刑訴法316条の17と自己に不利益な供述の強要
最高裁H25.3.18
刑訴法316条の17と自己に不利益な供述の強要
<事案>
革労協関係者である被告人らが、福岡地裁で開かれた別件後半の傍聴券交付、警備等の業務を妨害したという威力業務妨害と、地裁所長から庁舎敷地外への退去命令を受けたのに退去しなかったという建造物不退去の事案において、第1審裁判所が事件を公判前整理手続に付したところ、公判前整理手続において被告人に主張明示義務及び証拠調べ請求義務を課している刑訴法316条の17が、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と定める憲法38条1項に違反する旨主張された上告事件についての最高裁決定。
<規定>
憲法 第38条〔不利益な供述の強要禁止、自白の証拠能力〕
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
②強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
刑訴法 第311条〔被告人の黙秘権・供述拒否権、被告人質問〕
被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。
②被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。
③陪席の裁判官、検察官、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて、前項の供述を求めることができる。
刑訴法 第316条の17〔被告人・弁護人の主張明示〕
被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三第一項の書面の送付を受け、かつ、第三百十六条の十四及び第三百十六条の十五第一項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第一項後段の規定を準用する。
<判断>
刑訴法316条の17は、被告人又は弁護人において、公判期日においてする予定の主張がある場合に限り、公判期日に先立って、その主張を公判前整理手続で明らかにするとともに、証拠の取調べを請求するよう義務付けるものであって、被告人に対し自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について認めるように義務付けるものではなく、また、公判期日において主張をするかどうかも被告人の判断に委ねられているのであって、主張すること自体を強要するものではない
⇒
自己に不利益な供述を強要するものとはいえないから、憲法38条1項違反をいう所論は前提を欠く。
<解説>
立法担当者(辻)の解説:
刑訴法316条の17第1項は、公判期日においてする予定の主張がある場合に限って、その予定している主張を、時期を前倒しして公判前整理手続において明らかにするよう、被告人又は弁護人に義務付けているにすぎない。
すなわち、本項は、被告人に不利なことを自認することを義務付けるものでないことはもとより、そもそも、公判期日においてその主張をするかどうかも被告人自らの判断によるものであって、当該主張をすること自体を強要するものでもない。
換言すれば、被告人が公判期日において黙秘する予定である場合にまで何らかの主張を明示することを義務付けているわけではなく、公判前整理手続において黙秘することも許される。したがって、本項はl311条1項に抵触するものではない。
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