2018年11月12日 (月)

小学校教諭が行った指導・叱責行為等に対する損害賠償請求(否定)

さいたま地裁熊谷支部H29.10.23      
 
<争点>
①Y1が、X1に対し、給食後の食器汚れを確認した際、X1の背中に触れたり授業時間中にルール違反の有無につき問い質したりした行為が、体罰に該当するか、るいは、懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱するか。
②Y1が前訴においてXらの記入した連絡帳等を証拠提出した行為が、Xらのプライバシーを侵害する違法なものかどうか。
 
<規定>
学校教育法 第11条〔児童・生徒・学生の懲戒〕
校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは、文部科学大臣の定めるところにより、児童、生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし、体罰を加えることはできない
 
<判断>
●Y1の行為の違法性(争点①) 
教諭の行為が学教法11条の懲戒権行使の範囲内にとどまる限り違法性を有しないが、同条ただし書の体罰に該当する場合は違法と評価される。

教諭の行為が懲戒権の行使として相当と認められる範囲内のものかどうか、あるいは体罰に該当するかどうかは、児童の年齢、性別、性格、成育過程、身体的状況、非行等の内容、懲戒の趣旨、教育的効果、身体的・精神的被害の大小・結果等を総合して、個別具体的に判断すべき。

①Y1がX1の背中に触れた行為:
X1に身体的被害も全く生じていない極めて軽微な身体的接触⇒体罰に該当しない。

②Y1が、授業時間中、X1が通学路を守って帰宅したのかどうかを確認した行為:
確認自体に問題はないとしても、事実確認が時間を要したことで、他の児童からの批判にさらされていたX1の精神的負担は大きくなっており、Y1において配慮に欠ける面があったこは否定できない
but
不相当とまではいえない。

③Y1が、授業時間中、X1が鉄棒の練習をしたのかどうかを確認した行為:
他の児童も立たされている状況で、Y1から厳しい口調で発言を求められたことで、X1は相当な精神的負担を受けたと推認でき、Y1において配慮に欠ける面があった
but
全体を通してもれば、X1が他の児童との円滑な人間関係を築くことができるようになり、X1の成長につながると期待されたものと理解でき、そのような懲戒の趣旨や教育的効果不相当とまではいえない
 
●前訴における証拠提出行為の違法性(争点②)
前訴においてY1が連絡帳等を証拠提出したことは、Xらのプライバシーを侵害するおそれがある。
but
訴訟行為については、たとえ相手方のプライバシーを侵害しうるものであったとしても、正当な訴訟活動の範囲内にとどまる限り、違法性を阻却し、
当該訴訟行為が、事件と全く関連性を有しない場合や、訴訟遂行上必要な範囲を超えて、著しく不適切な方法、態様で主張立証を行い、相手方のプライバシーを著しく侵害するような場合に限って、違法性が認められる。

Y1の行為は違法とは認められない。
 
<解説>
体罰相手方に対して肉体的苦痛を与えるものをいう(福岡地裁H8.3.9) 

体罰に該当しなくても、教諭の行為が懲戒行為や教育的指導の限界を逸脱する場合には、違法とされることがある。

本件では、Y1の言動が、X1に精神的苦痛を与え、人格の尊厳を傷つける、いわゆる言葉の暴力に当たるかが問題とされた。
本判決は、X1が相応の精神的負担を受けたことは認めつつも、
児童が受けた被害の程度だけでなく、
懲戒の趣旨や教育的効果なども総合的に考慮して判断
する立場。

判例時報2380

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月11日 (日)

政務調査費の支出が違法⇒不当利得として返還請求することを市長に求める住民訴訟(一部認容)

仙台高裁H30.2.8      
 
<事案>
仙台市議会の会派及び議員が同市から交付を受けた平成23年度(平成23年9月分から平成24年3月分まで)の政務調査費のうち一部(合計約1810万円)が条例等により定められた使途規準に反して違法に支出され、前記会派及び議員に不当利得が生じている⇒Xが、市長であるYに対し、前期会派及び議員に対して不当利得の返還を請求するよう求めた住民訴訟。
 
