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2013年5月 4日 (土)

成年被後見人選挙確認訴訟

東京地裁H25.3.14    

成年被後見人は選挙権を有しないと定めた公職選挙法11条1項1号の規定は、憲法15条1項及び3項、43条1項並びに44条ただし書に違反し無効である。
成年被後見人選挙確認訴訟第1審判決

<事案>
・・・公職選挙法11条1項1号の規定は、憲法15条3項等に違反し無効であるとして、行政事件訴訟法4条の当事者訴訟として、原告が次回の衆議院議員及び参議院議員の選挙において投票することができる地位にあることの確認を求めた事案。 

<争点>
①本訴訴えは、裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」 に該当しない不適法なものか。
②成年被後見人は選挙権を有しないと定めた公職選挙法11条1項1号の規定は、憲法に違反し無効か否か。

<規定>
公職選挙法 第9条(選挙権) 
日本国民で年齢満二十年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。
 
公職選挙法 第11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)
次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。
一 成年被後見人

憲法 第15条〔公務員の選定罷免権、公務員の性質、普通選挙・秘密投票の保障〕
③公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

行政事件訴訟法 第4条(当事者訴訟)
この法律において「当事者訴訟」とは、当事者間の法律関係を確認し又は形成する処分又は裁決に関する訴訟で法令の規定によりその法律関係の当事者の一方を被告とするもの及び公法上の法律関係に関する確認の訴えその他の公法上の法律関係に関する訴訟をいう。

<解説・判断>

法令の一部無効の可否、すなわち、裁判所が法律の規定の一部を違憲無効とした上で残部の規定を有効なものと解することは、どのような場合に許容されるか。 

「当該部分を他の部分から切り離すことが可能であり、残部だけでも立法者が有効な法律として存立させる意図が認められる場合に限り、一部違憲無効になる」との考え。

最高裁H20.6.4:
「国籍法3条1項所定の国籍取得の要件のうち、日本国政の取得に関して憲法14条1項に違反する区別を生じさせている部分、すなわち父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したとうい部分(準正要件)を除いた要件が満たされるときは、国籍法3条1項に基づいて日本国籍を取得する。」旨判示して、違憲とされなかった部分の国籍取得要件を満たしていた上告人(原告)に日本国籍を認めた。

本判決:
法律の規定の一部が意見であるというような場合に、その残部の規定だけでは有効な規定と解することに客観的合理性を欠く場合があり得るが、本件に関しては、公職選挙法11条1項1号が違憲と判断されても、これと可分であり別個独立した条項である「日本国民で年齢満二十年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。」と定めた同法9条1項について、これを有効な規定と解することに客観的合理性が欠けるとは考えられない。
⇒被告の「法律上の争訟」に当たらないという主張を退けた。


争点② 

本判決:
選挙権が議会制民主主義の根幹を成すものであり、我が国の憲法は、国民主権の原理に基づき、衆参両議院の議員の選挙において投票することによって国の政治に参加することができる権利を国民固有の権利として保障している

国民の選挙権を制限するためには、「やむを得ない」場合、すなわち選挙権の制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でなければならない。

最高裁H17.9.14が違憲判断の基準として示した「やむを得ない」基準を採用。

公選法11条1項の1号の立法目的とされる、事理を弁識する能力を欠き選挙権を行使するに足る能力を欠く者に選挙権を与えないとすること自体は、選挙権が、公務としての性格を有することから合理性を欠くとはいえない。

成年被後見人は2つの視点から、「選挙権を行使するに足る能力を欠くもの」とは異なる

①成年被後見人は、事理弁識能力を欠く「常況にある者」(民法7条)とされており、民法は、成年被後見人に該当する者は、事理弁識能力を一時的にせよ回復することを想定して、自ら後見開始の審判を申立てができ(7条)、日用品の購入その他日常生活に関する行為については完全に有効な行為として行うことができ(9条ただし書き)、婚姻(736条)、離婚(764条)、認知(780条)、遺言(962条、963条)などもできるとしている。

民法は成年被後見人を事理弁識能力を欠き選挙権を行使する能力を欠く者であるとは位置付けていない。

②成年後見制度は、財産等の管理処分能力が十分でない者を擁護するための制度であるから、家庭裁判所が後見開始の審判を行う際も、制度趣旨に則って、「自己の財産の管理処分する能力」の有無や程度の判断がされており、この能力は、選挙権を行使するに足る能力を欠くことにはならない

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