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金の支払を請求しなければならず(同法242条の3第1項)、当該判決が確定した日から60日以内に当該請求に係る損害賠償金等が支払われない場合には当該普通地方公共団体(普通地方公共団体の執行機関又は職員に損害賠償等を命ずる判決が確定した場合において、当該普通地方公共団体がその長に対し当該損害賠償等の請求を目的とする訴訟を提起する場合には代表監査委員。同条5項)は、当該損害賠償請求等の請求を目的とする訴訟を提起しなければならない(同条2項)とされていることからしても、同法242条の2第1項4号の請求には、損害賠償の請求を目的とする訴訟を提起することを目的とする訴訟を提起することを求めることは含まれないと解するのが相当。
他に上記のような義務付けの訴えを住民訴訟として提起することができることを定めた法律は見当たらない⇒本件義務付けの訴えについて、不適法であると判断。
●争点②について:
最高裁平成24年判決(最高裁H24.4.20、H24.4.23)は、放棄議決の適法性を判断するに当たっては、事案ごとの諸事情の総合判断を行い、当該請求権を放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であってその裁量権の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となるという判断基準を採った。
同判決は、地方議会の裁量権の逸脱又はその濫用を審査する際の考慮要素として、①当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質及び内容、②公金の支出の原因及び経緯、③公金の支出の影響、④当該議決の趣旨及び経緯、⑤当該請求権の放棄又は行使の影響、⑥住民訴訟の係属の有無及び経緯、⑦事後の状況その他の諸般の事情を掲げ、また、上記①については、その違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等が考慮の対象とされるべきものとしている。
地方自治法203条1項は、非常勤の職員に係る報酬の定めであり、そのうち議会の議員に対して期末手当を支給することが認められている以外には、手当の支給をすることは法律上認められていない(同法204条において、常勤の職員に対しては条例で諸手当を支給することができる旨規定されていることの反対解釈からして明らか)。
⇒
本件において、非常勤の職員に対して、諸手当を給付すること(ただし、議員に対して期末手当を支給する場合を除く。)が、地方自治法203条に違反するものであることは法律上明らかであるという事情があり、神戸市債権放棄議決事件上告審決(派遣法の解釈が不明確であるという事情があった。)とはその前提を異にする。
非常勤職員に諸手当を給付することは地方自治法に違反する行為であり、常勤又は非常勤の別及びこれに伴う賃金等を初めとする処遇の相違は、地方公務員制度の根幹を為す事柄
⇒
村長としてそのような地方公務員制度の根幹を覆すような行為をすることは到底許されず、故意に違反した場合は言うに及ばず、法の不知等の事情があったとしても、地方公共団体の長としての帰責性は小さくない。
檜原村議会も放棄議決をするに当たって先行訴訟の控訴審判決を尊重していたとうかがわせるに足りる事情が見当たらないこと、本件議決がされた時点が合理的であることを裏付ける事情が見当たらないこと等諸般の事情
⇒原告らの請求を認容。
最高裁平成24年判決において示された、議会が住民訴訟の対象となる損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する議決をした場合のその議決の適法性に関する判断枠組みに沿った当てはめをした上で放棄議決が無効であることを判断した事案。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html
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