<論点>
①政務調査費の支出の適法・違法の判断枠組み
②主張立証責任の分配 
 
<解説>
①について:
条例等により定められた使途規準に合致するか否かを適法・違法の判断の基準とし、
具体的には、政務調査費の支出と議員の調査研究活動との間に合理的関連性がない場合を使途規準に合致しない場合として違法とする裁判例が多い。

②について:
いわゆる一般的・外形的な事実説(使途規準に合致した政務調査費の支出がなされなかったことを推認させる一般的・外形的な事実が立証されたときには、適切な反証がされない限り、当該支出が使途規準に合致しないものであることが事実上推認される)に立つ裁判例が多い。
 
<判断>
Xの請求の一部を認容した原判決を、大筋で支持。 
 
<解説> 
●政務調査費の支出対象となる経費が(インターネット利用料など)定額のサービス利用料である場合の使途規準適合性について:
仙台市議会においてこれを具体化する趣旨で作成された内規である「仙台市政務調査費の交付に関する要綱」があり、
その8条は「政務調査費に係る経費と政務調査費以外の経費を明確に区分し難い場合には、従事割合その他の合理的な方法により按分した額を支出額とすることができるものとし、当該方法により按分することが困難である場合には、按分の割合を2分の1を上限として計算した額を支出することができる」と規定。

原判決:
同要綱は、それ自体が法規範性を有するものではないが、このような取扱いをすることは政務調査費の支出について議員の調査研究活動のための必要性を要求する地自法及び条例等に沿うものとして合理性があると考えられる

政務調査費の支出対象となった経費の一部が調査研究活動対象以外の目的で支出されたといえる場合には、前記の定めに従って按分した額を超える支出は、結局、使途規準に合致しないものと判断されるべき。

本判決もこれを共通の前提としている。

政務調査費の支出対象となる経費が定額のサービス利用料である場合:

原判決:
調査研究活動以外の目的で利用されることがあったとしても、調査研究活動を主目的として利用するとすれば目的外利用の有無にかかわらず一定額の支払をしなければならない

前記一般論の例外として、定額の利用料については、按分をしないでその全額を政務調査費から支出しても使途規準に合致しないとはいえない。

本判決:
各会派及び議員は、定額の利用料に係る経費を政務調査費から全額支出するか一切支出しないかのいずれかを選択しなければならないものではなく、経費を按分してその一部を政務調査費から支出することができる。

定額制か従量制等かの違いだけで異なる取扱いをする合理的な理由はない
 
●経費の一部について按分により政務調査費から支出することを認める前記ののような要綱の定めを実質的に使途基準適合性の判断に取り込んで支出の違法性を判断することの当否
これを取り込んだ場合に定額の利用料をさらにその例外とすることの是非
について、さまざまな議論があり得る。

判例時報2380

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月10日 (土)

交通事故で低髄液圧症候群の発症が認められなかったもの

横浜地裁H29.10.12    
 
<事案>
交通事故につき、
Xが、Yに対し、
民法709条、710条、自賠法3条に基づく責任がある
人身損害及び弁護士費用並びに交通事故発生日から支払済みまで年5分の割合により遅延損害金の支払を求めた事案。
 
<主張>
X:
本件交通事故はYの一方的な過失によるものであると主張するとともに、
本件交通事故による低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症、
本件交通事故発生日から約2年11箇月後の症状固定を主張 

Y:
①Xが雨傘を差していたこと、夜間であること、周囲に注意を払っていなかったと思われる
⇒15%の過失相殺を主張。
②Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症を否認
③症状固定時期は一般的な交通外傷の症状固定時期である交通事故から半年後が相当である
 
