2020年1月14日 (火)

被告人が、自宅で父親の背中を包丁で刺すなどして死亡させた傷害致死被告事件の起訴後の接見等禁止決定に関する特別抗告事件

最高裁H31.3.13      
 
<事案>
被告人は平成30年4月20日に起訴され、検察官の請求により、第1回公判期日が終了する日までの間、弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者との接見等を禁止する決定。
裁判員裁判対象事件の公判前整理手続において、主な争点は、責任能力の有無、程度に絞られた
弁護人は、平成31年2月7日、弁護人の依頼により精神鑑定書を提出したA医師及び被告人の妹について、接見等禁止の一部解除を申請⇒職権発動がされなかった⇒接見等禁止の取消しを求めて準抗告申立て。
 
<原審>
A医師及び被告人の妹を含めて接見等を禁止する必要があり、弁護人が防御等の必要性として主張するところを考慮しても、接見等禁止の判断を左右しない
⇒本件準抗告を棄却 
 
<規定>
刑訴法 第八一条[接見等禁止]
裁判所は、逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときは、検察官の請求により又は職権で、勾留されている被告人と第三十九条第一項に規定する者以外の者との接見を禁じ、又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し、その授受を禁じ、若しくはこれを差し押えることができる。但し、糧食の授受を禁じ、又はこれを差し押えることはできない。

刑訴法 第四二六条[抗告に対する決定]
抗告の手続がその規定に違反したとき、又は抗告が理由のないときは、決定で抗告を棄却しなければならない。
②抗告が理由のあるときは、決定で原決定を取り消し、必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。

刑訴法 第四一一条[著反正義事由による職権破棄]
上告裁判所は、第四百五条各号に規定する事由がない場合であつても、左の事由があつて原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
一 判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること。
 
<判断>
本件抗告の趣意は刑訴法433条の抗告理由に当たらない
but
原決定には刑訴法81条、426条の解釈適用を誤った違法がある
⇒刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消した上、和歌山地裁に差し戻した。 
 
<解説>
●逃亡、罪証隠滅のそおれは、勾留理由(刑訴法60条1項)であるが、
接見等禁止(81条)は、接見、通信、物の授受等による逃亡や罪証隠滅のおそれがあることが必要であると解されている。 

実務上、被疑者に対する接見等禁止の決定には、
「公訴の提起に至るまで」という終期を定め、
起訴後は、被告人としての当事者の立場を考慮し、改めて接見等禁止の要否を判断。

起訴後に接見等禁止をする場合、事案に応じ、
「第〇回公判期日が終了する日まで」
「〇年〇月〇日まで」
といった終期を定め、一定期間ごとに接見等禁止の要否を判断。
裁判員裁判対象事件公判前整理手続に付された事件では、第1回公判が開かれるまでに時間を要する場合があり、接見等禁止が長期間にわたることがあり得る。

本決定:
「原々裁判が、公判前整理手続に付される本件について、接見等禁止の終期を第1回公判期日が終了する日までの間と定めたことは、公判前整理手続における争点及び証拠の整理等により、罪証隠滅の対象や具体的なおそれの有無、程度が変動し得るにもかかわらず、接見等禁止を長期間にわたり継続させかねないものである」と判示

実務では、このような問題意識から、起訴後の接見等禁止の終期については、2、3か月後の日を定めるなど特定した終期を定める工夫がされている。

●一般に抗告審の審査は事後審的に原裁判の当否を判断するもの⇒原裁判後に生じた事情や原裁判後に明らかとなった資料は、原則として考慮することができない。
but
原裁判には様々な性質のものがあり、事案の内容、迅速処理の要請、再度の申立ての可否、事実の変動の可能性、資料の重要性や入手の難易等の事情を考慮し、職権による事実の取調べとして、合理的な範囲内で、新事実、新資料を考慮する場合があり得る。

本件弁護人:
原々裁判後に公判前整理手続における争点・証拠の整理が進捗した結果、接見等禁止を継続すべき罪証隠滅のおそれがなくなったと主張

原決定:
原々裁判時はもとより原決定時においてもなお罪証隠滅のおそれが認められるとした。

①原々裁判の接見等禁止の終期の定め方にそもそもの問題があり、約10か月前の原々裁判時に存在した事情のみに基づいてその当否を審判する意味は失われていた
②接見等禁止の一部解除の申請に対し、職権が発動されなかったため、本件準抗告以外に不服申立ての手段がなかったこと

本決定においては、例外的に被告事件の公判前整理手続の経過等の事情を考慮して、原決定の当否を判断

●罪証隠滅のおそれについて、
裁判員裁判の導入を契機として、保釈に関し、より具体的、実質的に判断していくべきであるとの指摘。 

本件では、
①公判前整理手続で、公訴事実の行為と結果に争いがなく、争点が責任能力の有無、程度に絞られていた。
②A医師は、精神鑑定書を提出し、情状証人の被告人の妹と共に弁護側証人となることが予定されていた。
③原決定当時、既に証人請求の予定が明らかとなり、具体的な審理日程に関する協議がされるなど連日的な集中審理に対応するための立証準備が重要な段階に至っていた。
④責任能力に関して、A医師のほかに起訴前の鑑定を行った医師の証人尋問が予定され、同医師が被告人と十分な時間面接していた⇒弁護人の公判準備や防護の観点からも、A医師が被告人と面接する必要性が高まっていた。
罪証隠滅のおそれの有無、程度に直接関わる事情ではないが、接見等禁止の必要性に影響を与える事情であったと考えられる。

