株主総会における取締役の説明義務
東京地裁H24.7.19
取締役の説明義務違反を理由として提起された株主総会決議取消請求訴訟において、説明義務違反は認められないとしてその請求が棄却された事例
<事案>
Yの株主であるXらが、Yの工場で産業廃棄物の不法投棄が行われていたにのかかわらず、Yの株主総会において、Yの代表取締役社長が、不法投棄の事実を秘てしい回答を拒絶したことなどが取締役の説明義務に違反し、本件株主総会で可決された決議(剰余金処分、役員の選任、退任役員への退職慰労金の贈呈)の方法が法令に違反し又は著しく不公正であるとして、会社法831条1項1号に基づき、その取消しを求めた事案。
<規定>
会社法 第831条(株主総会等の決議の取消しの訴え)
次の各号に掲げる場合には、株主等(当該各号の株主総会等が創立総会又は種類創立総会である場合にあっては、株主等、設立時株主、設立時取締役又は設立時監査役)は、株主総会等の決議の日から三箇月以内に、訴えをもって当該決議の取消しを請求することができる。当該決議の取消しにより取締役、監査役又は清算人(当該決議が株主総会又は種類株主総会の決議である場合にあっては第三百四十六条第一項(第四百七十九条第四項において準用する場合を含む。)の規定により取締役、監査役又は清算人としての権利義務を有する者を含み、当該決議が創立総会又は種類創立総会の決議である場合にあっては設立時取締役又は設立時監査役を含む。)となる者も、同様とする。
一 株主総会等の招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき。
二 株主総会等の決議の内容が定款に違反するとき。
三 株主総会等の決議について特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
<判断>
①所管行政庁であるC市長からは、右廃棄物の埋立てが当時の廃棄物の処理及び清掃に関する法律に抵触するとは直ちに判断できないとして、今後の対策として定期的な水質調査等が求められたにとどまった。
②Xらは本件質問に関する十分な知識や資料を有していた一方、他の株主からは同種の質問等がなく、本件質問が不法投棄を前提としたものであった。
⇒
Yの代表取締役が不法投棄の事実を否定し、その余の質問に回答する必要がないなどと説明したことが不合理であったと認めることはできない。
平均的な株主としても、その時点で廃棄物の撤去は求められておらず、今後も定期的な調査が実施される予定であると理解できる。
⇒
議決権行使の前提として合理的な理解及び判断を行い得る程度の説明があったと判断し、説明義務違反は認められない。
Yが、本件株主総会の時点において、専門的な調査や所管行政庁への報告・相談に加え、自ら廃棄物処理法に違反するか否かを調査する義務があったとはいえない。
株主総会前の質問状は、取締役等に事前に調査の機会を与え、株主総会で質問があれば応答できるように準備をさせるためのものであって、株主総会で質問がない限り、取締役等がその説明義務を負うものではない。
⇒
この点の質問がなかった本件において、Yの取締役等が説明義務を負うことはない。
<解説>
株主総会において株主が質問した場合に取締役等が説明義務を果たしたかどうかについては、決議事項の内容、質問事項との関連性の程度、その説明内容等に加えて、質問株主が保有する資料等も総合的に考慮して、平均的な株主が議決権行使の前提としての合理的な理解及び判断を行い得る状態に達していたか否かが判断基準とされている。
株主が事前に質問状を提出した場合であっても、株主が株主総会に出席して説明を求めなければ、取締役等には説明義務がない(最高裁昭和61.9.25)。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
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