PTSDと監禁致傷
最高裁H24.7.24
不法に被害者を監禁し、その結果、被害者に外傷後ストレス障害(PTSD)を発症させた場合について、監禁致傷罪の成立が認められた事例
<事案>
監禁致傷罪の成否に関し、外傷性ストレス障害が刑法にいう「傷害」に当たるか否かが争われた事件において、これを肯定したもの。
<判断>
「各被害者を不法に監禁し、その結果、各被害者について、監禁行為やその手段等として加えられた暴行、脅迫により、一時的な精神的苦痛にとどまらず、いわゆる再体験症状、回避・精神麻痺症状、過覚醒症状といった医学的な診断基準において求められている特徴的な精神症状が継続して発現していることなどから・・・PTSDが認められた」という事実関係を前提として、上記認定のような精神的機能の障害を惹起した場合も刑法にいう傷害に当たると解するのが相当であると判断。
<解説>
PTSD:Post-traumatic Stress Disorder 心的外傷後ストレス障害
強い外傷的出来事を体験して心の傷を受けたことにより、特徴的な症状が現れることを要する。
刑法上の傷害:
A:生理機能の障害(健康状態の不良な変更)と解する立場と、
B:身体の完全性の毀損(生理機能の障害に加えて、身体の外貌の毀損も含まれる)と解する立場に分かれるが、
生理機能の障害が刑法上の傷害に当たることに争いはない。
判例も、他人の健康状態を不良に変更し、その生活機能の障害を惹起した事案について、外傷や身体の内部組織の物質的破壊を伴わない場合を含めて、傷害罪や致傷罪の成立を肯定。
ex.
・自宅から隣家の窓に向けて連日連夜ラジオの音声等を大音量で鳴らし続け、隣家の住人に精神的ストレスを与え、同人に慢性頭痛症、睡眠障害、耳鳴り症を発症させた事案
・病院で勤務中ないし研究中であった者に対し、睡眠薬等を窃取させたことによって数時間にわたり意識障害及び筋弛緩作用を伴う急性薬物中毒の症状を生じさせた事案
精神的機能の傷害が生理機能の障害として刑法上の傷害に含まれることについても、多数の学説は、「生理機能には身体的機能のみならず精神的機能も含まれる。」として、PTSDのような精神的機能の障害を惹起することが刑法上の傷害に当たることを肯定。
尚、一審判決が、医学的な診断基準に照らしてPTSDの発症を認めることに疑問が残るような証拠関係でありながら、PTSDの傷害を負わせたとして傷害罪等の成立を認め、控訴審において破棄された事例もある。
⇒不十分な証拠関係でPTSDの傷害を負わせたと判断することがないよう留意する必要。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
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