本決定:A医師について、検察官の従前の意見の内容等を踏まえ、接見等による実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがうかがわれないことに加え、連日的な集中審理の公判に向けた準備を行う必要性が高いと指摘
判例時報2423

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2020年1月13日 (月)

財産分与審判前の夫婦共有財産(建物)の名義人による他方配偶者への明渡請求の事案

札幌地裁H30.7.26    
 
<事案>
原告(元夫)が、被告(元妻)に対し、所有権に基づく建物明渡し及び賃料相当損害金の損害賠償請求を求めた。

被告:
①被告も本件建物の共有持分権を有している、
②原告の請求は権利濫用である
などとして争った。 
 
<規定>
民法 第七六二条(夫婦間における財産の帰属)
夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
2夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

民法 第七六八条(財産分与)
協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
3前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
 
<判断・解説>
●夫婦共有財産と共有持分権 
◎ 原告の給与等を購入原資として、原告名義で得た財産⇒形式的に見る限り、原告の特有財産(民法762条1項)
but
婚姻後に取得された財産であり、被告も本件建物購入に寄与してきた離婚時の財産分与(民法768条)の対象となる実質的共有財産に当たり、近時のいわゆる2分の1ルールの下では、被告にも、2分の1の分与率が認められる

◎ 被告:
本件建物が実質的共有財産⇒本件建物について共有持分権を有している⇒共有物を単独で占有する他の共有者である被告に対し、当然にはその占有する共有物の明渡しを請求することができない(最高裁昭和41.5.19)と主張。
財産分与手続を経ることなく、共有持分権の確認請求や更正登記手続請求などを認めた裁判例もある。
but
不動産の購入資金自体が共働きの夫婦双方の収入から拠出されており、一方配偶者の単独名義で取得されているが、当初から、夫婦が共同取得した不動産であるとの事実を前提としたもの。
vs.
実質的共有財産であるからといって、財産分与手続を経ることなく、当然に他方配偶者が共有持分権を有しているということはできない。
離婚によって生ずることあるべき財産分与請求権は、1個の私権たる性格を有するものではあるが、協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるまでは、その範囲及び内容が不確定・不明確である」(最高裁昭和55.7.11)
 
●建物明渡請求が権利濫用に当たるか否か 
①本件口頭弁論終結時において、被告による財産分与の申立てが係属中であり、
実質的共有持分権が被告に財産分与される可能性も否定できない状態にあった

本判決:
原告の損害賠償請求を認めて、被告に対して賃料相当損害金の支払を命ずる一方、
原告の建物明渡請求を権利濫用として否定

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被告(東京電力)の従業員とその家族による原発事故に起因する損害賠償請求の事案

福島地裁いわき支部H31.2.19    
 
<事案>
Xらが、Y(東京電力)に対し、平成23年3月11日の福島第一原発事故により被案を余儀なくされた⇒原賠法3条1項に基づき、慰謝料、避難帰宅費用及びこれに対する本件事故の日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた。 
 
<争点>
①Xらの被侵害利益(X1がYの従業員、X2らはX1の家族であり、包括的に配転命令を受け入れている点をどのようにみるか。)
②本件事故との相当因果関係が認められる期間と損害額 
 
<判断>
●被侵害利益 
本件事故時におけるXらの居住態様Xらが有する大熊町内での居住継続への期待やこれに伴う社会生活上の便益などは、住居を所有するなどして大熊町内で居住していた者と同程度と認めるのが相当であり、法的保護に値する利益というべき。

XらはYの従業員及びその家族として包括的な配転命令権の行使を許容していた旨のYの主張:
同命令権によりXらには大熊町に居住し、その意思に反して転居させられないことについての法的利益がないものと主張する趣旨
vs.
雇用契約の当事者ではないX2らに対しては、同命令権の行使により一方的に転居を命じられるものではなく
X1についても、本件事故の時点でX1が大熊町からの転居を伴う異動が予定されておらずそのような異動を命ずる業務上の必要性を基礎付ける事情も見当たらない

本件事故の時点で雇用契約に基づいてX1が大熊町からの転居を伴う異動をする可能性が現実化していたとはいえず、Yの主張は採用できない。
 
●本件事故との相当因果関係が認められる期間と損害額 
◎ 本件配置転換や埼玉県内に自宅を建築して居住を開始したといった事情は、本件事故とXらが大熊町内に居住できなかったこととの相当因果関係を否定する事情には当たらない
Xらが本件事故の発生から平成29年5月31日までの間大熊町に居住できず、前記の居住への期待、利益が侵害されたことと本件事故との間には相当因果関係が認められる