<争点>
Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の有無 
 
<判断>
①国際頭痛分類第3版β版の国際頭痛分類基準
②脳神経外傷学会基準
③厚生労働省研究班による脳脊髄益漏出症画像判定基準・画像診断基準
に照らし

①Xが事故直後の時期に訴えた頭痛の症状は起立性頭痛(頭部全体及び又は鈍い頭痛で、座位及び立位をとると15分以内に増悪する頭痛で低髄液圧症候群発症の1つのメルクマールとなると解されている)であるとは認められないこと
②起床時に頭痛が激しい旨医療記録に記載されたのは、事故から1年以上経過した時点であること
③RI脳槽シンチグラフィー検査(ラジオアイソトープ(RI)という放射性物質をせき髄内に穿刺し、体外に排出される過程を見て脊髄液が漏出する可能性を見出す検査)は、1時間後に明らかな膀胱集積がみられた場合に脳脊髄液の漏出を疑う所見とされているところ、投与後1時間で淡い膀胱の描出、3時間後RI膀胱内集積、24時間後RI残存率の低下で、1時間後の明らかな膀胱集積ではなく、また、2.5時間以内の集積ではない⇒厚生労働省研究班による脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準を満たさない
④明らかな骨折や神経学的所見は認められず、頭蓋内出血など明らかな頭部外傷所見はない
⑤3回にわたり、ブラッドパッチを受けているところ、一時的に頭痛が改善されたこともあったが、直後に頭痛が悪化したりしており、ブラッドパッチにより症状が改善されたとは認められない

Xの本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められない。

症状固定時期について:
本件交通事故による低髄液圧症候群の発症は認められないが、
Xの頚部痛等の症状が、他の一般的な交通外傷の事例に比べ、重いと考えられる

本件交通事故から約1年後のA診療所の最終通院の属する月末に症状固定に至ったとみるのが相当。

過失割合について:
Xは横断歩道が設置されていない場所で道路を横断⇒周囲の安全を確認する注意義務があり、一定の過失が認められる。
①現場が住宅街でスクールゾーンであること
②雨が降っていて雨傘を差して歩行したXについて、Yの発見が遅れたこと
③5月の午後8時55分頃であり、夜間で暗かったといえること
等を総合考慮

Yの90パーセント、Xの10パーセントの過失割合となる。
 
<解説>
交通事故の損害賠償請求訴訟において、被害者が低髄液圧症候群(脳脊髄液減少症)の発症を主張する事案は少なくない。 

脳脊髄液減少症:
脳脊髄液腔から脳脊髄液が持続的ないし断続的に漏出することによって脳脊髄液が減少し、頭痛、頚部痛、耳鳴、視機能障害、倦怠などさまざまな症状を呈する疾患と定義される。

低髄液圧症候群等の診断基準:
国際頭痛学会が
①平成16年に公表した国際頭痛分類第2版、
②平成25年に公表した国際頭痛分類第三版β版
③日本脳神経外傷学会が提案した、外傷に伴う低髄液圧症候群の診断基準
④厚生労働省の研究班が平成23年に公表した「脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準」
⑤脳脊髄液減少症ガイドライン作成委員会が作成した脳脊髄液減少症ガイドライン2007等
がある。

本件において、②③④は一定の信頼性を有する基準と解されるとして、これらにより判断してXの低髄液圧症候群の発症を認めなかったもの。

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 9日 (金)

弁護士の相手方弁護士に対する名誉毀損等の不法行為(肯定)

東京地裁H29.9.27      
 
<事案>
弁護士が民事訴訟、家事調停の代理人として、相手方の代理人弁護士に対して弁護士法違反、弁護士倫理違反等の内容の弁論期日における発言、準備書面の記載・陳述をしたことにつき、名誉毀損、侮辱、業務妨害に係る不法行為責任の成否が問題になった事案。 
 
<争点>
弁論期日における発言の有無、発言の名誉毀損等の該当性、各準備書面の提出・陳述の名誉毀損等の該当性、違法性阻却の成否、損害・金額 
 
<判断>
本件弁論期日後間もなく作成されたXの作成に係る書面(報告文書)、弁護士日誌等の記載が信用でき、Yの供述を排斥して、Xの主張に係るYの発言を認定。 

本件発言がXの社会的評価を低下させる
準備書面の各記載もxの社会的評価を低下させる
(業務妨害の主張についてはいずれも排斥)

違法性阻却については、
本件発言について全て否定し、
準備書面の記載等につき一部肯定

本件発言の慰謝料として30万円
訴訟の準備書面の記載等の慰謝料として50万円
調停の準備書面の慰謝料として30万円
弁護士費用11万円
を認め、請求を一部認容。

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 8日 (木)

骨髄移植手術を受けた患者が脳梗塞を発症して死亡。看護師の過失との因果関係を否定。

大阪高裁H29.2.9      
 
<事案>
Pの父母であるX1とX2は、Y附属病院の医師の過失により、免疫抑制剤であるプログラフを過剰投与され、その副作用により脳梗塞を発症して死亡したと主張⇒Yに対して、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を請求。 
 
