2020年3月30日 (月)

特別縁故者に対する相続財産の分与の事案

大阪高裁H31.2.15    
 
<事案>
A:先代から家業(酒類等の販売)を引き継ぎ、Bの雇用主であった者
任意後見受任者。
C(相続財産管理人)が保管するBの相続財産(預金)は約4120万円
 
<規定>
民法 第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与)
前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。
2 前項の請求は、第九百五十八条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。
 
<原審>
Aは、Bと生計を同じくし、Bを直接療養看護したとはいえないが、身寄りのないBの入院手続をする、預貯金の収支を管理する、定期的に見舞う、Bの任意後見受任者となるなど、その生活全般を継続的に支援してきた
Bとの間に特別の縁故関係があった。 

Aは、
①Bの入院や施設入所以降、約15年にわたりその生活支援をしてきたこと、
➁身寄りのないBにとってその支援は精神的な支えであること
等一切の事情

800万円を分与するのが相当。
 
<抗告審>
①平成12年末(Bが70歳)まで約28年もの間雇用を続けた
②Bの知的能力が十分でなかったとに、高齢になるまで稼働能力に見合う以上の給料を支給し続けた
③Bの稼働能力とAによるBの雇用の実態に照らすなら、AからBに給料名目で支給された金額には、Bの労働に対する対価に止まらず、それを超えたAによる好意的な援助の部分が少なからず含まれる
④Bが4000万円いじょうもの相続財産を形成し、これを維持できたのは、Aによる約28年間に及ぶBの稼働能力を超えた経済的援助と、その後、Bの死亡までの約16年間にわたる財産管理が続けられたことによるもの⇒Aによる約44年間もの長年にわたる経済的援助等によって形成された部分が少なからず含まれる

Bの相続財産の相応の部分がAによる経済的援助を原資としていることに加え、
Bの死亡前後を通じてのAの貢献の期間、程度

Aは、Bの親兄弟にも匹敵するほどBを経済的に支えた上、その安定した生活と死後縁故に尽くしたといえる。
これら縁故の期間や程度のほか相続財産の形成過程や金額など一切の事情を考慮
分与すべき金額は2000万円とするのが相当
 
<解説>
民法は相当性の判断基準について何も規定していないが、一般的には、
縁故関係の内容、厚薄、程度、特別縁故者の性別、年齢、職業、教育程度、残存すべき相続財産の種類、数額、状況、所在その他一切の事情を考慮し、これを斟酌して決められる。 

本件:
AはBとは親族関係になく、生計を一にしたり、直接療養看護を尽くした者ではないが、Bの知的能力が十分でなかったのに、高齢になるまでBを雇用し、その稼働能力に見合う以上の給料を支給し続けた点に重きが置かれた
判例時報2431

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2020年3月29日 (日)

貸金の主体が争われた事案

東京高裁H30.4.18    
 
<事案>
Xが、Yに対し、貸金3000万円及びこれに対する遅延損害金の返還を求めた事案。 
 
<原審>
①本件契約書を受領した時期に関するXの供述に曖昧な点がある
②Xが借主をA社とする契約書に対して特に異議を述べていなかった

契約当日、A社の押印ある契約書原本及び読み上げ用の本件契約書の作成・交付があったというべきであり、Xは、Yとの間で、本件3000万円をA社に貸し付けることを合意したと認めるのが相当。
⇒Xの請求を棄却。
 
<判断> 
● Yは、契約当時、額面3000万円の自子宛小切手の交付と引換えに、本件貸付けにかかる契約書(本件契約書と同じ体裁で借主であるA社の押印がある原本)を交付したと主張
vs.
Yの供述(特に本件契約書に押印がない理由について不自然な供述)は明らかに変遷しており、不自然であって信用できない。
Yの前記主張に沿う内容のA社の従業員らの陳述・供述
vs.
他の証拠から認められる事実関係と明らかに矛盾し、到底信用できない。
 
以下の事情を総合すれば、本件3000万円の借主がY個人であったことが優に認められる

①Yは、Xから交付された額面3000万円の自己宛小切手を、契約翌日に取り立て、Y個人名義の口座(Yは、従前取引のない金融機関において、前記口座を同日開設した。)に入金⇒特段の事情のない限り、Y個人の取引とみるのが自然。
(Yは、A社名義の口座開設に必要な書類等を持参していなかったため、便宜的にY個人名義の口座を開設・入金したと弁明したが、取引経過に照らして不自然であるとして排斥された。 )
②A社が本件3000万円をB社に貸し付けたとは認められない。
③Y(代理人弁護士)は、契約締結から約5年9か月後、Xに対し、本件3000万円の支払債務を負担していないとする内容証明郵便を送付。
butその理由は、もっぱら本件3000万円が「投資」であったとする点に尽きており、行為(出資の受入れないし借主)の主体がY個人ではなくA社である旨の主張は一切していない。
④契約締結時を含む3期分のA社の各決算報告書にはXからの本件3000万円の借入金が計上されていなかったところ、Xから請求書が送付されたのを契機に、決算報告書に計上。
 