Xらが主張する慰謝料は、本件事故の発生によって住み慣れた地から避難することを余儀なくされ、日常生活が著しく阻害されたことによる精神的損害を原因とするものであり、
かかる精神的損害は、実際の避難の有無や避難終了時期を問わず、本件事故発生時に一定の内容として生じると解される。

①Xらは、大熊町を生活の本拠としていた者と同様の生活を営むに至っていたところ、本件事故によって住み慣れた地から避難を余儀なくされるなど日常生活阻害の程度は重大
中間指針における帰還困難区域に居住していた者に対する精神的損害の金銭評価

本件事故によってXらに生じた精神的損害の額は、1人当たり1450万円を下らないと認めるのが相当。 
 
<解説>
福島地裁H27.9.15:
Yの従業員であり、本件事故当時、大熊町に居住していた者が本件事故のため避難を余儀なくされるなどしたと主張して、Yに対し原賠法に基づく損害賠償請求をした事案について、
被告の業務命令に基づき勤務地を変更することも予定されており、上記のとおり東京都内や茨城県内に勤務したこともあった
⇒原告が、福島第一原発での勤務を継続し、長期間にわたって大熊町に居住し続けることを期待していたとしても、それ自体は事実上の期待であったといえる。

被告は、福島第一原発を設置、運転していた原子力事業者であり、本件事故発生を受けて、その収束のため、従業員の勤務内容や勤務地を大幅に変更することはやむを得ないことといえる
⇒被告の従業員であった原告に対する勤務地変更の業務命令も、やむを得ないものであったといえ、原告の上記の期待そのものが直ちに法的に保護されるものとはいえない。

避難慰謝料について前記の中間指針等より大幅に低い金額しか認めていない。 
判例時報2423

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2020年1月11日 (土)

交通規制中に交通事故で死亡した警備員を雇用していた警備会社による営業損害の賠償請求

京都地裁H31.3.26    
 
<請求>
本件事故現場での警備業務の提供等が不可能になり、得られるはずの利益を失ったと主張⇒
大型貨物自動車の運転手(被告運転手)に対しては不法行為責任に基づき、
同運転手を雇用している会社に対しては使用者責任に基づき、
営業損害の賠償を求めた。 
 
<判断>
● 本件は、企業が請負業務の履行中に、雇用していた従業員と保有していた車両に対して、それらを進路前方に認識しながら制動措置を講じられなかった自動車が衝突してきたという事案⇒被告らが主張する企業損害と事例とは事案と異にする。 
● 従業員と保有車両を侵害されることで請負契約の履行自体に関しても侵害を受けた企業が、加害者に対して、当該請負業務の停止に伴う事業損害を請求⇒当該請負業務の停止に伴う原告の2か月間の営業損害については、被告らには損害賠償義務がある。

被告運転者は、高速道路の規制がされていることを認識し、その作業車両に対し、大型のトラックをもって時速約90ないし100キロメートルの高速で衝突
原告の作業車両に乗るなどしてた作業員5名が死傷し、原告の作業車両が損傷するとの結果は十分に予測可能であり、その結果、本件事故現場での工事ないし高速道路警備業務が2か月内にわたって中断されることは予見可能であった。

中断期間における高速道路警備業者の利益喪失は、本件事故と相当因果関係のある損害であり、その額は500万円。
2か月を超える期間の本件事故現場での利益喪失や、本件事故との間で相当因果関係は認められない
 
<解説>  
従業員が交通事故で業務に従事できなくなり、企業に事実上の損害が生じたとしても、そのような損害は交通事故の加害者にとって一般に予見可能ではなく、間接損害としての企業損害は認められない(最高裁昭和54.12.13)。 

例外的に、間接被害者であっても損害賠償請求が認められる事例として、
会社がいわゆる個人会社であり代表者に会社の機関としての代替性がなく両者が経済的に一体をなす関係がある場合において、交通事故により会社代表者を負傷させた加害者が会社に対し損害を賠償する責任がある(最高裁昭和43.11.15)。

現在の交通事故損害賠償実務においては、個人営業の会社とはいえない一定の規模以上の会社において、積極損害、消極損害を問わず、原則として企業の間接損害が認められることはないと捉えられている。
 
● 他方で、営業中の企業の店舗に車両が衝突し、店舗が営業休止に追い込まれた場合の休止期間の営業補償などは、営業休止に相当因果関係があるのであれば、これは損害賠償の対象になる。 

判例時報2423

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真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

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2020年1月10日 (金)

弁護士刺殺事件と国賠請求(肯定)

仙台高裁秋田支部H31.2.13      
 
<争点>
①Vが刃物で刺突された際の態様
②現場に臨場して対応に当たった警察官らの過失の有無 
 
<判断>
●争点①について:
警察官らの供述等⇒Sの刺突時に警察官らがVを取り押さえていたことはなかった。

●争点②について:
生命、身体等の重大な国民の法益に対する加害行為又はその危険の存在
②警察官の①の状況の認識又はその容易性
③警察官の法令上の権限行使による加害行為の危険除去、法益侵害結果の回避・防止可能性
④警察官による法令上の権限行使の容易性
が認められる場合には、
警察官は特定の個人に対する個別の法的義務として規制権限等を行使すべきところ、これを行使せず、又は許された裁量の範囲を超えて不適切に行使したために前記危険が現実化して当該国民の重大な法益が侵害されたときには、国賠法1条1項における故意又は過失による違法な公権力の行使に該当し、国又は公共団体は損害賠償責任を負う。

①の状況は明らか
②:妻の通報により警察官らはこれを認識して現場に臨場した
③:Sが拳銃を確保したVともみ合っていた状況で、いきなりけん銃を取り上げる行動をとらずに、侵入者を識別する問いかけをしてSを制圧するかV及び妻を避難させるなどしていれば、V殺害に至らなかったことは確実
④:問いかけをすれば容易に侵入者を識別できた

警察官らの規制権限の不適切な行使が故意又は過失による違法な公権力の行使に該当⇒県に対して損害賠償金等の支払を命じた

県の不適切捜査や虚偽説明等による慰謝料請求
被害者等が捜査によって受ける利益は事実上の利益にすぎない
②これがあったとも認められない

請求を棄却。 
 
<解説>  
●判例の判断枠組み:
その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、これにより被害を受けた者との関係において、国賠法1条1項の適用上違法となる。(最高裁H7.6.23) 
but
個々の訴訟類型ごとに考慮されるべき具体的な事情(法令に基づく権限の性質、趣旨や行使に至らなかった経緯等)は異なる⇒問題となる公務員の権限や事件類型ごとに裁判例を分析して、規制権限不行使を巡る一連の諸事情のうち考慮の対象とされるべき事情を整理する必要。
 
●警察官の権限の不行使に関する類型について
最高裁昭和57.1.19:
ホテルでナイフを示して「殺してやる」などと脅していた者が交番に連行された際、ナイフの携帯が銃刀法違反に当たること等が明らかであるのに、警察官がそのまま帰宅させ、帰宅途中立ち寄った飲食店の従業員にナイフで重篤な傷害を負わせた

判示の状況から、他人の生命身体に危害を及ぼすおそれが著しい状況にあったことを警察官は容易に知ることができた⇒ナイフを提出させて一時保管する義務があた。

最高裁昭和59.3.23:
島の海岸に旧日本陸軍の砲弾が打ち上げられ、これを放置すれば人身事故等が発生する危険性を警察官も認識して砲弾発見等の届出を住民に呼びかけるなどして回収にあたっていた状況で、
たき火に中学生が投下した砲弾が爆発して2名が死傷。

島民の生命身体の安全が確保されないことが相当の蓋然性をもって予測され得る状況において、これを警察官が容易に知り得る場合には、積極的に砲弾類を回収する措置等を講ずる職務上の義務があった。
 

国民の声明、身体に対する侵害の危険性やその切迫性
②警察官による前記危険の認識(予見)又はその可能性
各事例の内容や相当因果関係があるとの判断内容

③警察官の規制権限行使による結果回避可能性
規制権限行使の容易性 
判例時報2423

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2020年1月 9日 (木)

ツイッター上の投稿に関し、IPアドレスの情報につき、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとされた事例

東京高裁H31.1.23    
 
<事案>
芸能活動を行う女子高生であるXが、氏名不詳者によりされたツイッター上における特定のアカウント(「本件アカウント」)からの複数の記事の投稿により、名誉等を侵害されたと主張⇒経由プロバイダであるYに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき、発信者情報の開示を求めた。 
本件アカウントは、遅くとも平成29年8月17日頃に開設。
 
<判断>
本件ログインに係る情報は、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとした。 

ログインが1つしかないなど、当該ログインを行ったユーザーがログアウトするまでの間に当該投稿をしたと認定できるような場合⇒当該ログインに係る情報を発信者情報と解することができ、法の趣旨によれば、そのようなログインにかかる情報も、法4条1項に規定する「権利の侵害に係る発信者情報」に当たり得る。
but
①本件アカウントの名称は「〇〇応援隊」という複数のユーザーにより共有されていることと矛盾しない。
②少なくとも7件の投稿が行われているが、本件各記事が投稿された前後にどのような投稿がされていたかは証拠上明らかでない
③本件アカウントには、平成29年8月17日以降、本件各記事の投稿がされるまでに11回のログインがあり、そのうち7回は、Y以外のプロバイダを経由してされている。
④③のいずれのログインについても対応するログアウトの日時は明らかではなく、ツイッターでは・・長時間投稿をせずにログイン状態が継続していることも想定される⇒本件ログインより以前になされたログインによって、本件各記事の投稿が行われた可能性も十分ある。
⑤・・・ログインと投稿の連続性を認められるほど時間的近接性がなく・・・必ずしも本件各記事の投稿が本件朗吟によりされたことを裏付ける事情になるものではない。
⑥・・・・本件各記事の投稿時点でも、本件アカウントに本件各記事を投稿したユーザーとは別のユーザーが存在した可能性を排斥することはできない。

本件ログインを行ったユーザーが、本件アカウントからログアウトするまでの間に本件各記事の投稿を行ったものであるとまで認めることはできない。

本件ログインに係る情報が「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできない。
 
<解説>
本件も、Yにおいて、投稿がされたIPアドレスを保有していない⇒投稿時に近接するログインを行ったIPアドレスの情報の開示が請求。 

判例時報2423

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2020年1月 8日 (水)

違法な仮差押命令の申立てと逸失利益との間の相当因果関係(否定)

最高裁H31.3.7    
 
<争点>
本件仮差押申立てとY主張の逸失利益の損害との間に相当因果関係が認められるか否か。 
 
<原審>
本件仮差押申立ては、当初からその保全の必要性が存在しないため違法であり、Yに対する不法行為に当たる。 
①本件仮差押命令の発令当時、Yと本件第三債務者との取引期間は1年4か月であり、Yにおけるその他の大手百貨店との取引状況等をも併せ考慮すると、Yは、本件仮差押申立てがされなければ、本件第三債務者との取引によって少なくとも3年分の利益を取得することができた。
②本件仮差押命令の送達を受けた本件第三債務者が、Yの信用状況に疑問を抱くなどしてYとの間で新たな取引を行なわないとの判断をすることは、十分に考えられ、Xはこのことについて予見可能であった。

本件仮差押申立てと本件逸失利益の損害との間には相当因果関係がある。
 
<判断> 
債権の仮差押命令の申立てが債務者に対する不法行為となる場合において、前記仮差押命令の申立ての後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったとしても、次の①②など判示の事情の下においては、前記不法行為と債務者がその後に債務者と第三債務者との間で新たな取引が行われなくなったことにより喪失したと主張する得べかりし利益の損害との間に相当因果関係があるといういことはできない
①債務者は、1年4か月間に7回にわたり第三債務者との間で商品の売買取引を行ったが、両者の間で商品の売買取引を継続的に行う旨の合意があったとはうかがわれず、債務者において両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったとはいえない
前記仮差押命令の執行は、前記仮差押命令が第三債務者に送達された日の5日後に取り消され、その頃、第三債務者に対してその旨の通知がされており、第三債務者が債務者に新たな商品の発注を行わない理由として前記仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない。 
 
<解説>
●一般に、企業間取引で多くみられる継続的契約では、「仮差押えがあったとき」などを基本契約又は個別契約の解除事由とする旨の合意がされることが多い。
but
金銭債権に対する仮差押命令およびその執行は、債務者に対しては被差押債権の処分を相対的に禁止し、第三債務者に対しては債務者への弁済を禁止する(民保法50条1項)にとどまるものであり、債務者と第三債務者との間に前記のような合意があったなどの特段の事情のない限り、第三債務者が債務者との間で新たな取引を行うことを妨げるものではない。

最高裁:
債務者が違法な仮処分によって被ったと主張する営業利益の喪失や信用失墜による無形の損害等の損害は、当該仮処分の執行によって通常生ずべき損害に当たらず、特別の事情によって生じたものと解すべきであるとした上で、その賠償席因を否定した原審の認定判断を是認したものがある。

下級審裁判例:
不当保全執行による逸失利益の有無については特に慎重な判断がされており、
取引先から取引を一時停止されたこと等を考慮しながらも、無形損害又は慰謝料として一定額の賠償を認めるにとどまるものがある一方、
無形損害又は慰謝料の賠償自体も否定したもの等もあった。
 
●民法における損害賠償の範囲に関する議論:
消極的損害の賠償責任を認めるためには、被害者がその消極的損害に係る将来の利益を取得することが確実であることを要するとされ(新版注釈民法10Ⅱ284頁以下、
富喜丸事件判決は、消極的財産損害(騰貴価格による得べかりし利益)の賠償を請求する者は、これを確実に取得したであろう事情があり、その事情が不法行為当時予見又は予見することができたことを主張立証しなければならない旨を判示しているとの指摘。 
また、相当因果関係説の下では、因果関係に争いがある場合、立証の対象となるべき要件事実として、「特定の事実が特定の結果発生を招来した関係」が高度の蓋然性をもって是認し得ることの主張が必要であるとされており、このことは不法行為によって消極的損害(被害者の所得の喪失又は減少)が発生したことについても同様である。
 
●継続的売買の解消については、学説上、
継続的売買契約が存在⇒契約上の責任を考えることになる
継続的売買契約が存在するとはいえない場合であっても、当事者は互いに信義則上の注意義務を負い、それに反した解消によって生じた損害を賠償する責任を負う場合があり、
①現実的履行の強制まで可能な継続的売買契約
②履行の強制はできないが損害賠償請求は可能な継続的売買契約
③契約の存在は認められないが信義則上の責任が認められる継続的売買
④解消者に何らの責任も認められない継続的売買
という4段階に分類して考えることが可能。

第三債務者との間で継続的売買を行っていた債務者が、第三債務者との取引によって将来の利益を取得することが確実であるというためには、
両者間に継続的売買契約の成立が認められるか、
継続的売買の解消につき第三債務者に信義則上の責任が認められるような事情、すなわち、債務者において両者間の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情が必要。 

本件:
Yにおいて両者間の商品の売買取引が将来にわたって反復継続して行われるものと期待できるだけの事情があったといえない。
 

①本件第三債務者がYとの間で新たな取引を行うか否かは本件第三債務者の自由な意思に委ねられていた
②Yが相当程度の売上高及び資産を有する会社であった
③本件仮差押命令の執行が本件仮差押命令の送達日の5日後に取り消され、本件第三債務者にその旨の通知がされた
④本件第三債務者がYに新たな商品の発注を行わない理由として本件仮差押命令の執行を特に挙げていたという事情もうかがわれない


本件第三債務者が、本件仮差押申立てによりYの信用がある程度毀損されたと考えたとしても、このことがYとの間で新たな取引を行わないとの判断を招来したことを高度の蓋然性をもって是認し得るとまではいい難い。 
判例時報2423

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2020年1月 7日 (火)

地目を宅地と認定するなどして算出された当該土地の登録価格を適法とした原審の判断に違法があるとされた事案

最高裁H31.4.9    
 
<事案>
三重県志摩市所在の隣接する2筆の土地に係る固定資産税の納税義務者であるXが、本件各土地につき、志摩市長により決定され土地課税台帳に登録された平成27年度の価格を不服として志摩市固定資産評価審査委員会に対し審査の申出⇒これを棄却する旨の決定⇒志摩市を相手に、その取消しを求めた。
 
<争点>
調整池の用に供されている本件各土地について、その地目を宅地と認定するなどして算出された本件各登録価格の適否。 
 
<原審>
本件各土地は、本件商業施設が適法に開発許可を受け、同施設が有事のための洪水調整機能を維持して安全に運営を継続するために必要なものであり、宅地である本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地
⇒本件土地の地目をいずれも宅地と認定した上で決定された本件各登録価格は適法。 
 
<判断>
固定資産評価基準における土地の地目のうち宅地とは、建物の敷地のほか、これを維持し、又はその効用を果たすために必要な土地をも含む

本件各土地は、本件商業施設に係る開発行為に伴い調整池の用に供することとされ、排水調整の必要がなくなるまでその機能を保持することが前記開発行為の許可条件となっているが、
開発許可に前記条件が付されていることは、本件各土地の用途が制限を受けることを意味するにとどまり、また、
開発行為に伴う洪水調整の方法として設けられた調整池の機能は、一般的には、開発の対象となる地区への降水を一時的に貯留して下流域の洪水を防止することにあると考えられる

前記条件に従って調整池の用に供されていることから直ちに、本件各土地が本件商業施設の敷地を維持し、又はその効用を果たすために必要な土地であると評価することはできない

原判決を破棄し、本件を原審に差し戻した。 
 
<解説>
●「宅地」の意義 
評価基準:
土地の評価は地目の別に、それぞれ定める評価方法によって行う。
地目の認定に当たっては、当該土地の現況及び利用目的に重点を置き、部分的に僅少の差異の存するときであっても、土地全体としての状況を観察して認定する旨を規定。
but
各地目の具体的な意義については明示されていない。 

固定資産評価基準解説:
「宅地」について、不動産登記事務取扱手続準則68条3号を引用して、
建物の敷地及びその維持若しくは効用を果たすために必要な土地をいうとした上、建物の敷地のみに限定されず、建物の風致又は風水防に要する樹木の生育地、建物に附随する庭園、通路等のように、宅地に便益を与え、又は宅地の効用に必要な土地については、宅地に含まれる

本判決:
建物の敷地のほか、これを維持し、又はその効用を果たすために必要な土地をも含む」と説示。
~従前の一般的理解に沿うもの。
 
●本件各土地の地目の認定等
原判決:
本件土地が調整池としての調整機能を保持することが本件商業施設に係る開発行為の許可条件となっている。

本件各土地は、本件商業施設が適法に開発許可を受け、同施設が有事のための洪水調整機能を維持して安全に運営を継続するために必要なものであり、本件商業施設の敷地を維持するために必要な土地と認められる。

①その調整機能を保持することが前記許可条件となっているという法的な側面と、
②これが洪水調整機能を有することで本件商業施設の安全な運営の継続に資するという物理的な側面
に着目。
vs.
①の点⇒住宅が立ち並ぶ一体とは離れた一角に独立して調整池が設置されているるような場合でも、調整池の設置が宅地開発の許可条件となっていることを理由にその地目を宅地と認定し得ることになりかねないが、それは、相当ではない。
②の点について、本件各土地が調整池として洪水調整機能を有することが、これより高い位置にある本件商業施設の敷地における洪水を防止するという関係にあると直ちにいうことはできない。

