最高裁R6.6.21
<事案>
Yは、特例法により男性から女性に変更。
その後、性別変更審判前に凍結保存されていたYの精子を用い、生殖補助医療によってXの母が懐胎し、Xが出生。
XがYに認知を求めた。
<一審・原審>
認知の訴えの相手方となるべき「父」とは、法的性別が男性である者のみ。
⇒X及びXの姉(Yが性別変更審判を受ける前に出生)からの認知請求を棄却
<判断>
嫡出でない子は、生物学的な女性に自己の精子でない当該子を懐胎させた者に対し、その者の法的性別にかかわらず、認知を求めることができる。
⇒
Xからの認知の訴えに基づきXY間に法律上の父子関係を形成するのが相当。
⇒
原判決を破棄して1審判決を取り消し、Xの請求を認容すべき。
<解説>
● 法的性別と生物学的な生殖能力との間に不一致。
民法制定時には想定されていなかった事態が生じ得る。
そのような事態が生ずることに起因する法律上の親子関係に係る問題については、検討が進められていた生殖補助医療にかかわる法制の整備の際に判断されるべきとされ、特例法においては特段の手当はなされず、民法の解釈によって解決されるべきものとして残されていた。
● 原審:民法制定時、女性である血縁上の父が生ずることが想定されていなかったことを「父」が、法的性別が男性であるものに限られると解すべきことの論拠の1つ。
vs.
民法制定時には想定されていなかったということから直ちに結論を導くのではなく、解釈によりこれまでにはなかった形態の法律上の親子関係を成立させることが相当か否かについて判断していくというのが最高裁の基本的態度。
⇒
民法の実親子法制の基本に立ち戻ってこれを考える必要。
●民法の実親子法制における血縁上の父子関係
判例が「民法の実親子に関する法制は、血縁上の親子関係を基礎に置いている」旨を繰り返し判示。
⇒現在の民法上の実親子法制の基礎は血縁にある。
民法において、嫡出でない子から認知の訴えが提起された場合であっても、血縁上の父との間に法律上の父子関係が形成されないときがあるとされているのは、それぞれの場面において、血縁上の父子関係と法律上の父子関係を一致させる利益より優先すべき利益があるなどと判断されて要件が設定されたり、法解釈がされたりした結果にすぎない。
●民法の実親子法制における子の福祉及び利益
戦後、親子法制が家や親のためのものから子のためのものへの変化。
令和4年法改正後の民法においては、子の利益が法律上の父子関係の成否に関係する考慮要素となることが明文で正面から規定(民法774条3項ただし書)。
認知の訴えの制度趣旨は、子の福祉及び利益の保護にある。
子からの認知の訴えに基づき、子とその女性である血縁上の父との間に法律上の父子関係を形成することが許されないと解した場合、当該子は、養子縁組によらない限り、女性である血縁上の父から監護、養育、扶養を受けることのできる法的地位を取得したり、その相続人となったりすることができなくなる。
他方で、法的性別が女性である血縁上の父が子の法律上の父となることが、当該子の福祉に反する結果を招来するおそれがあることを実証する知見もない。
●法律上の父子関係の形成を妨げる根拠の有無
父=男、母=女という図式。
法的性別が女性である者が「父」に当たることはは積極的に排除されている。
but
民法には法律上の父母の法的性別について明示した規定はない。
本判決:
「民法その他の法令には、認知の訴えに基づき子との間に法律上の父子関係が形成されることとなる父の法的性別についての規定はない」
「民法において、法的性別が女性であることによって認知の訴えに基づく法律上の父子関係の形成が妨げられると解することの根拠となるべき規定は見当たらない」
~
本件図式が民法において絶対的なものとされているという解釈を採用しないことを明らかにしている。
特例法 第三条(性別の取扱いの変更の審判)
家庭裁判所は、性同一性障害者であって次の各号のいずれにも該当するものについて、その者の請求により、性別の取扱いの変更の審判をすることができる。
三 現に未成年の子がいないこと。
四 生殖腺せんがないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること。
未成年の子の福祉を図ることを主たる立法目的とする3号規定によって、嫡出でない子から認知の訴えに基づき、当該子と女性である血縁上の父との間に法律上の父子関係を形成することが妨げられると解し、子の福祉及び利益に反する事態が生ずることが容認されるというのは本末転倒といわざるを得ず、およそ妥当な解釈であるとはいいがたい。
最高裁によって違憲無効と判断された法条について、当該じけにおいて効力のないものとされるにすぎないという個別的効力説の立場に立った場合、
4号規定によって「父」から法的性別が女性である血縁上の父が除外されることになるのかということも問題。
①4号規定は、性別変更審判を受けた者が、その後に生殖補助医療を利用して子をもうけることについて何ら禁止していない。
②4号規定の存在によって、本件のような場合において法律上の父子関係の形成が妨げられるとは立案担当者としても考えていなかった
⇒
4号規定の存在も法的性別が女性である血縁上の父が法律上の父になるこtの妨げになるものとは解されない。
判例時報2613
大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
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