2018年4月25日 (水)

特許法195条の4の「査定」の意味と行政不服審査法による不服申立・特許査定の無効等

知財高裁H27.6.10      
 
<事案>
共同で特許出願をしたXらは、誤って真意と異なる内容で特許請求の範囲を減縮する手続補正書を提出し、担当審査官は、本件補正後の本願発明について特許査定。
Xらは、行政不服審査法に基づく、特許庁長官に対し、本件特許査定の取消しを求める異議申立て(本件異議申立て)⇒特許庁長官は、特許査定は異議申立ての対象にならないとして却下。 
 
<請求>
本件特許査定には重大な瑕疵があると主張
Y(国)に対し、本件訴訟を提起し、
行政事件訴訟法に基づき

主位的に、
①本件特許査定の無効確認
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求め、

予備的に
①本件特許査定の取消し、
②これを前提とする本件却下決定の取消し
③特許庁審査官に対し本件特許査定を取り消すことの義務付け
を求めた。 
 
<規定>
特許法 第195条の4(行政不服審査法による不服申立ての制限)
査定又は審決及び審判若しくは再審の請求書又は第百三十四条の二第一項の訂正の請求書の却下の決定並びにこの法律の規定により不服を申し立てることができないこととされている処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない

行訴法 第14条(出訴期間)
取消訴訟は、処分又は裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
2 取消訴訟は、処分又は裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
3 処分又は裁決につき審査請求をすることができる場合又は行政庁が誤つて審査請求をすることができる旨を教示した場合において、審査請求があつたときは、処分又は裁決に係る取消訴訟は、その審査請求をした者については、前二項の規定にかかわらず、これに対する裁決があつたことを知つた日から六箇月を経過したとき又は当該裁決の日から一年を経過したときは、提起することができない。ただし、正当な理由があるときは、この限りでない。
 
<原審>
特許法195条の4の「査定」には処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定は含まれないと解される⇒本件異議申立ては適法であり、本件特許査定取消しの訴えは、行訴法14条3項により出訴期間を徒過していない。
担当審査官には、本件補正がxらの真意に基づくものかどうかを確認すべき手続上の義務を怠った重大な手続違背があり、本件特許査定は無効ではないものの取消しを免れない。
⇒ ①本件特許査定の取消しと②これを前提とする本件却下決定の取消しを認容。
 
<判断>
●本件特許査定取消しの訴えの適法性
①特許法における「査定」の語の用法や同法195条の4の制定経過等
⇒「査定」の文言は文理に照らして解することが自然。
②このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途は閉ざされておらず、このほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられ、その判断も不合理とはいえない。

同法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由はない

本件特許査定に対する行審法による不服申立ては認められないから、本件異議申立ては不適法であり、本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項を適用することはできない。
本件特許査定の取消しの訴えは、出訴期間を徒過⇒却下。

●本件補正の錯誤無効について 
特許法は、書面主義の下、錯誤による書面の記載内容と真意との間の齟齬の是正について厳格な要件の下にのみこれを許容している。

仮に、真意と異なる記載について、一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても、そのような錯誤が認められる場合としては、
①その齟齬が重大なものであることに加えて、
②少なくとも、当該書面の記載自体から、錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要。
but
①本件では、本件補正書の記載自体は、補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、同書面の記載上、特段の問題があるとは認められず、その書面自体からXらに錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできない。
②その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。

Xらの錯誤を理由に本件補正が無効であるということはできない

●本件特許査定の違法性について 
審査官が、
特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、
これによる査定には、特許法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべき。

担当審査官は、本件補正が「特許・実用新案審査基準」に照らせば新規事項の追加に当たることを看過したといわざるをえないものの、
本件補正後の本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価できる⇒明らかに不合理とまでいうことはできない。

担当審査官が、審査を全くすることなく、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視べき場合において本件特許審査を行ったと認めることはできず、本件特許が無効であるということはできない。
 
<解説>
●特許査定に対する行審法に基づく不服申立ての可否 
特許出願に対する拒絶査定の当否については、その専門性、技術性に鑑みて、裁判所の司法審査に先立ち、特許庁の審判合議体による審判手続において審理される(特許法12条)。
but
特許査定に対する不服を理由とする審判請求は認められない
これを認める実益がないことが指摘されている。

審査官による査定は、拒絶査定のみならず特許査定についても、行政処分の性質を有するが、特許法195条の4は、「査定」について行審法による不服申立てをすることができないと規定
but
拒絶査定とは異なり、行政庁に対する不服申立ての途として審判の制度が設けられていない特許査定については、行審法に基づく不服申立ての途が認められるべきかいなか、すなわち、同条の「査定」は拒絶査定だけでなく特許査定を含むかが問題。
本判決は否定。
 
●特許出願と錯誤無効 
行政過程における私人の意思表示に瑕疵がある場合、
一般的には民法の法律行為に関する規定の適用があるとされるが、行政法関係においては、当該関係を規律している法律の仕組みに即して事案を処理してく必要がある。

