衆議院選挙に関する差止めと民衆訴訟
最高裁H24.11.30
選挙に関する民集訴訟として提起された衆議院議員選挙に関する内閣による助言と承認等の差止め及び内閣による法案提出の義務付けを求める訴えを本案とする仮の差止め又は仮の義務付けの申立ての適法性
<事案>
内閣の属する国を被告として、いずれも行政事件訴訟法5条の民集訴訟として、
(a)
主位的に、同法 3条7項(差止めの訴え)の趣旨を類推し、内閣が天皇に対し本件選挙の施行の公示に係る助言と承認をすることの差止めを求め、
予備的に、同項の趣旨を類推し、本件選挙の施行の公示が行われたときは、内閣が中央選挙管理会及び各都道府県の選挙管理委員会に対し本件選挙につき公職選挙法別表第1に定める選挙区割りに基づく選挙事務の管理をさせることの差止めを求めるとともに、
(b)
行政事件訴訟法3条6項1号(非申請型の義務付けの訴え)の趣旨を類推し、内閣が国会に対し公職選挙法別表第1につき1人別枠方式を廃止し人口に比例して議員定数を配分する法律案を提出することの義務付けを求める訴え(以下「本件本案の訴え」という。)を提起した上、これを本案として、行政事件訴訟法37条の5第2項及び1項(仮の差止め及び仮の義務付け)の趣旨を類推し、
①
主位的に、前記助言と承認をすることの仮の差止め、
予備的に、前記選挙事務の管理をさせることの仮の差止めを申し立てるとともに、
②前記法律案を提出することの仮の義務付けを申し立てた事案。
<規定>
行政事件訴訟法 第5条(民衆訴訟)
この法律において「民衆訴訟」とは、国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で、選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起するものをいう。
裁判所法 第3条(裁判所の権限)
裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。
行政事件訴訟法 第42条(訴えの提起)
民衆訴訟及び機関訴訟は、法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる。
行政事件訴訟法 第37条の5(仮の義務付け及び仮の差止め)
義務付けの訴えの提起があつた場合において、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決がされないことにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずること(以下この条において「仮の義務付け」という。)ができる。
2 差止めの訴えの提起があつた場合において、その差止めの訴えに係る処分又は裁決がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもつて、仮に行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずること(以下この条において「仮の差止め」という。)ができる。
<判断>
本件申立ての本案の訴え(衆議院議員の選挙に関する内閣による助言と承認等の差止め及び内閣による法案提出の義務付けを求める訴え。以下「本件本案の訴え」という。)は、選挙に関する民集訴訟(行政事件訴訟法5条)として提起されたものであるが、民集訴訟は、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれるものとして、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」ものとされており(行政事件訴訟法42条)、国会議員の選挙に関する民集訴訟について、公職選挙法の定める選挙無効訴訟等の訴訟類型以外に、本件本案の訴えのような選挙に関する差止め又は義務付けの訴えの提起及びこれらを本案とする仮の差止め又は仮の義務付けの申立てをすることができる旨の義務付けの申立てをすることができる旨を定める法律の規定は存しない。
そして、上記のような民集訴訟の性質等に照らせば、民集訴訟として法律の定めを欠く訴訟類型及びこれを本案とする仮の救済方法が、法律上の紛訟である抗告訴訟及びこれを本案とする仮の救済方法に関する法律の規定又はその趣旨の類推により創設的に認められると解することはできないから(このことは、法令の訴訟類型である選挙無効訴訟において無効原因として主張し得る事由の範囲の解釈とは事柄の性質を異にするものである)、現行の法制度の下において、本件本案の訴えは不適法であり、本件申立ても不適法であるといわざるを得ない。
<解説>
民集訴訟は、裁判所法3条1項の「法律上の争訟」ではなく同項の「その他法律において特に定める権限」に含まれるものとして、「法律に定める場合において、法律に定める者に限り、提起することができる」ものとされている(行政事件訴訟法42条)。
国会議員の選挙に関する民集訴訟について、公職選挙法の定める選挙無効訴訟等の訴訟類型以外に、本件本案の訴えのような選挙に係る差止め又は義務付けの訴えを提起することができる旨を定める法律の規定は存在しない。
⇒
そのような訴えを提起することはできない。
最大判昭和51.4.14:
~
公職選挙法204条において選挙無効訴訟という類型の訴訟を提起できること自体は明らかに定められているものの、従前、同法205条1項との関係で同訴訟において議員定数の配分規定そのものの違憲を理由として選挙の効力を争うことはできないのではないかという疑義があったところ、同訴訟が選挙人において選挙の適否を争うことができる唯一の訴訟であること等に鑑み、同法の規定が選挙権の平等に反することを選挙無効の原因として主張することも許されると判示したもの。
⇒
そもそも当該類型の訴訟を提起することができること自体を定めた法律の規定が存在しない本件本案の訴えの場合とは事柄の性質を異にするものというべき。
民集訴訟について仮の救済方法は法定されておらず、仮の差止め(行政事件訴訟法37条の5第2項)又は仮の義務付けの申立て(同条1項)は、専ら抗告訴訟としての差止め又は義務付けの訴えを本案としてのみ認められるもの。
⇒
客観訴訟である民衆訴訟の訴訟類型として法律の定めを欠く本件本案の訴えが、主観訴訟である抗告訴訟としての差止め又は義務付けの訴えの規定又はその趣旨の類推により創設的に認められると解することはできない以上、・・・本件申立てはいずれも不適法。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
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