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2013年8月14日 (水)

水俣病認定申請棄却処分取消等請求事件

最高裁H25.4.16   
1.公害健康被害の補償等に関する法律4条2項に基づく水俣病の認定の申請を棄却する処分の取消訴訟における審理及び判断の方法(①事件)
2.公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法3条1項に基づく水俣病の認定の申請を棄却する処分の取消訴訟における審理及び判断の方法(②事件)
水俣病認定申請棄却処分取消等請求事件
 
<事案>
水俣病の認定申請棄却処分の取消し及び認定の義務付けを求める2件の訴訟の最高裁判決 

<争点>
水俣病の認定の申請を棄却する処分の取消訴訟における審理及び判断の方法

<略語>
公健法:公害健康被害補償法(同法の題名は、昭和62年法律第97号により「公害健康被害の補償等に関する法律」に改められた。)
救済法:公害に係る健康被害の救済に関する特別措置法 

<判断>
処分行政庁の審査の対象につき、①公健法等にいう「水俣病」とは、魚介類に蓄積されたメチル水銀を経口摂取することにより起こる神経系疾患をいうものと解するのが相当であるところ、②公健法は、水俣病、イタイイタイ病等の特異的疾患については、大気の汚染又は水質の汚濁と疾病との間の因果関係をその機序を含めて証明することは、一定の困難を伴うものであるにしても本来的には可能であることなどから、非特異的疾患のような原因物質と疾病との間の因果関係に係る制度的な手当てを新たに設けることはしておらず、個々の患者について、諸般の事情と関係証拠に照らしてこの認定を行うこととしているものと解され、この点は救済法においても同様に介するのが相当であり、③そして、公健法等の制定の趣旨、規定の内容等を通覧しても、水俣病の意義及び処分行政庁の審査の対象を殊更に狭義に限定して解すべき法的根拠は見当たらないことから、個々の具体的な症候につき個別的な因果関係が諸般の事情と関係証拠によって証明され得るのであれば、水俣病であると認定することが法令上妨げられるものではない

処分行政庁の審査における検討の在り方につき、都道府県知事が行うべき検討は、個々の患者の病状等についての医学的判断のみならず、患者の原因物質に対するばく露歴や生活歴及び種々の疫学的な知見や調査の結果等の十分な考慮をした上で総合的に行われる必要があるというべきであり、都道府県知事が行うべき認定自体は、水俣病のり患の有無という現在又は過去の確定した客観的事実を確認する行為であって、この点に関する処分行政庁の判断はその裁量に委ねられるべき性質のものではないというべきである。

裁判所は判断代置的審査を行うべき。

①事件につき、原審を破棄し、本件申請者が水俣病にり患していたか否かについて更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻し
②事件につき、上告を棄却。

<解説> 

審理及び判断の方法

行政処分の要件を定める法律の規定が、司法審査との関係で判断代置的審査を予定しているのか、裁量審査を予定しているのかは、当該規定の解釈問題であるが、「ある事実があったこと」が要件となっている場合についてみると、①規定の文言のみならず、②「事実」が特殊な立場にある者にだけ判断できる性格のものかどうか、③処分の効果として給付が行われる場合に当該給付が権利性の強いものであるのか恩恵的なものであるのか等の要素を考慮に入れつつ、制度の仕組み、性格を総合考慮して決めることになるらざるを得ない。

①事件の原審は、伊方原発訴訟最高裁判決(H4.10.29)を引用して、水俣病の認定申請棄却処分の取消訴訟の審理方法につちえ裁量審査によるべきものとする。
but
同最高裁判決は、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」23条に基づく原子炉設置許可処分における内閣総理大臣の審査は、当該原子炉の安全性を多角的、総合的見地から検討するものであり、しかも、その審査の対象には将来の予測に係る事項も含まれており、原子力工学はもとより、多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門技術的知見に基づく総合的判断が必要とされるものであることが明らかであることを理由に挙げている。

①水俣病の認定における処分行政庁の審査は、多角的、総合的見地からの検討は必要であるが、その審査の対象自体は、水俣病にかかっているかという過去又は現在の確定した事実であり、伊方原発訴訟における審査の対象とは事柄の性質・内容を大きく異にする。
②救済法と公健法とでは趣を異にするが、これらの関係法令に基づく救済措置は、不法行為に基づく損害賠償請求権を背景とするものであり、単なる恩恵的なものとはいえない。
③公健法等における「水俣病」が客観的事象としての水俣病と異なるものであることをうかがわせる事情は認められない。
④公健法の制定時の議論等からすると、特異的疾患については、原因物質との間の因果関係を個別具体的に立証することが想定されていた。

本件の判断。

公健法等における指定疾病の認定について、専門家から構成される公害被害者認定審査会又は公害健康被害認定審査会の意見を聞いてこれおを行う仕組みが採られていることから、当然に司法審査の在り方が裁量審査となるべきであるとはいえない。


公健法等における水俣病の立証に程度:
行政処分の要件として因果関係の存在が必要とされる場合に、その拒否処分の取消訴訟において被処分者がすべき因果関係の立証の程度は、特別の定めがない限り、通常の民事訴訟における場合と異なるものではないとするのが判例(最高裁H12.7.18)の立場。

一般には、高度の蓋然性を必要とすることになる。 

http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html

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