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2013年3月23日 (土)

国家公務員政党機関誌配布事件上告審判決

最高裁H24.12.7   
国家公務員政党機関紙配布事件上告審 

<事案>
①事件:
社会保険事務所に年金審査官として勤務してた厚生労働事務官である被告人が、衆議院選挙に際し、日本共産党を指示する目的で、同党の機関紙及び政治目的を有する文書を住所や事務所に配布 

②事件:
厚生労働省本省の総括課長補佐として勤務していた厚生労働事務官である被告人が、日本共産党を指示する目的で、警視庁の職員住宅に同等の機関紙を配布

それぞれの行為が国家公務員法110条1項19号、102条1項、人事院規則14-7(政治的行為)6項7号、13号(5項3号)(「本件罰則規定」)に当たるとして起訴

<規定>
国家公務員法 第102条(政治的行為の制限)
職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

<争点>
①本件罰則規定は、公務員の政治活動の自由に対する過度に広範な規制であり、かつ、規制の目的、手段も相当でないことから、憲法21条1項、31条などに違反しないか
②国家公務員法102条1項による「政治的行為」の人事院規則への委任は、白紙委任として憲法31条等に違反しないか
③被告人らの各配布行為には法益侵害の危険がなく、これに対して本件罰則規定を適用することは憲法21条1項、31条に違反しないか
 
<判断>

本件罰則規定について:
国家公務員法102条1項の文言、趣旨、目的、規制される権利が重要な基本的人権である政治活動の自由であること、同項が刑罰法規の構成要件となることを考慮すると、同項にいう「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指し、同項はそのような行為の類型の具体的な定めを人事院規則に委任したものと解するのが相当であるとし、人事院規則14-7第6項7号、13号は、その定める行為類型に文言上該当する行為であって、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを禁止の対象とするものと解するのが相当。


本件罰則規定の憲法21条1項、31条等違反について:
本件罰則規定の目的は合理的で正当なものであること、本件罰則規定の禁止の対象とされるものは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ、その制限は必要やむを得ない限度にとどまり、右目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものであること、右の解釈の下における本件罰則規定は、不明確なものとも、過度に広汎な規制であるともいえないことなどを理由に、憲法の右規定に違反しない。

● 本件罰則規定の当てはめ
①事件について:
管理職的地位地位になく、その職務の内容や権限い裁量の余地のない公務員によって、職務と全く無関係に、公務員により組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり、公務員による行為と認識しうる態様で行われたものでのない。

公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるとはいえず、本件罰則規定の構成要件に該当しない。

②事件について:
管理職的地位にあり、職務権限に裁量権のある公務員が、殊更に一定の政治的傾向を顕著に示す行動に出たものであって、自らの職務権限の行使及び部下等の職務の遂行や組織の運営にその政治的傾向が影響を及ぼすおそれがあり、勤務外の行為であることなどの諸事情を考慮しても、公務員の職務の遂行の政治低中立性をおそれが実質的に認められる

本件罰則規定の構成要件に該当する。


猿払事件は事案を異にする判例であるとして、適法な上告理由に当たらないとした。

<解説>

猿払判例(最高裁昭和49.11.6):
公務員に対する政治的行為の禁止が右の合理的で必要やむを得ない限度にとどまるものか否かを判断するには
①禁止の目的、
②この目的と禁止される政治的行為との関連性、
③政治的行為を禁止するkとにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡
の三点から検討する(「合理的関連性の基準」)こととした上で、

①については、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという目的は正当であり
②については、公務員の政治的中立性を損なうおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは、たとえその禁止が、公務員の職種・職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等を区別することなく、あるいは行政の中立的運営を直接、具体的に損なう行為のみに限定されていなくても、禁止目的との間に合理的な関連性があり、
③については、本件罰則規定により同時に意見表明の自由が制約されることにはなるが、それは行為の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず、規制される行為類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではないのに対し、禁止により得られる利益は、行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益であるから、利益の均衡を失しない。
⇒本件罰則規定は憲法21条1項、31条に違反せず合憲。

猿払判例が「公務員の職種・職務権限、兼務時間の内外、国の施設の利用の有無等」を問わないとしているのも、猿払判例に係る事案のような政治的行為を前提にしてのものと解される。

これと異なる性質の政治的行為についてまで、「公務員の職種職務権限、勤務時間の内外、国の施設の利用の有無等」を問わずに本件罰則規定が適用されるべきことや、このような解釈を前提として本件罰則規定が合憲であることまでを判示したものとはいえない。

猿払判例が採ったとされる合理的関連性の基準についても、理由付けの一部であり、それ自体は判例性を持たない。

①事件判決は、猿払事件に係る事案は、公務員により組織される団体の活動としての性格を有する点、その行為の態様からみて当該地区において公務員が特定の政党の候補者を国政選挙において積極的に支援する行為であることが一般的に容易に認識する行為であることが一般人に容易に認識され得るものであった点で①事件とは事案が異なるとして、検察官の判例違反の上告趣意を不適法とした。


本件各判決は、本件罰則規定につき、その文言、趣旨、目的等に照らして解釈を行い、「その定める行為類型に文言上該当する行為であって、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものを禁止の対象とするものと解する」との解釈を行い、そのように解釈された本件罰則規定について合憲性判断。

近年の表現の自由の規制に関する最高裁の判例は、利益衡量の手法を前提としながらも、個々の事案ごとのアドホックな利益衡量に陥らないようにするため、いわゆる審査基準論を一部取り入れ、二重の基準やそれを前提とするLRAのテストや明白かつ現在の危険のテストなどの厳格な審査基準を併用あるいは意識、配慮しているものが主流。

本件各判決も、「制限は必要やむを得ない限度にとどまり」などという表現から、厳格な審査基準を意識、配慮していることがうかがわれ、右のような最高裁の判例の流れに従ったもの。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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