歯科医師の注意義務(刑事)
東京地裁H25.3.4
歯科インプラント手術の際、ドリルを挿入してインプラント埋入窩を形成するに当たり、オトガイ下動脈を挫滅するなどし、被害者を死亡させた歯科医師の過失責任が肯定された事例
<主張>
弁護人:
本件当時インプラント治療を行っていたほとんどの開業歯科医師において、下顎臼歯部の下側皮質骨を穿孔することが生命の危険をもたらすような大事故につながる危険な行為であることは知られておらず、むしろ、下顎臼歯部付近では、オトガイ下動脈や舌下動脈は下顎骨から離れた部分を走行しているから安全な場所であると理解されていた
⇒被告人に予見可能性はなかった。
<判断>
被告人には、オトガイ下動脈等の血管を損傷する危険性を認識した上で、これらの血管を損傷することのないよう、ドリルを挿入する角度及び深度を適切に調整して埋入窩を形成すべき業務上の注意義務があったものと認め、下側皮質骨を穿孔したとしても血管損傷の危険性はないものと軽信し、ドリルを挿入する角度及び深度を適切に調整せずに挿入した点で過失がある。
<解説>
医師に求められる一般的注意義務:
最高裁昭和36.2.16:
「いやしくも人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は、その業務の性質に照らし、危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのは、やむを得ないとkろといわざるを得ない。」
~
人の生命・健康を対象とする医業に携わる医師に対して高度の注意義務が要求されることをいうものであり、医師の注意義務の基準として医学の最高水準における注意義務が要求されるという趣旨ではなく、医師に求められる注意義務も、基本的に一般の業務上過失致死傷事件の注意義務と異なるところはない。
未熟児網膜症に関する最高裁H7.6.23:
医師に求められる「注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」
~
医学が日々進歩し、それに応じて医療水準も上がっていくが、その当時における最高水準の医療レベルに達していなかったとしても直ちに注意義務違反に問われることはない一方で、通常、一般の医師あるいは平均的医師にとって、その当時一般に知られ、是認されていた医学知識及び技術に達していないと認められる場合には、注意義務違反に問われることとなる。
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