内閣官房報償費の支出に関する行政文書の開示請求
大阪地裁H24.3.23
行政機関の保有する情報の公開に関する法律に基づいてされた内閣官房報償費の支出に関する行政文書の開示請求に対し、対象文書に同法5条3号及び同条6号に規定する不開示情報が記録されていることを理由としてされた不開示決定の一部が違法であるとされた事例
<事案>
xが、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)に基づいて、平成17年4月から平成18年9月までの内閣官房報償費の支出に関する行政文書の開示を請求。
⇒
内閣官房総務官が、内閣官房報償費の具体的な使途のわかる支出関係書類について、情報公開法5条3号(国の安全等に関する情報)及び6号(事務事業情報)に該当するとして、不開示決定⇒xがその取消しを求めた。
<規定>
情報公開法 第5条(行政文書の開示義務)
行政機関の長は、開示請求があったときは、開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き、開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。
三 公にすることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報
六 国の機関、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人が行う事務又は事業に関する情報であって、公にすることにより、次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、国、独立行政法人等、地方公共団体又は地方独立行政法人の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し、その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 国若しくは地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等又は地方独立行政法人に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
情報公開法 第6条(部分開示)
行政機関の長は、開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において、不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは、開示請求者に対し、当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし、当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは、この限りでない。
2 開示請求に係る行政文書に前条第一号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において、当該情報のうち、氏名、生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより、公にしても、個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは、当該部分を除いた部分は、同号の情報に含まれないものとみなして、前項の規定を適用する。
<判断>
情報公開法5条各号該当性に関する審査の在り方について、同条6号については、被告において、対象文書の外形的事実等を示すなどして、
①当該文書に国の機関等が行う事務又は事業に関する情報が記載されていること、
②これが開示されると、当該事務又は事業の性質上、当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼす具体的な蓋然性があること
を主張立証する必要。
そのような立証がされた場合には、原告において、3号該当性判断における裁量権の逸脱・濫用の有無についての主張立証を行う必要がある。
部分開示について定める法6条1項の解釈について、同項は、独立した一体的な情報を単位に部分公開を行うことを義務付けているのみ
⇒
同項に基づき、不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し、その一部を非公開とし、その余の部分を公開するといった態様の部分公開を行うことを請求する権利は原告にはなく、独立した一体的な情報を不開示としたときに同項を根拠に不開示決定の一部を取り消すことはできない。
本判決は、対象文書について、その記録事項や内閣官房報償費の類型的な使途等を「認定した上、対象文書のうち、領収書等、支払決定書及び出納管理簿のうち調査情報対策費及び活動関係費の支払決定に関する項目等については、情報公開法5条3号及び6号該当性を認め、一方で、政策推進費受払簿、報償費支払明細書及び出納管理簿のうち国庫からの内閣官房報償費の支出に係る項目、政策推進費の繰り入れに関する項目等については、情報公開法5条3号及び6号該当性を否定し、当該文書に係る不開示決定を取り消した。
<解説>
●
情報公開法5条3号及び6号該当性の審理方法:
情報公開法5条3号は、不開示事由について、公にすることにより国の安全が害されるおそれ等があると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報であることと規定。
⇒
同条3号の不開示情報該当性については、行政機関の長に裁量権が与えられており、原告の側がその判断に裁量権の逸脱濫用があることを基礎付ける具体的事実を主張立証する責任を負うことになる。
(同号と同様の規定ぶりとなっている同条4号該当性が争われた最高裁H21.7.9も同旨)
以上を前提としても、同条3号該当性について、被告の側で主張立証する必要がないわけではない。
←
①情報公開法は、開示を原則としているから、不開示情報該当性については、被告の側で主張立証するのが原則。
②実質的にも、情報公開訴訟については、原告の側が対象文書に記録された情報の内容を了知するこおtが不可能。
⇒
原告が、裁量の逸脱濫用を基礎付ける事実を主張立証する前提として、少なくとも被告の側で、当該情報が同号該当性が問題となり得る情報であること、具体的には、当該情報が国の安全関係や、外交関係に関する類型の情報であることを示す必要がある。
●
部分公開:
本判決は、部分公開について、最高裁H13.3.27(地方公共団体の情報公開条例に基づく部分公開の可否が問題となった事案)を参照し、その結論を踏襲。
●
具体的なあてはめ:
訴訟の性質上、被告の側では、具体的な記載内容や使途について言及することができず、外形的・類型的な記載内容を示し、それを踏まえて予想される支障等を抽象的に主張するしかできない場合が多い。
対象文書の記載内容の機密性、重要性が高ければ高いほど、具体的な支障の立証は困難になるジレンマ。
⇒
裁判所としては、示された外形的・類型的事実から、どの程度支障が生じる蓋然性が具体的に認められるのかを検討し、同号該当性を判断していくしかない。
本判決は、被告の側から示された本件対象文書の類型的な記載内容、内閣官房報償費の類型的な使途等を基に、個々の文書について詳細ない検討を加え、通常起こりえる支障を想定したうえで、不開示情報該当性の判断を行う。
http://www.simpral.com/hanreijihou2013zenhan.html
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