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2013年7月21日 (日)

職権調査による本位的訴因についての有罪自判の可否

最高裁H25.3.5   

本位的訴因を否定し予備的訴因を認定した第一審判決に対し検察官が控訴の申立てをしなかった場合に、控訴審が職権調査により本位的訴因について有罪の自判をすることが違法であるとされた事例

<規定>
刑訴法 第392条〔調査の範囲〕
控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。
②控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる

<解説>

控訴趣意書に包含されていない事項であっても職権で調査できる⇒控訴審の職権調査権限を肯定(刑訴法392②)。 


最高裁昭和46.3.24:
①刑訴法が当事者主義を基本原則とし、その現れとして訴因制度を採用して当事者の攻撃防御は訴因につきなされるものとしている。
②控訴審の性格を原則として事後審として位置付け、職権調査はあくまで補充的なものとしている

牽連犯や包括一罪として起訴された事実の一部について一審判決の理由中で無罪の判断がされたのに対し、検察官が控訴せず、被告人だけが控訴を申し立て

無罪の判断がされた部分も含めて事件が控訴審に移審するものの、無罪の判断がされた部分は当事者間では攻防の対象からはずされたとみるべきで、この部分について控訴審が職権調査をして有罪認定をすることは許されない


最高裁H1.5.1
単純一罪の事案に関し、自動車事故による業務上過失致傷罪で、注意義務の内容を異にする本位的訴因と予備的訴因が構成され、一審判決が本位的訴因を否定して予備的訴因を認定したのに対し、被告人のみが控訴した事案:

本件の場合、本位的素因の犯罪事実も予備的訴因の犯罪事実も同一の被害者に対する同一の交通事故に係るものであり、過失の態様についての証拠関係上本位的訴因と予備的訴因とが構成されたと認められる

予備的訴因に沿う事実を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したからといって、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念し、本位的訴因が当事者間の攻撃防御の対象から外れたとみる余地はない。

本位的訴因と予備的訴因との関係については
①本位的訴因が窃盗、予備的訴因が詐欺というような「両訴因の犯罪事実のいずれか一方しか成立し得ない類型のもの」と
本位的訴因と予備的訴因とが理論上いずれも成立し得る場合(公選法の供与と交付)や大小の関係にある場合(殺人と業過致死)など「両訴因の犯罪事実相互が排他的でない類型のもの」の2つに分類でき、上記決定は①の事例についての判断。


本件:
本位的訴因である共同正犯を認定できないとした一審判決に対して検察官が控訴しなかった時点で、検察官が本位的訴因については訴訟追行を断念したとみるべき⇒本位的訴因は当事者間の攻防の対象から外れたものと解するのが相当。

本位的訴因について職権調査をして有罪認定をした控訴審判決には判決に影響する法令違反がある。
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上告事件の処理としては、控訴審判決が最終的には一審判決と同一の刑を言い渡していることなどを理由として、控訴審判決を破棄しなくても未だ著しく正義に反するものとは認められないとして、被告人の上告を棄却。 

本位的訴因を否定し、予備的訴因を認めた一審判決に対し、検察官がそれを理由として控訴の申立てができるという考え方を前提。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013kouhan.html


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