判例時報2423

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2020年1月 3日 (金)

自動車運転過失致死の過失の択一的認定を理由不備の違法があるとした事案

東京高裁H28.8.25   
 
<原審>
A過失又はB過失という2つの過失を択一的に認定し、被告人に対して禁錮1年6月、3年間執行猶予の判決。
A過失:目視及びサイドミラー等を注視するなどして、同横断歩道上及び同自転車横断帯上を横断する自転車等の有無及びその安全を確認しつつ左折進行すべき自動車運転上の注意義務の違反
B過失:微発進と一時停止を繰り返すなどし、死角内の同横断歩道上及び同自転車横断帯上を横断する自転車等の有無及びその安全を確認しつつ左折進行すべき自動車運転上の注意義務の違反
 
<判断> 
本件において過失の択一的認定は許されない⇒原審を理由不備の違法により破棄した上、控訴審において追加された予備的訴因を認定して、被告人に対して禁錮1年6月、3年間執行猶予の判決。
 
<解説>
●択一的認定 
証拠上、A事実とB事実のいずれについても合理的な疑いを容れない程度に証明がなされたとは認められないが、A事実又はB事実のいずれかであることは証明されていると認められる場合に、どのように取り扱うべきか?


A事実であっても、B事実であっても、該当する構成要件は同一
ex.動機、日時、場所、手段方法等について1つの事実に確定し難い場合
⇒択一的又は概括的な事実認定が許される

A事実を認定するかB事実を認定するかで、該当する構成要件が異なる
butA事実とB事実との間にいわゆる大小関係がある
ex.殺意の有無が証拠上いずれとも確定しない
⇒傷害の故意の範囲で傷害罪を認定。

構成要件が異なる上、A事実とB事実との間に大小関係がない
ex.
窃盗罪と盗品等に関する罪
行為時点での生死が確定できない被害者を遺棄した場合のほぞ責任者遺棄致死罪と死体遺棄罪
α:無罪

①A事実、B事実いずれにも合理的疑いがある⇒そのいずれも認めることはできず、「A又はB」という択一的認定をすることは「疑わしきは被告人の利益に」という原則に反する。
②合成的構成要件を設定して処罰するものであり、罪刑法定主義に反する。

β:択一的認定を正面から認める。
←A罪かB罪のいずれかが成立することは疑いがないにもかかわらず、無罪とするのは、国民の法感情に反する。

γ:択一的認定は否定しつつ、軽い方の罪を認める。
 
過失犯における択一的認定 
同一構成要件における択一的認定に当たるのか、それとも異なる構成要件にまたがる択一的認定に当たるのか?

α:罰条としては同じであっても、過失の態様が異なれば構成要件的評価が異なる⇒過失の態様の択一的認定は、異なる構成要件にまたがる択一的認定に当たる⇒仮にそれが許されるとしても、罪となるべき事実における択一摘な判示は認められず、犯情の軽い方の過失を認定。

β:過失の態様によって構成要件が異なることはない⇒過失の態様の択一的認定は、同一構成要件内における択一的認定に当たる⇒罪刑法定主義の問題は生ぜず、罪となるべき事実における択一的な判示も認められる。
but
複数の過失の間に犯情の差があれば、軽い方の過失を認定すべき。

●本判決 
過失を択一的に認定することは、過失の内容が特定されていないことにほかならず、罪となるべき事実の記載として不十分
②過失犯の構成要件はいわゆる開かれた構成要件であり、その適用に当たっては、注意義務の前提となる具体的注意義務、その注意義務に違反した不作を補充すべき⇒具体的な注意義務違反の内容が異なり、犯情的にも違いがあるのに、罪となるべき事実として、証拠調べを経てもなお確信に達しなかった犯情の重い過失を認定するのは「疑わしきは被告人の利益に」の原則に照らして許されない。

択一的認定が許されない根拠として「疑わしきは被告人の利益に」の原則に反する。
vs.
過失の態様を構成要件要素と考えるかどうかにかかわらず、
実務上は、
過失の態様の記載は、過失犯における罪となるべき事実の特定のために不可欠なものとされており、過失の態様が異なれば、罪となるべき事実が異なる

1つの罪となるべき事実の中に、過失の態様を択一的に記載することは許されないことに根拠を求めるべきという指摘。

本判決:
被告人は被告人車両の死角の存在を知っていた
横断歩道上が被告人車両の死角にある段階(直進中)は微発進と停止を繰り返すなどして死角内から死角外に出る自転車等がないか確認して、これに備えるとともに、横断歩道上が死角から外れてくる段階以降(左折開始後)には、引き続き前記走行を続けた上で、目視やサイドミラーを注視するなどして、死角外に出てきた自転車等の発見及び対応に努めるべきであったといえ、これが注意義務の内容を構成

