2018年9月25日 (火)

給与が振り込まれた当日に貯金差押⇒不当利得返還請求と国賠請求が認められた事案

前橋地裁H30.1.31      
 
<事案>
Xが、滞納していた市県民税及び国民健康保険税の徴収のため、Y市長によって2回にわたってなされたX名義の貯金債権の差押えは差押禁止債権を差し押さえたものであるから違法⇒これらの差押えに引き続いて取り立てた12万6226円は支払を受けるべき法律上の原因を欠く

Y市に対し、
前記2回の差押処分の各取消しを求めるとともに、不当利得返還請求として12万6226円の支払を求め、
国賠法1条1項に基づき慰謝料及び弁護士費用として55万円の支払を求めた。 
 
<判断>
●Xに本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益があるか 
市県民税及び国民健康保険税に係る滞納処分による差押えは、国税徴収法(「法」)に規定する滞納処分の例によることとされ、
債権の差押えの場合、
第三債務者に対する債権差押えの効力が生じ、
差し押さえられた債権の取立として金銭を取り立てたときは、
その限度において、
滞納者は滞納税を支払ったものとみなされる。

Y市は既に取り立てを終了しており、
本件各差押処分はいずれも目的を達してその法律効果は既に消滅

本件各差押処分の取消しを求める法律上の利益はない。

(最高裁昭和55.11.25に立脚)
 
●Y市が本件各差押処分に基づいて取り立てた12万6226円が、支払を受けるべき法律上の原因を欠くか(=不当利得返還請求権が成立するか否か)

Y市長が差し押さえた貯金口座は、Xの給与が払い込まれる口座。
給与が払い込まれる口座の預金を差し押さえることは、地方税法41条1項、331条6項、728条7項が準用する法76条1項、2項(給与の差押禁止)に反するかが問題となるところ、
原則として、給与等が金融機関の口座に振り込まれることによって発生する預貯金債権は、直ちに差押禁止債権としての属性を承継するものではない
(最高裁H10.2.10)

本件各差押処分自体は違法とはいえない

給料等が受給者の預貯金口座に振り込まれた場合であっても、法76条1項、2項が給料等受給者の最低限の生活を維持するために必要な費用等に相当する一定の金額について差し押さえを禁止した趣旨はできる限り尊重されるべき

滞納処分庁が、実質的に法76条1項、2項により差押えを禁止された財産自体を差し押さえることを意図して差押処分を行ったものと認めるべき特段の事情がある場合には、上記差押禁止の趣旨を没却する脱法的な差押処分として、違法となる場合がある

本件では、Y市は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図して本件各差押処分を行ったと認めるべき特段の事情がある。
⇒不当利得返還請求を肯定。

●国賠法1条1項の損害賠償請求 
本件各差押処分は、実質的に給与自体を差し押さえることを意図してなされた
⇒国賠法上も違法。


慰謝料5万円、弁護士費用5000円の合計5万5000円を認容。

判例時報2373

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2018年9月24日 (月)

被爆者援護法の「医療」の意味等

名古屋高裁H30.3.7      
 
<事案>
被爆者健康手帳の交付を受けている控訴人ら2人が、原子爆弾の傷害作用に起因して疾病にかかり現に医療を要する状態にあると主張し、厚生労働大臣に対し、原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(被爆者援護法)11条1項に基づき、当該疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する旨の認定の申請
⇒厚生労働大臣が前記申請をいずれも却下する旨の処分
⇒本件各処分の取消しを求めた。 
 
<争点> 
①控訴人らの申請疾病が原子爆弾の放射線に起因するものであるか否か(放射線起因性
②当該疾病が現に医療を要する状態にあるか否か(要医療性
③原爆症認定要件としての要医療性の要否 
 
<判断>
●放射性起因性については、一審判決をほぼそのまま引用し、これを肯定した。 
 
●要医療性の意義:

一審判決:
被爆者が積極的な治療行為を伴わない定期検査等の経過観察が必要な状態にあるような場合、特段の事情がない限り、定期検査等は被爆者援護法10条1項所定の「医療」に当たらない。

本判決:
経過観察が特定の疾病等の治癒を目指すもの⇒治療の一環といえる
②経過観察も診察が基本となるところ、被爆者援護法10条2項がまずは「診察」(1号)を予定

同条1項の「医療」は、積極的な治療を伴うか否かを問うべきではなく、被爆者が経過観察のために通院している場合であっても、認定に係る負傷又は疾病が「現に医療を要する状態にある」と認めるのが相当。 

