« 取引コスト | トップページ | 借家権と看板等の撤去と権利濫用 »

2013年8月 8日 (木)

国歌斉唱時不起立情報収集と県個人情報保護条例適合性

東京高裁H24.7.18    

県立高校の卒業式等における国歌斉唱時の教職員の不起立に係る情報の県教育委員会による収集及び利用が県個人情報保護条例に違反しないとされた事例
 
<事案>
県立学校の教職員であるXらは、Y教育委員会がXらに係る経過説明書を収集し、利用していることが、思想及び信条等に関する個人情報の取扱いを制限する神奈川県個人情報保護条例(平成21年第93号による改正前のもの)6条及び個人情報の収集方法を制限する保険条例8条に違反するとして、本件条例34条に基づき、Y教育委員会に対し、経過説明書に記載された情報の利用停止を請求
⇒Y教育委委員会は、本件条例38条に基づき、利用停止をしない旨の決定
⇒Xらが本件不停止決定の取消し等を求めた事案 
 
<判断>
国歌斉唱時における不起立の事実は、一般的には、「日の丸」や「君が代」に対する否定的な歴史観ないし世界観と不可分に結びつくものということはできず、その動機、理由についての情報なしに、特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難

本件不起立情報は本件条例6条1号に規定する「思想、信条」に関する個人情報には該当しない。

仮に該当するとしても、本件不起立情報は国歌斉唱時の起立を求める職務命令に反した教職員の違反事実に関する情報であり、これを所管事務の遂行上必要なものとして収集し管理することは、同条ただし書に規定する「正当な事務若しくは事業の実施のために必要があると認めて取り扱うとき」に当たる

同条違反を否定。

本件不起立情報の収集が「実施機関は、個人情報を収集するときは、本人から収集しなければならない」旨を規定する本件条例8条3項に違反するかどうかについて、その収集の経緯及び方法や、各学校長等からXらが起立しなかった事実の確認を求めたこと等の具体的事実関係に照らして、実施機関であるあるY教育委員会が、その所属の職員を介して、本人から収集したものであると認めることができる。

<解説>

本件不起立情報が本件条例6条1号に規定する「思想、信条」に関する個人情報に該当するか 

国旗国歌訴訟における平成23年の一連の最高裁判決
卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は、一般的、客観的に見ても、国旗及び国家に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができ、そうすると、自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる「日の丸」や「君が代」に対して敬意を表明することには応じがたいと考える者が、これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求めることは、その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ、個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり、その限りにおいて、その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることが否定し難い旨を判示。

以上のような事柄の性質等に鑑みると、式典における国歌斉唱時の不起立に係る情報は、事案によっては、当該教職員の思想及び良心の自由についての間接的な制約の有無や態様等にも密接に関連するものとして、思想、信条に関する情報に当たるとの見解も考えられ、議論の分かれ得るところ。


関連裁判例

大阪地裁H19.4.26:
市教育委員会が収集した市立小中学校の入学式における国歌斉唱時に起立し成った教職員の氏名及び起立しなかった教職員の氏名及び起立しなかった理由等の情報につき、市個人情報保護条例所定の思想、信条等に関する事項についての個人情報に該当すると認めたほか、収集目的や記録項目が本人に明らかにされずにされた当該情報の収集について、これらを明らかにして個人情報を収集すべき旨の同条例の規定に反する。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 取引コスト | トップページ | 借家権と看板等の撤去と権利濫用 »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 国歌斉唱時不起立情報収集と県個人情報保護条例適合性:

« 取引コスト | トップページ | 借家権と看板等の撤去と権利濫用 »