財産評価基本通達189の(2)の株式保有特定会社
東京地裁H24.3.2
平成16年2月28日の時点を基準とすると、財産評価基本通達(平成17年5月17日付け課評2-5による改正前のもの)189の(2)の定めのうち大会社につき株式保有割合が25% 以上である評価会社を一律に株式保有特定会社としてその株式の価額を同通達189-3の定めにより評価すべきものとする部分については、相続税法22条の規定に適合したものとはいえないとした上で、右の時点に開始された相続に関し、株式保有割合が25%を超える大会社が同通達189の(2)にいう株式保有特定会社に該当しないものとされた事例
<事案>
Xらは、A子の相続人。
A子の相続財産には、A子及びXらの一族の経営にかかる甲社及び乙社の株式が含まれていたところ、両社の株式はいずれも上場されておらず、評価通達における「取引相場のない株式」に該当するものであった。
A子についての相続の開始時において、両社は、いわゆる株式の持合いをしており、甲社は、乙社の発行済み株式総数中の83%超を保有する一方、乙社も、甲社の発行済み株式総数中の74%超を保有。
本件は、Xらのした本件相続に係る相続税の申告に対し、江東東税務署長が、甲社及び乙社は、評価通達にいう「株式保有特定会社」(評価通達189の(2))に当たるとして、両社の株式を評価通達189-3に定める特別の評価方法に従って計算するなどしたところによりXらの相続税に係る各更正処分及び各過少申告加算税不可決定処分をした。
⇒
Xらが、甲社については「株式保有特定会社」に当たらないなどと主張して、上記各更正処分のうちXらの申告に係る相続税の額を超える部分及び上記各賦課決定処分の取消しを求める事案。
<規定>
相続税法 第22条(評価の原則)
この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。
相続税法 第1条(趣旨)
この法律は、相続税及び贈与税について、納税義務者、課税財産の範囲、税額の計算の方法、申告、納付及び還付の手続並びにその納税義務の適正な履行を確保するため必要な事項を定めるものとする。
<解説・判断>
●
評価通達は、相続財産である取引相場のない株式の評価につき
①評価会社をその事業規模に応じて大会社、中会社及び小会社に区分し(評価通達178)、それぞれの区分に属する評価会社の株式の価額の評価において用いるべき原則的評価方法を定める(評価通達179)一方、
②課税時期において評価会社の有する各資産を評価通達に定めるところにより評価した価額の合計額のうちに占める株式及び出資の価額の合計額の割合(「株式保有割合」)が25%以上(中会社及び小会社については、50%以上)である評価会社を「株式保有特定会社」と称して(評価通達189の(2))、その株式の価額の評価を、上記①の原則的評価方式(大会社については、類似業種比準方式が基本とされる。評価通達179の(1))以外の特別の方式により行うものとしている(評価通達189-3)。
←
会社の資産構成が類似業種比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っているものの株式の価額は、その有する株式等の価値に依存する割合が高い。
⇒
原則的評価方法である類似業種比準方式によっては適正な株式の評価を行い難く、原則的評価方法による評価額と適正な時価との間に開差が生じることとなり、このような開差がこれを利用したいわゆる租税回避行為の原因ともなっていた。
●
甲社の株式保有割合は25.9%
Xらは、「株式保有割合25%」との基準により一律に評価の在り方を画することは合理性を欠く
⇒甲社の株式は、原則的評価方法にるべきと主張。
(原則的評価方法では1株当たり4653円、甲社が株式保有特定会社に当たるY(国)主張の評価方法では、1株当たり1万9002円)
●判断
相続財産の価額の評価に関する基本的な考え方について
①評価通達において相続財産の価額の評価に関する一般的基準を定め、画一的な評価方法によって相続財産の価額を評価するという現在の課税実務は、そこに定められた評価方法が当該財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的なものであると認められる場合においては、租税法律関係の確定に際して求められる種々の要請を満たし、国民の納税義務の適正な履行の確保(通則法1条、相続税法1条参照)に資するものとして、相続税法22条の規定を許容するところであり、
②取引相場のない株式については、客観的な市場価額が形成されることがないことから、合理的と考えられる評価方法によって時価を評価するほかなく、上記①の観点に照らせば、評価通達の定める評価方法によって算定された金額をもってその「時価」であるものと評価することもま、同条の規定の許容するところである、
③上記①の場合においては、特段の事情があるときを除き、特定の納税者・相続財産についてのみ評価通達の定める評価方法以外の評価方法によってその価額を評価することは、それにより算定された金額が同条の定める時価として許容範囲内にあるといい得るものであったとしても、租税平等主義に反するものとして許されないとした上で、
④評価通達に定めた評価方法が当該財産の取得の時における時価を算定するための手法として合理的なものであることについては、Y側においてこれを立証すべき。
・・・・・
少なくとも本件相続の開始時(平成16年2月28日)においては、評価通達に定めるところにより算定した株式保有割合が25%以上である大会社の全てについて、一律に、資産構成が類似業績比準方式における標本会社に比して著しく株式等に偏っており、その株式の価額の評価において類似業種比準方式を用いるべき前提を欠くものと評価すべきものとまでは断じ難い。
・・・・・
本件相続の開始時の甲社については、その株式の価額の評価において類似業種比準方式を用いるべき前提を欠く株式保有特定会社に該当するものとは認めるに足りない。
● 本判決は
① 評価通達において相続財産の価額の評価に関する一般的基準を定め、画一的な評価方法によって相続財産の価額を評価するという現在の課税実務が相続税法22条の規定に照らし許される根拠から説き起こし、
②本件相続の開始時を基準とすると、評価通達189の(2)の定めのうち大会社につき株式保有割合が25%以上である評価会社を一律に株式保有特定会社としてその株式の価額を評価通達189-3の定めにより評価すべきものとする部分については、同条の規定に適合したものとはいえないとした上で、
③甲社の規模や事業実態、大企業の株式保有割合の一般的動向等を総合考慮して、株式保有割合が25%をわずかに超えていた甲社につき株式保有特定会社に該当しないとの判断を示したもの。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
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