X2の申請疾病である右上葉肺がんについて:
①手術日から原爆症認定申請日までに約14年6か月余りが経過
②前記疾患は既に治癒
⇒要医療性を否定。

X2の申請疾病である左乳がん:
①再発の可能性が特に長期にわたる疾患
②当時の主治医がなお長期間にわたって経過観察が必要であると判断したのは申請疾病(左乳がん)が多重がんの性質を有するものであることを考慮したものと考えられる

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては、いまだ再発のリスクが否定できないから経過観察の必要性があった
⇒要医療性を肯定

X3の申請疾病である慢性甲状腺炎(橋本病):
同疾患が甲状腺機能低下症等様々な合併症・続発症が生ずるおそれがあり、経過観察によってこれらの続発症等が発生している兆候の有無を見極める必要があるため長期にわたる経過観察が欠かせいない等

少なくとも原爆症認定申請時及び本件処分時においては経過観察を行うべき状態にあった。
⇒要医療性を肯定

 
<解説>
要医療性について:
A:被爆者援護法10条1項の「医療」は原則として積極的治療を要し、経過観察の状態にある場合はこれに当たらない
B:積極的治療を伴わない経過観察のために診察を受けている場合でもこれに該当する
C:Aの見解に立ちつつ、申請時点ないし申請に対する判断時点において定期的な経過観察にとどまっている場合であっても、当該疾病の予後として一般に悪化や再発が予想され、その状況に応じてそれに的確に対処するための積極的な治療行為を行うことを要する場合などは要医療性がある

原爆症認定要件としての要医療性
旧法当時の裁判例であるが、
石田原爆訴訟判決(広島地裁昭和51.7.27)がこれを肯定し、その後の松谷訴訟最高裁判決(最高裁H12.7.18)も同様の立場を採用。

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2018年9月23日 (日)

国籍留保の届出が届出期間経過後になされたものとされた事案

大阪高裁H29.11.28         
 
事案 F区長は、平成28年、Gの出生届を受理したが、本件国籍留保の届出については、Bが届出できるに至った時点は、E(Bの父、Xの祖父)につき就籍の審判がされた平成20年であることを前提に、
本件国籍留保の届出は、戸籍法104条1項及び3項の期間を経過した後にされたもので、Xは日本国籍を喪失(国籍法12条)⇒本件各届出をいずれも不受理とする処分をした。 
 
<原審>
B(昭和39年生)は、平成20年、E(Bの父)が就籍⇒出生により父の日本国籍を取得(昭和59年改正前の国籍法2条1号、父系主義)。
G(Bの長男、Xの兄)は、前記改正後の国籍法施行日(昭和60年1月1日)よりも前(昭和58年)にC国(血統主義)で出生⇒国籍留保の対象ではなく、そのため、Xと異なり日本国籍を有する者として出生届出が受理。
X(昭和60年生)は、改正後の国籍法施行後に出生⇒国籍留保制度(国籍法12条)の対象となる。
but
Eの就籍(平成20年)に先立ち、Xの国籍留保の届出を戸籍法104条1項所定の届出期間内(Xの出生から3か月)に求めるのには無理がある。

Bに同条3項の届出人の「責めに帰することができない事由」があるかが問題。

Eが就籍審判の通知を受けた時点(平成20年)で同項の「届出をすることができるに至った」と解すべき⇒そこから14日を経過すると、Xの出生届や国籍留保のの届出をすることはできなくなる。

当時、Bは戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなかったが、それは、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害とはならない
Xは、出生時に遡って日本国籍を失ったとして、Xの就籍許可の申立てを却下。
 
<判断>
戸籍法は、出生届出書には父母の氏名および本籍の記載を要するが(同法49条2項3号)、記載すべき事項が存在しない場合にはその旨を記載し(同法34条1項)、本籍のない者が届出後に本籍を取得したときはその旨を届け出ることを要する

Bの戸籍記載が未了で、本籍や戸籍上の氏名もなくても、客観的にみて本件国籍留保の届出をすることの障害にはならない

Xの抗告を棄却

<解説> 
●国籍留保:
日本国民が国外で出生し、重国籍となった者について戸籍法の定めに従い留保をしない限り、出生の時に遡って日本の国籍を失うこととして、国籍の積極的な抵触(重国籍)の防止を図る制度。
国籍留保をしないと、自己の志望で日本国籍を喪失⇒国籍離脱の自由を実現。
国籍留保には届出が要件⇒戸籍に記載されない日本国民の発生を防止し、戸籍上日本国民の範囲を画する機能。 

国籍法は、昭和59年改正後の12条において、
「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う。」と規定。

国籍留保の適用範囲が拡大
←昭和59年の国籍法改正により、父系主義から父母両系主義に変更されたことに伴い増加する重国籍の発生を防止するため。.
 
