前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることの許容性
最高裁H25.2.20
1.前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることの許否
2.前科に係る犯罪事実及び前科以外の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることが許されないとされた事例
<事案>
被告人の前科に係る犯罪事実や被告人の前科以外の類似する他の犯罪事実(「類似事実」)を、犯人と被告人の同一性を立証する間接事実として用いることができるかが問題となった事案。
<判断>
前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合の証拠能力についての最高裁H24.9.7(平成24年判決)の判示 は、類似事実の証拠を被告人の同一性の証明に用いようとする場合にも同様に当てはまるとした上で、前科に係る犯罪事実や類似事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは、これらの事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が証明対象事実と相当程度類似していない限りは許されない。
<解説>
●
平成24年判決:
わが国の学説や英米の制度も踏まえた上で、前科証拠は、自然的関連性があることに加え、証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格証拠によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに証拠能力が肯定される。
前科証拠を被告人と犯人の同一性の立証に用いる場合については、前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであるときに証拠能力が肯定されるとしているが、前科証拠と類似事実の証拠とで、これを犯人性の立証に用いる場合の推論の過程は同様と解される。
前科証拠:前科に係る犯罪事実⇒被告人の犯罪傾向を推認⇒証明対象の犯罪事実の犯人性を推認
これは類似事実の証拠についても同様。
⇒
平成24年判決の判示は、類似事実の証拠を被告人と犯人の同一性の立証に用いる場合にも同様に妥当。
●
原判決は、前科に係る犯罪事実及び類似事実について、特殊な性癖、手口、態様の特徴、特異な犯罪傾向が認められるとし、それが証明対象の住居侵入・窃盗・現住建造物等放火の各事実と一致するとした。
but
①色情盗、
②侵入先を決めるに当たっては下見をするなど何らかの方法により女性の居住者がいるという情報を得ていたこと、
③主な目的は女性用の物を入手することにあり、それ以外の金品を盗むことは付随的な目的であったこと、
④家人の留守中に窓ガラスを割るなどして侵入したこと
といった点は、それら単独でも、また、これらを併せて考えたときも、それは「顕著な特徴」とはいい難い。
⇒
上記特徴等の一致を証明対象の各事実の犯人が被告人であることの間接事実とすることは、帰するところ、被告人に対して一定の類型、動機、手口による住居侵入・窃盗を行う犯罪性向があるという実質的根拠の乏しい人格的評価を加え、これをもとに上記各事実の犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく、許されない。
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