<解説>
契約前の事情(貸主と借主の人的関係、借入の経緯・目的等)、
契約時の事情(契約書その他の書面の有無・内容、契約締結時の状況等)
契約後の事情(資金の移動・利用の状況、返済・催促の状況、法人の場合の決算処理等)
等の考慮要素を総合して契約当事者を認定。 

判例時報2431

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2020年3月28日 (土)

被相続人に関する情報と法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」

大阪地裁R1.6.5    
 
<事案>
X1、X2は、国に対して当該各父の石綿による健康被害に係る国家賠償請求訴訟を提起し、和解により賠償金の支払を受けることを検討するために、
兵庫県労働局長に対し、当該各父にの死亡に係るそれぞれの母の遺族給付等に関する各調査結果復命書等の情報(「本件各情報」)の開示請求

兵庫労働局長は、それぞれ開示請求人が開示請求権を有していない旨の理由により、本件各情報を開示しない旨の決定(「本件不開示決定」)。

Xらが、本件各情報は行政個人情報保護法12条1項所定の「自己を本人とする保有個人情報」に当たるから、本件各不開示決定はいずれも違法であると主張し、本件各不開示決定の取消しを求めた。 
 
<判決>
● 本件各不開示決定はいずれも違法であり取消しを免れない⇒Xらの請求を認容。 
 
● 行政個人情報保護法の趣旨目的
ある情報が特定の個人に関するものとして同法12条1項にいう「自己を本人とする保有個人情報」に当たるか否かは、当該情報の内容と当該個人との関係を個別に検討して判断すべき。 (最高裁H31.3.18)
 
● 石綿製品の製造等を行う工場又は作業場の労働者が石綿の粉じんにばく露したことにより石綿肺等の石綿関連疾患にり患した場合における国の賠償責任について判示した最高裁H26.10.9を受けて、国は、石綿工場の元労働者やその遺族が国に対して訴訟を提起し、一定の要件(①一定期間に、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したこと、②その結果、石綿による一定の健康被害を被ったこと、③提訴の時期が損害賠償請求権の範囲内であること)を満たすことが確認された場合には、訴訟上の和解に応じて損害賠償金を支払うこととした(「本件救済枠組み」)。

本件救済枠組みでは、石綿工場の元労働者のみならず、その遺族(原則として法廷相続人)が当該元労働者の国に対する石綿による健康被害に係る損害賠償請求権の権利者となることが制度的に予定されている。

そうであるところ、
X1はP2の法廷相続人、
X2はP4の法定相続人
であり、
本件各情報には、
(1)P2及びP4の就労状況に関する情報、
すなわち、前記①の期間内にに、局所排気装置を設置すべき石綿工場内において、石綿粉じんにばく露する作業に従事したか否かを直接的に示す情報、
(2)P2及びP4の病状に関する情報、すなわち前記②の要件を満たす健康被害を被ったか否かを直接的に示す情報が含まれている。

本件各情報は、X1がP2から相続し、X2がP4から相続した、Xらの財産である、P2及びP4の国に対する石綿による健康被害に係る各損害賠償請求権の発生要件が充足されているか否かを直接的に示す個人情報という性質を有する。

本件各情報はXらの「自己を本人とする保有個人情報」に当たる。
 
<解説>
● 死者の情報が当該死者の遺族の情報にもなる場合とはどどのような場合か?

● 裁判例
❶東京高裁H11.8.23:
自殺した市立中学校の生徒の父が、個人情報保護条例に基づいて、前記中学校が前記生徒の死について他の生徒に書かせた作文の開示を請求。
親権者であった者が死亡した未成年の子どもの個人情報の開示を求めているという場合については、社会通念上、この子どもに関する個人情報を請求者自身の個人情報と同視し得るものとする余地もある
父に前記生徒に関する個人情報の開示を請求する資格が認められる

❷名古屋高裁H16.4.19:
母に係る市民病院の診療記録について、その死後に情報公開条例に基づく情報公開請求をした事案で、
死者はプライバシーの権利又は法的利益を享受する法的地位を有しない⇒そのプライバシーの保護に配慮する必要はない
②母の死亡の原因によって、その相続人である開示請求者が債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を取得することになるが、前記診療記録には前記損害賠償請求権の存否に密接に関連する情報が記録されていること等
前記診療記録が社会通念上開示請求者自身の個人識別情報にも該当する。