●国籍留保の要件(国籍法12条)
①日本国外で生まれ、出生により外国籍を取得し、日本国籍と重国籍の状態となったこと、
②法定の期間内に日本国籍留保の意思表示がされること

①について:
(a)出生により外国籍を取得したこと(出生地主義、血統主義)
(b)血統により日本国籍を有すること
(c)国外で生まれたこと

②について:
国籍留保の意思表示は、
天災その他届出人の責めに帰することのできない事情のない限り、出生の日から3か月以内に、
原則として父又は母から出生届とともに届け出なければならない。(戸籍法104条1項、2項)
天災その他届出人の責めに帰することができない事由⇒届出をすることができる時から14日以内に国籍留保の届出をしなければならない。(同条3項)

●戸籍法104条3項にいう、届出人の「責めに帰することができない事由」:
①国籍留保の制度趣旨、目的
②同項が「天災」と例示

客観的にみて国籍留保の届出をすることの障害となる事情やその程度を勘案して決せられるべきもの。 

最高裁H29.5.17:
父母が戸籍に記載されておらず、父母の本籍及び戸籍上の氏名がないという事情だけでは、客観的にみて、子に係る国籍留保の届出をすることの障害とならないことは明らかである旨を判示。

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2018年9月22日 (土)

てんかんの発作で意識障害に陥ったことによる交通事故⇒危険運転致死傷罪の故意が争われた事例

神戸地裁H29.3.29    
 
<事案>
てんかんの発作で意識障害に陥ったことによる交通事故。 
 
<解説>
●てんかん:脳の神経細胞の一部が過剰な電気活動を起こすことによって全身のけいれんや意識消失などの発作症状を繰り返し発症する病気。
抗てんかん薬の服用⇒神経細胞の過剰な活動を抑え、発作を起こりにくくする
 
てんかん発生時に意識障害が発症⇒一時的に見当識を失い、もうろう状態になる⇒その時点での運転が過失行為として起訴された事案について、心神喪失時の行為とされた裁判例。 
 
運転開始時点における過失行為が基礎された事案
運転を差し控えるべき注意義務とその違反が認定。
but
その注意義務の前提となる事情は事案によって異なる。 

事例①:
てんかん性発作により事故を起こしたことあがり、投与治療を受けて、運転を差し控えるよう注意されていた⇒運転を差し控える義務があった。

事例②:
突然意識に障害を来たしてもうろう状態に陥るてんかん発作の持病がある者は、将来、突発的に同じような発作が起こるかもしれないことを予見すべき⇒運転を差し控える義務があった。

事例③~事例⑧
 
●自動車死傷法3条2項による規制 

<規定>   
第三条
 アルコール又は薬物の影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、そのアルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を負傷させた者は十二年以下の懲役に処し、人を死亡させた者は十五年以下の懲役に処する。

2自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気として政令で定めるものの影響により、その走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で、自動車を運転し、よって、その病気の影響により正常な運転が困難な状態に陥り、人を死傷させた者も、前項と同様とする。
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律施行令〔平二六政一六六〕第三条(自動車の運転に支障を及ぼすおそれがある病気) 

法第三条第二項の政令で定める病気は、次に掲げるものとする。

一 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する統合失調症

二 意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)

三 再発性の失神(脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発するおそれがあるものをいう。)

四 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈する低血糖症

五 自動車の安全な運転に必要な認知、予測、判断又は操作のいずれかに係る能力を欠くこととなるおそれがある症状を呈するそう鬱病(そう病及び鬱病を含む。)

六 重度の眠気の症状を呈する睡眠障害

自動車死傷法3条は、運転開始時点において、運転開始後の走行中に正常な運転に支障が生じるおそれがある状態になっていた場合に、そのことを認識した上で運転を開始し、走行中に正常な運転が困難な状態に陥ったことにより事故を起こして人を死傷させる行為を処罰することとしたもの。

同条1項:アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態に陥るおそれがある状態を規定。
同条2項:病気の影響により走行中に症状が発現して、正常な運転が困難な状態に陥るおそれがある状態を規定。

同項は、その病気を政令に委任しているところ、同法施行令3条2号は、「意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれがあるてんかん(発作が睡眠中に限り再発するものを除く。)」と規定。
 
