2018年7月22日 (日)

不動産は商事留置権の対象になるか(肯定)

最高裁H29.12.14      
 
<事案>
土地所有者である上告人Xが、土地を占有する被上告人Yに対し、所有権に基づき明け渡しを求める事案。 
Y:当該土地につきXに対する運送委託契約上の未払代金債権を被担保債権として商法521条の商人間の留置権を主張
 
<規定>
民法 第295条(留置権の内容) 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

民法 第85条(定義) 
この法律において「物」とは、有体物をいう。

民法 第86条(不動産及び動産)
土地及びその定着物は、不動産とする。

商法 第521条(商人間の留置権)
商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。
 
<解説>
現行商法521条の文理解釈⇒包含説が素直⇒除外説の論拠が包含説のいう文理解釈を覆し得る程度に合理的なものかという点から検討すべき。

除外説の根拠:
①立法の経緯・沿革:
ドイツ商法典においても、商人間留置権の対象は動産と有価証券であり、不動産が除外。日本の商人間の留置権の定めは、ドイツ法の系譜。
②休競売法の規定:
民法及び商法の留置権の競売手続を定めた明治31年制定の競売法では、動産の競売手続を定めた3条において、競売申立人を「留置権者・・・その他民法の規定に依りて競売をなさんとする者」と定め、「商法の規定」による競売が挙げられていない。
③:当事者の合理的意思:
商人間の取引で一方当事者所有の不動産の占有が移されたという事実のみで当該不動産を取引の担保とする意思が当事者にあるとみるのは困難。
④法秩序全体との整合性:
登記の先後により優先順位が定まるのを原則とする不動産取引において、商人間の留置権のような強力な権利が登記とは無関係に抵当権に優先することを認めれば、不動産取引の安全を著しく害し、担保制度全体の整合性を損なう。
vs.
①現行商法521条は、明治32年制定の商法284条に由来しており、同商法の制定経緯や、明治44年の改正時の政府委員の説明をみると、少なくともこの段階では商法の「物」を民法85条、86条と同じ意味に解していたことがうかがわれること等⇒現行商法の解釈として、民法と異なり不動産を除外しているとは解されない。
②競売法は手続規定⇒その規定に定めがないからといって商法の解釈に当たっての決め手にはならない。
現行民執法59条4項や195条は留置権の契番を民法商法の区別なく規定。
③商取引の必要性は不動産にも存在⇒不動産を商人間留置権の対象に沿わないとはいえない。
④留置権能を有する担保物権である留置権が抵当権より事実上優先することは民事留置権においても同様であり、そのような自体が常に不当であるとも言い切れない。
 
<判断>
商法521条の「物」を民法85条の「物」と別異に解する理由はないとして、その文理解釈から包含説をとることを明らかにした。 

判例時報2368

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2018年7月21日 (土)

資料請求における外国人差別で不法行為成立事案

大阪地裁H29.8.25    
 
<事案>
我が国の永住資格を有する外国人(トルコ国籍)であるXが、中古自動車販売の加盟店事業等を行う株式会社Yに対し、Yのウェブサイト上に設けられた無料の資料請求フォームを用いて、Yが運営する加盟店事業の内容及び加盟店契約に関する資料の請求を行なった。
 
Yの従業員Aによって、原告が外国籍を有することのみを理由に資料の送付を拒否された

不当な外国人差別(国籍差別)ないしは人種差別に当たり、人格権を侵害されたとして、不法行為(使用者責任715条1項)に基づき、慰謝料の損害賠償を求めた。 
 
<争点>
AがXに対して資料の送付を拒否した行為が、憲法14条1項に反する不当な外国人差別(国籍差別)に当たり、民法上も違法な行為として不法行為を構成するか否か。 
 
<判断>
憲法上の人権規定が私人間の法律関係に及ぼす影響:
憲法の人権規定は私人相互の関係を直接規律することを予定する者ではないj。
but
当該規定の趣旨は、私的自治の原則との調和を図りつつ、民法709条など個別の実体法規の解釈適用を通じて実現されるべきものである(最高裁昭和48.12.12)。

Yに契約締結の自由ないし営業の自由(憲法22条)が保障されることを考慮してもなお、YないしAにより資料送付許否行為が合理的理由を欠き、社会的に許容し得る範囲を超えて原告の法的利益を侵害すると認められる場合には、民法上も違法なものとして、不法行為を構成する。 