最高裁昭和39.10.22:
確定申告書の記載内容の過誤の是正については、その錯誤が客観的に明白かつ重大であって、所得税法の定めた更正の請求の方法以外にその是正を許さないならば、納税義務者の利益を著しく害すると認められる特段の事情がある場合でなければ、法定の方法によらないで記載内容の錯誤を主張することは許されない旨判示。

調査官解説:
私人の公法行為について錯誤の主張が許されるかどうかは、究極的には立法政策の問題
法律に特別の規定のない時は格別、行為者の過誤に対する救済が法律で特別に規定されているときは、当該救済手段の設けられている趣旨・目的を勘案した上でその成否及び限度を決すべき
 
●特許査定の無効 
行政処分は、それが国家機関の権限に属する処分として外観的形式を具有する限り、仮にその処分に関し違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合のほかは、これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和31.7.18)。

判例時報2360

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2018年4月24日 (火)

高校の武道大会での柔道の試合で事故⇒担当教諭らの注意義務違反(肯定)

福岡地裁H29.4.24      
 
<事案>
高校の武道大会で柔道の試合に参加した高校生が、試合中、払い腰をかけようとした際に転倒⇒頸髄損傷等の傷害を負い、身体障害者等級表の等級1級の後遺障害⇒高校生とその両親が高校を設置・運営する県に対して損害賠償請求等を追及。 
X1は、平成25年6月、本件事故の受傷につき症状固定し、等級1級の後遺症がが残った。
日本スポーツ振興センターから災害共済給付金のうち、医療費273万6649円の支払いを受けた。

<請求>
X1、その両親X2、X3は、県に対し、

主位的に、A高校の教諭につき柔道の指導に当たって生徒を保護するため常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき注意義務(安全配慮義務)違反を主張し、
国賠法1条1項に基づき
X1につき2億6254万円余、
X2につき333万円余
X3につき300万円の損害賠償を請求し、

予備的に、特別の犠牲を主張し、憲法29条3項に基づき損失補償を請求。
 
<争点>
①本件事故の態様
②事前指導に係る注意義務違反
③試合形式による大会開催に係る注意義務違反
④大会の体制構築に係る注意義務違反
⑤試合当日の指導監督に係る注意義務違反
⑥過失相殺・過失割合
⑦損害額等 
 
<判断>
X1、P1(対戦相手)の体格、柔道経験、文科省の作成に係る柔道指導の手引、全日本柔道連盟の作成に係る柔道の安全指導、文科省の作成に係る高等学校学習指導要領解説保健体育編・体育編、柔道試合審判規定、A高校の体育授業における柔道の指導、本件大会の経過・監督状況等の事実を認定。

争点①:
X1がP1に払い腰を仕掛け、P1と共に前方に転倒し、受け身を取ることなく、左側頭部を畳に衝突させたと認定。

格闘技である柔道には本来的に一定の危険が内在
学校教育としての柔道の指導、特に高校の生徒に対する柔道の指導にあっては、その指導に当たる者は、柔道の試合又は練習によって生ずるおそれのある危険から生徒を保護すため、常に安全面に十分な配慮をし、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務を負い、正課授業における柔道の指導に関わる教諭においても、同様の注意義務を負う。

争点②:
前年度の武道大会の柔道で2件の事故が発生
⇒A高校の教諭らにおいて、本件大会の形式、試合会場の状況、全体の雰囲気等に由来する事故発生の危険性が内在していたこと等から、生徒らが無理に技をかけ、勝ちに拘って危険な行為をしたり、冷静さを欠く試合を展開するなどにより事故が発生する可能性があることを認識し、事前に予見することができた

生徒らに、通常の授業とは異なる、本件大会に固有の内在的危険性を十分に説明し、指導を実施したとはいえない事前指導に係る注意義務違反を認めた。
前年度の事故を踏まえた調査、原因分析、予防策の具体的な協議、安全指導対策が行われなかったこと等

大会を漫然と開催したことにつき争点③の試合形式による大会開催に係る注意義務違反を認め
争点④⑤の各注意義務違反についての主張は排斥。

争点⑥については、X1の3割の過失を認め、過失相殺し、

争点⑦については、X1の1億1998万円余、X2、X3の各210万円の損害を認め、X1らの請求を認容。
 
<解説>
本判決は、
格闘技である柔道の危険性、武道大会の試合の形式・試合会場全体の雰囲気等の武道大会の特徴を強調し、
授業とは異なる武道大会に固有の内在的な危険性を根拠に、
教諭らにおける事前指導に不適切な点があったとし、事前指導に係る注意義務違反を肯定
するとともに、
前年度の事故に関する原因分析、予防策等の具体的な協議、安全指導対策が行われないまま大会を漫然と開催したことによる試合形式による大会開催に係る注意義務違反を肯定
but
本件事故の直接的な原因に照らすと、間接的、抽象的であることは否定できず、微妙な判断で、担当教諭らの注意義務違反を肯定した限界的な事例

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2018年4月23日 (月)