<原判決>
Xらの請求を棄却 
   
Xらは控訴。
併せて、Y附属病院の看護師の過失、Y附属病院自身の過失の主張を追加するとともに、
適切な医療を受けておれば、その死亡した時点においてなお生存していた可能性等を失い、また、適切な医療を受けることについての期待権を侵害されたとして、不法行為に基づく損害を予備的に追加主張
 
<判断>
プログラフの過剰投与があったことは明らか。
but
①鑑定によれば、過剰投与による脳梗塞の発症の可能性は否定できないものの、プログラフの量は、副作用としての脳梗塞を発症するだけの条件が十分であったとまでは認めることができないし、
プログラフの投与が原因とされる脳梗塞の発症例が多いということはできない

過剰投与と脳梗塞発症との間に相当因果関係を認めることは困難。 

Pの全身状態の悪化等からすれば、過剰投与がなかったからといって、脳梗塞の発症を回避したり、死亡の結果を回避したりすることができる相当程度の可能性があったということはできない
④過剰投与の発生について過失が認められるが、Y附属病院の医療行為が著しく不適切であったということはできない

Yの損害賠償を否定した原判決は結論において相当
 
<解説>
因果関係の立証について、

最高裁昭和50.10.24:
訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、
経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり、
その判定は、通常人が疑を差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りる

①プログラフは、種々の移植における拒絶反応の抑制に適応するが、これを服用すると、脳梗塞等を発症し、致死的な経過をたどることがあるとされ、
本剤を移植で使用するときは、免疫抑制療法及び移植患者の管理に精通している医師の指導のもとで行わなければならないとされている。
②鑑定でも、過剰投与により脳梗塞を発症した可能性を否定できないとされている。
過剰投与と脳梗塞との因果関係はかなり微妙

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 7日 (水)

自筆証書遺言の有効性の判断と動画の実質的証拠能力

東京高裁H29.3.22      
 
<事案>
XとYは、被相続人Aの法定相続人。
Aは、平成26年7月に死亡。
Xが、Yに対して、自筆証書遺言が偽造されたもので法定の要件を各ため無効⇒遺言無効確認請求訴訟を提起
 
被相続人Aは、株式及び不動産を含む財産一切をXに相続させることを内容とする公正証書遺言を平成24年4月19日に作成。
AがYに対して全財産を相続させることを内容とする自筆証書遺言(作成日は平成25年2月8日)があり、Yの申立てにより遺言書検認手続を行われた。
 
<争点>
本件遺言の作成日に撮影された動画(本件動画)について、その証拠能力及び証拠力をどのように考えるか。 
 
<判断>
●本件動画の証拠能力:
Yが、裁判所やXを欺罔する意図をもって本件動画を加工、編集した事実を認定することはできない⇒証拠能力を否定すべきではない

●実質的証拠力:
本件動画に顕れた被撮影者(被相続人A)の言動、遺言書や動画の保管状況及びこれに関する撮影者(Y)の説明の合理性その他諸般の事情を総合して判断すべき。

①本件動画には、後日の証拠となることが意識されて新聞が何度も映し出されているのに、Aが自書、押印する動作が全く撮影されていない
②添え手を含む何らかの補助を受けて書かれた可能性は否定できない
③公正証書遺言の内容を変更する事情が何ら明らかになっていない

Aが本件遺言を自書、押印したものとは認めず、本件遺言は無効

<解説>
動画は、準文書として扱われ(民訴法231条)、その実質的証拠力も文書に準じて判断されることになる。
文書の実質的証拠力は裁判官の自由心証によって決せられる

動画が証拠として提出された場合には、その内容について、裁判官の自由な心証によって判断することができる。 

民訴法 第231条(文書に準ずる物件への準用)
この節の規定は、図面、写真、録音テープ、ビデオテープその他の情報を表すために作成された物件で文書でないものについて準用する。

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 6日 (火)