Yの提供する資料請求サービスは、Yの事業経営の一環として集客目的ないし顧客獲得のための情報提供を目的として設けられたものであり、Y自身が、広く一般公衆に資料請求サービスの利用を認め、また、一般公衆に対し当該サービスの提供を受けられるとの合理的期待を惹起している。
そのような場合においては、Yに契約の自由ないし営業の自由が認められるとしても、請求者の特定の属性のみを理由に何ら合理的な根拠に基づくことなく資料送付に応じないことは、憲法14条1項の趣旨に照らし、不合理な差別的取扱いに当たる
⇒不法行為の成立が認められる。
 
<解説>
私人間における外国人に対する差別的取扱いが不法行為を構成するかが争われた事例:

<責任肯定>
①店舗へ等への入店許否・利用許否が問題となった事例
②賃貸物件への入居許否が問題となった事例。

<責任否定>
③永住資格のない外国人の住宅ローン申込みに応じなかった銀行の行為
④ゴルフクラブへの入会許否

無料の資料請求サービスの拒絶という、直ちに請求者の具体的な利益が侵害されるとはいえない場面においても、場合によっては人格権を侵害する不当な差別的取扱いとして不法行為が成立し得ることを明らかにしたもの

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2018年7月19日 (木)

個人再生の再生計画案の可決が信義則に反する行為に当たるか否かの判断

最高裁H29.12.19      
 
<事案>
再生債務者である抗告人Yが申し立てた小規模個人再生において、民再法202条2項4号の「決議が不正の方法によって成立するに至ったとき」 の不認可事由の存否の判断が問題となった事案。
 
<規定>
民事再生法 第202条(住宅資金特別条項を定めた再生計画の認可又は不認可の決定等)
2 裁判所は、住宅資金特別条項を定めた再生計画案が可決された場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、再生計画不認可の決定をする。
四 再生計画の決議が不正の方法によって成立するに至ったとき

民事再生法 第230条(再生計画案の決議)
8 届出再生債権者は、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかった届出再生債権(第二百二十六条第五項に規定するものを除く。以下「無異議債権」という。)については届出があった再生債権の額又は担保不足見込額に応じて、第二百二十七条第七項の規定により裁判所が債権の額又は担保不足見込額を定めた再生債権(以下「評価済債権」という。)についてはその額に応じて、それぞれ議決権を行使することができる。
 
<原々審>
可決された再生計画案につき不認可事由は認められない
再生計画認可の決定
   
Yが即時抗告
 
<原審>
Xは実際には存在しない本件貸付債権を意図的に債権者一覧表に記載するなどの信義則に反する行為により再生計画案を可決させた疑いが存在
本件貸付債権の存否を含め、信義則に反する行為の有無につき調査を尽くす必要がある。 
   
Xが抗告許可の申立て
 
<判断>
小規模個人再生において、再生債権の届出がされ(法225条により届出がされたものとみなされる場合を含む。)、一般異議申述期間又は特別異議申述期間を経過するまでに異議が述べられなかったとしても、住宅資金特別条項を定めた再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合に当たるか否かの判断に当たっては、当該再生債権の存否を含め、当該再生債権の届出等に係る諸般の事情を考慮することができると解するのが相当。
 
<解説>
法202条2項4号の解釈:
通常の民事再生の場合の不認可事由である法174条2項3号についての最高裁H20.3.13と同様に、
「議決権を行使した再生債権者が詐欺、強迫又は不正な利益の供与等を受けたことにより再生計画案が可決された場合はもとより、再生計画案の可決が信義則に反する行為に基づいてされた場合も含まれるものと解するのが相当」と判断。 

民事再生法 第38条(再生債務者の地位)
2 再生手続が開始された場合には、再生債務者は、債権者に対し、公平かつ誠実に、前項の権利を行使し、再生手続を追行する義務を負う。

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2018年7月17日 (火)

だまされたふり作戦での荷物の受取役⇒詐欺未遂罪の共同正犯(肯定)

最高裁H29.12.11       
 
<事案>
被告人は、氏名不詳者による被害者に対する欺罔行為の後、氏名不詳者により依頼され、被害者から発送された荷物の受取役として本件に共謀関与したものと認定。

共犯者による欺罔行為後、だまされたふり作戦の開始を認識せずに、共謀の上、被害者から発送された荷物の受領行為に関与した者が、詐欺未遂罪の共同正犯の責任を負うか? 
 