一方が購入した宝くじの当選を原資とする財産の財産分与

東京高裁H29.3.2      
 
<事案>
妻(原審申立人)が夫(原審相手方)に対し財産分与を求めた事案。 

原審相手方は、婚姻中に宝くじの当選により約2億円を取得し、これを原資とする預貯金や保険を有していた⇒財産分与の対象財産、分与割合が争われた。

離婚時の原審申立人名義の資産の評価額は100万円
原審相手方名義の資産の評価額は約9000万円。
原審相手方名義の資産のうち、預貯金と保険関係として約7200万円あり、その原資は当選金。
原審相手方名義の不動産評価は約700万円。
 
<原審>
当選した宝くじを購入した当事者には、当選金について一定の優位性ないし優越性が認められる
原審相手方名義である金融資産である預貯金と保険関係は、その7割相当が原審相手方の固有財産であり、残り3割相当額が夫婦共有財産
 
預貯金と保険関係の3割が夫婦共有財産で、その分与割合が2分の1
⇒原審申立人は約15%を取得。 
 
<判断>
分与財産について、
宝くじの購入代金は、原審申立人と原審相手方の婚姻後に得られた収入の一部である小遣いから拠出された
②当選金の使途も、家族が自宅として使用していた土地建物の住宅ローン約2000万円の返済に充て、原審相手方の退職後には生活費に充てられた
当選金後原資とする資産は夫婦の共有財産。 

分与割合について、
当選金の購入資金は夫婦の協力によって得られた収入の一部から拠出
but
原審相手方が自分で、その小遣いの一部を充てて宝くじの購入を続け、これによって偶々とはいえ当選して、当選金を取得し、これを原資として対象財産が形成された

対象財産の資産形成に対する寄与は原審申立人より原審相手方が大きかったといえ、分与割合を、原審申立人4、原審相手方6とするのが相当
 
<規定>
民法 第768条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
 
<解説>
●清算的財産分与の対象財産の範囲 
婚姻中に取得した財産は第三者から相続・贈与などにより無償取得した財産を除き、夫婦の協力により取得した夫婦共同財産として清算の対象となる。
偶然の利益取得(宝くじの当選金、競馬の賞金など)であっても、共同財産となる。
 
●清算的財産分与の清算割合 
実務上、衡平の原則に基づき、貢献度に応じた寄与割合を評価して算定。
共有財産は、原則として、夫婦が協力して形成⇒特段の事情がない限り、相互に2分の1の権利を有する(2分の1ルール)

各財産の取得について自己資金ンを一部支出したことや、投資の専門知識を有する当事者が、その才覚によって金融資産の取得・維持のための行動をとったこと等の事実が資料の裏付けをもって客観的に明確にされる
2分の1ルールを修正することもあり得るが、
修正すべき特段の事情たり得る事実が窺われることは多くはない。

 
●夫が競馬の利益によって購入したマンションの売却代金の3分の1を妻に分与した事例(奈良家裁H13.7.24)
万馬券というのは射幸性の高い財産であり必ずしも夫の才覚だけで取得されたものではない⇒前記マンションを夫の特有財産ということはできない。
but
夫の運によるところが大きい臨時収入であり、夫の寄与が大きい。
妻の生活扶助的要素も考慮。
⇒売却代金の3分の1を妻に分与。 
 
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2018年4月22日 (日)

訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合

最高裁H29.9.5      
 
<事案>
訴訟上の救助の決定を受けた受救助者との訴訟において受救助者に生じた費用の一部を負担することとされた相手方が、裁判所から民訴訟85条前段の費用の取立てとして受救助者に猶予した費用の一部を国庫に支払うことを求められている事案。 
 
<原審>
相手方に対し、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額等を国庫に支払うべきものとした。 
⇒相手方が抗告許可申立てで、原審が許可
 
<判断>
訴訟費用のうち一定割合を受救助者(訴訟上の救助の決定を受けた者)の負担俊、その余を相手方当事者の負担とする旨の裁判が確定した後、
訴訟費用の負担の額を定める処分を求める申立てがされる前に、
裁判所が受救助者に猶予した費用につき当該相手方当事者に対して民訴法85条前段の費用の取立てをすることができる額を定める場合において、

当該相手方当事者が、訴え提起の手数料として少額とはいえない額の支出をした者の地位を承継し、受救助者の負担すべき費用との差額計算を求めることを明らかにしているなど判示の事情の下では、
当該相手方当事者に対し上記の差引計算を求める範囲を明らかにするよう求めることのないまま、上記の同条前段の費用の取立てをすることができる額につき、受救助者に猶予した費用に上記裁判で定められた当該相手方当事者の負担割合を乗じた額とすべきものとした原審の判断には、違法がある

