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2013年5月27日 (月)

民事再生手続開始決定による強制執行中止後の手形金の受領

大阪高裁H22.4.23   

1.債権差押命令の差押債権者が同命令に基づく取立権を行使する過程で第三債務者からの支払の方法として手形を受領した場合、債務者に対し民事再生手続開始決定による強制執行中止後にその手形金の支払を受けたときは、法律上許されない支払受領になるから、不当利得に当たる。
2.差押債権者は、本件取立にかかる受領金のうち、手形に関するものは、手形の授受により取立行為が完了していると認識することも全く理由がないとはいえないから、不当利得の悪意の受益者とまでいえないが、民事再生手続開始決定後の現金振込に関するものは、不当利得の悪意の受益者に当たる、とされた事例

<事案>
被告銀行(Y)は、㈱Aに対する貸金債権請求についての確定裁判に基づく債務名義を有していたので、平成20年6月18日に同会社の第三債務者14社に対する売掛金債権に対する債権差押命令を得た上で、その取立権を訴訟外で行使し、交渉の結果、第三債務者B、C、Dから各被差押さ家kンを約束手形の振出ないし為替手形の譲渡の方法によって支払を受けることとし、同年6月30日から7月22日にかけて、支払期日を3ないし4か月先の9月20日から11月20日とする各手形の交付を受け、これと引き換えに本件差押命令の弁済金として受領した旨の領収書を交付。 

Yは、第三債務者Eから、Aとの間では売掛金の一部を現金振込で支払い、残額を手形で支払う予定であることを知らされたが、協議の結果、右の現金振込については予定どおり現金で支払いを受ける一方手形は発行せず、手形金相当額を現金で受領することを合意し、約定していた手形支払期日の平成20年10月20日に手形金相当額を現金振込で支払を受けた。

Aは、同年8月4日に民事再生手続開始の申立を行い同月12日その開始決定を受けたが、平成21年3月2日に再生計画の作成の見込みがないとして再生手続廃止決定がなされ、同月30日に破産宣告決定がなされ、原告破産管財人Xが選任された。

Xは、民事再生手続開始決定により再生債務者の財産に対してなされていた再生債権に基づく強制執行の手続は中止させることになっており、Yの保険差押命令による債権の取立は完了していなかったから、手形の支払金や現金振込金は強制執行手続中止後の支払であり、正当な権限に基づくものでなく不当利得に当たると主張して、その返還請求を求めて本訴に及んだ。

Yは、民事再生手続開始決定前に、取立権の行使の結果として被差押債権の弁済に代えて手形等の交付を受けたものであるから、本件差押命令による強制執行手続は、民事再生手続開始決定前に完了していたと主張。

<原審>
不当利得の成立を肯定
本件不当利得返還請求権は、Aと商取引によって生じたものではなく、法律の規定によって生じたもの⇒遅延損害金の割合は年5分 

<判断>
第三債務者Eに対して支払期限の猶予を与えて、本件民事再生手続開始決定後に手形に代わる現金支払を受けた被差押債権分についてはYが悪意の受益者に当たる。
⇒民法704条により遅延損害金の起算日を遅らせる変更。 

債権差押命令に基づく被差押債権の取立権の行使は、被差押債権の転付命令と異なり、被差押債権が取立権者に移転するするわけではない。

被差押債権自体の譲渡、免除、弁済猶予などの処分行為は、取立目的を超える行為として、差押債権者ができないこと、そのような処分行為をしても債務者にその効力が及ばないことを明らかにした。

<解説>

差押債権者の取立権

差押債権者の取立権の権能の内容は、取立の目的を遂行するのに必要な行為に限られる。
①取立のため第三債務者に出向いてその支払を受けること
②第三債務者との協議により、振込送金による支払方法をとることを合意すること(その場合に振込手数料の負担について合意することを含む)
③被差押債権の消滅時効の中断効果のある行為(催告、支払命令の申立、調停等申立、請求訴訟の提起)をすること
④支払を受ける方法として手形等交付を受けること、
など。 

差押債権者の第三債務者に対する債務と取立に係る被差押債権とを相殺することができるかは議論が分かれる。

被差押債権の内容を変更する行為(例えば、弁済期間の猶予、代物弁済の合意)、又は被差押債権の処分行為(例えば、債権譲渡、債務の放棄・免除)は取立の目的を超えることとしてできない。
but
差押債権者は、被差押債権の取立権能を行使するために、そのコストやリスクなどの効率を考慮して、手段を選択することはできる
⇒取立行為自体について、期限の猶予・分割弁済や手形等による代物弁済の許容などの合意や取立権の一部放棄を含む和解などの手段をとることができる。