通信制限に関する広告及び説明が重要事項の不実告知に当たる⇒消費者契約法4条1項による取消しが認められた事例

東京高裁H30.4.18      
 
<事案>
無線通信事業者であるYらが、本件の契約料金プラン(「本件料金プラン」)において採用した通信制限の方法は、ユーザーが使用した通信料が一定の値(3日で3GB制限)を超えることを、そのユーザーに対する速度制限の発動条件(トリガー)とし、発動後24時間程度の間、通信速度を低下させるといもの。 

<問題>
通信制限の必要性そのものではなく、通信制限の存在及び内容(ユーザーの利便を損なう程度)が、販売の際に消費者に分かりやすく適切に説明されたかどうか
適切な説明がなかったとすればそれが民法96条の詐欺又は消費者契約法4条1項の重要事項の不実の告知に当たるかどうか
 
<主張>
Y1と本件料金プランの契約をした消費者であるXは、
通信サービスを使用すると、Yらの広告や契約時の説明と異なり、通信制限を受けることが多く、通信制限下では使いものにならないと主張

民法96条又は消費者契約法4条1項に基づき、契約を取り消した上で、
支払済みの契約金の返還等を求めた
。 
 
<原審>
請求棄却。
 
<判断>
請求を認容。 
Yらは、本件料金プランにつき、広告中には3日3G制限が発動される場合の具体例や3日3G制限発動後の通信制限下での具体的な使用状況は記載せず、
3日3G制限の存在のみを豆粒のような文字で記載して、できるだけ3日3G制限の存在に気付かせずに、顧客を販売店に誘引しようとした。

Yらは、販売店においては、重要事項説明書の3日3G制限の説明(概略、直近3日間の通信料合計が3GB以上となると通信速度を翌日にかけて制限する場合があるというもの)を棒読みし、3日3G制限が発動される場合の具体例はYouTubeを標準画質で見ることができるとだけ説明して販売。

本件料金プランの広告及び店頭説明は、高速、通信量制限ないし、使い放題という利便性のみを強調し、通信制限の存在を目立たせないようにしており、
サービス(特に通信制限時)の水準が一部のヘビーユーザーのニーズに合わないことの説明がなく、
通信制限のトリガーを引かないためには通信料を自主規制せざるを得ないこと、通信料の多い使用方法の具体例及び通信制限下での通信速度等の通信状況の具体的内容の説明もない


Xがこれら通信制限の実情を知らされていれば契約締結はなかったもので、重要事項についての不実の告知にあたる。

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 5日 (月)

病院の患者に(第三者が医師に交付した患者の)資料を開示しないことが正当化された事例

東京高裁H29.8.31      
 
<事案>
患者が病院に対して、第三者が交付した患者の資料につき、個人情報保護法25条1項に基づき、開示を求めた。 
Xは、平成21年から平成22年にかけて、Yの運営するA病院(精神科)で診察を受けた者。この間、Xの友人であるBが、A病院を訪れて医師に対し、Xの病状に関する資料を交付。
その後、Xは、Bを告訴する目的で、Yに対し、本件持参資料の記録謄写の申請⇒Yは、Bの利益を害するおそれがあるとして、本件持参資料の写しを交付しなかった。
⇒Xは、Yに対し、本件持参資料の開示を求めて提訴。

 
<争点>
Yが開示をしないことが、改正前の個人情報保護法25条1項1号に定める「第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合」に該当するか? 
 
<原審>
Xの請求を棄却。
厚生労働省策定の「診療情報の提供等に関する指針」(平成15年9月12日)8項によれば、
診療情報の提供を拒みうる場合として、
診療情報の提供が第三者を害するおそれがあるときを挙げ、
その想定される事例として、患者の家族や関係者が医療従事者に患者の状況等について情報提供を行っている場合に、
これらの者の同意を得ずに患者自身に当該情報を提供することにより、
患者とその家族や関係者との間の人間関係が悪化するなど、これらの者の利益を害するおそれがあるときを掲げている
ことを指摘。

本件持参資料が開示されて、Xの症状に関するBの認識を知ることで、XがBに対して悪感情を募らせ、既に悪化しているXとBとの間の人間関係がさらに悪化して、Bの利益を害するおそれがある
⇒本件開示請求は、改正前の個人情報保護法25条1項1号の開示しないことができる事由に該当

 
<判断>
原審判断を是認。 

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 4日 (日)