原決定を取り消し、本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
民訴訟 第83条(救助の効力等)
訴訟上の救助の決定は、その定めるところに従い、訴訟及び強制執行について、次に掲げる効力を有する。
一 裁判費用並びに執行官の手数料及びその職務の執行に要する費用の支払の猶予
二 裁判所において付添いを命じた弁護士の報酬及び費用の支払の猶予
三 訴訟費用の担保の免除
2 訴訟上の救助の決定は、これを受けた者のためにのみその効力を有する。
3 裁判所は、訴訟の承継人に対し、決定で、猶予した費用の支払を命ずる。

民訴法 第84条(救助の決定の取消し)
訴訟上の救助の決定を受けた者が第八十二条第一項本文に規定する要件を欠くことが判明し、又はこれを欠くに至ったときは、訴訟記録の存する裁判所は、利害関係人の申立てにより又は職権で、決定により、いつでも訴訟上の救助の決定を取り消し、猶予した費用の支払を命ずることができる。

民訴法 第85条(猶予された費用等の取立方法)
訴訟上の救助の決定を受けた者に支払を猶予した費用は、これを負担することとされた相手方から直接に取り立てることができる。この場合において、弁護士又は執行官は、報酬又は手数料及び費用について、訴訟上の救助の決定を受けた者に代わり、第七十一条第一項、第七十二条又は第七十三条第一項の申立て及び強制執行をすることができる。
 
<解説>
●制度の説明
訴訟上の救助の決定は、裁判費用の猶予等の効力を有する(民訴法83条1項)。
前記決定が民訴法84条による取消しにより又は当然にその効力を失う
⇒受救助者は、国庫に対し猶予費用を支払わなければならない(最高裁)。

本案における受救助者の全部又は一部勝訴判決の確定により、訴訟費用残部又は一部が相手方の負担とされることがあり(民訴法61条、64条)、そのときは、受救助者は、訴訟費用額確定処分(民訴法71条)を得た上で、訴訟費用請求権の行使として、相手方からその負担すべき費用を取り立てることになる
受救助者が相手方からその費用を取り立てたときには、実際に取り立てた限度で受救助者の資力が回復⇒民訴法84条により、その限度で訴訟上の救助決定を取り消すことが可能になる。

民訴法85条は、
本来、受救助者が、訴訟費用請求権の行使として相手方からその負担すべき費用を取り立てて、猶予費用を国庫に支払うべきであるところ、
受救助者において、その取立てをすることや取り立てた金員を猶予費用として国庫に支払うことを必ずしも期待できないため、国が相手方において負担すべき猶予費用を相手方から直接取り立てることができるようにしたもの。
民事訴訟費用等に関する法律16条2項、15条1項は、民訴法85条前段の規定による費用の取立てについて、第一審裁判所の決定により、強制執行をすることができると規定⇒同裁判所が前記の取立てをすることができる猶予費用の額を定める

前記の民訴法85条の趣旨⇒
同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額は、受救助者の相手方に対する訴訟費用請求権の額を超えることができない筋合いのものであり、

既に訴訟費用額確定処分が確定
しているのであれば、その費用額確定処分により定められた訴訟費用請求権の額を前提として、同条前段の費用の取立をすることができる猶予費用の額を定めることになるし、

訴訟費用額確定処分の申立てがされているのであれば、その手続を先行させることになる。

①訴訟費用額確定処分の手続きは、処分権主義が妥当し、その申立てがない限り、訴訟費用確定処分をすることができない
②当事者がその申立てをしないことがあり得る

訴訟費用額確定処分がされる前においても、裁判所は、民訴法85条前段の費用の取立てをすることができるものであると解されている。
両当事者がそれぞれ反対当事者の支出した訴訟費用を負担すべき場合においては、当事者の負担すべき費用につき訴訟費用額確定処分又は差引計算を求めるか否か及びその求める範囲がいずれも当事者の意思に委ねられている

①これらの点についての当事者の意思が明らかにならない限り、訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される当事者の負担すべき費用を定めることができない。
②当事者の意思は、訴訟費用確定処分を求める申立てがされる前においては明らかにならないのが通常

訴訟費用額確定処分がされる前においては、裁判所は、当事者が支出した訴訟費用に関する客観的な資料を有していたときであっても、通常は、訴訟費用請求権の額を正確に推認することは困難
 
●本決定 
訴訟費用のうち一定割合を受救助者の負担俊、その余を相手方の負担とする旨の裁判が確定した後、訴訟費用確定処分の申立てがされる前に、裁判所が民訴法85条前段の費用の取立をすることができる猶予費用の額を定める場合、
当該事案に係る事情を踏まえた合理的な裁量に基づいて相手方に対する猶予費用の取立決定の額を定めるほかない。

傍論ではあるが、訴訟費用請求権の額を判断する上で考慮される当事者の負担すべき費用を定めることが当事者の意思に委ねられている同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額としても、直ちに前記の合理的な裁量の範囲を逸脱するものとはいえない
but
相手方が、訴え提起手数料として少額とはいえない額を支出した者の地位を承継し、受救助者の負担すべき費用との差額計算を求めることを明らかにしているなどの判示の事情

これらの事情の下では、相手方に対しその差引計算を求める範囲を明らかにすることを求めないまま、同条前段の費用の取立てをすることができる猶予費用の額を、猶予費用に相手方の訴訟費用の負担割合を乗じた額とすべきとした原決定の判断には違法がある。

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2018年4月21日 (土)

厚生年金保険法47条に基づく障害年金の支分権の消滅時効の起算点

最高裁H29.10.17      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく障害年金の受給要件を充足するに至ったにもかかわらず、受給権者がこれに係る裁定の請求をせず裁定を受けていなかった場合に、障害年金の支給を受ける権利(支分権)の消滅時効がいつから進行するか? 
 
