別居中であった妻と遺族基礎年金・遺族厚生年金の支給
東京地裁H23.11.8
国民年金及び厚生年金保険の被保険者であった夫と別居中であった妻が国民年金法及び厚生年金保険法に基づき遺族基礎年金及び遺族厚生年金の支給を受けることのできる妻(配偶者)に当たるとされた事例
<事案>
国民年金及び厚生年金保険の被保険者Aが死亡したことから、その妻Xが、旧社会保険庁長官に対し、遺族基礎年金及び遺族厚生年金の裁定を請求したところ、旧社会保険庁長官から、Aの死亡当時、AとXとの間に生計維持関係がj認められないことを理由に、遺族基礎年金及び遺族厚生年金を支給しない旨の決定を受けたため、本件不支給決定が違法であるとして、その取消しを求めた事案。
<規定>
国民年金法及び厚生年金保険法は、被保険者の妻(配偶者)として遺族基礎年金及び遺族厚生年金を受けるためには、被保険者の死亡当時その者によって生計を維持していたこと(「生活維持要件」)を要する旨規定(国民年金法37条の2第1項、厚生年金保険法59条項)。
<争点>
Aの死亡当時、Aと住民票上の住所を異にし、現に起居を共にしていないかったXが、Aにより生計を維持していたものといえるか否か
<判断>
被保険者の死亡の当時その者によって生計を維持していたい妻(配偶者)を被保険者の死亡当時その者と生計を同じくしていた者等とする旨を規定する国民年金保険法施行令6条の4及び厚生年金法施行令3条の10の前段の規定は、同居等により被保険者等と生計を同じくしていた配偶者であれば、それだけで生計維持要件を満たすことを定めたものと解すべき。
他方、当該規定に該当しない場合であっても、その配偶者において、被保険者等からの援助がなければ、その生計の維持に支障を来していたであろうという関係にある場合には、生計維持要件を満たすものと解するのが相当。
XとAの別居に至る経緯等の下においては、本件にける生活維持要件の該当性を検討するに当たり、Xは、Aの死亡当時、Aの法律上の配偶者であり、XとAが別居していたいとしても、AがXに対して少なくとも最低限度の生活を営むための婚姻費用分担義務を負っていたことを踏まえて、本件認定基準により基礎事情を評価すべき。
XとAの別居について「止むを得ない事情」があり、両者間で経済的な援助がおこなわれていたものと評価でき、また、両者間の音信、訪問等は、X・A間の子の監護を巡る紛争が続き、各種裁判手続が行われるなどしていた状況下のものとして「生計を共にしていた」と認められる程度に相応の頻度及び内容をもったものであったというべきであり、「止むを得ない事情」が消滅する可能性があったことを否定できず、これが消滅したときは、再び起居を共にし、消費生活上の家計を一つにしていたものと認められる。
⇒Xは、本件認定基準の生計同一要件及び収入要件を満たしており、生活維持要件を満たす。
<解説>
国民年金法37条の2の「妻」について、戸籍上届出のある妻であっても、その婚姻が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある場合には、「妻」に該当しないと解されている(厚生年金保険法59条の「配偶者」についても同様(最高裁昭和58.4.14)。)。
国民年金及び厚生年金保険の被保険者とその妻が別居中であっても、いまだ事実上の離婚状態には至っていない事案においては、国民年金法37条の2及び厚生年金保険法59条の生活維持要件、特に本件認定基準の生活同一要件を満たすか否かが問題となる。
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