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2013年3月 4日 (月)

販売シェア配分と供給量制限カルテル

東京高裁H23.10.28   

鋳鉄鋼管直管を製造・販売する三会社がその販売シェアを重量ベースで配分して各社の販売量の調整をしていたことが供給量制限カルテルに当たり、需給関係による価格メカニズムが機能しない市場である等の特段の事情が認められないから対価に影響するものとして、平成17年改正前の独禁法7条の2第1項に当たるとして課徴金納付命令審決が是認された事例

<手続>
課徴金納付命令⇒審決手続の開始請求⇒審決⇒その取消を求めて本訴提起 

<審決>
課徴金納付命令と同様の審決。 

①独禁法7条の2第1項にいう「供給量」とは、需要量と供給量の関係で価格が決まってくるという機能における意味であり、生産や流通の段階で在庫として保有されているものを含めて市場に供される商品等の量をいう。

②それを「制限する」とは、人為的な介入により供給量に対して何らかの限界・範囲を設定して、価格の変化を通じて需給が調整され、供給量が決定されるという機能の発揮を阻害すること。

③供給量を制限することを内容とする合意又はそれを直接企図したカルテルに限られず、その効果として市場全体の供給量を制限する結果をもたらすカルテルがあればそれが対価に影響を与えることは経済上の経験則であるから、当該市場がかかる需給関係が機能しない市場であるなどの特段の事情がない限り、価格に影響を及ぼすことになる。

④シェア配分カルテルは、特段の事情のない限り、全体の供給量を制限、抑制する効果を持つ一般的性質を有し、その結果として対価影響性を有する。

⑤本件カルテルは、年度配分シェアの決定により、直需分野及び間需分野とも受注調整によって本件商品の供給量制限をするものであり、その効果によって本件商品の対価に影響を与えていたもの。

<原告主張>
①間需分野では、第二次販売業者からの価格競争に晒されていた⇒活発な価格競争が行われており、在庫量の調整も難しく、実質的に商品等の供給量を制限して価格を引き上げる効果が生じた具体的事実も実質的証拠も欠く。

②シェア配分カルテルがあっても原告3社のシェアが増減するのみで全体として供給量が減ることはなく、地方公共団体等の水道事業予算などから需要調査を行いそれに応ずる見込みの生産・在庫・供給をしていた⇒一定の価格維持を前提にした目に見える具体的な供給量制限行為が伴っていないし、それについての実質的証拠もない。

③シェアのみを協定したシェア配分カルテルは独禁法7条の2第1項にいう「実質的に商品等の供給量を制限することによりその価格に影響があるもの」に含まれず、課徴金の賦課対象でないという法解釈が公正取引委員会から示されてきた。
・・・ 
 
<判断>
本件審決に不合理な点や経験則違背があったとはいえず、実証拠がないとはいえない。
⇒本件審決の取消請求をいずれも棄却。

①本件カルテルは、原告らの販売数量が合意した受注予定数量の範囲内に収まることにより、総需要見込数量に近似する販売総量が実現され、原告らの合意した年度配分シェアが維持されるという仕組みを有する実効性の高いカルテルであり、総需要見込数量に年度配分シェアを乗じて算出される受注予定数量は、これを超えては生産及び販売をしないという上限を画し、その「範囲内に原告らの供給量を制限するものであり、原告らの供給量の和である市場全体の供給量も、その範囲内に制限されることとなる。

②本年の年度配分シェアが本件商品の生産計画や利益計画を立てる前提になっていた。

③本件カルテルは供給量を制限するものであるから、本件市場が需給関係による価格メカニズムが機能しない市場である等の特段の事情がない限り、価格に影響を与えるもの。

④間需分野においても基本配分シェアに応じた販売ルートは構築されていたから、本件カルテルによる価格影響性が生じていた。

⑤本件カルテルは、間需分野・直需部を問わず、本件市場全体について年度配分シェアを達成するための受注調整に使われているので、両分野を課徴金の対象とすべき。
 
<解説>
平成21年および平成17年の改正前の独禁法7条の2によって課徴金の対象となるカルテルは、同法2条6項の「不当な取引制限」又は同法6条1項のうちの「不当な取引制限医該当する事項を内容とする国際的協定又は国際的契約」に当たる行為で、
①商品または役務の対価に関わるもの、いわゆる価格カルテル(対価カルテルともいわれる)及び
②実質的に商品又は役務の供給量を制限することによりその対価に影響のあるいわゆる供給量制限カルテル(数量カルテルともいわれる)の類型がある。