<判断>
本罪の故意があるというためには、自動車死傷法施行令3条各号に規定された病名の認識を必要とするものではなく、規定された病気の特徴の認識、すなわち、本件でいえば、意識障害又は運動障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により正常な運転に支障が生じるおそれがあるとの認識があれば足りる。
被告人は
①5年前に意識障害に陥ったことで、自分にはてんかんに見られるような意識消失発作を起こすおそれがあることを認識した
②過去に交通事故を起こした際、相手方等のやりとりから自分が意識を喪失して自己を起こしたことを理解しており、運転を繰り返せば同様の意識喪失の状態に陥るおそれがあることを認識した

被告人は、本件当時、少なくとも意識障害をもたらす発作が再発するおそれを有する何らかの病気により、正常な運転に支障が生じるおそれがあることを認識していた

本罪の故意がある

本件に至るまでの間で医療機関でてんかんの疑いを持たれ、検査を経たものの、てんかんの診断を受けてなかった

意識障害の発作が再発するおそれのある何らかの病気の影響で運転中に意識喪失の状態に陥るおそれがあることについての認識の程度は必ずしも高いとはいえないと評価しており、
社会内更生の機会を与える際に考慮すべき事情とした。
 
<裁判例>
大阪地裁H29.2.7:
主位的に、運転開始時における実行行為と故意の存在を主張:
①最後の発作から10年が経過
②当時、発作のリスクが高まっていたとはいえない
⇒運転開始は本罪の実行行為とはいえず、その時点で正常な運転に支障が生ずるおそれを認識していたとは認められないとして故意を否定。

予備的主張に関し、
前兆を感じてから体が動かなくなるまでの数十メートルの間に道路端に停車し、再発進しないことが可能であたっとした上で、
前兆を感じた時点以降、正常な運転に支障が生ずるおそれを認識していた
⇒故意を認定。 

東京地裁H29.6.27:
治療歴などから、抗てんかん薬を処方通り飲んでいても、疲労などの要因から複雑部分発作が起きうることを認識しており、
事故直前に前兆を感じていたにもかかわらず運転を開始した

発進時、走行中の意識障害を伴う複雑部分発作を起こす具体的危険性を認識していたとして故意を認定。

宮崎地裁H30.1.19:
車を歩道に侵入させて6名を死傷させた事案において、
てんかん発作により意識レベルの変動があったのではなく、被告人の認知機能の低下により事故が引き起こされた可能性があると判断。

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2018年9月18日 (火)

高齢者の万引きで責任能力が争われた事例・精神鑑定の必要性

高松高裁H28.6.21①
高知地裁H29.8.7②      
 
<事案>
②事件は①事件の差戻審。
 
被告人(女性、犯行当時69歳)は、平成27年8月、青果店で食料品4点を万引き。
被告人は、平成21年以降、万引窃盗により罰金刑、執行猶予付き懲役刑、保護観察付きの執行猶予付き懲役刑に各回処せられ、本件各判決当時は最終刑の執行猶予期間中。 
 
<差戻前1審>
弁護人は、心神喪失又は上津役を主張して精神鑑定を請求。
その必要性を明らかにするため、精神科医師A作成のA意見書2通を提出⇒取調べ。 

A意見書
2回の問診、脳画像検査(SPECT)、心理検査、親族からの聴取を踏まえて、被告人は前頭側頭型認知症にり患。
被告人の異常な窃盗行為は、脳の前方連合野から大脳基底核への抑制が外れた結果として発生する前頭葉の機能が障害された結果、社会的対人行動の障害、自己行動の統制障害等につながり、状況の判断ができず、同じ行動を繰り返す傾向のため、窃盗行為という形で病的に行動を継続してしまう
として、同認知症が本件犯行及び弁識制御能力に与えた影響を説明し、正式な精神鑑定の必要があると述べていた。

前記精神鑑定請求を却下

被告人が前頭側頭型認知症にり患していたことは否定しなかったものの、
①一部を購入し一部を窃取した、
②夫等と一緒のときは万引きをしていない、
③窃取品は食料品という無用でない物であり、その一部を警察署まで隠匿
④同認知症が表れたとされrかなり前から万引きをしていた

完全責任能力を認めた
 
<控訴審>
(①)
①A医師の精神医学に関する専門家としての能力や公正さに疑問を抱かせる事情はうかがわれず、
A意見書は、正式鑑定ではないことから十分とへいえないものの、前提条件についての重要な誤りがあるとはいえない
原審証拠には、A意見書に示された前頭側頭型認知症の診断及び同認知症の診断及び同認知症が弁識制御能力に与えた影響を否定できるだけの証拠はない
本件当日の被告人が責任能力に疑問を抱かせるような無軌道な行動をとっている

