« 取締役の解任と損害賠償請求 | トップページ | 児童ポルノと「公然と陳列」 »

2012年12月27日 (木)

刑訴法448条2項による刑の執行停止決定に対する不服申立ての方法

最高裁H24.9.18   

刑訴法448条2項による刑の執行停止決定に対する不服申立ての方法 

<規定>
刑訴法 第448条〔再審開始の決定〕
再審の請求が理由のあるときは、再審開始の決定をしなければならない。
②再審開始の決定をしたときは、決定で刑の執行を停止することができる。

刑訴法 第419条〔抗告のできる決定〕 
抗告は、特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合の外、裁判所のした決定に対してこれをすることができる。但し、この法律に特別の定のある場合は、この限りでない。

刑訴法 第420条〔判決前の決定に対する抗告〕
裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、この法律に特に即時抗告をすることができる旨の規定がある場合を除いては、抗告をすることはできない。
②前項の規定は、勾留、保釈、押収又は押収物の還付に関する決定及び鑑定のためにする留置に関する決定については、これを適用しない。
③勾留に対しては、前項の規定にかかわらず、犯罪の嫌疑がないことを理由として抗告をすることはできない。.

刑訴法 第450条〔即時抗告〕
第四百四十六条、第四百四十七条第一項、第四百四十八条第一項又は前条第一項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

<事案>
無期懲役の確定判決を受けて服役中の申立人についての再審請求事件において、再審開始決定をした裁判所が、刑訴法448条2項により刑の執行停止決定(原々決定)をしたところ、検察官から再審開始決定に対する即時抗告のほかに、刑の執行停止に対する抗告がされ、その抗告の可否が争われた事案。

原決定は、検察官からの抗告を適法とし、原々決定を取り消し
⇒申立人がこれを不服として特別抗告に及んだ。

<判断>
特別抗告の趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由にあたらない。
⇒職権で判示。

「同法448条2項による刑の執行停止決定は、再審開始決定がされたときに行うことのできる刑の執行に関する決定であって、再審開始手続又は再審開始後の審判手続において、終局裁判をするため、その前提としてなす個々の決定の1つではないから、「訴訟手続に関し判決前にした決定」又はこれに準ずる決定には当たらない。そうすると上記の刑の執行停止決定については、同法419条の裁判所のした決定であり、不服申立てを許さないとする特別の規定も存しないから、同条による抗告をすることができるものとするのが相当である」

刑の執行停止決定に対しては、同法420条2項に準じてではなく、原則規定の同法419条により抗告できる。

検察官からの抗告を適法とした原決定は、結論において正当であるとして、本件特別抗告を棄却。

<解説>
刑訴法450条は、同法448条2項を即時抗告の対象から除外
⇒同条項による刑の執行停止決定に対して、即時抗告ができないのは当然として、それ以外の不服申立ても認められないかが問題。
刑訴法419条は、即時抗告をすることができる旨の規定がある場合のほか、原則として、裁判所のした決定に対しては抗告ができると規定。
but
例外として、ただし書きで「この法律に特別の定めのある場合は、この限りでない」と規定。
同法420条1項が、「裁判所の管轄又は訴訟手続に関し判決前にした決定に対しては、・・・抗告することができない」旨の特別の定めを置いている。
一般的には、ほとんどの決定が「訴訟手続に関し判決前にした決定」に当たると解されている
⇒原則と例外が逆転している。

刑訴法420条1項が抗告を許さない例外として規定されている趣旨は、終局裁判に向けての中間的な問題に関してすべて抗告を認めることにより法的又は事実上円滑な審理の進行が妨げられることを防げ、終局裁判に対する不服申立ての中で処理しようとすることにある。

終局裁判に向けての実体形成、手続形成との関係のないものは、「訴訟手続に関し判決前にした決定」には当たらないものと解される。

最高裁昭和28.12.22:
訴訟手続に関し判決までにした決定」とは、判決を目的とする訴訟手続に関しその前提としてなす個々の決定をいうのであって、右条項は、これらの決定については一々独立に不服を許さなくても、終局の判決に対して上訴を許しさえすればこれらの決定の当否に対する救済はできるので、これらの決定に対しては原則として抗告することは許されないものとしたもの

刑訴法448条2項による刑の執行停止決定は、
①判決を目標とする再審開始決定とは別個にされるものであり、
②再審開始手続又は再審開始後の審判手続において、再審開始決定又は再審判決をするため、その前提としてされた決定ではなく(つまり、その性質は刑の執行に関する決定で、再審開始決定又は再審判決に向けての実体形成、手続形成と関係のないものである。)、再審開始決定に対する即時抗告又は再審判決に対する上訴手続の中では是正できないもの
⇒「訴訟手手続に関し判決前にした決定」又はこれに準ずる決定には当たらない。
③刑の執行停止決定は、再審開始決定を受け、確定判決による刑の執行を継続することが正義に反するかどうかという観点から行うものであって、通常の訴訟手続における身柄拘束のように、判決に向けての手続への出頭確保、判決による刑の執行の確保のための処分とは性格を異にする。
⇒刑訴法420条2項を準用する基盤もない。

http://www.simpral.com/hanreijihou2012kouhan.html

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

|

« 取締役の解任と損害賠償請求 | トップページ | 児童ポルノと「公然と陳列」 »

判例」カテゴリの記事

刑事」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 刑訴法448条2項による刑の執行停止決定に対する不服申立ての方法:

« 取締役の解任と損害賠償請求 | トップページ | 児童ポルノと「公然と陳列」 »