前科証拠を被告人の犯人性の証明に用いる場合の証拠能力
最高裁H24.9.7
1.前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合の証拠能力
2.前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いることが許されないとされた事例
<判断>
前科証拠を犯罪事実の証明に用いる場合の証拠能力:
「前科証拠は、単に証拠としての価値があるかどうか、言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではないく、と前科証拠によって証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許されると解するべきである」。
前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合について:
「前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠として採用できる」
~
このような要件が、自然的関連性のほかに証拠能力の要件として課されることを明らかにした。
本件前科証拠は、前刑放火の手段方法に顕著な特徴があるとはいえず、前刑放火の犯人と本件放火の犯人が犯人が同一であることを推認させる力はさほど強いものではない⇒右要件を満たさない。
原判決が認定した「行動傾向の固着化」についても
①単に反復累行しているという事実によってそのような行動傾向を認定することはできないこと、
②前刑放火は、間に服役期間を挟み、いずれも本件放火の17年前の犯行であって、被告人がその間前刑当時と同様の犯罪傾向を有していたと推認することは疑問があること、
③被告人は、本件放火の前後の約1ケ月間に合計31件の窃盗(未遂を含む)に及んだ旨上申しているところ、その中には被告人が十分な金品を得ていないとみられるものが多数あるにもかかわらず、これらの窃盗と接着した時間、場所で放火があったという事実はうかがわれず、本件についてのみ被告人の方かの犯罪傾向が発現したとみることは困難である。
⇒
本件前科証拠は、被告人と犯人の同一性の証明に用いる証拠としては証拠能力がない。
<解説>
学説(多数説):
前科証拠は犯罪事実を立証する証拠としては原則として証拠能力を欠き、例外的に証拠能力が肯定される場合があるとした上で、
被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合については、それが特殊の手口である場合ににのみ証拠能力を有する。
米国の連邦証拠規則(Federal Rules of Evidence)
「動機、機会、意図、予備、計画、知識、同一性の証明等の他の目的」に用いる場合(404条(b))や、個人の「習慣」を立証するために用いる場合(406条)には、「不当な偏見、争点の混乱、若しくは陪審に与える誤解の議論によって、または不当な遅延、時間の浪費、若しくは累積的証拠の不必要な提示を考慮するこによって、証明力がそれらに実質的に劣るとき」(403条)、すなわに「証明力が弊害に劣るとき」でなければ許容される。
本判決は、
「前科に係る犯罪事実が「顕著な特徴」を備えていること、起訴に係る犯罪事実がこの「顕著な特徴」について「相当程度類似していること」から、「それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであること」が必要である」という具体的基準を示した。
~
アメリカの学説で言われる「署名(signature)」に等しいこと(すなわち、それ単独で犯人性の証明が可能なほどの証明力を有すること)までを要求するものではないが、前科に係る犯罪事実と基礎に係る犯罪事実の類似から「それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなもの」であることを要求。
⇒相当な厳格な限定を付したものといえる。
本判決は、
前科証拠は犯罪事実を立証する証拠としては原則として証拠能力を欠き、例外的に証拠能力が肯定される場合があるとするこれまでの我が国の判例及び学説の流れを継承し、また、「実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められる」ことを要求して、アメリカ型の規律を採用することを明らかにした上で、前科証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いる場合に証拠能力が肯定される具体的な基準を示したもの。
http://www.simpral.com/hanreijihou2012kouhan.html
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