原審裁判所は、より十分な資料と精神医学の専門的知見を得て、被告人の精神障害、具体的には発症時期を含めた前頭側頭型認知症り患の有無及び程度並びにその弁識制御能力への影響を明らかにする必要があった

訴訟手続の法令違反により原判決を破棄
 
<差戻審>
(②) B医師による精神鑑定(B鑑定):
①前頭側頭型認知症を否定し、
被告人は平成23年頃からアルツハイマー型認知症にり患しており、鑑定時は軽度で、本件当時は軽度ないしごく軽度
②被告人は、窃盗が悪いことであると答える能力はあるが、記憶障害や判断力の障害などから行動を制御する能力は著しく落ちており、そのことが本件犯行に大きく影響
B鑑定のうち
①被告人がアルツハイマー型認知症にり患し、鑑定時において軽度であるとする点
②同認知症により、自分の身を守り、捕まらないようにするという判断応力や、このような行動をしたら、自分の身にどのような影響を与えるかという社会的動物としての予見性、判断力が低下していたとする部分
を採用。

同認知症の犯行に対する影響は大きいとする部分については、
重症度の判定につき具体的な根拠が乏しいこと
影響が大きいとした根拠である記憶障害や、当日、自分がどこに行って、どこで盗んだかも分かっていなかったという点は、取調べDVDにおける被告人の供述状況(当日の4回の万引きにつき客観的事実と概ね一致)と整合しない

採用できない。

①犯行態様から被告人の違法性の意識は明らかで、その行動は万引きの目的に照らし合理的であること、
②夫等といるときは万引きをしていないこと
などを総合
完全責任能力を肯定

量刑判断:
①被告人の判断能力はアルツハイマー型認知症によって大きく低下していた疑いがあり、これが犯行に相当程度影響を与えたことは責任を相当程度減じるもの
②保釈後の治療の継続や再犯防止の措置
罰金刑を選択
 
<解説> 
●常習的な万引き事案において、窃盗症(クレプトマニア)又は摂食障害を伴う窃盗症を理由とする心神喪失又は耗弱が主張され、あるいは、これらを理由とする責任の減少や治療の必要性・有効性が減刑事由として主張されることが少なくない。 

大阪高裁昭和59.3.27は、摂食障害を理由に心神喪失を認めた。
その後は、大阪地裁岸和田支部H28.4.25のみ:
広汎性発達障害の影響下で摂食障害、盗癖にり患し、食料品の溜め込みと万引きへの欲求は制御し得ない程度であったという精神鑑定
⇒制御能力の著しい減退による心神耗弱をみとめたもの(罰金)。

量刑判断において、
責任能力(多くの事例が制御脳能力)の減少による責任の減少や、
窃盗症等の治療の開始による再犯防止の見込み

(再度の)執行猶予付き懲役刑や罰金刑に処した事例も相当数存在
 
●65歳以上の高齢者の窃盗による起訴人員の増大。 
認知症による責任能力の減退や責任減少が問題となる事例。
精神鑑定に基づき、認知症のために行動制御能力が著しく減退⇒心神耗弱を認めた例。
被告人を診察した医師の証言・意見書により、前頭側頭型認知症のために衝動制御が困難⇒再度の執行猶予。
but
前頭側頭型認知症にり患しているとの医師の見解を排斥して責任の減免を否定した例も。

認知症による心神耗弱又は責任の減少が認められた事例では、弁識能力はあるが、認知症のために衝動制御が困難だ得るとして、制御能力の低下をいう鑑定意見等が出されている。
 
証拠の採否は、それが裁判所の合理的裁量の範囲内にある限り違法とされることはない
精神鑑定請求についても、裁判所が、既出の証拠から被告人の精神状態に異常がないとの心証を形成し、鑑定を命じても心証が覆らないと判断⇒却下しても差し支えない。

本件差戻し前第一審:
①心理学的要素に関する諸事実と
②前頭側頭型認知症のエピソードの出現前に被告人が万引きを始めていたこと
⇒完全責任能力を肯定。
but
控訴審は、精神医学の専門家であるA医師から相応の資料と根拠に基づく問題提起⇒原判決が指摘する事情では、精神鑑定を不必要とする判断に合理性がないとしたもの。

判例時報2372

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2018年9月15日 (土)