<一審>
①被告人の共謀加担前に共犯者が銀網行為によって詐欺の結果発生の危険性を生じさせたことについては、それを被告人に帰責することができず、かつ、
②被告人の共謀加担後は、だまされたふり作戦が開始⇒被告人と共犯者らにおいて詐欺の実行行為がされたとはいえない。
⇒無罪 
 
<原審>
①承継的共同正犯の成立を肯定
未遂罪として処罰すべき法益侵害の危険性の有無の判断に際しては、当該行為時点でその場に置かれた一般人が認識し得た事情と行為者が特に認識していた事情を基礎とすべきであり、だまされたふり作戦の開始によっても受領行為に詐欺の既遂に至る現実的危険性があったといえる。

詐欺未遂罪の共同正犯の成立を肯定。
 
<判断>
だまされたふり作成の開始いかんにかかわらず、被告人は、その加功前の本件欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負うと解するのが相当。
 
<解説>

詐欺罪の承継的共同正犯を肯定
だまされたふり作戦の開始は詐欺未遂罪の共同正犯の成立に影響を及ぼさない 
 
●詐欺未遂罪の承継的共同正犯の問題
承継的共同正犯の問題については、従来から、全ての犯罪類型に統一的な処理の指針を見出すのは困難⇒犯罪の種別ごとの個別的検討の重要性。

詐欺を完遂する上で欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為への関与」という点を指摘。

原判決の指摘:
詐欺罪の保護法益は個人の財産であり、欺罔行為はこれを直接侵害するものではなく、欺罔行為を手段として錯誤に陥った者から財物の交付を受ける点に法益侵害性があるという詐欺罪の特質。

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2018年7月16日 (月)

窃盗保護事件における第一種少年院送致決定が著しく不当ととされた事案

大阪高裁H29.7.19    
 
<事案>
当時、定時制高校に在籍(身柄拘束後に退学処分)していた少年が、約2週間のうちに、アルバイト先などにおいて、8回にわたって財布などを窃取したという窃盗の事案。 
 
<原決定>
①常習性のうかがえる非行の悪質性、
②窃盗に対する抵抗感の乏しさ
③広範性発達障害の疑いもある少年の資質上の問題及びそれと非行との結びつき

父母の注意では窃盗に対する抵抗感が涵養されておらず、資質上の問題に照らすと在宅での監護を継続して問題点を改善除去するのは困難。
⇒少年を第一種少年院に送致。
 
<判断>
原決定が重視した少年の資質上の問題等について理解を示しながら、
件数が多いとはいえ、非行の内容が重要ではなく
窃盗の常習性についても非行性が固着する段階に至っていない

軽微な前歴しかなく、保護者によって受け皿が準備されている少年に対して、原審が試験観察に付すなどして在宅処分との優劣を検討せず、直ちに施設内処遇を選択した点を挙げ、処分が著しく不当であるとした。
 
<解説>
試験観察:少年に対する終局決定を留保し、家庭裁判所調査官が少年の行動などの観察を行うための中間決定によってとられる措置(少年法25条)。
試験観察の不実施に言及した上で、処分不当を理由として少年院送致の処分を取り消した抗告審決定例は少なくない

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2018年7月15日 (日)

検証許可状⇒パソコンからインターネットに接続し、メールサーバーにアクセスしメールの送受信歴及び内容を保存(違法)

東京高裁H28.12.7      
 
<事案>
被告人が、有印公文書である国立大学の学生証2通、危険物取扱者免状1通及び自動車運転免許証2通並びに有印私文書である私立大学の卒業証書2通をそれぞれ偽造し、さらに
共犯者らと共謀の上、建造物損壊3件及び非現住建造物等放火1件の各犯行に及んだ。
 
被告人 前記各事件への関与を否定。

弁護人は、捜査機関が行ったパーソナルコンピュータの検証には重大な違法⇒違法収集証拠排除の主張。 
 
<規定>
刑訴法 第二一八条[令状による差押え・捜索・記録命令付捜索・検証・身体検査、通信回線接続記録の複写等]
差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。

刑訴法 第二二二条[準用規定等]
第九十九条第一項、第百条、第百二条から第百五条まで、第百十条から第百十二条まで、第百十四条、第百十五条及び第百十八条から第百二十四条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条、第二百二十条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第百十条、第百十一条の二、第百十二条、第百十四条、第百十八条、第百二十九条、第百三十一条及び第百三十七条から第百四十条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第二百十八条又は第二百二十条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第百二十二条から第百二十四条までに規定する処分をすることができない。