❸大阪高裁H25.10.25:
死亡した妹の「変死体等取扱報告」に記載された情報について、個人情報保護条例に基づいて開示を請求した事案において、
死者はプライバシーの権利又は法的利益を享受する法的地位を有しない⇒個人情報に係る当該個人が死亡した場合にjは、原則として、死亡した当該個人についてプライバシーの保護を配慮する必要はない
②死者の個人情報で、死者自身が「通常他人に知られたくないと望むことが正当であると認められるものをも含む」情報は、当該死者自身が相続人ら承継人との間の具体的関係に照らして「知られたくない」と考えるかどうかを通常は問題とする余地がない
類型的に、開示請求者が相続人であれば、特段の事情がない限り、当該死者の個人情報は、開示請求者本人のものと同視してよい。
判例時報2431

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2020年3月27日 (金)

公園条例に基づく公告がなされたことをもって都市公園法2条の2に基づく公告がされたといえるか(否定)


最高裁R1.7.18    
<事案>
①Xが、本件土地を公園の敷地として占有するY市に対し、本件土地につきXが所有権を有することの確認並びに所有権に基づく本件土地の明渡し及び賃料相当損害金の支払を求める本訴と、
②Y市が、Xに対し、本件土地につきY市が所有権を有することの確認及び所有権に基づく真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を求める反訴 

最高裁では、Xの本訴請求中、本件土地の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求の可否に関し、都市公園を構成する土地物件に対する私権の行使の制限を定める都市公園法32条の適用をめぐり、本件土地を敷地とする公園が都市公園法に基づいて設置された都市公園に当たるか否かが争われた
 
<原審>
都市計画区域内にある本件土地においては、公園として整備され、本件条例に基づき本件公園の名称、位置及び利用開始の期日が公告されており、都市公園法2条の2に基づく公告がされたといえる
⇒本件公園は都市公園に当たる
⇒Xの本訴請求中、本件土地の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求に係る部分を棄却。 
 
<判断>
都市計画区域内にある公園について、本件条例に基づく公告をされたことをもって、都市公園法2条の2に基づく公告がされたとはいえない。
⇒原判決中X敗訴部分を破棄し、
Xの本件土地の明渡請求及び賃料相当損害金の支払請求が権利濫用に当たるか否か等について、更に審理を尽くさせるため、同部分につき本件を原審に差し戻した。 
 
<解説> 
都市公園法:
都市公園を構成する土地物件についての私見の行使の制限、公園施設の設置・管理の許可制度、都市公園の占有の許可制度といった私人の権利に重大な影響を与える規定が適用。 
 
一般に、公共用物の成立には、原則として、
その物を一般公衆の使用に供することのできる形態(実体)を整えること(形体的要素)
これを公共用物として一般公衆の使用に供する旨の行政主体の意思的行為(公用開始行為)が必要。
公用開始行為の法的性質については、当該物件に公物性が付与され、各種の法的規律が発生⇒事実行為ではなく、行政行為の一種であると解するのが通説。
 
都市公園法:
都市公園の公用開始行為に関し、都市公園は、その管理をすることとなる者が、当該都市公園の供用を開始するに当たり、
都市公園の区域(❶)その他政令で定める事項を公告することにより設置されるものとする旨を規定。
その委任を受けた都市公園法施行令9条は、前記の政令で定める公告すべき事項を都市公園の名称(❷)及び位置(❸)、供用開始の期日(❹)と定めている。

都市公園についてはこれを構成する土地物件に対する私権の行使の制限等が予定⇒都市公園を設置するための要件として、その管理をすることとなる者において、
❶~❹を公告することにより、都市公園としての供用開始を明らかにし、その区域(❶)をもって都市公園法の適用対象となる都市公園の範囲を画することとした。
but
本件条例は、本件条例に基づく公園につき、配置及び規模の基準に関する規定や私権の制限(都市公園法32条)を始めとする私人の権利に重大な影響を与える規定等を置いておらず、また、その設置については、その名称、位置及び利用開始の期日を公告する旨を規定しているが、都市公園の場合とは異なり、その区域を公告することは予定していない。
判例時報2431

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2020年3月26日 (木)

東電福島第一原発業務上過失致死傷事件第1審判決

東京地裁R1.9.19    
 
<事案>
検察審査会の起訴議決⇒指定弁護士から起訴された 
 
<争点>
本件発電所に一定以上の高さの津波が襲来することについての予見可能性があったと認められるか否か
その前提として、どのような津波を予見すべきであったのか津波が襲来する可能性について、どの程度の信頼性、具体性のある根拠を伴っていれば予見可能性を肯認していいかが争点に。 
 
<判断・解説>
●予見の対象 
◎  予見すべき津波:
行為者の立場に相当する一般人を行為当時の状況に置いたときに、行為者の認識した事情を前提に、人の死傷の結果及びその結果に至る因果の経過の基本部分について予見可能性があたっと認められることが必要。
1号機から4号機までの主要建屋が設置された、小名浜港晃史基準面から10mの高さの敷地を超える津波が襲来して同敷地上のタービン建屋等へ浸入したことが本件事故の発生に大きく寄与⇒10m盤を超える津波の襲来が人の死傷の結果に至る因果の経過の根幹部分をなしている。

