« 自分も撃たれた米国の議員による意見(英文)。 | トップページ | 虚偽記載による損害の算定(アーバンコーポレーション) »

2013年4月26日 (金)

薬事法施行規則の規定の法適合性

最高裁H25.1.11   

薬事法施行規則15条の4第1項1号(同規則142条において準用する場合)、159条の14第1項及び2項本文、159条の15第1項1号並びに159条の17第1号および2号の各規定の法適合性 
 
<事案>
平成18年法律第69号1条の規定による改正後の薬事法の施行に伴って改正された薬事法施行規則において、店舗販売業者が店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売又は授与(「郵便等販売」)を行う場合には一定の医薬品の販売又は授与は行うことができない旨の規定、上記一定の医薬品の販売若しくは授与又は情報提供はいずれも有資格者との対面により行う旨の規定が設けられたことについて、医薬品のインターネットによる通信販売を行う事業者であるXらが、新施行規則は新薬事法の委任の範囲外の規制を定めるものであって違法であり、その制定手続にも瑕疵があるなどと主張して、上記一定の医薬品につき郵便等販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求めた事案。

<原審>
新施行規則による規制は郵便等販売を行う事業者の営業の自由を制限するものであるからその授権規定には明確性が求められるところ、新薬事法には郵便等販売を禁止又は制限する趣旨を明確にした規定はないなどとして、・・・郵便等販売を制限する新施行規則は新薬事法の委任の範囲を超えて無効であるとした。 

<判断> 
薬事法施行規則15条の4第1項1号(同規則142条において準用する場合)、159条の14第1項及び2項本文、159条の15第1項並びに159条の17第1号及び2号の各規定は、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第2類医薬品につき、店舗販売業者による郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効である。
 
<解説>

専門技術的事項は必ずしも国会の審議になじまず、また、状況の変化に対応した柔軟性を確保する必要がある事項は法律で詳細に定めることが適当ではない。

法律の委任に基づいて行政機関が規定を定めること、すなわち委任命令によることが認められている。

委任命令によって国民の権利義務の内容を定めることも許容されるが、当該委任命令が委任をした法律、すなわち授権法に抵触していれば違法であり、また、委任に際して行政機関に裁量が認められている場合でも、当該裁量の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合には違法となる。

判例上、委任命令の適否の判断要素としては、授権規定の文理のほか、授権既定が下位法令に委任した趣旨、授権法の趣旨・目的及び仕組みとの整合性、委任命令によって制限される権利ないし利益の性質等があるとされている。

学説上は、このような委任立法裁量に対する実体的統制には限界があるとの認識を前提に、実体的統制と並んで、行政手続法39条以下の意見公募手続に代表される手続的統制を重視すべきと説かれている。

委任命令によって国民の権利を制限するには授権規定の明確性が必要である旨を明示的に述べたのは本判決の原審が初めて。


本判決は、郵便等販売を規制する新施行規則の規定が新薬事法の委任の範囲を逸脱したものではないというためには、新薬事法中の諸規定から、郵便等販売を規制する内容の省令の制定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れることを要すると説示し、原審の考え方を基本的に是認。

同時に、授権の趣旨を検討する際には、原審が考慮すべきではないとした立法過程における議論をも踏まえるべきこと、授権規定に必要な明確さは、その規制の範囲や程度等に応じて異なるべきことを指摘。

本判決は、新薬事法は郵便等販売を規制すべきか否かについて何ら明確に規定しておらず、厚生労働省内にあった郵便等販売の安全性に対する懐疑的な意見が立法内容に反映されていない理由も不明。
⇒新施行規則による郵便等販売に対する規制は新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法無効なもの。


米連邦最高裁の判例の中には、連邦制の建前からすれば、連邦法による州主権の制限を認めるには、当該連邦法の文言が通常以上に明確であって、連邦議会が実際に主権の制限を意図したことが明白であることを要する旨を判示したものがある(Gregory v. Ashcroft, 501 U.S.452(1991))。
but
このような解釈手法に対しては、州主権の尊重といった憲法的な価値判断を制定法解釈に持ち込むものであって、これと同様の特定の文脈を離れて直ちに一般化しうるものではないとの趣旨の指摘もある。 


新薬事法75条1項において店舗販売業許可(及びその撤回)の権限を有しているのは原則として都道府県知事であって厚生労働大臣ではないが、本件においてXらはY(国)のみを相手とする新施行規則の無効確認訴訟及び取消訴訟が本訴と併合提起されていたため、紛争の実効的解決ひいては本訴における確認の利益という点からは、被告の選択には疑問がないでもない。
but
厚生労働大臣も、必要があると認めるときは医薬品の販売業者に対し必要な報告させ、又は職員をして店舗等に立ち入ってその構造設備若しくは帳簿書類その他の物件を検査させ、従業員その他の関係者に質問させる権限(新薬事法69条3項)等を有している。
⇒少なくともY(国)に対する確認判決はこうした監督処分や措置をあらかじめ封ずる効力を有するという点で意味がある。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 自分も撃たれた米国の議員による意見(英文)。 | トップページ | 虚偽記載による損害の算定(アーバンコーポレーション) »

判例」カテゴリの記事

行政」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 薬事法施行規則の規定の法適合性:

« 自分も撃たれた米国の議員による意見(英文)。 | トップページ | 虚偽記載による損害の算定(アーバンコーポレーション) »