刑訴法 第一二九条[検証上必要な処分]
検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。
 
<本件検証>
神奈川県警の警察官は、刑訴法218条2項のいわゆるリモートアクセスによる複写の処分が許可された捜索差押許可状に基づく、当時の被告人方を捜索し、本件パソコンを差し押さえた。
but
本件パソコンにログインするパスワードが判明していなかった⇒リモートアクセスによる複写の処分をしなかった

本件パソコンを検証すべき物とする検証許可状の発付を受け、本件パソコンの内容を複製したパーソナルコンピュータからインターネットに接続し、本件パソコンからのアクセス履歴が認められたメールアカウントのメールサーバーにアクセスし、メールの送受信履歴及び内容をダウンロード保存
 
<原審>
本件検証は、「検証すべき物」として本件パソコンが記載されているにすぎない検証許可状に基づく検証における必要な処分としてリモートアクセスを行ったもので、メールサーバーの管理者等の第三者の権利・利益を侵害する強制処分に他ならない。

捜査機関が、このような強制処分を必要な司法審査を経ずに行ったということは、現行の刑訴法の基本的な枠組みに反する違法なもの。 

サーバコンピュータが外国に存在すると認められる場合には、基本的にリモートアクセスによる複写の処分を行うことは差し控え、国際捜査共助を要請する方法によることが望ましく、本件においても、サーバーコンピュータが外国にある可能性が高く、捜査機関もそのことを認識していた⇒この処分を行うことは基本的に避けるべき。
本件検証には、令状主義の精神を没却するような重大な違法がある

本件検証の経過及び内容を記載した検証調書や、本件検証の結果をまとめた各捜査報告書は、本件検証の結果そのもの⇒証拠能力を排除。

弁護人が排除を求めるその余の証拠については、
個々に本件検証との関連性等を検討した結果、
いずれも本件検証と密接に関連するとまではいえない。

証拠排除を否定。
⇒被告人の犯人性を肯定し、有罪判決。
 
<判断>
公訴棄却 
 
<解説>
平成23年の刑訴法改正(「情報処理の高度化等に対処するための刑法等の一部を改正する法律」)によっていわゆるリモートアクセスによる複写の処分が導入
but
この複写の処分は、あくまで電子計算機の差押えを行う場合に付加的に認められた処分であり、差押え後に行うことは想定されていない

また、検証(刑訴法128条、218条1項)については、前記法改正によっても、リモートアクセスを許す規定は設けられなかった。 

本判決:
電子計算機を検証対象とした検証許可状に基づき、リモートアクセスに相当する処分を行うことは、現行法上、許容されない

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2018年7月13日 (金)

業務内容・問題対応・上司との関係⇒強い精神的負荷⇒うつ病⇒自殺で、公務起因性を肯定

名古屋高裁H29.7.6      
 
<事案>
Aが平成29年11月26日に自殺したことについて、処分行政庁に対し、公務災害の認定請求⇒本件災害を公務外災害と認定する旨の処分⇒不服審査請求も棄却⇒前記処分の取消しを求めた。 
 
<原審>
●公務起因性の判断基準について:
最高裁昭和51.11.12を引用し、
地方公務員災害補償法31条の「職員が公務上死亡した」とは、
公務に基づく疾病に起因して死亡した場合をいい、
その疾病と公務との間に相当因果関係が必要であり、
最高裁H8.3.5等を引用し、
前記の相当因果関係があるといえるためには、
その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要

と判示。 

相当因果関係の判断に当たっては、
職場における地位や年齢、経験などが類似する者で、
通常の職務に就くことが期待されている平均的な職員を基準とすべきであり、
平均的な職員には、一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の経験を要せず通常の公務に就き得る者を含む
 
●公園整備室は・・・もともと事務職の室長は、かなりの精神的負荷を受ける。
Aが執務に就任した当時の事情として






Aは、これらによって強い精神的負荷を受け、同年10月下旬から11月初めの時期に、周囲の者から見ても異常を感じさせる抑うつ状態

①Aがそのような抑うつ状態で、P1部長に対し、同年11月初めころ、降格覚悟で年度途中の異動を希望したが、年度途中の異動は難しいと言われ動揺し、
そのころ公園内で発生した事故の記者発表、市議会の対応に追われ、
同年11月26日に公園内で新たな人身事故が発生した旨の報告
業務の精神的負荷に耐えられなくなり本件災害に至った