<事実関係>
X(昭和25年生まれ)は厚生年金保険の被保険者であった昭和45年6月、交通事故により左下腿を切断する傷害。
but
これに係る障害年金について、裁定の請求をしていなかった。

Xは、平成23年6月30日に至って、厚生労働大臣に対し、生涯年金の裁定の請求をするとともに、年金請求書を提出。

厚生労働大臣は、同年8月、原告に対し、
受給権を取得した年月を昭和45年6月、障害等級を2級とする障害年金の裁定をしたが、
同年7月分から平成18年3月分までの障害年金は時効により消滅しているとして支給せず、同年4月分(その支給期は同年6月)以降の障害年金のみ支給。
←障害年金の支分権の消滅時効(5年)は、裁定を受ける前であっても、その本来の支払期(厚年法36条)から進行するとの見解(支払期説)。

Xは、障害年金の支分権の消滅時効はその裁定を受けた時から進行する(裁定時説)と主張して、支給されなかった障害年金の支払を求める本件訴えを提起。
 
<判断>
支払期説によるべきことを判示。 
 
<解説>
●根拠となる法令
厚生年金保険の保険給付及び国民年金の給付に係る時効の特例等に関する法律(年金時効特例法)による改正前の
厚年法92条1項:
「保険給付を受ける権利」について5年の消滅時効を規定。

基本権(年金の支給の根拠となる権利)についての規定であるとされ、支分権(基本権から派生する、各月分の年金の支給を受ける権利)については同項の規定はなく、国に対する金銭的債権についての一般法である会計法30条により5年で時効消滅。

年金時効特例法による改正
⇒厚年法92条1項に括弧書が加えられ、支分権についての消滅時効も同項を根拠とすることが明らかに。
but
この規定は、施行日(平成19年7月6日)後に年金を受ける権利を取得したものについて適用⇒Xの障害年金の支分権の消滅時効については従前どおり会計法に従う。
その起算点は、同法31条2項、民法166条1項により「権利を行使することができる時」となり、本件ではこの解釈が問題
 
●消滅時効の起算点に関する一般論 
民法166条1項の「権利を行使することができる時」とは、
権利の行使に法律上の障害(履行期限、停止条件等)がなくなったときを意味(最高裁昭和49.12.20)。
法律上の障害であっても、債権者の意思により除去可能なものであれば、消滅時効の進行を妨げるものではない
 
●支分権の消滅時効の起算点 
基本権は、厚年法所定の支給要件に該当したときに、支分権は各月の到来によりそれぞれ発生。
年金は、厚年法36条3項により、毎年偶数月にそれぞれ前月までの分を支払うこととされている⇒支分権については、原則として各支払期の翌日が消滅時効の起算点となる。

×A:裁定時説(裁定を受けるまで時効は進行しない。)

①支分権たる受給権を行使するためには裁定を受けることが必要
②受給権者が裁定請求をしても、裁定という行政庁の判定が介在して初めて年金の支給が受けられる⇒この法律上の障害は、受給権者の意思により除去可能なものであるとはいえない。

〇B:支払時説

裁定について定めた厚年法33条は、保険給付を受ける権利はその権利を有する者(受給権者)の請求に基づいて裁定するとしており、これは、基本権たる受給権が裁定によって初めて発生するのではなく、法定の要件(同法47条など)を満たすことによって、裁定がされる以前から法律上当然に発生していることを前提としているものと考えられ、裁定は、受給権の発生の有無やその内容を公的に確認する行為にすぎない

障害年金の受給要件や給付金額については厚年法により明確に定められており、これらの判断について行政庁に裁量はないと解される⇒受給権者は、裁定の請求をしさえすれば、同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて支分権を行使することができる裁定を受けていないことは、受給権者の意思によって除去することができる障害又はこれと同視し得るものであると評価できる。

判例時報2360

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2018年4月20日 (金)

薬剤の製造方法に係る特許権を侵害する後発医薬品の販売等ないしその薬価収載⇒先発医薬品の市場におけるシェア喪失と薬価及び取引価格の下落⇒損害賠償請求(肯定)

東京地裁H29.7.27    
 
<事案>
本件特許権を第三者と共有する原告が、マキサカルシトール製剤を販売等する被告らに対し、同行為が前記特許権の均等侵害に当たるところ
同行為により、原告製品(オキサロール軟膏)の市場におけるシェアが下落し、
②被告らにおけるマキサカルシトール製剤の薬価収載により、原告製品(オキサロール軟膏及びオキサロールローション)の薬価が下落し、それに伴い原告製品の取引価格も下落したことにより、それぞれ損害を被った。

