政務調査費の支出の使途基準適合性
最高裁H25.1.25
1.区議会議員が区民として提起した住民訴訟の控訴の提起に係る訴訟費用の政務調査費からの支出が、目黒区政務調査費の交付に関する規程(平成13年目黒区議会告示第1号。平成18年目黒区議会告示第1号により改正前のもの)5条及び別表の定める使途基準に適合しないとされた事例
2.区議会議員が区民として提起した住民訴訟の証拠及び参考にするとして区長から開示を受けた区の機関の議事に関する録音テープの反訳及び複製の費用並びに当該住民訴訟の尋問期日における関係者の証言及び供述の反訳費用の政務調査費からの支出が、目黒区政務調査費の交付に関する規程(平成13年目黒区議会告示第1号。平成18年目黒区議会告示第1号による改正前のもの)5条及び別表の定める使途基準に適合しないとはいえないとされた事例
<事案>
目黒区議会議員である被上告人が、交付を受けた政務調査費から、被上告人が提起した別件の住民訴訟に関する費用を支出したことにつき、目黒区長から、これらの支出の額に相当する金員の返還を命ずる処分を受けたことから、この処分は違法であるとして、その取消しを求めた事案。
<規定>
第100条〔調査権、政府の刊行物送付義務、図書室附置〕
⑭普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究その他の活動に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務活動費を交付することができる。この場合において、当該政務活動費の交付の対象、額及び交付の方法並びに当該政務活動費を充てることができる経費の範囲は、条例で定めなければならない。
<判断>
法100条13項の趣意によれば、本件使途基準が定める調査研究費とは、議員の議会活動の基礎となる調査研究などに要する経費をいい、議員としての議員活動を離れた活動に関する経費ないし当該行為の客観的な目的や性質に照らして議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められない行為に関する経費はこれに該当しないとした上で、住民訴訟の提起及び追行は、客観的にみて、議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認めれられないから、議員による住民訴訟の提起及び追行それ自体のために費用が支出された場合には、当該支出は、本件使途基準の調査研究費の支出に該当しない。
住民訴訟を提起し追行する議員が、当該訴訟の提起及び追行を端緒として地方公共団体の保有する情報や資料を取得することはあり得るところ、これらの取得した情報や資料を、当該訴訟の追行とは別個に、議会活動に関して、その基礎となる調査研究又は議会審議に必要な資料の作成や議会活動の広報等に用いるために、費用が支出された場合は、その費用が本件使途基準の調査研究費又は資料作成費や広報費等の他の項目に該当するとみる余地があり、当該情報や資料が住民訴訟を端緒として得られたものであることから直ちに当該支出が本件使途基準に適合しない支出であるとまではいい難い。
支出3については、住民訴訟の提起及び追行それ自体のための費用の支出であって調査研究費には該当せず、他の使途にも該当しない⇒その返還を命じた処分は適法。
支出1及び2については、被上告人が本庁舎跡地等の売却に関する問題点いついて区議会で質問を行っていること、自身のホームページ等やその作成した広報紙において当該問題点についての意見を明らかにし、本件支出1及び2による反訳に係る文書を掲載するなどしている。
⇒これらの支出の結果文書化された資料は、別件住民訴訟とは別途に、被上告人が現に行っている議員としての議会活動に関して必要な資料とみることができ、また、議会活動の広報に供する資料として用いられているとみることができる。
⇒本件使途基準の資料作成費又は広報費に該当する適法な支出。
<解説>
●
本件使途基準の調査研究費に当たる支出といえるかどうかを判断にするに当たって、直接的に問題となるのは、本件各支出が本件使途基準のうち調査研究費について定める「会は又は議員がおkナウ目黒区の事務j及び地方行財政に関する調査研究及び調査・・委託に要する経費」に合致するかどうかという点。
but
本件使途基準の解釈に当たっては、政務調査費の支給の根拠である法100条13項の趣旨をも参照し、住民訴訟の提起及びその追行は、その客観的な目的や性質に照らして、それ自体としては、議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性が認められないものであるとしたものと思われる。
●
議会活動との関連性が認められない活動に政務調査費を支出すべきでないことは、法100条13項の文言や政務調査費の趣旨からすれば、いわば当然のこと。
本判決は、行為の客観的目的や性質という観点に着目し、前記の関連性の有無について判断。
住民訴訟の提起及び追行は、地方公共団体の機関による財務会計上の違法な行為等是正するという最終的な目標の限りでは、議会活動と重なり合う面がないとはいえないが、そのことから直ちに、その費用の政務調査費からの支出が許されることになるものではなく、住民訴訟の提起及び追行が、その行為の客観的な目的や性質からみて議会活動とは異なるものであり、そのこと自体によって議会の審議能力が教化されるという関係にあるとはいい難い以上、その費用を政務調費から支出することは政務調査費の趣旨等に合致するものとはいえない。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
- 懲戒免職された地方公務員の退職手当不支給処分の取消請求(肯定)(2023.05.29)
- 警察の情報提供が国賠法1条1項に反し違法とされた事案(2023.05.28)
- 食道静脈瘤に対するEVLにおいて、鎮静剤であるミダゾラムの投与が問題となった事案 (過失あり)(2023.05.28)
- インプラント手術での過失(肯定事例)(2023.05.16)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント