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2013年2月14日 (木)

会社法の方向性と社外取締役の問題点

会社法制の見直しに関する要綱(「要綱」)によると、監査・監督委員会設置会社制度(仮称)が新設される。
単純化すると、この制度は、従来の監査役会設置会社の①監査役制度をなくし、②監査役会(社外監査役が半数以上)にかわって取締役からなる監査・監督委員会(社外取締役が過半数)を設けるものである。監査・監督委員も取締役であり、取締役会決議に参加し、経営判断を行うことになる。

監査・監督委員会設置会社制度の新設は、組織形態の選択肢が1つ増えただけであるから、従来の監査役会設置会社のままでいて構わないが、要綱では、
①監査役会設置会社(公開会社かつ大会社であるもの、すなわち監査役会の設置が義務付けられるものに限る)のうち、金融商品取引法24条1項の規定によるその発行する株式について有価証券報告書を提出しなければならない株式会社において、社外取締役が存しない場合には、社外取締役を置くことが相当でない理由を事業報告の内容とされ、
②証券取引所の規則において、上場会社は取締役である独立役員を1人以上確保するよう努める旨の規律を設けることが求められ、
その流れの中で、
③議決権行使助言会社の米インスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は2月以降に開催される株主総会で、社外取締役を1人も置かない企業の経営トップの選任に反対票を投じるよう株主に助言する方針を打ち出した。

では、監査役会設置会社に社外取締役を求めることに合理性があるのであろうか。

この点、コリン・メイヤー英オックスフォード大学経営大学院教授は、社外取締役の機能は①助言と②監視の2つであり、それらの機能は相容れなから、2つの取締役会を分けるべきだとする。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20130208/243517/?P=1&rt=nocnt

この考え方を、監査役会設置会社に当てはめると、②の監視機能は監査役(会)が担うことになる。
監査役に加えて社外取締役を置く場合、社外取締役に①の助言機能を期待するのであれば、それは会社が自主的に判断すればいいことで、強制すべきものではない。
むしろ、社外取締役でなくコンサルタントとして、必要な案件について助言を求めることに合理性がある。

より問題だと思われるのは、非常勤の社外取締役に、果たして経営判断能力があるのかという点である。
経営判断は、素人でもできるようなイメージがあるが、それはリスクを負う、専門的な判断である。
経営判断とは、その会社に固有のものである。
ある会社にとって正しい経営判断が、他の会社にとっては不適切な経営判断であることもあれば、経済性からみれば一見不合理に見えても、その会社にとっては正しい判断もある。
つまり「部外者」が判断するには不適切な部類の判断である。
企業の競争力の源泉は他の企業との「差異」にあり、一般には理解されない突飛な経営判断が、事後的に見れば最高の経営判断であったということも少なくない。

このような判断を、取締役会資料というペーパーに目を通すだけの非常勤の社外取締役が果たして判断できるのだろうか。
大前研一氏のような人ならそのような判断が可能なのかもしれないが、多くの社外取締役は、取締役の大勢に賛成するしかできないのではないだろうか。
(実際には、取締役間で意見が分かれることはほとんどないから、問題が顕在化することはない。)

社外取締役の本場は米国であるが、米国でも、優れた会社ほど、その幹部を社内で育てており、社外からもってくることは少ない。
現在の流れは、米国の「並の会社」の制度を選択肢としてもってくるだけでなく、それを(事実上)強制しようとするものであるといえる。

会社に求めるべきことは「適法性」であり、その中で経営の自由度を確保するというのが本来のあり方ではなかろうか。
「適法性」が確保されれば、重要なのは「社外取締役の有無」ではなく「価値の創造」だろう。

司法改革や(金商法)内部統制等、日本は米国の制度をありがたがって導入するが、それによって「軽いシステム」という「日本の制度」の良さが失われる改悪になっている気がする。
社外取締役を導入すべきとする人達は、スタンフォード大学の教授等多数の錚錚たる社外取締役が全く役に立たなかったエンロン事件をどう検証・評価しているのだろう。

 

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