花火大会での歩道橋での事故で業務上過失致死傷罪の共同正犯の成否が問われた事例

最高裁H28.7.12      
 
<事案>
平成13年7月、兵庫県明石市の公園において花火大会等が行われた際、公園と最寄り駅とを結ぶ歩道橋上で発生した雑踏事故に関して、当時の明石警察署副署長であった被告人が、検察審査会の強制起訴制度により業務上過失致死傷罪で起訴された事案。
被告人は、自己による最終の死傷結果の時点から計算すれば既に公訴時効期間が経過していた平成22年4月20日に起訴。
but
明石警察署のB地域官がこれ以前の平成14年に業務上過失致死傷罪で起訴され、平成22年に有罪判決が確定。

B地域官に対する起訴により、共犯の1人に対する起訴が他の共犯についても時効を停止させる旨規定した刑訴法254条2項に基づいて被告人に対しても公訴時効停止の効果が生じるかが問題。

被告人とB地域官に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するか否かが争点。
 
<規定>
刑訴法 第254条〔時効の停止〕
時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。
共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。この場合において、停止した時効は、当該事件についてした裁判が確定した時からその進行を始める
 
<解説>
過失犯の共同正犯:

最高裁昭和28.1.23:
共同して飲食店を経営していた2名の被告人が、過失によりメタノール含有飲食物を販売したという事案において、被告人両名について共同正犯の成立を認め、過失犯の共同正犯が成立し得ることを示した。
but
事例判例。

東京地裁H4.1.23(世田谷ケーブル火災事件):
共同の注意義務を負う共同作業者間において、その注意義務を行った共同の行為があると認められる場合には、その共同作業員全員に対し過失犯の共同正犯が成立する。
 
<判断>
業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立するためには、共同の業務上の注意義務に共同して違反したことが必要。 

B地域官、被告人等の職制や、準備段階及び事故当日における職務執行状況等に関する詳細な事実認定を前提に、
B地域官及び被告人がそれぞれ分担する役割は基本的に異なっていた
本件事故発生の防止のために要求され得る行為についても、
B地域官にについては、
事故当日において、配下警察官を指揮するとともに、
C署長を介し又は自ら直接機動隊の出動を要請して、本件歩道橋内への流入規制等を実施すること、
準備段階において、自ら又は配下警察官を指揮して本件警備計画を適切に策定することであったのに対し、
被告人については、
各時点を通じて、
基本的にはC署長に進言することなどにより、B地域官らに対する指揮監督が適切に行われるよう補佐することであった

本件事故を回避するために両者が負うべき具体的注意義務が共同のものであったということはできない

被告人とB地域官の間に業務上過失致死傷罪の共同正犯が成立する余地はないとして、上告を棄却。
 
<解説>
本決定は、本件のように組織的な過失が問題となる事案においても、問われているのは各行為者個人の刑事責任であることを踏まえ、各行為者の役割及び各行為者に事故発生防止のために要求され得る行為を特定し、
これらの同質性の程度や相互の関連性を総合的に考慮し、
各行為者が負う注意義務を具体的に想定して、
これらが共同の注意義務と言い得るものなのかを事案に即してきめ細かく判断
するべきであるという考えを前提にし、
本件の結論を導き出すに当たっても、
前記のようなB地域官及び被告人の役割の違い(それぞれの活動場面が異なることが指摘できる。)や、それぞれが要求され得る行為の内容(B地域間及び被告人それぞれに対して要求され得る行為の中で、互いに相手方は直接の働きかけの対象とはなっていないなど、協働する場面が想定し難い内容になっているという点等が指摘できる。)等を総合的に考慮したものと推定される。 

判例時報2372

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2018年9月14日 (金)

労働者の自殺の業務起因性(肯定)

大阪高裁H29.9.29      
 
<事案>
A(当時24歳の男性)は、高速道路の巡回、管制、取締等交通管理業務を行うことを主な事業内容とする本件会社に勤務し巡回等の業務に従事。
平成24年5月25日から26日にかけての本件夜勤に従事した後、同月28日自殺。 
 
<争点>
労働者Aの死亡の業務起因性
①Aが本件自殺の直前頃うつ病を発症したか
②同うつ病は業務に起因して発症したか 
 
<解説>
厚生労働省は、平成23年12月、労働基準監督署長が精神障害の業務起因性を判断するための基準として「心理的負荷による精神障害の認定基準」(「認定基準」)を策定。 
認定基準は、
対象疾病を発病していること
対象疾病の発病前おおむね6カ月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこと
のいずれの要件も満たす対象疾病について、業務上の疾病として取り扱うこととしている。
 