本件のように進行中の車両同士の事故の場合、両車両は共に動いており、状況は時と共に変化⇒本件は死角内と死角外の両方の注意義務を果たして初めて事故が回避できる「A又はB」という択一的な注意義務ではなく、「AかつB」という結合された1つの注意義務を認定すべきとする。
判例時報2422

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大崎事件についての第3次再審請求に関する特別抗告事件

最高裁R1.6.25    
 
<原審>
①M・N鑑定は、無罪を言い渡すべき明らかな証拠とは認められない。
②O鑑定は十分な信用性を有する
but
I旧鑑定は、元々、Cの死因を推認し得るほどの証明力を有するものではない

O鑑定によってI旧鑑定の信用性が否定されたとしても、直ちにCの死因は頚部圧迫による窒息死であるとの確定判決の認定に合理的疑いを生じさせる関係にはない。
③O鑑定の影響により、Cは溝に転落したことによる既に出血性ショックで死亡し、あるいは瀕死の状態にあった可能性が相当程度に存在することになる⇒G及びHの各供述の信用性には疑義が生じる。

④CがG及びHによってC方に送り届けられたという事実及びCが窒息死させられたという事実が認められなくなる⇒A、B及びDの各自白並びにEの供述は、客観的状況による裏付けを欠き、かえってO鑑定が存在する
⇒これらの各自白や供述は、大筋において合致するからといって直ちに信用できるものではない。


O鑑定は、新旧全証拠との総合判断により、確定判決の事実認定に合理的疑いを生じさせるに足りる証拠であるなどとして、即時抗告を棄却。
 
<判断>
O鑑定は、条件が制約された中で工夫を重ねて専門的知見に基づく判断を示している。
but
同人の死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとはではいえない

これが無罪を言い渡すべき明らかな証拠といえるか否かは、その立証命題に関連する他の証拠それぞれの証明力を踏まえ、これらと対比しながら検討すべき。

O鑑定は、Cの死因が出血性ショックであった可能性等を示すもの
but
同人の死亡時期を示すものではなく、G及びHがCを同人方に送り届けるよりも前に同人が死亡し、あるいは瀕死の状態にあったことを直ちに意味する内容ではない。 

原決定がいうように、O鑑定を根拠として、Cが出血性ショックにより同人方に到着する前に死亡し、あるいは瀕死の状態にあった可能性があるとして、A、B及びDの各自白並びにEの目撃供述の信用性を否定するのであれば、
関係証拠から認められる前記の客観的状況に照らし、事実上、Cの死体を堆肥中に埋めた者は最後に同人と接触したG及びH以外に想定し難いことになる。
but
同人らがCの死体を堆肥中に埋めるという事態は、本件の証拠関係の下では全く想定できない

原決定が、G及びHの各供述の信用性に疑いを生じさせるとして掲げる事情も、信用性に影響を与えるようなものではない。

確定判決の認定の主たる根拠:
客観的状態に照らして少なくともCの死体を堆肥に埋めたことについては何者かが故意に行なったとしか考えられず、その犯人としてAらF家以外のものは想定し難い状況にあった。
G及びHの各供述も、相互に支え合い、この推認の前提となっている。 
A、B及びDの各自白並びにEの目的供述は、相互に支え合っているだけでなく、以上のような客観的状況等からの推認によっても支えられている

A、B及びDの知的能力や供述の変遷等に関して問題があることを考慮しても、それらの信用性は相応に強固なものであるということができる。
O鑑定が前記のような問題点を有し、Cの死因又は死亡時期に関する認定に決定的な証明力を有するものとまではいえない

同鑑定によりこれらも各自白及び目撃証拠に疑義が生じたということは無理がある。 
 
<解説・判断> 
刑訴法435条6号にいう「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」について、
再審請求においても「疑わしきは被告人の利益に」という利益原則の適用があることを前提に、
「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」とは、確定判決における事実認定につき合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。

新証拠がそのような証拠に当たるか否かの判断方法は、
新証拠の証明力を検討した上、新証拠が弾劾の対象とする旧証拠の証明力が減殺されたか否かを検討し、
それが減殺される場合には、その旧証拠が確定判決の有罪認定とその証拠関係の中で有罪認定の証拠としてどのような位置を占め重要性をもつものであるかを検討することにより、新証拠が、確定判決の事実認定に合理的な疑いをいだかせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠であるか否かを審査

新証拠によって確定判決の事実認定を支えた旧証拠の一部の証明力が減殺されたとして、そうした証拠の変化があってもなお有罪の認定を維持することができるか否かを評価することにより、有罪を支えた旧証拠の内容はどのようなものなのか、新証拠がどの旧証拠の証明力と関連し、どのようにその証明力を減殺したのか、これにより合理的疑いが生ずることになるのかを、個々の事案に応じて総合的に評価。

本決定:従来の最高裁判例に従って、新証拠が無罪を言い渡すべき明らかな証拠に当たらないと判断。
刑訴法の特別抗告については、最終裁判所としての最高裁判所に当該事件における具体的正義の実現を図らせるため、刑訴法411条が準用されることが確立。
判例時報2422

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