大阪市長に対するメールの公開請求の事案

大阪高裁H29.9.22      
 
<事案>
大阪市情報公開条例2条2項:
同条例における「公文書」を、
「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録であって、当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が保有しているものという」と規定。 

Y(大阪市)は、
大阪市長が職員との間で、いわゆる庁内メールを利用して1対1で送信した電子メールについて、
①公用パーソナルコンピュータの共有フォルダで保有しているもの
②紙に出力したものを他の職員が保有しているもの
③当該1対1メールの内容を転送先の公用PCで保有しているもの
については、公開請求の対象となる公文書に該当し、
その余のものは公文書に該当しないとの取扱いをしている。

Xは、同条例に基づき、大阪市長に対し、同市長とYの職員との1対1メールのうち、Yにおい公文書として取り扱っていないものの公開を請求
⇒大阪市長は、公開しない旨の決定

 
<原審>
本件文書の中には、同条例2条2項所定の公文書に該当する文書が含まれている⇒本件非公開決定は違法。 

大阪市情報公開条例2条2項の解釈及び「組織的に用いるもの」に該当するか否かの判断基準について、情報公開法2条2項に関するものと同旨の解釈及び判断基準を採用
①大阪市長と職員との間で職務に関してやり取りされたものである以上、すべからく組織共用文書となると解するものではない
but
メールである以上、1対1メールであっても、その作成及び利用について大阪市長及びYの職員が送信者又は受信者として関与しており、一方当事者の廃棄の判断にゆだねられているとはいえず、組織として保有するものに該当することも十分あり得る
③大阪市長と職員との間の1対1メールが職務上の指示又は意見表明に利用される場合、組織において業務上必要なものとして利用又は保存されているということができる場合があり、
証拠に表れた前市長と職員との間のメールの利用の実態に鑑みれば、1対1メールがこのように利用されていないということはできず、本件文書の中に公文書に該当するものがあったということができる


本件非公開は違法
 
<判断>
原審判断を是認 
 
<争点>
本件文書が同条例2条2項の「組織的に用いるもの」に該当するか否か 
 
<解説> 
同条例の公文書に関する定義は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(「情報公開法」)2条2項における行政文書の定義と同旨。 

情報公開法 第2条(定義)
2 この法律において「行政文書」とは、行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう。以下同じ。)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう。ただし、次に掲げるものを除く。
一 官報、白書、新聞、雑誌、書籍その他不特定多数の者に販売することを目的として発行されるもの
二 公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)第二条第七項に規定する特定歴史公文書等
三 政令で定める研究所その他の施設において、政令で定めるところにより、歴史的若しくは文化的な資料又は学術研究用の資料として特別の管理がされているもの(前号に掲げるものを除く。)

同条項の立法過程においては、
①決裁、供覧等の文書管理規程上の手続要件で対象文書の範囲を画することは適切ではない
②職員の個人的メモなど、組織としての業務上の必要性に基づく保有しているとは言えないものまで含めることは、法の目的との関係では不可欠なものではなく、法の的確な運用に困難が生じたり、適切な事務処理を進める上で妨げとなるおそれもある

職務上作成・取得と組織共用・保有が要件となった。

組織共用・保有
作成又は取得に関与した職員個人の段階のものではなく、組織としての共用文書の実質を備えた状態、すなわち、当該行政機関の組織において業務上必要なものとして利用・保存されている状態のものをいう。

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2018年11月 2日 (金)

地方公共団体に勧告の義務があることの確認を求める訴訟の確認の利益の有無(否定)

東京高裁H29.12.7      
 
<事案>
控訴人は、本件給食センターは本件地区計画において定められた地区整備計画に違反して建築が許されないものであるにもかかわらず、訴外会社からの建築の届出に対し、被控訴人が都計法58条の2第3項に基づく勧告をしなかったとして、
被控訴人をして同項に基づき必要な是正措置を執るよう勧告する義務があることの確認を求める訴えを公法上の当事者訴訟として提起。 