そのような津波が襲来することの予見可能性があれば、津波が本件発電所の主要建屋に浸入し、非常用電源設備等が被水し、電源が失われて炉心を「冷やす機能」を喪失し、その結果として人の死傷を生じさせ得るという因果の流れの基本的部分についても十分に予見可能

10m盤を超える津波が襲来することの予見可能性は必要であるが、
現に発生した10m盤を大きく超える津波が襲来することの予見可能性までは不要

◎ 予見の対象としての因果経過:
最高裁:
現実の結果発生の至る因果の経過を逐一具体的に予見することまでは必要ではなく、ある程度抽象化された因果経過が予見可能であれば、過失犯の要件としての予見可能性が認められる

下級審の裁判例の大勢:
概ね具体的予見可能性説に立った上、結果発生に至る経過の基本的部分について予見が可能であれば、予見可能性が認められる
 
●予見の程度 
◎ 津波襲来の可能性があるとする根拠の信頼性、具体性の程度について、
個々の具体的な事実関係に応じ、問われている結果回避義務との関係で相対的に、言い換えれば、問題となっている結果回避措置を刑罰をもって法的に義務付けるのに相応しい予見可能性として、どのようなものを必要と考えるべきかという観点から判断するのが相当。 

本件結果を回避するためには、
❶津波が敷地に遡上するのを未然に防止する対策
❷津波の遡上があったとしても、建屋内への侵入を防止する対策
❸建屋内に津波が浸入しても、重要機器が設定されている部屋への浸入を防ぐ対策
❹原子炉への注水や冷却のための代替機器を津波による浸水のおそれがない高台に準備する対策、
以上の全ての措置を予め講じておく必要があり、
❺これら全ての措置を講じるまでは運転停止措置を講じる必要があった。
と主張。
vs.
仮に被告人らが津波襲来の可能性に関する情報に接した時期から❶~❹までの全ての措置を講じることに着手していたとしても、本件事故発生前までにこれら全ての措置を完了することができたとは認められず、現に指定弁護士もそれが可能であったとの主張はしていない
本件で問われている結果回避義務は、平成23年3月初旬までに本件発電所の運転停止措置を講じることに尽きている

①本件で問われている結果回避義務が原発事故による重大な結果の発生を回避するためのものであることを考慮しつつ、
②平成23年3月初旬の時点において、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律の定める原子力施設の自然災害に対する安全性は、最新の科学的、専門的知見を踏まえて、合理的に予測される自然災害を想定した安全性であって、そのような安全性の確保が求められていたものであり、実際上の運用としても同様であった
③本件発電所の運転停止という結果回避措置それ自体に伴う手続的又は技術的な負担、困難性

本件発電所に10m盤を超える津波が襲来する可能性については、当時得られていた知見を踏まえて合理的に予測される程度に信頼性、具体性のある根拠を伴うものであることが必要
 
◎ 最高裁H29.6.12(JR福知山線脱線事故強制起訴事件)の小貫裁判官の補足意見:
このような注意義務ないし結果回避義務があるというためには、被告人らにその注意義務を課すに足りる程度の認識ないし予見可能性がなければならない
どの程度の予見可能性があれば過失が認められるかは、個々の具体的な事実関係に応じ、問われている注意義務ないし結果回避義務との関係で相対的に判断されるべきもの

予見可能性の結果回避義務関連性を指摘。 
 
●予見可能性の有無 
①予見可能性の前提となる事実関係を詳細に認定し、かつ、
②平成14年7月に文科省時地震調査研究推進本部が公表した「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(長期評価)の見解が、平成23年3月初旬の時点において客観的に信頼性、具体性のあったものとは認められない
③被告人ら3名は、条件設定次第では本件発電所に10m盤を超える津波が襲来するとの数値解析結果が出る又はそのような津波襲来の可能性を指摘する意見があるということは認識していたものの、それぞれが認識していた事情は、当時得られていた知見を踏まえ10m盤を超える津波の襲来を合理的に予測させる程度に信頼性、具体性のある根拠を伴うものであったとは認められない

被告人ら3名において、本件発電所に10m盤を超える津波が襲来することについて、本件発電所の運転停止措置を講じるべき結果回避義務を課すに相応しい予見可能性があったとは認められない
 
●情報収集義務(情報補充義務) 
指定弁護士:被告人らが一定の情報収集義務(情報補充義務)を尽くしていれば、10m盤を超える津波の襲来は予見可能
vs.
前記数値解析の基礎となった「長期評価」の見解が平成23年3月初旬までの時点においては客観的にみてその信頼性に疑義があったことや関係する学会の真偽状況等⇒更なる情報の収集又は補充を行っていたとしても、本件発電所に10m盤を超える津波が襲来する可能性につき、信頼性、具体性のある根拠があるとの認識を有するに至るような情報を得ることができたとは認められない
⇒予見可能性に関する前記判断は動かない。