供給に関するカルテルには、生産制限に関係するカルテル類型のものと販売制限に関するカルテル類型のものがあるが、実質的に供給量制限につながるカルテルのみが前記法条に当たるものとなる⇒その類型の実体の分析・検討が必要。

同法7条の2は、対価に影響があるものであることを要件としているが、現実に対価に影響があるものであることを要件としているものではない。
 
共同行為の態様としては、生産量や販売量の直接的制限だけでなく、生産設備の増設・運転の制限、取引先の割当や市場のシェアの分割による制限、顧客に対する納入比率の割当などもあり得るが、それらの行為は、消費財商品などのように需要と供給との間に相関関係があり、それによって通常取引価格が決定されるような市場の成立している一般消費財商品などの場合には、取引価格にも影響を与えるものであることは経験則上肯定し得る。
⇒そのような市場の場合、それらの行為があっても、取引価格に影響を与える可能性がなかったなどの特段の事情があることの反証責任は、行為事業者が立証責任を負うと解される。

商品需要が法的規制や公共的予算執行状況など市場外の社会的事情の影響を受ける特定商品の場合、その取引価格は需要と供給との相関関係による自由な競争による市場取引価格形成が必ずあるとはいえない
⇒公正取引委員会が、供給シェア配分や供給テリトリー配分が供給量制限として市場価格を操作することを意図して行われているかもしくは市場価格形成に必然的に影響する結果を生じ、かつ、それを可能ならしめる共同行為であることを立証する責任を負う。

供給量シェア配分がなされれば経験則上原則として価格に影響するといえるだけの論拠は経済学的に確立されているとはいい難い⇒市場分析に詳しいエコノミストなどの鑑定意見に基づいて認定する必要がある場合もある。


本件で問題となったのは、複数の事業者が共同して本件商品市場全体における一定期間の実際の総販売数量に占める各事業者の販売数量の割合をあらかじめ決定し、その実行をする旨の合意をしたというシェア配分カルテルであり、その行為が供給量制限効果及び価格形成に対する影響効果を有していたか否か。

本判決が、本件市場が価格の低下に伴い需給が増加する可能性を有しない市場であると認められないというのは、水道事業という公共的インフラ事業のための本件商品に関して疑問がなくもない。

本件シェア配分カルテルの下における需要量は、自由競争下における需要量より抑えられたとみられるものであるから、そのように抑えられた需要量に応じて供給を行ってきたとしても、それは何ら供給量を制限しなかったことの証左になるものではないというのも、企業の経営上合理的な生産調整を問題視して、自由競争のために過剰生産・供給もすべきという趣旨であるなら、その考え方には独禁法解釈・運用上疑問が残るし、それを価格に影響する行為とみなして課徴金賦課の対象となるのも疑問という見解もあり得る。

本商品はもともと原告X3社が技術特許や生産ノウハウを保有していた者で、本来的に排他的権益を有していたもの、自由競争市場が成立していなかったもの。
原告X3社が同X1社及びX2社にその特許技術の使用を許諾し、生産ノウハウの一部も提供したものであるため、商品の品質により競争はなく、特許使用許諾等による生産量や価格上の制約が自ずと生じやすい事情もあった。

もし供給量シェア配分に関する情報交換等が過剰生産や過剰在庫の生ずる損失リスクを回避する意図のみで行われていたとするなら、供給量制限が卸価格に影響するものと推認して、課徴金の賦課対象行為とすることは問題もある。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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