<一審>
出来事②は『嫌がらせ、いじめを受けた場合』に該当するとはいえない。
出来事③、⑦~⑩の各出来事について、それぞれ、客観的にみて精神障害を発症させるに足りる程度に強度の心理的負荷があったとまでは認められない

当該業務と本件疾病(うつ病)発症との間に相当因果関係があると認めることはできない。
 
<判断>
労働者が発症した疾病等について、業務起因性を肯定するためには、業務と前記疾病等との間に相当因果関係のあることが必要であると解されている(最高裁昭和51.11.12)。

本件の事実関係を、因果関係の有無に関する、ルンバール事件等の判例法理の見地に立って総合検討
すると、Aは、本件各出来事による心理的負荷によって、本件自殺の直前頃、うつ病を発症したことを推認することができる。
 
<解説> 
本判決は、うつ病の発症につき業務起因性を判断するに当たって、
「認定基準所定の各認定要件を満たしているかどうかを判断基準として、因果関係の有無を判断する」という判断手法をとるのではなく、
ルンバール事件等の判例法理と同様、
間接事実(因果関係のの有無に関わる間接事実)の総合検討を行って、因果関係の有無の判断
を行った。 

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2018年9月13日 (木)

証券会社の説明義務違反が認められた事例

岡山地裁H29.6.1      
 
<事案>
Yに証券取引口座を開設して取引を行うXが、Yに対し、
平成22年10月22日から平成23年10月27日までの間に行った外国株式(米国株式、中国株式)の売買取引(「本件取引」)について、
取引を担当したY従業員P2及びP3の行為には、過当取引又は違法な一任売買又は適合性原則違反説明義務違反があると主張

不法行為(民法715条)に基づく損害賠償請求として、本件取引による損害3862万円余、弁護士費用386万円及び遅延損害金の支払を求めた。 
 
<判断>   
Xの主張する過当取引、違法な一任売買、適合性原則違反はないが、
説明義務違反が存在。

●説明義務違反:
顧客を証券取引に勧誘するに当たり自己責任による投資判断の前提として、当該商品の仕組みや危険性等について、当該顧客がそれらを具体的に理解することができる程度の説明を、当該顧客の投資経験、知識、理解力等に応じて行う義務がある。
Xの従前の取引は、株式、投資信託、外国債券等について、いずれも中長期的に保有し、株式優待を受けたり、預金利息よりも高い利率で分配金や配当金を受領できるものとして運用していたところ、
本件取引は、積極的な投資運用による利益重視へと投資方針を転換するもの。

Y従業員らは、Xに対し、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性がることについて、Xに具体的に理解させるために必要な方法及び程度をもって説明すべきであるのに、これをしていない。
⇒説明義務違反を認定。
 
XにもYの違法行為を助長させ、損害を拡大した過失
過失相殺5割を認め、約1300万円の損害賠償を肯定
 
<解説> 
Xは説明義務違反について、外国株取引の投資勧誘について、外国株取引の投資勧誘においては、「外国証券情報」を投資家に提供、交付して、対象証券の内容とリスクを説明すべきところ、これを行っていないと主張。(投資商品についての説明義務違反)

本判決は、投資方針を転換することにより多額の損失が生じる可能性があることについて説明していない義務違反があると判示。(投資方針の変更に際しての説明義務違反) 

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2018年9月12日 (水)

配偶者暴力法8条の2の援助申出の相当性の判断が国賠法上違法とされる場合

名古屋地裁H29.11.9      
 
<事案>
Xの元妻Aが、配偶者暴力法8条の2の援助の申出として、Xからの暴力を理由に行方不明者届の不受理の申出を行ったことに対し、警察官がAの申出を相当と判断した行為によって、Aとの間の子Bの安否を知ることができず、また、配偶者に暴力を振るった加害者として扱われたことで精神的苦痛を被った

Xが、当該警察署の設置主体であるYに対し、国賠法1条1項に基づき、損害賠償を求めた。 
 
<規定>
配偶者暴力法 第八条の二(警察本部長等の援助)
 
警視総監若しくは道府県警察本部長(道警察本部の所在地を包括する方面を除く方面については、方面本部長。第十五条第三項において同じ。)又は警察署長は、配偶者からの暴力を受けている者から、配偶者からの暴力による被害を自ら防止するための援助を受けたい旨の申出があり、その申出を相当と認めるときは、当該配偶者からの暴力を受けている者に対し、国家公安委員会規則で定めるところにより、当該被害を自ら防止するための措置の教示その他配偶者からの暴力による被害の発生を防止するために必要な援助を行うものとする。
 