業務分掌制の採られている東京電力において、一時的には担当部署に所轄事項の検討、対応が委ねられていたこと等

担当部署が情報収集や検討等を怠り、あるいは収集した情報や検討結果等を被告人らに秘匿していたというような特殊な事情も窺われない
被告人ら3名は、基本的には担当部署から上がってくる情報や検討結果等に基づいて判断をすればよい状況にあったのであって、被告人らに情報収集又は情報補充の懈怠が問題となるような事情は窺われない

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2020年3月24日 (火)

録音・録画記録媒体の実質証拠としての証拠能力

東京地裁R1.7.4      
 
<事案>
検察官:
平成29年11月14日午後3時42分頃から同日午後6時23分頃までの間の検察官による取調べにおける被告人の供述を録音・録画した記録媒体の複本を「介護士としての稼働状況、犯行にいたる経緯、犯行状況及び供述状況等」を立証趣旨として、証拠請求。 

弁護人:
本件取調べにおける被告人の供述は任意性を欠いており、本件記録媒体に証拠能力は認められない。
本件記録媒体は、証拠調べの必要性がなく却下すべきとの意見。

本決定:
前記証拠請求に対する決定。
裁判所は、公判前整理手続において証拠調べを行い、結論として、録音・録画記録媒体の一部につき、録画映像を除いた部分を証拠として採用
 
<判断>
●被告人の供述の任意性 
◎ 弁護人:
①本件取調べに先立つ11月13日午後0時49分頃から午後11時50分頃までに行われた警察官による被告人の取調べは長時間にわたるものであり、
被告人は、警察官から厳しく責められ「こうだったんだろう」と誘導されながら、それを認める供述をさせられている
②本件取調べはこのような警察官による取調べの影響を遮断することなくその影響下で行われている
⇒任意性なし。

◎ 判断:
本件取調べにおいて、暴行、脅迫その他の手段による供述の強要など被告人の供述の任意性に疑いを生じさせるような検察官の言動等は認められない。
警察官の取調べは、長時間にわたっている。
but
被告人の供述状況や供述態度、本件事案の重大性等
⇒取調べの時間の長さだけを捉えて当該取調べが任意捜査として許容される限度を逸脱していたと認めることはできない
but
当該取調べにおいて、被告人を威圧するような警察官の言動等

被告人に対して相当程度の精神的心理的圧迫を与え、警察官に迎合的な供述を引き出すおそれのある取調べ方法であった。
but
①前記の警察官の取調べの直後頃、本件記録媒体に関わる取調べを行った検察官が自分は警察とは別の組織、立場にあること等を説明した上、事件当日の出来事を大まかに確認する任意の取調べを短時間行っており、
その際、被告人が自分の記憶では被害者を浴槽に入れたまま目を離して放置したと覚えていると、一旦は警察官に話した供述を変遷させている。
②本件取調べは、その後の逮捕に伴う諸手続などを経た約15時間後に、東京地方検察庁の取調室において行われ、その取調べにおいて被告人が前日の自白内容にとらわれているような言動は見られず、警察官に対する自白を反復しているのではなかとの疑いは認められない。

本件取調べにおける被告人の不利益事実の承認又は自白には任意性を疑わせるような事情は認められない
 
●証拠調べの必要性・相当性 
◎ 弁護人:
記録媒体を実質証拠として使用することは、
①公判中心主義や直接手技に反する、
②供述の信用性判断において、被告人の供述態度に目を奪われて客観的な視点から分析が軽視される危険がある
③争点の拡散、審理の肥大化のおそれがある 
 
◎ 判断:
本件は、被害者の溺死に対する被告人の関与について争いがあり、検察官は本件の具体的な殺害方法につき被告人の捜査段階の自白以外によっては立証が困難であるとして、本件録音・録画記録媒体を請求。
本件取調べにおいて被告人の供述調書は作成されておらず、当該自白の立証には、その供述状況を録音・録画した本件記録媒体に代わるべき証拠は他に存在しない
その必要性が認められる。

①本件記録媒体には犯行状況についての自白を超える供述を含んでいる
②当該自白は信用性も争われる見込みであり、これを録画映像から認められる供述者である被告人の表情や態度などから判断することは、容易でないばかりか、直感的で主観的な判断に陥る危険性は高い、
③裁判員裁判

記録媒体の録画映像部分を公判廷で取り調べることは相当ではない。
 
●結論
・・・・前記時間帯の録画映像を除いた部分の限度において証拠として採用するのが相当。
 
<解説>
● 取調べの可視化⇒取調べを適正化を図るとともに、そこで作成された供述調書を任意性判断に活用⇒録音・録画記録媒体を、任意性立証に用いることは当然
but
犯罪事実等を証明する実質証拠として使用することについては、規定がなく、十分な検討もされてこなかった⇒議論。 
 
●任意性について 
同意なし⇒刑訴法322条1項に準じて証拠能力の有無が検討。
不利益事実の承認または自白に関しては「任意性」が要求され、この記録媒体自体の任意性が立証される必要。
 
●必要性・相当性について 
主な論点:
映像の持つインパクト(カメラ・パースペクティブ・バイアスなど)によって、冷静かつ客観的な判断が歪められる危険性にどのように対処するか
本来法廷で行われるべき事柄が取調室での捜査官主導の取調べ手続に移行してしまい直接主義、公判中心主義に逆行しているのではないか?