①につき民法709条ないし特許法102条1項に基づき
②につき民法709条に基づき、
それぞれ損害賠償を請求
 
<争点> 
①均等侵害の成否(被告製品の製造方法が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの「特段の事情」の有無のみが争点)
②本件特許の共有者の1人である原告が被告らに対してどの範囲で損害賠償請求できるか
③原告製品の市場シェア喪失による損害額(特許法102条1ただし書所定の事情の有無・割合を含む。)
④原告製品の取引価格下落による損害額
⑤被告らの過失の有無(均等侵害事案における特許法103条の適用の有無を含む)
⑥原告の過失の有無
⑦特許法102条4項後段の適用の有無
 
<判断>   
被告らに対して合計10億円を超える損害賠償金の支払を命じた 
 
●争点① 
被告らは「原告による別件特許出願における明細書の記載等からすれば、原告は、本件特許出願に際しては、被告製品と同じ構造の物質を出発物質とする製造方法について意識的に除外した(均等侵害の第5要件)」旨主張
vs.
別件特許出願において原告が被告製品と同じ構造の物質を記載したとは認められない⇒被告らの主張は前提を欠く
⇒均等侵害の成立を肯定
 
●争点② 
原告は、単に本件特許権の共有者の1人であるにとどまらず、
他の特許権者(共有者)から、その本件特許権に係る持分について独占的通常実施権を設定されており、被告らによる本件特許権侵害は、原告に対する同実施権の積極的債権侵害にあたる

原告は、被告らに対し、同侵害行為による逸失利益全額について損害賠償できる。
同共有者が侵害者に対して権利行使し得る場合が制限されている⇒被告らの二重払いのリスクがあるとは解されない。
 
●争点③ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。

◎特許法102条1項に基づいて、ほぼ原告の主張どおりの損害額を認め、その際、原告製品の薬価ないし取引価格の下落は被告製品の薬価収載によって発生⇒原告製品の薬価下落前の取引価格を前提として原告の損害額を計算

特許法102条1項但書所定の事情について、

被告らの主張する諸事情:
①原告製品には、被告製品以外ににも複数の競合品(薬効や作用機序もほぼ同じ)があり
②被告製品は後発医薬品であり価格が安く、医師も、薬剤処方の際に価格も考慮している
⇒被告製品は原告製品だけでなく競合品のシェアをも一定程度奪っていたと認められる。

原告が主張する諸事情:
原告製品、被告製品、競合品はいずれも医師の処方箋が必要な薬品であり、有効成分が同じ原告製品から被告製品への変更は患者が自由に行えるものの、有効成分が異なる競合品から被告製品への変更は、患者にとって必ずしも容易でない

を総合的に考慮⇒1割の推定覆滅を認めた。
 
●争点④ 
原告の損害のうち薬価下落に基づくものについて、

①新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度が実際に存在し、しかも、同制度に基づく加算は厚生労働省が裁量で行うものではなく、所定の用件を充たす新薬であれば一律に同制度による加算を受けられる⇒これは法律上保護される利益というべき。
②被告製品が薬価収載されなければ原告製品の薬価は下落しなかったものと認められる⇒同下落は被告製品の薬価収載によるもの
③医薬品メーカーや販売代理店が販売する医薬品の価格も薬価を基準として定められる⇒原告とその取引相手との間における取引価格の下落についても、被告製品の薬価収載に基づく損害

同下落に係る損害賠償請求を認めた
 
●争点⑤ 
規定 特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する。
 
◎ 被告ら:特許法103条は均等侵害の場合を想定しておらず、仮に想定していたとしても、被告らに過失はなかった。
vs.
特許法103条は、その文言上、均等侵害の場合に適用されないとすうr根拠がない上、被告らの本件訴訟前の対応等からすれば、被告らに過失がなかったとはいえない。 
 
●争点⑥ 
単に被告製品と同じ構造の物質の製造方法を特許出願の際に記載しなかったことをもって、原告に過失があったとはいえない。
 
●争点⑦ 
規定 特許法 第102条(損害の額の推定等)
4 前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる

◎ 本件に特許法102条4項後段を適用して、損害額を減額すべき事情はない。 
 
<解説> 
後発品(特許侵害品)の販売開始によって先行品が値下げを余儀なくされたことによる逸失利益について、民法709条に基づく損害賠償請求を肯定する学説が多数。
but
製品等の値下げの要因は様々であり得るため、このような因果関係の立証は必ずしも容易でない」と指摘される。 

本件:
新薬創出・適応外薬解消等促進加算という制度⇒「薬価収載後15年以内で、かつ後発品が収載されていないこと」を条件の1つとして、原告製品の薬価が継続的に維持されていたところ、被告製品が薬価収載されたことにより原告製品の薬価が下落

