参議院議員定数訴訟大法廷判決
最高裁H24.10.17
公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定の合憲性(参議院議員定数訴訟大法廷判決)
<事案>
平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙について、東京都選挙区の選挙人であるXらが、公職選挙法14条、別表第3の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定は憲法14条1項等に違反し無効であるから、これに基づき施行された本件選挙の右選挙区にける選挙も無効であると主張して提起された選挙無効訴訟。
<解説>
参議院議員定数配分規定の憲法適合性(憲法14条1項等に違反するかどうか)については、昭和58年大法廷判決において
①当該選挙当時における選挙区間の投票価値の不均衡が違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っていたかどうか
②当該選挙までの間に当該不均衡を是正する措置を講じないことが国会の裁量権の限界を超えるものといえるかどうかの各観点から検討する旨の基本的な枠組み。
平成8年大法廷判決は、右②の観点から当該選挙当時における右議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていないとしたものの、最大6.59倍の格差の下で右①の観点につき意見の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていたものと言わざるを得ないとし、
平成16年大法廷判決、平成18年大法廷判決及び平成21年大法廷判決は、右②の観点から結論において当該各選挙当時における右議員定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの、右①の観点につき平成10年大法廷判決のような肯定的な評価が明治されず、投票価値の平等の観点からは実質的にはより厳格な評価がされるようになってきたもの。
●
①両議院の選挙制度が、いずれも、政党に重きを置いた改正を経ている上、都道府県又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と、より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られた結果として、同質的な選挙制度となってきていること
②急速に変化する社会の情勢の下で、議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割はこれまでにも増して大きくなってきているといえること、
③衆議院については、この間の改正を通じて、投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として、選挙区間の人口格差が二倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていること
⇒
参議院についても、二院制に係る憲法の趣旨との調和の下に、さらに適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められる。
昭和58年判決の説示のうち、
①同判決が都道府県の政治的に1つのまとまりを有する単位としての意義等を述べる点
⇒
都道府県を選挙区の単位として固定する結果その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続している状況の下では右の仕組み自体を見直すことが必要になる。
②同判決は参議院についての憲法の定めからすれば議員定数配分を衆議院より長期にわたって固定することも立法政策としtえ許容されるるとしてた点。
⇒
ほぼ一貫して人口の都市部への集中が続いてきた状況の下で数十年にもわたり投票価値の大きな較差が継続することを正当化する理由としては十分なものといえなくなっている。
③同判決が参議院議員の選挙制度の仕組みの下では選挙区間の較差の是正について一定の限度があるとしていた点。
⇒
数十年間の長期にわたり大きな較差が継続することが許容される根拠になるとはいい難い。
昭和58年大法廷判決の説示にかかる①~③の各点は、制度と社会の変化の中で人口移動による都道府県間の人口格差の著しい拡大にと伴い数十年間にもわたり投票価値の翁格差が継続してきた状況の下では、都道府県を選挙区の単位とする現行制度の合理性を基礎付ける理由としてもはや時的限界を超えるに至った。
~
投票価値の格差が5倍を超える場合にもいわゆる違憲状態であるとしなかった従前の数次の最高裁判決との関係も整合的に位置づけ。
本判決は、現行の選挙制度は、①限られた総定数の枠内で、②半数改選という憲法上の要請を踏まえた偶数配分を前提に、③都道府県を単位として各選挙区の定数を定めるという仕組みを採っているが、
人口の都市部への集中による都道府県間の人口較差の拡大が続き、総定数を増やす方法を採ることも制約がある。
⇒
このような都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の実現を図るという要求に応えていくことは、もはや著しく困難な状況に至っている。
⇒
本件選挙当時、本件定数配分規定の元で選挙区間における投票価値の不均衡は、違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)に至っていた。
①現行の比例代表選出議員96人と選挙区選出議員146人という議員定数について、国会等において議員定数の削減が議論⇒総定数を増やすことは極めて困難で、比例代表選出議員から選挙区選出議員に定数を大幅に振り返ることも困難。
②半数改選という憲法上の要請⇒各選挙区に最低限2人の議員定数を配分することがその要請の趣旨に沿う。
③都道府県を単位として各選挙区を定めて人口の少ない県にも最低限2人の議員定数を配置することとすれば、・・・もはや投票価値の平等の実現を図ることが著しく困難な状況に至っている。
●
①平成21年大法廷判決においてこうした選挙制度の構造的問題及びその仕組み自体の見直しの必要性が指摘されたのは本件選挙の約9か月前
②選挙制度の仕組み自体の見直しについては、参議院の在り方をも踏まえた高度に政治的な判断が求められるなど、事柄の性質上課題も多いためその検討に相応の時間を要することは認めざるを得ない
③参議院におちえ、・・・選挙制度の仕組み自体の見直しを含む制度改革に向けての検討が行われていた
⇒
本件選挙までの間に本件定数配分規定を改正しなかったこと(いわゆる違憲状態を解消する立法的措置を採らなかったこと)が国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに「至っていたということはできない。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))
| 固定リンク
「判例」カテゴリの記事
- (脚本の)映画試写会での公表(否定)とその後の週刊誌での掲載による公表権の侵害(肯定)(2023.06.04)
- いじめで教諭らと市教育委員会の対応が国賠法上違法とされた事案(2023.06.04)
- 破産申立代理人の財産散逸防止義務違反(否定)(2023.06.01)
- 土地売買の中間業者の詐欺行為・転付命令の不当利得(肯定事案)(2023.06.01)
- 懲戒免職処分に先行する自宅待機の間の市職員の給料等請求権(肯定)(2023.05.29)
「憲法」カテゴリの記事
- 死刑制度廃止派と存置派の議論(2016.10.12)
- 夫婦別姓訴訟大法廷判決(2016.05.04)
- 再婚禁止期間違憲訴訟大法廷判決(2016.05.03)
- ヘイトスピーチ規制についてのドイツの法状況③:民衆扇動罪(2016.01.18)
- ヘイトスピーチ規制についてのドイツの法状況②:「アウシュヴィッツの嘘」判決と人種・民族集団への集団侮辱(2016.01.17)
「行政」カテゴリの記事
- 重婚的内縁関係にあった内妻からの遺族厚生年金等の請求(肯定事例)(2023.05.07)
- 船場センタービルの上を通っている阪神高速道路の占有料をめぐる争い(2023.04.26)
- 固定資産評価審査委員会の委員の職務上の注意義務違反を否定した原審の判断に違法があるとされた事例(2023.04.22)
- 生活扶助基準の引下げの改定が違法とされた事例(2023.03.27)
- 幼少期に発効された身体障碍者手帳が「・・・明らかにすることがでできる書類」に当たるとされた事例(2023.03.20)
コメント