実質証拠とすることは基本的に慎重であるべきであるが、一律に判断するのではなく、記録媒体を証拠とすべき必要性とこの危険性等とを勘案して、必要性・相当性(広義の必要性と表現することもある。)を具体的事例に即して定めて行こうとの裁判所を中心とした実務の流れ。
判例時報2430

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2020年3月23日 (月)

違法収集証拠として尿の鑑定書等の証拠能力が否定された事案

大阪高裁H30.8.30      
 
<主張>
弁護人は、尿鑑定書等の証拠能力を否定すべき警察官の捜査の違法として
❶K1らが所持品の返還を拒否したこと、
❷K2らが多数で本件建物まで被告人に追随し、被告人の名誉を害した
❸K2らが、管理人の許可なく本件建物に大勢で立ち入り、被告人の居室を確認した後も留まり続けた
❹K2らが、物理的有形力を行使し、被告人の意思を制圧してドアを閉めることを断念させたこと
を主張。 
 
<原審> 

❶は職務質問に附随する措置として、
❷は任意捜査として
適法。 
❸は、管理者の承諾を得ることなく共用部分に立ち入った⇒違法
❹は、約10分間、有形力を行使しつつ被告人と押し問答をしたことにより、被告人らの住人の住居の平穏を害した⇒③の違法の程度を強める。
● but
①覚せい剤使用の相応にj高度が嫌疑があり、既に請求手続に入っていた強制採尿令状の執行のために、本件建物内に立ち入って被告人の居室や所在を把握しておく必要性が高かった
②警察官らに令状主義潜脱の意図は見られない、
③警察官らは、被告人と共に無施錠のドアから共用部分に入ったにとどまり、管理人不在時の立入禁止を明確に認識していたとは認められない

違法の重大性を否定して尿鑑定書等の証拠能力を認めた。
 
<判断>

❶❷について原判断を是認。
❸❹については、違法な強制処分に当たり、その違法は重大
違法捜査抑制の見地からも、尿鑑定書等の証拠能力を否定すべき。⇒ 
 

❸の本件建物への立入り:
共用部分は住人の居住スペースの延長で、住居に準ずる私的領域の性質を有する空間⇒管理人不在の間に共用部分に立ち入る行為は、現判決が認めた管理権侵害にとどまらず、被告人ら住人のプライバシーを侵害するもの。
警察官らは、被告人や住人らに断りもなく、大勢で本件建物に立ち入っており、建造物侵入に問われかねない行為。 

❹の被告人に自室ドアを閉めさせなかった行為:
①被告人が明確かつ強固に説得を拒んだ後も、約10分間押し問答を続け、ドアを手足で押さえる有形力を行使し、預かっている所持品の状態を終始確認してもらうなどと詭弁を繰り返して、ドアを開けさせることに固執⇒許容される説得の域を超えている。
②被告人が傘をドアに差し入れたのも、そのような状況に追い込まれたから⇒承諾があったとは到底いえず、警察官らの行為は被告人の意思を制圧するもの。
③ドアを閉めさせないようにしておく必要性・緊急性もない
❹の行為は、何らの必要性・緊急性もないのに、被告人の意思を制圧して、住居についてのプライバシーを侵害したものであり、住居そのものへの侵入と比肩するほどの違法性がある。

❸❹の行為は、令状なくしては許されない強制処分に当たり、違法。

①警察官らは、被告人から立ち入りに疑義を呈されながら、何ら再考の姿勢を示すことなく違法行為を継続し、単に令状の執行を容易にするため、被告人の意思を制圧して自室のドアを閉めさせず、令状発付までの約1時間半、本件建物内に留まって被告人の居室内の様子をうかがい、被告人の住居についてのプライバシーを大きく侵害している。
②住居についてのプライバシーの重要性や、警察官らの無配慮な態度等⇒その違法は重大。
③被告人の尿はこの違法行為を直接利用して得られたものであり、同行為は尿の押収を目的としたものであって、このような違法な手続により押収された尿の鑑定書等の証拠能力を肯定することは、その違法が警察官らの確信的な侵害行為によってもたらされた⇒違法捜査抑制の見地からも相当ではない。
 
<解説>

❸について:
本件建物は管理人が不在の夜間・早朝は外部者の立入りが禁止されていた
⇒共用部分であっても、管理者の承諾なく立ち入ることは管理権者の管理権を侵害
⇒憲法35条、刑訴法197条1項ただし書により、令状その他特別の法的根拠がなければ許されない強制処分の典型。 