<Yの主張>
①法の規定は被害者に対する関係での関係機関の努力義務等を定めたものであり加害者とされる他方配偶者に対し関係機関は職務上の法的義務を負っていない。
②仮に職務上の法的義務を負っていると想定したものであったとしても、Dに職務上の注意義務違反はない。 
 
<判断>
国賠法1条1項が、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責めに任ずることを規定するもの。(最高裁昭和60.11.21)

Aの援助申出の相当性を判断した際におけるDの対応がXに対して負担する職務上の法的義務に違背したかの問題となる。 

法8条の2は、被害者の保護を図るために警察署長等に援助を行う義務があることを定めた規定であり、援助申出の相当性の判断は警察署長等の合理的な裁量にゆだねられている
but
援助申出を受理した場合、その反面、加害者とされる者に事実上の不利益を課すことにもなる
その判断が著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用していると認められる場合には、加害者とされる者との関係で違法と評価される場合もあり得る

①本件では、DがFの担当者からAをBとともにシェルターへ避難させる予定であり、Aが行方不明者届の不受理を要望している等の連絡を受けていた
②AがXからの暴力被害につき具体的に供述するとともに、その日のうちにシェルターに避難することになっている旨を述べた
③DがAの供述等を踏まえて上司らとともに前記通達に照らしてAからの援助申出の相当性を検討した
等の事情

C警察署長によるAからの援助申出受理の手続を執ったことが著しく不合理であって、裁量を逸脱又は濫用しているとはいえない

国賠法1条1項の適用上の違法を否定。
 
<解説>
法8条の2の援助申出の受理件数は年々増加し、平成29年の受理件数は9000件を超えた。 

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2018年9月11日 (火)

刑事弁護の報酬請求にあたり、説明義務違反⇒弁護士の損害賠償責任(肯定)

大阪地裁H29.9.20      
 
<事案>
被告:弁護士
原告:被告に刑事弁護を依頼した者 

原告は、被告に対し、原告が実質的に経営する複数の会社及び原告自身についての法事税法違反等の刑事事件の弁護を委任し、
本件委任契約に基づき、
着手金として432万円、
「軍資金」の名目で120万円を支払った。
その後、原告は、被告を解任。

原告:
被告に対し、
①本件着手金につき、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任た⇒本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求として、
本件着手金のうち、被告が解任されるまでになした弁護活動の報酬相当額等を除いた金銭の返還を請求し、
②本件軍資金につき、
(i)被告は、弁護士としての職務に反し、
刑事手続を恐れる原告の心理状態に乗じて、
「軍資金」なる名目で使途を説明せず、
用途不明瞭な120万円を請求
した上、
その後も再三にわたり追加の報酬及び費用の支払を求めた
不法行為に基づく損害賠償請求として、本件軍資金相当額及び慰謝料の支払を求め
(ii)予備的に、
被告が本件委任契約に基づく弁護活動をほとんど履行しないうちに、被告を解任した
本件委任契約の終了に基づく前払報酬返還請求(さらに予備的に本件委任契約の終了に基づく前払費用返還請求)として、本件軍資金の返還を請求
 
<判断>
着手金について
本件委任契約の主たる目的及びその履行の有無を検討し、
本件委任契約で主たる目的とされた事務について、被告は解任されるまでの間にこれを履行していた
⇒請求を認めず。
 
●本件軍資金について 
①弁護士はその職務上、依頼者に対し、受任事務の内容を明らかにするとともに、弁護士報酬等について、十分説明すべき義務を負っている
②被告としては、本件軍資金について、弁護士費用であることを説明すべきであり、ましてや、「軍資金」などという誤解を招く表現で、使途は説明できないかのような態度で金銭を要求することは、原告の誤解を招くもの
弁護士の職務上の義務に反する

不法行為に基づく損害賠償責任を肯認し、本件軍資金相当額の支払を求める限度で原告の請求を認容
 
<解説> 
弁護士の説明義務違反を認めた判例:
債務整理に係る法律事務を受任した弁護士が、消滅時効の完成を待つ方針を採るのであれば、当該方針に伴う不利益やリスクを説明するとともに、回収した過払金をもって債権者に対する債務を弁済することにより最終的な解決を図るという選択肢があることも説明すべき義務を負っていた
(最高裁H25.4.16)

事件を受任した弁護士は、委任契約に基づく善管注意義務の一環として、委任者に対し、一定の場合に説明義務を負う

弁護士職務規定29条1項
弁護士の報酬に関する規定5条1項

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