ここで求める勧告の内容は、
当初の時点では、給食センターの建築が未完成⇒「本件給食センターを建築しないよう勧告する義務」
平成29年8月に建築が完成⇒
控訴審段階では、
主位的に「本件給食センターの建物を除却するよう勧告する義務」があることの確認
予備的請求として「本件給食センターの操業に関し、排出させる油煙等の量等を常時計測し、従来維持されていた環境より栗木マイコン地区の環境が悪化するおそれが生じたときは工場の操業を一時停止するなどの措置を執るよう勧告する義務」のあることの確認。
 
<争点>
①行政指導にすぎない「勧告」義務があることの確認を求める本件訴え(公法上の当事者訴訟)に確認の利益があるといえるか
②控訴人の求める内容の勧告をする義務を被控訴人(川崎市)が負うといえるか(被控訴人に勧告をするか否か及び勧告内容について裁量があるか、あるとして本件で被控訴人に裁量権の逸脱濫用が認められるのか) 
 
<規定>
都市計画法 第58条の2(建築等の届出等)
3 市町村長は、第一項又は前項の規定による届出があつた場合において、その届出に係る行為が地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告することができる。
 
<一審>
●訴えを却下 
 
●傍論として、「被告(被控訴人)が訴外会社に対し、都計法58条の2第3項に基づき、本件給食センターの建築をしないよう勧告する義務を負っていると認められるか否か」
都市計画の決定の判断は、政策的・技術的な見地から行政庁の広汎な裁量に委ねられているところ、同項に基づく勧告をするか否かの判断も、同様に政策的・技術的な見地からの行政庁の広範な裁量に委ねられている

勧告の不行使が裁量権の行使として違法になるのは、法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下においてその不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合に限定される。

行政指導としての勧告の性質
⇒勧告しないことが「許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠く」と認められるためには、「相手方が勧告に従うことについての高度の蓋然性がある場合であることが必要」
本件で勧告をしなかったことについての裁量権の逸脱濫用はない
 
<判断> 
●都計法上、同法58条の2第3項の規定による市町村長の勧告については、相手方に当該勧告に従うことを義務付ける規定はなく、勧告に従わないことに対する罰則や行政上の制裁措置は設けられていない
⇒当該勧告に法的効力はなく、当該勧告は行政指導としての性質を有するものと解することができる。 

勧告による指導の内容が実現されるか否かは当該勧告を受けた相手方の任意の協力が得られるか否かに委ねられる(行手法32条1項)行政庁が当該勧告をしたとしても、相手方がこれに従うことが確実とはいえず、本件給食センターの建築を防止するという控訴人の目的が直接的に達成されるわけではない。

①訴外会社と被控訴人との間には、本件給食センターの建築及びその後の給食事業の実施の委託につき契約関係があり、この契約関係は、本件敷地に本件給食センターを建築し、操業することが可能であること、及び、本件地区計画の存在により契約内容が左右されないことを前提として成立したもの
②都計法58条の2第3項の勧告は、訴外会社に対し、前記契約上の債務とは別に、本件地区計画への適合性を担保するための措置を求めるものであり、訴外会社が任意にこれに従う可能性の低いことは明らか
他方で
③本件給食センターの操業により控訴人が財産的被害を受けるというのであれば、当該被害又はその発生のおそれの存在につき主張立証した上で、不法行為等に基づき、訴外会社に対し本件給食センターの操業差止めを、又は被控訴人に対し、本件給食センターへの委託に係る給食事業の差止めを求める民事訴訟を提起する手段が存在し、これに勝訴すれば、直接的に控訴人の目的を達成することができる。
予備的請求についても、本件地区の環境が悪化するおそれが生じた場合に本件給食センターの操業を一時停止すること等を勧告の内容とするもの⇒訴外会社が当該勧告に従う見込みがあるとはいえない。

本件において、被控訴人に勧告義務があることの確認を求めることは、紛争の解決に有効適切であるとは認められない⇒本件訴えは、確認の利益を欠くとして、本件訴えを全部却下。
 

①本件給食センターが本件地区計画に適合しないという事態が生じたのは、被控訴人が、自らの事業の立地として、既存の被控訴人所有地から本件敷地を選択した結果であり、
②当該選択は、主として被控訴人自身の事情(財政面の制約等)によるもの