本判決:
本件建物の共用部分は住人の住居に準ずる私的領域⇒❸の立入りは被告人を含む住人のプライバシーをも侵害したもの⇒原判決よりも違法性を重く評価。

GPS捜査に関する最高裁H29.3.15:
この規定(憲法35条)の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれる
GPS捜査が秘かにプライバシーを侵害することを可能にする強制処分であると判示

❹について:
強制処分の意義を「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為」とした最高裁に従い、
自室のドアを閉めさせないかった行為等は、被告人の意思を制圧して、住居についてのプライバシーを侵害した強制処分に当たると認めた。 
❹の違法判断の中で、行為の必要性・緊急性がなかったことに言及。
but
ある捜査方法が、相手の意思を制圧して重要な法益を侵害するものである限り、必要性や緊急性があっても、それはあくまで強制処分であって、無令状で行なえば違法
必要性・緊急性の点は違法の重大性の問題
判例時報2430

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2020年3月22日 (日)

鑑定の評価について、原審の手続きに審理不尽があるとされた事案

東京高裁H29.11.2    
 
<判断>
●原審としては、A鑑定(Aが作成した鑑定の経緯と結果を記載した書面は、原審においては、A証言により部分的に引用されたにすぎないが、控訴審においては、書面全体が証拠採用されたものと思われる。)が採用した異同識別法の科学的原理やその理論的正当性を更に解明するとともに、A鑑定の証拠価値やA証言の信用性を判断することが可能となるよう、A鑑定の正確性やこれを裏付ける事情等を明らかにするため、検察官に対してこれらの点に関して釈明を求めたり、必要な証拠調べを実施したりするなど相応の措置を取るべきであった
but
それらの措置をとらずにA証言を採証した原審の手続には、審理不尽の違法がある
⇒原判決を破棄して原裁判所に差し戻すのが相当。

●原判決の認定判断におけるA鑑定及びA証言の位置づけ:
A鑑定及びA証言は、原判決において、防犯カメラに映った人物の同一性を裏付ける証拠として採用されているほか、
原判決も自認する・・・とおり、被告人と犯人の同一性の認定に当たり、最も重要な証拠であると評価されている。 
A鑑定及びA証言にそのような証拠価値を認めるについては、A鑑定の科学的原理やその理論的正当性を解明するとともに、A鑑定の証拠価値やA証言の信用性を判断することが可能となるよう、A鑑定の正確性や、これを裏付ける事情等を明らかにすることが必要不可欠

●A鑑定で用いられた画像について、鑑定資料としての的確性に問題とすべき点はない。
検討の対象とすべきなのは、A鑑定が、異同識別の目的で、このような客観的な画像データをどのような方法によって評価して異同識別の結論を得ているかという点
・・・鑑定資料は客観的なデータなのであるから、前記のような分析・評価において、誰が行っても同一の結果がもたらされるような客観的な分析方法(結果の正しさについて検証可能な分析方法)が採用されており、かつ、そのような方法により得られた分析結果についての評価方法が、主観的なものではなく、客観的にみて信頼できるということになれば、そこで用いられた分析方法・評価方法は、客観性・信頼性を備えていることになろう・・・
 
<解説>
画像識別鑑定の信頼性については、つとに「同一である」といった識別力の評価については慎重な検討が求められるなどを指摘されてきた。 
本判決は、「司法研修所編・科学的証拠とこれを用いた裁判の在り方7」が科学的証拠の限界において論述した部分において、中谷宇吉郎・科学の方法等を参照しつつ、科学的かどうかを考える上では「再現可能性」が本質的な要素となっていると指摘しているのと同様の立場に立った上で、A鑑定を分析したものとであるとの評価が可能。
判例時報2430

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2020年3月21日 (土)

じん肺管理区分4⇒胃がん併発⇒肺炎で死亡で業務起因性(否定)

福岡高裁R1.8.22    
 
<事案>
Aの妻であるBが、Aの死亡は業務上の事由(じん肺)によるもの⇒労災法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を求めた⇒処分行政庁がじん肺と死亡との間に相当因果関係がないとして不支給決定⇒Y(国)に対して当該処分の取消しを求めた。 
 
<判断>
じん肺や胃がんの状態についての検討

死亡に至る機序について、
①Aの全身状態が急激に悪化してC病院に入院するに至ったのは、
従前からのじん肺による肺機能の低下や体力減退に加齢的な要因も加わり、全身状態としては芳しくない状況にあったところ、胃がんからの大量の出血が発生したことによるものと推測
②出血があったと考えられる時期に急激な悪化が見られた

こうした複合的な要因の中でも、その全身状態の悪化に胃がんからの出血が寄与した割合が大きいことは明らか

肺炎発症はじん肺や胃がんと直接関連するものではなく、全身状態の悪化により易感染症が高まり、招来されたと考えられる、
②上記のように、全身状態の急激な悪化の主たる要因が胃がんからの出血

