被告人供述調書に添付された電子メールの証拠性
最高裁H25.2.26
公判調書中の被告人供述調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない電子メールが独立の証拠又は被告人の供述の一部にならないとされた事例
<事案>
被告人質問の際に被告人に示され、その後公判調書中の被告人供述調書に添付されたものの、これとは別に証拠として取り調べられていない電子メールの証拠としての取扱いについて。
<原審>
①本件電子メールは証拠物と同視できる客観的証拠であること
②それを示された被告人がその同一性や真正な成立を確認していること
③本件電子メールを被告人に示すに当たり刑訴規則199条の10第2項(相手方への閲覧の機会の付与)の要請が満たされていること
⇒
本件電子メールを証拠として取り調べることなく事実認定に用いたのはOK。
<判断>
上告趣意は適法な上告理由に当たらないとしたが、職権で、原判決の上記判断には違法がある。
公判調書への書面の添付は、証拠の取調べとして行われるものではなく、これと同視することはできない。
⇒原判決が、本件電子メールが被告人の供述と一体となったとして、これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができるとしたことには違法がある。
but
本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠により犯罪事実を認定することができ、その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。
<規定>
刑訴規則 第199条の10(書面又は物の提示・法第三百四条等)
訴訟関係人は、書面又は物に関しその成立、同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは、その書面又は物を示すことができる。
2 前項の書面又は物が証拠調を終つたものでないときは、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。ただし、相手方に異議がないときは、この限りでない。
刑訴規則 第199条の11(記憶喚起のための書面等の提示・法第三百四条等)
訴訟関係人は、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、書面(供述を録取した書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。
2 前項の規定による尋問については、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない。
3 第一項の場合には、前条第二項の規定を準用する。
刑訴規則 第199条の12(図面等の利用・法第三百四条等)
訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することができる。
2 前項の場合には、第百九十九条の十第二項の規定を準用する。
刑訴規則 第49条(調書への引用)
調書には、書面、写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し、訴訟記録に添附して、これを調書の一部とすることができる。
<解説>
●
証人又は被告人に対して書面を示して尋問又は質問をすることは、刑訴規則199条の10ないし12の要件の下で許容される。
本件で被告人に電子メールを示した根拠は、は、刑訴規則199条の10(成立、同一性等についての尋問)及び199条の11(記憶喚起のため)にある。
刑訴規則199条の10及び199条の11により示す書面等に証拠能力は必要ない。
●
証人又は被告人に対して示した書面は刑訴規則49条により公判調書に引用(添付)することができる。
最高裁H23.9.14:
刑訴規則199条の12に基づき、証人に示した被害再現写真を承認尋問調書に添付した事案で、当事者の同意は不要。
調書に添付する書面に証拠能力は必要でない(学説)。
最高裁H23.9.14
被害再現写真を調書に添付した事案について、当該被害再現写真が伝聞例外の要件を具備しないという原判決の判断を否定することなく、「訴訟記録に添付された被害再現写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないから」という理由で、調書添付に当事者の同意が必要ではないとする。
⇒添付する書面に証拠能力が必要でないことを前提としている。
●
刑訴規則199条の11や199条の12に基づいて示された書面等は当然に証拠となるわけではなく、証拠とされるためには別に請求、決定、証拠調べを必要とする点では一致(学説)。
刑訴規則49条により調書に添付された書面が、別途証拠として取り調べられていないのに証拠となると解するためには、調書への添付が
①それにより証言と添付書面の一体化を招くと解するか
②証拠請求、証拠決定、証拠の取調べと同視できる
と解するほかない。
①について、書面が証言又は供述の一部となる場合も、書面が証言又は供述に一体化するのであって、その逆ではなく、事実認定に用いるのはあくまで証言又は供述。
②について、当該書面が証拠物と同視できる客観的証拠である場合、すなわちその存在及び記載が記載内容の真実性を離れて証拠価値を有する場合は、当該書面には伝聞法則の適用はない(そして、当該書面について同一性や真正な成立が確認されていれば、関連性も肯定される)。
⇒
被告人の同意やその他の伝聞例外の要件を問題にするまでもなく非供述証拠として証拠能力が肯定され、当該書面を別に証拠として取り調べようとする場合、それは容易。
but
そのことを根拠として調書への添付を請求、決定、取調べと同視することは、これらの手続の省略を認めることに他ならない。
刑訴規則が、証拠調べ手続を厳格に規律していることに照らせば、そのような「手続の省略」を安易に認めるのは相当ではない。
被告人が、本件電子メールを示されてその内容について一定の供述をした場合、その供述に表れた限りにおいて本件電子メールの内容は被告人の供述の一部となる。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
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