このような選択の結果、前記不適合を自ら惹起した被控訴人が、都計法58条の2第3項の勧告に関し広範な裁量を有するといえるかについては疑問の余地がある。 
 
<解説> 
●確認の利益一般
確認の訴えの利益は、一般的には、原告が提示した訴訟物たる権利関係について、確認判決をすることが、原告の権利又は法律関係に対する現実の不安・危険を除去するために、必要かつ適切な場合に認められる

①確認の訴えは、権利関係の存否を観念的に確定すること通じて紛争を解決すると同時に、将来の派生的紛争を予防しようとするもの。
⇒その性質上、権利の強制的実現の裏打ちがない
確認の訴えの対象は論理的には無限定

当該紛争について、権利の確認という紛争解決手段が有効適切に機能するかという実効性及び
解決を必要とする紛争が現実に存在するかという現実的必要性
の観点から、
確認の利益の存否を吟味・検討することによって、
紛争解決にとって無益な確認の訴えを排除して、制度効率を維持ないし高める必要がある。

その観点から、確認の利益を訴訟要件とされている。
 
●地区計画と都計法58条の2第3項の勧告
地区計画の地区整備計画においては、建築物の敷地、構造、建築設備、又は用途に関する事項が定められる(都計法12条の5第7項)が、
地区計画の区域内において建築行為を行おうとする場合の地区計画適合性を担保するため、
建築行為を行おうとする者は、当該行為に着手する日の30日前までに市町村長に届出を義務付け(都計法58条の2第1項)、
市町村長は、届出内容を審査した上で、それが地区計画に適合しないと認めるときは、その届出をした者に対し、その届出に係る行為に関し設計の変更その他の必要な措置をとることを勧告(同条3項)。

建築行為が都計法29条1項の開発許可を要する場合に当たるときは前記届出を不要とし(都計法58条の2第1項5号)、適合性は開発行為の許可の際に審査するもの(都計法33条1項5号)としているし、
市町村の条例において、地区計画の内容として定められた建築物の敷地、構造、建築設備又は用途に関する事項を取り込み、制限として定めた場合(建基法68条の2)には、地区計画適合性は建築確認の際に審査される(建基法6条)。

開発許可を要する場合や地区計画で定められた事項が条例で制限として定められた場合を除くと、
地区計画適合性は、地区計画に適合しない建築行為の届出に対し、市町村長が是正の勧告をするという形で担保していくというのが都計法の制度設計になっている。


この「勧告」は、行政指導の一種であり、勧告に従わない場合に氏名を公表するということも制度的には予定されていない。
市町村長は、それ以上の権限を有しない。
開発許可を要する場合や条例に取り込まれた場合を除くと、地区計画適合性は勧告という相手方の任意の協力がなければ実現しないやわらかい手段によって担保。
 

最高裁の判例には、行政指導の勧告を抗告訴訟の対象になる処分と捉え、抗告訴訟のルートに乗せたものもある(最高裁H17.7.15)。

行政指導は相手方の任意の協力を求めるものであるが、事実上それに従わせる力が働くことは公知の事実

最近の行手法の改正において
「違法な行政指導の中止の求め」(36条の2)
「行政指導の求め」(36条の3)

の制度が設けられた。
これを訴訟の場面でみると、
行政指導としての勧告は、原則として抗告訴訟の対象となる処分に当たらない

公法上の当事者訴訟としての確認の訴えを利用して、
行政指導に従う義務のないことの確認とか、行政指導をする義務のあることの確認という訴訟形式で争うとうことが考えられる。

行訴法の改正で同法4条の公法上の当事者訴訟に「確認の訴え」が明記された点も、この議論の1つの支えになり得る。

行政指導というのも、任意の協力を求めるという建前はともかく、事実上それに従わせる力がある
⇒その中止を義務付けたり、行政指導するように義務付けることは、紛争の解決方法として取り上げるに値する。
訴訟の場では、それは公法上の確認の訴えという形式になり、これが紛争解決の方法として有効適切と捉えられる余地もある

判例時報2379

大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文)HP
 真の再生のために(事業民事再生・個人再生・多重債務整理・自己破産)用HP(大阪のシンプラル法律事務所(弁護士川村真文))

 

| | コメント (0) | トラックバック (0)

«代表取締役に対する取締役会の招集通知を欠いたが、取締役会決議の結果に影響がないと認められるべき特段の事情があるとして、決議が有効とされた事例