肺炎の発症についても、胃がんからの出血が最も大きく寄与していた。

入院後に全身状態が回復せずに肺炎が遷延したことについて、
もともとAの体力がじん肺によって著しく減退していたことも相当程度寄与していた
but
上記のように、胃がんからの出血により全身状態が急激に落ち込んだことの影響が大きく、
じん肺はそれを持ち直すことを阻害した背景的な要因として評価されるにとどまる

Aの死亡原因となった肺炎は、
胃がんからの多量の出血が主たる要因となった急激な全身状態の悪化により招来されたものであり、じん肺の影響がこれを上回るものであるとは認められない

Aの死亡とじん肺との間の相当因果関係を否定
 
<解説>
●労基法施行規則35条・別表第1の2第5号は「粉じんを飛散する場所における業務によるじん肺症又はじん肺法・・・に規定するじん肺と合併したじん肺法施行規則・・・第1条各号に掲げる疾病」を、業務上の疾病と規定。
じん肺り患者に併発した胃がんや肺炎は、じん肺法施行規則第1条各号に掲げられていない。 
●一般に、業務起因性(業務と傷病等との間の相当因果関係)の判断は、当該傷病等が当該業務に内在する危険の現実化として発生したと認められるか否かによって判断するのが相当。

「業務に内在する危険の現実化」の有無は、業務上の有害因子がどの程度疾病の発症に寄与したかによって判断される。

危険責任の法理を出発点とし、業務に内在する危険の現実化を労災補償の根拠と捉える業務の原動力は、他の要因より相対的に有力な原因でなければならない
判例時報2430

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2020年3月20日 (金)

特許法102条2項、3項の損害額の算定

知財高裁R1.6.7   
 
<事案>
名称を「に参加炭素含有粘性組成物」とする発明に係る2件の特許権を有するXが、Yらに対し、Yらがそれぞれ製造販売する、顆粒剤とジェル剤のキットである炭酸パック化粧料は、前記各特許権に係る発明の技術的範囲に属する⇒特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償金の支払を求めた。
Xは、特許権102条2項及び同条3項による損害額を主張。
 
<規定>
特許法 第一〇二条(損害の額の推定等)
特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為を組成した物を譲渡したときは、その譲渡した物の数量(以下この項において「譲渡数量」という。)に、特許権者又は専用実施権者がその侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、特許権者又は専用実施権者の実施の能力に応じた額を超えない限度において、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
2特許権者又は専用実施権者が故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為により利益を受けているときは、その利益の額は、特許権者又は専用実施権者が受けた損害の額と推定する。
3特許権者又は専用実施権者は、故意又は過失により自己の特許権又は専用実施権を侵害した者に対し、その特許発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
4前項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、特許権又は専用実施権を侵害した者に故意又は重大な過失がなかつたときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。
 
<争点>
①特許法102条2項所定の利益の額
②特許法102条2項の推定覆滅事由
③特許法102条3項所定の実施に対し受けるべき金額の額 
 
<判断>
●特許法102条2項所定の利益の額 
同項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額:
原則として、侵害者が受けた利益全額であり、このような利益全額について同項による推定が及ぶ。

侵害の行為より受けた利益について侵害行為と相当因果関係のある利益に限定しない見解(全額説)

「利益」:
侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、
その主張立証責任は特許権者側にある。
 
●特許法102条2項の推定覆滅事由 
損害の一部または全部について、特許権者が受けた損害と相当因果関係が欠けることを主張立証⇒その限度で推定が覆滅される。

特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負い、
侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たる。

具体的には、
①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性)
②市場における競合品の存在:
競合品といえるためには、市場において侵害品と競合関係に立つ製品であることを要する。
③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)
④侵害品の性能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情:
侵害品における優れた効能や他の特許発明の実施といった事情から直ちに推定の覆滅が認められるのではなく、それが侵害品の売上げに貢献しているといった事情が必要。

従来、特許発明の「寄与率」による減額として議論されることの多かった、
特許発明が侵害品の部分のみに実施されている場合

特許法102条2項の推定の覆滅の事情と整理し、
侵害者がその主張立証責任を負うことを示した上で、その場合、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決すべき。
 
●特許法102条3項所定の受けるべき金銭の額 
同項は、特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定。
同項による損害は、原則として、侵害品の売上高を基準とし、そこに、実施に対して受けるべき料率を乗じて算定すべき。

平成10年法律第51号による改正において同項の「通常」の文言が削除された経緯⇒実施に対し受けるべき料率が通常の実施料率に比べて高額になるであろうことを考慮すべきとの一般論。

実施に対し受けるべき料率:
①当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、
②当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性、他のものによる代替可能性、
③当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様、
④特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等
訴訟に現れた諸事情を総合考慮して、合理的な料率を定めるべき。
判例時報2430

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