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2012年12月13日 (木)

行訴法12条3項の「事案の処理にあたった下級行政機関」

高知決定H24.6.26
   
特殊法人である日本年金機構と下部組織(事務センター)が、厚生労働大臣がした遺族厚生年金不支給決定に関し「事案の処理に当たった下級行政機関」(行訴法12条3項)に当たるとされた事例 

<事案>

基本事件の被告である国が、基本事件は高知地裁の管轄に属しないと主張し、行訴法7条、民訴法16条1項(管轄違い)に基づき、行訴法12条4項により管轄が認められる高松地裁への移送を申し立てた事案。

<規定>
行政事件訴訟法 第12条(管轄)
取消訴訟は、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所又は処分若しくは裁決をした行政庁の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。
3 取消訴訟は、当該処分又は裁決に関し事案の処理に当たった下級行政機関の所在地の裁判所にも、提起することができる。

行政事件訴訟法 第7条(この法律に定めがない事項)
行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による。

民訴法 第16条(管轄違いの場合の取扱い)
裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。

行政事件訴訟法 第15条(管轄の標準時)
裁判所の管轄は、訴えの提起の時を標準として定める。
 
<争点>

本件処分に関し「事案の処理に当たった下級行政機関」(行訴法12条3項)の所在地の裁判所として、高知地裁に基本事件の管轄が認められるか。
①南国社会保険事務所ないし高知社会保険事務局が前記「下級行政機関」に当たるか
②機構の下部組織である南国年金事務所ないし高知事務センターが前記「下級行政機関」に当たるか

<解説>

行訴法12条3項の「事案の処理に当たった下級行政機関」の解釈に関して:
最高裁H13.2.27:
当該処分又は裁決に関し事案の処理そのものに実質的に関与した下級行政機関をいう旨判示。
最高裁H15.3.14:
「下級行政機関」は当該処分又は裁決を行った行政庁の指揮監督下にある行政機関に限られない。
そして、県知事又は府知事が「下級行政機関」に当たるかが問題とされ、これが「行政機関」であることに争いはない。 

機構は、日本年金機構法により設立された特殊法人(法律により直接に設立される法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立される法人のうち、独立行政法人通則法にいう独立行政法人及び国立大学法人法によって設立される国立大学法人等を除いたもののことをいう)であり、国家行政組織法上も厚生労働省設置法上も厚生労働大臣の下部組織とはされておらず、その地位は厚生労働大臣とは別個独立のもの。
日本年金機構法54条、同法施行令3条は、機構を行政機関とみなす場合について定めているが、生計維持関係の認定等の事務を行うにつき、機構を行政機関とみなす旨の規定はない。

行訴法12条3項の「下級行政機関」という文言を形式的に解釈すれば、本件における機構及びその下部組織は、組織法等に規定された行政機関ではないとして、およそこれに当たる余地はないことにもなりそう。

本決定は、行訴法3条2項や同法12条1項の「行政庁」が組織法等に規定された行政機関に限定されていないことを手掛かりに、同条3項の「行政機関」についても組織法等に規定されたものである必要はないとした上で、取消訴訟の管轄の有無は、当該組織の組織法上の権限や法令上の事務分担の観点からではなく、当該処分に関し事案の処理そのものに実質的に関与したか否かという事務処理の実質面からこれを決すべきであるとし、最高裁H15.3.14が示した同項の趣旨を踏まえて、組織法等に規定された行政機関ではない組織であっても同項の「下級行政機関」に該当する場合があるとした。

尚、 裁判所の管轄は訴えの提起の時を標準として定める(行訴法7条、民訴法15条)ものであるとこおr、南国社会保険事務所ないし高知社会保険事務局は、基本事件の訴え提起の時点で既に廃止されており存在しないので、本件においてこれらの所在地を標準に管轄を定める余地がない。

http://www.simpral.com/hanreijihou2012kouhan.html

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