②Aはうつ病に親和性の強い性格傾向であったが、勤務の軽減を要せず通常の公務についていた
本件災害について公務起因性を認め、Xの請求を認容。 
 
<本判決> 
原審判決を肯定。 
 
<解説>
疾病と公務の間に相当因果関係が必要であり、その疾病が当該公務に内在又は随伴する危険が現実化したものであると認められることが必要。

その判断に際しては、
精神障害は環境由来の心理的負荷の程度固体側の脆弱性の双方により発症するとの理解(「ストレスー脆弱性」理論)を前提として
一定の素因や脆弱性を抱えながらも勤務の軽減を要せず通常の公務に就き得る者を含む平均的な職員を基準とする。

Aの自殺の原因となった精神疾患について、
口頭弁論終結時における医学的知見に基づき、
本件災害後の新認定基準である「精神疾患等の公務災害の認定について」(平成24年地基補第61号)及びその運用指針(同第62号)に基づいて検討し、
Aが強度の精神的負荷を与える事象を伴う公務に従事していたと認め、
公務起因性を肯定


本件災害前のAの時間外労働時間は月50時間前後であって、それほど長時間であるとはいえない。

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2018年7月12日 (木)

歯科医師が歯科医師法違反の容疑で逮捕された旨の記事⇒検索事業者に対する検察結果削除請求(否定)

横浜地裁H29.9.1      
 
<事案>
Xは、自ら診療を行う診療所において、歯科医師資格を有しない者に問診やエックス線照射等の心療行為をさせた歯科医師法違反の被疑事実で逮捕され、新聞報道された(処分は罰金50万円の略式命令)。 

XがYに対し、
Yの提供する検索サービスを利用してXの氏名に「歯科」との語を加えた条件で検索すると前記逮捕事実が書き込まれたウェブサイトのURL,表題及び抜粋(URL等情報)が表示。
人格権に基づき検索結果の削除を求める
 
<判断>
プライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報について検索結果からの削除を求めるための要件を示した最高裁H29.1.31の規範に基づいて検討。

①本件逮捕等の事実が歯科医師の資格に関わる重大な事柄であり、②Xが今もなお現役の歯科医師
Xの歯科医師としての資質に関する社会の正当な関心事であると評価できる。(●事実の性質及び内容)

前記検索条件との関係⇒事実が伝達される範囲がXの歯科医師たる資質に正当な関心を抱く者に限られる(●事実が伝達される範囲)

Xの主張する職業上、私生活上の被害は、仮に存在するとしても本件検索結果の表示との間に因果関係を認め難いものであるか、正当な関心事としてXにおいて甘受すべき性質のもの(●具体的被害の程度)

削除を求める記事等がXの逮捕等を客観的に報道する正当な目的に基づくもの(●記事等の目的や意識、記事等において当該事実を記載する必要性)


本件検索結果を表示する意義及び必要性がなお少なからず存在しており、
事実の公表されないXの法的利益の優越が明らかとはえいない

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2018年7月11日 (水)

面会交流審判⇒禁止に変更。

名古屋高裁H29.3.17      
 
<事案>
調停離婚により未成年者の親権者と定められ、未成年者を監護するX(母)が相手方Y(父)に対し、面会交流審判事件に係る前審判で定める面会を、新たな協議が成立する等までの間、禁止することを求めたもの。 
 
<原審>
未成年者のYに対する面会を拒否する感情は強固
but
XもYとの面会に賛成していることなど、Yを未成年者の父親として尊重するなどの態度を示せば、未成年者のYに対する消極的感情を和らげることを期待できる。

前審判の定める面会を認めるのが相当であるととしたが、Xの立会いを認める期間については平成30年までと変更。 
 
<判断>
①未成年者が当初からYを頑なに拒否し続けていることは明らか
②現実の問題として、従前から通算して10回にわたる試行面会を経ても、未成年者のYに対する拒否的態度は一層強固なものとなっており、
遅くとも平成28年12月に一部実施した面会交流において、未成年者とYとの面会交流をこれ以上実施させることの心理的、医学的弊害が明らかとなったものと認められ、それが子の福祉に反することが明白になった