被告製品が薬価収載されたことと、原告製品の薬価が下落したこととの間に因果関係があると認められた
 
特許法102条1項ただし書きに基づく推定覆滅について: 
①市場における競合品の存在
②侵害者の営業努力やブランド力、宣伝広告
③侵害品の性質
④市場の非同一性すなわち価格や販売形態の相違
などが特許法102条1項ただし書所定の「販売することができないとする事情」となるかについて、
肯定説(非限定説)が通説。

本件:
①原告製品・被告製品ともに意思の処方箋を必要とする処方薬⇒有効成分を同じくする原告製品・被告製品間の変更を除き、需要者(患者)が自由に薬品を変更することはできず、必ず医師に処方箋を変更してもらう必要がある⇒需要者が自由に他社製品(競合品)を選択できる場合と同視することはできない。
他方で、
②医師も、薬品を処方する際には、性能がほぼ同等の競合品があることや、患者にとって経済的負担が少ない薬品(被告製品)を処方しようとする動機付けがあること等。

1割につき推定覆滅が認められたもの。
 
特許法102条4項後段は、一定の場合に裁判所の裁量による損害額の減額を定めるが、同条項を適用して損害額を減額した事例はほとんどない

判例時報2359

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2018年4月19日 (木)

宿泊施設の経営者と路上生活者との間の契約の、公序良俗違反、不法行為、不当利得(肯定)

さいたま地裁H29.3.1      
 
<事案>
X1、X2は、路上生活をしていた際、Y1の指示を受けて事業を手伝っていた者から、Y1ないしY2(Y1が代表取締役を務める会社)の経営する施設に入居するよう勧誘され、これに応じて施設での生活を始める傍ら、Y1の従業員の指示により福祉事務所に虚偽の説明をするなどして生活保護費を受給し始め、受領した生活保護費全額をY1に交付。 

X1、X2は、
①Y1の経営する施設における生活環境が劣悪であり、生存権や財産権、プライバシー権等の人権を侵害するものであると主張⇒Y1、Y2に対し、民法709条又は会社法429条1項に基づき、慰謝料の支払を求めるとともに、
②X2、X2とY1との間の施設利用契約が社会福祉法違反、公序良俗違反等により無効⇒Y1に対し、不当利得返還請求権に基づき、Y1がX1、X2から受領した生活保護費のうち現金交付分を控除した残額の返還を求め、
③X2は、Y1、Y2の経営する工場でY1、Y2の業務に従事した際、切断機で中指切断等の傷害を負ったことが使用者としての安全配慮義務違反に当たると主張⇒Y1、Y2に対し、債務不履行に基づく損害賠償を請求
 
<判断>
①X1、X2が入居した施設における生活環境は、居住空間の狭さやプライバシーに対する配慮不足、提供される食事や衣類の質・量等からして相当劣悪なものであり、Y1がX1、X2に提供したサービスの内容は、X1、X2に与えていた小遣いを含めても、X1、X2から受領した生活保護費等と比較して相当に低廉であったと考えられる
②Y1は、Y1の従業員を使って、X1、X2を勧誘し、X1、X2に虚偽の事実を福祉事務所に告げるよう指示して生活保護を受給させた上、X1、X2から生活保護費全額を受領し、これを他人名義の口座で管理してその一部をY1の私用に充てていたこと、
③Y1はX1、X2に対して生活保護基準に満たない劣悪なサービスを提供するのみであり、その差額を不当に収受していたこと

X1、X2とY1の施設利用契約は、生活保護法の趣旨や社会福祉法の趣旨に反するものとして公序良俗違反により無効であり、
Y1はX1、X2の最低限度の生活を営む利益を侵害したものとして、民法709条に基づく不法行為責任を負う。

X1、X2のY1に対する不法行為に基づく損害賠償請求を一部認容するとともに、X1、X2のY1に対する不当利得返還請求を認容ないし一部認容

X2のY1に対する安全配慮義務に基づく損害賠償請求も一部認容。

判例時報2359

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2018年4月18日 (水)

土地の所有者である個人に対して投資事業を勧誘し、取引を行った不動産業者につき、事業収支見込みに関する情報提供・説明義務違反に係る不法行為(肯定)

東京地裁H28.10.14      
 
<事案>
土地の所有者が不動産業者と賃貸建物の建築、管理委託を契約し、契約が履行されていた間に収益見込みに問題が生じた⇒不動産業者の情報提供・説明義務違反に係る不法行為の成否が問題。 
Xは、Yに対し、虚偽・不当な勧誘、説明義務違反を主張し、不法行為に基づき本件建物の建築等に要した金額と売却価格の差額1億8885万円、弁護士費用の一部115万円の損害賠償を請求。
 