取立権によって給付を求める実体的な処分としての限度で許されるものであり、被差押債権に対して実体的な効力を及ぼさず、また、債務者に対する関係では効力を及ぼさないで、そのリスク・不利益などを差押債権者のみが負う限り、相対的効力しかないものとして許される。


取立の完了と差押債権の弁済による消滅の時期及び強制執行の終了の時期 
被差押債権の弁済のための手形の交付の性格については、実務上、①支払確保のための手段である場合と②支払に代えての交付すなわち代物弁済である場合がある。

取引上不明なことがあるが、一般的に前者であると認識されており、裁判実務上も原則的にそのように推定。

手形による代物弁済の場合⇒原因関係上の債権債務はそれによって消滅⇒即時換金及び差押債権への弁済充当がなされたものとみなされる⇒取立行為はこれにより完了。

本件の場合、差押債権者の被差押債権の取立に際して、債務者A宛の手形でなく、わざわざ差押債権者宛の手形に書き直されて交付されて公布され、差押債権者が第三債務者に対して「本件差押命令の弁済金として受領した」旨の領収書を交付。
⇒代物弁済としての手形の交付と認定する余地もあり。
but
本判決は、本件手形の授受が代物弁済としてなされたとしても、その効力は、債権者に及ばないものであるとした。
vs.
倒産手続開始による強制執行中止効に巻き戻しの効果までないはず。


民事再生手続開始決定による強制執行手続の中止効 
民事再生法39条1項や同法26条1項、27条1項などの解釈問題。

民事再生法 第39条(他の手続の中止等)
再生手続開始の決定があったときは、破産手続開始、再生手続開始若しくは特別清算開始の申立て、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等若しくは再生債権に基づく外国租税滞納処分又は再生債権に基づく財産開示手続の申立てはすることができず、破産手続、再生債務者の財産に対して既にされている再生債権に基づく強制執行等の手続及び再生債権に基づく外国租税滞納処分並びに再生債権に基づく財産開示手続は中止し、特別清算手続はその効力を失う

民事再生法 第26条(他の手続の中止命令等)
裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、次に掲げる手続又は処分の中止を命ずることができる。ただし、第二号に掲げる手続又は第五号に掲げる処分については、その手続の申立人である再生債権者又はその処分を行う者に不当な損害を及ぼすおそれがない場合に限る。
一 再生債務者についての破産手続又は特別清算手続
二 再生債権に基づく強制執行、仮差押え若しくは仮処分又は再生債権を被担保債権とする留置権(商法(明治三十二年法律第四十八号)又は会社法の規定によるものを除く。)による競売(次条、第二十九条及び第三十九条において「再生債権に基づく強制執行等」という。)の手続で、再生債務者の財産に対して既にされているもの
三 再生債務者の財産関係の訴訟手続
四 再生債務者の財産関係の事件で行政庁に係属しているものの手続
五 再生債権である共助対象外国租税(租税条約等の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律(昭和四十四年法律第四十六号。以下「租税条約等実施特例法」という。)第十一条第一項に規定する共助対象外国租税をいう。以下同じ。)の請求権に基づき国税滞納処分の例によってする処分(以下「再生債権に基づく外国租税滞納処分」という。)で、再生債務者の財産に対して既にされているもの

民事再生法 第27条(再生債権に基づく強制執行等の包括的禁止命令)
裁判所は、再生手続開始の申立てがあった場合において、前条第一項の規定による中止の命令によっては再生手続の目的を十分に達成することができないおそれがあると認めるべき特別の事情があるときは、利害関係人の申立てにより又は職権で、再生手続開始の申立てにつき決定があるまでの間、全ての再生債権者に対し、再生債務者の財産に対する再生債権に基づく強制執行等及び再生債権に基づく外国租税滞納処分の禁止を命ずることができる。ただし、事前に又は同時に、再生債務者の主要な財産に関し第三十条第一項の規定による保全処分をした場合又は第五十四条第一項の規定若しくは第七十九条第一項の規定による処分をした場合に限る。


差押債権者が強制執行手続中止効に反して、被差押債権の弁済を受けたことが無効とされた場合、本件は手形金による弁済のときは、民法703条の善意の受益者としたが、その論拠は、本案事案のよう、いろいろな解釈があり得ることを認めたうえで、それを考慮したのもの。
本来は、法解釈の誤りをした者は善意の受益者といえるわけではない。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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