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2013年2月24日 (日)

障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定を義務付けた判決

和歌山地裁H24.4.25
   
障害者自立支援法に基づく介護給付支給決定のうち重度訪問介護の1ケ月当たりの支給量268時間を超える部分につき支給量として算定しないとした部分について処分行政庁の裁量権を逸脱濫用した違法な処分であるとしてこれを取り消し、処分行政庁に対し重度訪問介護の1か月当たりの支給量542.5時間を下回らない介護給付支給決定をすることを義務付けた例 

<事案>
筋委縮性側索硬化症(ALS)による両上肢機能全廃、両下肢機能全廃、言語機能喪失の障害を有するXが、処分行政庁がした障害者自立支援法に基づく介護給付費支給決定の支給量がXの申請した柔道訪問介護の支給量に満たないものであり、処分行政庁の裁量権を逸脱濫用したこと等により違法な処分であると主張して、右介護給付費支給決定の取消しを求めると共に、処分行政庁に対する重度訪問介護の支給量を1か月651時間とする介護給付費支給決定を義務付けることを等を求めて、Y(和歌山市)に対して提起した訴訟。 

<規定>
障害者自立支援法 第5条
3 この法律において「重度訪問介護」とは、重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者につき、居宅における入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与することをいう。

障害者自立支援法 第20条(申請)
支給決定を受けようとする障害者又は障害児の保護者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村に申請をしなければならない。

障害者自立支援法 第22条(支給要否決定等)
市町村は、第二十条第一項の申請に係る障害者等の障害程度区分、当該障害者等の介護を行う者の状況、当該障害者等の置かれている環境、当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して介護給付費等の支給の要否の決定(以下この条及び第二十七条において「支給要否決定」という。)を行うものとする。
4 市町村は、支給要否決定を行うに当たって必要と認められる場合として厚生労働省令で定める場合には、厚生労働省令で定めるところにより、第二十条第一項の申請に係る障害者又は障害児の保護者に対し、第五十一条の十七第一項第一号に規定する指定特定相談支援事業者が作成するサービス等利用計画案の提出を求めるものとする。
行政事件訴訟法 第37条の3
5 義務付けの訴えが第一項から第三項までに規定する要件に該当する場合において、同項各号に定める訴えに係る請求に理由があると認められ、かつ、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決につき、行政庁がその処分若しくは裁決をすべきであることがその処分若しくは裁決の根拠となる法令の規定から明らかであると認められ又は行政庁がその処分若しくは裁決をしないことがその裁量権の範囲を超え若しくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、その義務付けの訴えに係る処分又は裁決をすべき旨を命ずる判決をする。

行政事件訴訟法 第3条(抗告訴訟)
6 この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう。
一 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
二 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。

<解説>
「重度訪問介護」とは、重度の肢体不自由者であって常時介護を要する障害者につき、居宅における入浴、排せつ又は食事の介護その他の厚生労働省令で定める便宜及び外出時における移動中の介護を総合的に供与することをいう(法5条3項)。

介護給付費等の支給決定を受けようとする障害者等は、厚労省令で定めるところにより、市町村に申請をしなければならない(同法20条1項)。
市町村は、申請に係る障害者等の障害程度区分、当該障害者等の介護を行う者の状況、当該障害者等の置かれている環境、当該申請に係る障害者等又は障害児の保護者の障害福祉サービスの利用に関する意向その他の厚生労働省令で定める事項を勘案して介護給付費等の支給の要否の決定を行う(同法22条1項)。

市町村は、支給要否決定を行うに場合には、障害福祉サービスの種類ごとに月を単位として厚労省令で定める期間において介護給付費等を支給する障害福祉サービスの量(支給量)を定めなければならない(同法22条4項)。

<判断>
上記のような自立支援法の規定等⇒法は、障害者について障害福祉サービスを提供するかどうか、並びに、支給する場合のサービスの種類及び支給量の判断については、法の定める勘案事項に係る調査を踏まえた市町村の合理的裁量に委ねられており、処分行政庁に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又は濫用にわたるものと認められるような場合に限って違法になるというべき。 

違法となるかどうかの判断は、当該支給要否並びに障害福祉サービスの種類及び支給量の決定に至る判断の過程において、勘案事項を適切に調査せず、又はこれを適切に考慮しないことにより、右各決定内容が当該申請に係る障害者等の個別具体的な障害の種類、内容及び程度その他の具体的な事情に照らして、自立支援法の趣旨目的(同法1条)に反しないかどうかという観点から検討すべき。

・・・同支給決定は、妻がXの介護を行っているという要素を過度に評価する一方で、X及び妻の心身の状況等の考慮すべき要素を十分に考慮していないから、勘案事項である「障害の種類及び程度その他の心身の状況」(規則12条1号)及び「障害者等の介護を行う者の状況」(同条2号)を適切に考慮しておらず、社会通念に照らして明らかに合理性を欠き、処分行政庁に与えられた裁量権を逸脱濫用した違法な処分。 

・・・・Xの義務付けの訴えに係る請求の趣旨には、問題となる平成23年度支給決定に係る支給量(1か月268時間)を超える介護給付費の支給決定の義務付けを求める趣旨も含まれると解されるとし、行政事件訴訟法37条の3第5項、3条6項2号の規定からすれば、裁量権の逸脱濫用にならないような重度訪問介護の支給量を一義的に決めることができない場合であっても、一定の支給量を下回らない介護給付費支給決定をしないことが裁量権の逸脱濫用になると認められる場合には、裁判所は、そのような介護給付費支給決定を義務付ける判決をすべきである。 

本件で認定されたXの状態、Xに対する介護の状況(妻の状態を含む。)、ALSの特質などに鑑みると、少なくとも1日当たり21時間分についてゃ、職業付添人による介護サービスがなければ、Xが必要十分な介護サービスを受けることができず、その生命、身体、健康の維持等に対する重大な危機が発生する蓋然性が高いと認められる。

⇒Xに対しては介護保険法に基づく介護給付によって1日あたり3.5時間分の介護サービスが賄われていることを考慮し、処分行政庁の裁量権の逸脱濫用の判断基準に寺師、自立支援法の趣旨目的に反しないようにするには、Xについて重度訪問介護の支給量1日あたり17.5時間(1か月542.5時間)を下回らない支給決定を行わないことが、裁量権の逸脱濫用になると認めるのが相当であると判示し、当該時間を支給量とする重度訪問介護の支給を義務付ける限度において、Xの請求を認容。

<解説>
ALSにより重度の障害を有するXが申請した1日24時間介護を前提とした重度訪問介護の支給の申請に対して1日8時間程度の介護を前提とした支給量による支給決定がなされたことについて、同支給決定は処分行政庁の裁量権の逸脱濫用に当たるとしてこれを取り消したのにならず、Xについては少なくとも1日21時間の職業付添人による介護が必要であるとの考慮を前提として、それに相応する支給量による支給決定を義務付けたもの。

http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html

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