<争点>
①虚偽・不当な勧誘、説明義務違反による不法行為の成否
②損害の発生
③因果関係の有無 
 
<判断> 
X・Yの属性、利益状況によれば、Yは、本件請負契約の勧誘、説明に際し、Xに対し、契約を締結するか否かにつき的確な判断ができるような正確な情報を提供し、適切な説明をすべき信義則上の義務がある。 
本件では、虚偽・不当な勧誘・説明に関する多くのXの主張は排斥。
but
修繕費に関する説明については、本件建物の大規模修繕が必要になるところ、Yの提案書等による説明は極めて過小であり、駐車場契約における負担が相当に軽度であることに鑑みると、Xが多額のローン債務を負担してまで本件賃貸事業を選択しなかった可能性が高い
修繕費を含む事業収支見込みについての前記義務違反に係る不法行為を肯定

Xの本件建物の売却によって損害を拡大させたとは認められない⇒因果関係を肯定した上、本件建物の建築等の費用と売却価格の差額1億8885万円の損害を認めた

本件賃貸事業による収益のうちローン返済分(1億602万3240円)を控除

他の収益(8561万7681円)の損益相殺は駐車場収入を得られなくなったものであり、全額を損益相殺することは公平の見地から相当ではない⇒一部(5583万3333円)の損益相殺を認め、弁護士費用115万円の損害を認めて(損害額合計5419万2412円)、請求を一部認容。

判例時報2359

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2018年4月17日 (火)

クラブの経営者にみかじめ料を支払わせた⇒暴力団組長の不法行為責任と最上位の指定暴力団の組長の使用者責任(肯定)

名古屋地裁H29.3.31      
 
<事案>
暴力団幹部がクラブの経営者に長期にわたってみかじめ料を支払わせた⇒経営者が暴力団幹部のほか、組長に対して損害賠償を請求。 
Xは、みかじめ料の支払要求が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律31条の2に該当すると主張
Y2に対して不法行為に基づき、Y1に対して使用者責任等に基づき
みかじめ料合計1085万円、確定遅延損害金523万4718円、慰謝料500万円、弁護士費用相当の損害につき損害賠償等請求をした。
 
<争点>
①Y2の不法行為責任の成否・損害額
②Y1の使用者責任の成否・損害額
③Y2の不当利得の成否、民法708条の該当性等 
 
<判断>
①Xのクラブの開店、②Y2のみかじめ料の要求、③みかじめ料の減額要請、④みかじめ料の支払、⑤指定暴力団の条の金制度等の事実を認定

Y2のみかじめ料の徴収行為については、Xの意思決定の自由を奪い、Xの意思に反した財産処分を強制する行為であり、Xの意思決定の自由及び財産を侵害する行為

Y2の不法行為責任を肯定し、
みかじめ料合計1085万円、確定遅延損害金523万4718円、慰謝料150万円、弁護士費用120万円の損害を認めた。

Y1の使用者責任について、
Y1は、K組又はL会の下部組織の構成員を、直接間接の指揮の下、それらの威力を利用して資金獲得活動に係る事業に従事させていた等使用者と被用者の関係を認め
Y2が取得したみかじめ料はK組又はL会の威力を利用して資金獲得活動をすることの対価として、上納金制度を介してK組又はL会に支払われていた⇒Y1の業務の執行であったことを肯定

Y1の使用者責任を肯定し、請求を認容

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2018年4月16日 (月)

区分所有建物が存在する土地の競売による分割請求が権利の濫用とされた事例

東京地裁H28.10.13      
 
<事案>
兄妹間の共有に係る土地(土地上に区分所有建物が存在する)について競売による分割請求⇒分割請求が権利の濫用に当たるかが問題となった事案。 

本件土地は、共同相続、遺言を経て、現在、兄Y1、Y2、妹Xの共有(Xが2分の1、Y1、Y2が各4分の1の持分)

本件土地上には、Xらの父Aが所有していた旧建物があったが、
Aの死亡を機に取り壊した後、昭和60年9月、
Xの夫B、Y1、Y2が3階建ての区分所有建物(各階ごとに区分建物となっている)を建築したうえで、
1階部分をB、2階部分をY2、3階部分をY1がそれぞれ区分所有し、
Bが本件土地につき土地所有権を有する旨及び本件各区分建物と本件土地を分離して処分できる旨の規約を設定。
その後、Bは平成25年6月、1階部分をXに贈与。
 
<争点>
①競売、代金分割による共有物分割の場合、本件建物も併せて売却できるか
②本件分割請求が権利の濫用に当たるか
③本件分割請求につき相当な分割方法は何か 
 
<判断>
争点①について否定

争点②について:
分割による本件建物に与える影響、本件分割請求の目的・必要性、本件土地の分割によるY1らの不利益に関する事情を認定
本件分割を認めることは本件建物の存立を不安定なものにし、各区分建物の所有者に不利益を与えるものであり、分割が認められないことによるXの不利益に比して、分割を認めることによるY1らの不利益が非常に大きい
権利の濫用として本件分割請求は許されない
⇒請求を棄却。 
 
<規定>
民法 第256条(共有物の分割請求)
各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2 前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。
 
<解説>
共有物の分割請求権については、分割の自由が原則であり、いつでも分割を請求することができ、長期の拘束を認めないのが民法256条の趣旨、内容

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«日本舞踊の流派の名取の地位にあることの確認を求めた訴え