実質的当事者訴訟と保全処分
東京高裁H24.7.25
医薬品の店舗販売業の許可を受けた者とみなされる既存一般販売業者が、平成18年法律第69号による改正後の薬事法の施行に伴い、平成21年2月6日に改正された薬事法施行規則の規定により、第一類医薬品及び第二類医薬品のインターネット販売等ができなくなったため、当該改正規定が憲法22条1項に違反するとともに改正後の薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものであり、当該医薬品につき店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による販売をすることができる権利ないし地位があると主張して、国を相手方として提起した権利確認請求訴訟の本案判決が確定するまので仮の地位を定める仮処分の申請については、同訴訟は実質的当事者訴訟に該当するが、行政事件訴訟法44条の適用があり、却下すべきである。
<事案>
・・・・国(Y)のみを被告として、権利確認請求訴訟を提起し、その本案判決が確定するまでの仮の地位を定める民事保全法の仮処分の申請をした。
<主張>
Xら:当事者訴訟における仮の救済については民事保全法の適用がある
Y:本件仮処分申立は行政庁の公権力の行使に当たる一般用医薬品の店舗販売業の許可の停止、取消処分をあらかじめ阻止するためになされたものにほかならないから、本案が民事事件であるか行政事件であるか、また、その態様の如何を問わず、公権力の行使を阻害するような民事保全法に基づく仮処分はできない。
<規定>
行政事件訴訟法 第4条(当事者訴訟)
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。
行政事件訴訟法 第44条(仮処分の排除)
行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為については、民事保全法(平成元年法律第九十一号)に規定する仮処分をすることができない。
<判断>
①本件は、先決問題として、厚生労働大臣の省令制定行為あるいはこれに基づく省令の効力を直接争うものであり、「行政庁の処分その他の公権力の行使に当たる行為」の適否の判断が前提となるもの
②Xらの被保全権利である本件権利ないし地位の確認請求訴訟は、抗告訴訟でなく行政事件争訟法4条後段の実質的当事者訴訟に該当するが、そのための本件仮処分は、行政庁に代わって裁判所が行政処分その他の公権力の行使に当たる行為をすること、行政処分その他の公権力の行使による効力や執行を直接又は実質的に停止することに繋がるものであり、行政事件訴訟法44条の民事保全法の仮処分の排除の対象となる
③仮に本件について、民事保全法上の仮処分の利用が可と解しても、同法23条2項の規定するXらに生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるための必要性が認められない。
<解説>
●
Xらの本案訴訟請求は、新施行規則により禁止・制限された公法上の法律関係の無効を主張するものであり、行政事件訴訟法4条後段の「公法上の法律関係に関する訴訟」に該当。
~
行政庁の処分その他の後見力の行使の効果を争うものではなく、抗告訴訟に属しない現在の法律関係に関する訴訟という意味で、講学上「実質的当事者訴訟」といわれているもの。
●
行訴法の平成16年改正により、抗告訴訟の一類型として、「義務付けの訴え」(行訴法3条6項、37条の2、37条の3)及び「差止めの訴え」(同法3条7項、37条の4)について規定が設けられ、これらの訴えを本案訴訟とする仮の救済制度として、「仮の義務付け」及び「仮の差止め」(同法37条の5)の申立と裁判所による決定の保全処分手続が設けられた。
←
①処分取消訴訟、裁決取消訴訟及び無効確認訴訟における執行停止(行訴法25条)による救済措置の制約や要件の厳格さから来る国民の権利や利益の実効的救済が不十分
②行訴法44条の民事保全法による仮処分の排除による国民の無視できない被害の発生が問題
~
抗告訴訟や義務付け訴訟及び差止め訴訟については、厳格な要件の下に暫定的な救済措置が可能となったが、それ以外の行政事件訴訟については、暫定的な救済措置や手続規程がない。
●
学説は、行訴法25条の執行停止や同法37条の5の仮の義務付け又は仮の差止めの規定を準用して仮の救済措置を認めるべきという見解や、民事保全法による仮処分の可能性を認めるべしという見解等。
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