同月以降の直接的面会交流をさせるべきでないことが明らかになったということができる。

Yは、未成年者との面会交流につき、Xとの間でこれを許す新たな協議が成立するか、これを許す審判が確定し又は調停が成立するまでの間、未成年者と面会交流してはならない。

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2018年7月10日 (火)

政務調査費の支出の一部が違法とされた事例

仙台地裁H29.11.2      
 
<事案>
仙台市民オンブズマンである原告が、仙台市議会の会派である補助参加人らにおいて、仙台市から交付を受けた平成23年の政務調査費の一部を違法に支出し、これを不当に利得した⇒地自法242条の2第1項4号に基づき、
仙台市長である被告に対し
補助参加人らに対して違法に支出した政務調査費相当額の金員の返還及びこれに対する遅延損害金又は法定利息の支払を請求するよう求めた

 
<争点>
①政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み
②選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
 
<判断>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の判断基準 
法が政務調査費の制度を設けた趣旨を指摘した上で、
条例における使途に係る定めが法の趣旨に反しない限り、その定めに基づいて政務調査費の支出の違法性を判断するのが相当。
具体的な支出の違法性は、本件使途規準(本件条例の委任を受けて定められた本件規則において定められている使途基準)に合致するか否かを基準に判断

本件使途規準に合致しない場合:
当該支出の客観的な目的や性質に照らして、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がない場合をいう。

仙台市においては、政務調査費の対象外となる経費や支出手続等の本件条例の施行に関し必要な事項を定めた要綱(本件要綱)があり、法の趣旨に反しない限り、これを具体的支出の本件使途規準への適合性判断の指標とする。
 
◎主張立証責任 
原告において、支出が本件使途規準に合致せず違法であることを主張、立証することを要する
but
本件各支出が本件使途基準に合致せず違法であることを具体的に明らかにすることは困難である一方、被告らが本件使途基準に合致することについて説明することは比較的容易
法の趣旨には、政務調査費の使途の透明性の確保も含まれている

原告は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的な事実の存在を主張、立証すれば足り、前記の事実が認められた場合には、被告らにおいて、当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたなどの特段の事情を立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法である。
 
◎本件要綱に基づく経費の按分 
本件要綱は、政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難く、従事割合その他の合理的な方法により按分することが困難である場合には、按分割合について2分の1を上限として計算した額を政務調査費の支出額とすることができる旨規定
前記規定は、法の趣旨及び前記の会派の活動の性質に照らして合理的

原告が、調査研究費活動以外の活動にも利用されることが推認される経費であることを示す一般的、外形的な事実を立証した場合は、
被告らにおいて、当該経費が調査研究活動のみに利用されたこと、又は、当該経費に関し、調査研究活動に利用された割合とそれ以外の以外の活動に利用された割合について、客観的資料に基づき立証することを要する。
 
●選挙期間中の政務調査費の支出の適法性 
①議員にとって、次回の選挙に当選するか否かは議員としての活動を続けようとする自らの立場を左右する重要な事項
②会派代表者の尋問結果に照らせば、会派及びその所属議員は選挙期間中には選挙活動に集中しており、調査研究活動はほとんど行われていないことが推認される

選挙期間中の活動に対し政務調査費が支出されたという事実は、当該支出と議員の議会活動の基礎となる調査研究活動との間に合理的関連性がないことを示す一般的、外形的事実であることが認められ、
原告がその事実の存在を立証した場合には、被告らにおいて当該支出により市政に関する具体的な調査研究が現にされたことを客観的資料に基づいて立証しない限り、当該支出は本件使途規準に合致せず違法であると判断するのが相当。
 
<解説>
●政務調査費の支出の違法性に係る判断枠組み 
◎違法性の実体要件
違法性の実体要件について、
A:裁量説:
議員側に市政との関連性や支出の必要性等について広範な裁量があることを前提に、裁量権の逸脱濫用があることを前提に、裁量権の逸脱濫用がある場合にのみ、違法となる。
B:合理的解釈説:
政務調査費の使途に応じて、比較的緩やかに必要性が認められるものと、それほど緩やかに解されないものがあるとして、個別の事案ごとに、条例等の使途規準に係る規定の合理的な解釈によって解決するとの見解。

◎主張立証責任 
①不当利得の要件事実的な考え方と
②現実の立証問題への配慮
一般的、外形的な事実の立証を原告に求める一般的、外形的事実説が妥当であると考えられている。
but
どのような事実をもって一般的、外形的事実とするかはなお議論

判例時報2367

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