承継的共同正犯の成立範囲
最高裁H24.11.6
共謀加担後の暴行が共謀加担前に他の者が既に生じさせていた傷害を相当程度重篤化させた場合の傷害罪の共同正犯の成立範囲
<事案>
傷害、強盗、建造物侵入、窃盗の各共同正犯で起訴された被告人に関し、いわゆる承継的共同正犯と呼ばれる場合の傷害罪の成立範囲が問題となった事案。
先行者2名が、被害者2名に対し、こもごも暴行を加え、更に場所を写して同様に暴行を加え、それぞれ傷害を負わせた後、被告人がその場に到着して先行者らに共謀加担した上、更に被告人及び先行者らがそれ以前の暴行よりも強度の暴行を加えて被害者らの傷害を相当程度重篤化させたもの。
<規定>
刑法 第60条(共同正犯)
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
刑法 第204条(傷害)
人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
刑法 第207条(同時傷害の特例)
二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
刑訴法 第405条〔上告のできる判決、上告申立理由〕
高等裁判所がした第一審又は第二審の判決に対しては、左の事由があることを理由として上告の申立をすることができる。
一 憲法の違反があること又は憲法の解釈に誤があること。
二 最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
三 最高裁判所の判例がない場合に、大審院若しくは上告裁判所たる高等裁判所の判例又はこの法律施行後の控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたこと。
<判断>
上告趣意を刑訴法405条の上告理由に当たらないとした上、職権で、決定要旨に沿った判示をして、原判決に刑法60条、204条の解釈適用を誤った法令違反があるとしたが、未だ刑訴法411条を適用すべきものとは認められない。
⇒上告棄却。
事実関係によれば、被告人は、Aらが共謀してCらに暴行を加えて傷害を負わせた後、Aらに共謀加担した上、金属製はしごや角材を用いて、Dの背中や足、Cの頭、肩、背中や足を殴打し、Dの頭を蹴るなど更に強度の暴行を加えており、少なくとも、、共謀加担後に暴行を加えた上記部位についてはCらの傷害(したがって、第一審判決が認定した傷害のうちDの顔面両耳鼻部打撲擦過とCの右母指基節骨骨折は除かれる。以下同じ。)を相当程度重篤化させたものと認められる。この場合、被告人は、共謀加担前にAらが既に生じさせていた傷害結果については、被告人の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によってCらの傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯ついての責任を負うと解するのが相当。
<説明>
因果的共犯論(多数説):
共犯の処罰根拠は結果としての因果性にある。
⇒共謀加担後の行為と因果性を持たない結果について後行者に共同正犯としての責任を負わせるべきではない。
判例は、共犯の処罰根拠と裏腹の関係にあるとされている共同正犯関係の解消の論点について、因果関係の遮断の有無を実質的な判断基準として採用さていると解されている(最高裁H1.6.26、最高裁H21.6.30)。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html
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