2017年10月22日 (日)

薬事法2条14項に規定する指定薬物を所持する罪の故意の有無(肯定事例)

福岡高裁H28.6.24      
 
<事案>
薬事法(平成25年法律第84号による改正前のもの)2条14号に規定する私的薬物所持の事案。 
被告人は、所持していた指定薬物含有の植物片(「本件薬物」)について、危険ドラッグであったとの認識はあるが、公然販売していた販売店の店員から合法だと告げられて、そう信じており、指定薬物であることの認識はなかったとして、故意が争われた
 
<判断>
被告人は、①本件植物片がいわゆる危険ドラッグであることを前提に購入所持していた上、②危険ドラッグの危険性や取締りの強化は十分承知している
指定薬物として取締りの対象に入る可能性を認識していた。
 
<解説>
●判例:
故意の成立に必要な事実の認識の範囲は、当該構成要件の該当事実そのものであり、
その一部である違法性の意識を喚起しうる範囲の事実を認識していることは故意の成立を認める証拠に止まる

構成要件に該当する自然的事実を認識しているだけでは足りず構成要件に該当するとの判断を下しうる社会的意味の認識が必要
but
判例は、行政取締り法規違反の罪について、必ずしも統一的には理解できない判断を示しているといわれている。

法規の制定によって禁止される対象が決まり、構成要件該当の事実認識だけでは、一般人には行為の違法性を知り得ない場合が多い(前田)。

判例の立場について:
違法性を喚起しうる一部の事実を認識していたことと行為当時の状況をあわせて考慮すると、少なくとも未必的、概括的には構成要件該当事実を認識していたと認定できる場合⇒その錯誤は法律の錯誤
自然的な意味での事実の認識は存在していたものの、それが構成要件事実に当たるという意味の認識を妨げる特異な事情が介在していたため、故意の成立に必要な程度に事実の認識があったとは判断できない⇒事実の錯誤
 
●本判決:
規制対象となりうる薬物である旨の実質的違法性の認識があり、
指定薬物が含有されていないと信じた合理的な理由がない場合には、
指定薬物の故意に欠けるところはない。 

本件にあっては、
一般人の目からみると、
当該薬物が規制されるに足りる薬理作用を有するいわゆる危険ドラッグ、あるいは、幻覚等の作用を有する有害な薬物であるという認識はあった。

当該薬物を所持することが犯罪に該当すると判断できる社会的な意味の認識、換言すれば、一般人の目からみた「しろうと的認識」(平野)に従って、犯罪事実の認識に欠けるところはない
but
そのような認識を有していたとしても、責任ある公的な立場の者あるいは薬物に関する専門家から、根拠を示すなどして、当該薬物が指定薬物ではないというような説明を受けたなどの状況があれば、故意に必要な事実認識は否定されるものと解される。

判例時報2340

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2017年10月21日 (土)

けんか闘争、自招侵害等の観点と正当防衛の成立(肯定事例)

さいたま地裁H29.1.11      
 
<事案>
被告人は、犬を連れて散歩していた際、以前から被告人を見かけては怒鳴ったり警察に通報したりしていたBが自転車に乗って近付き、自転車に跨ったまま被告人の前に立ち塞がった
⇒どいて欲しいと告げたがBが応じない⇒Bをどかせるためその自転車前輪を2、3回、さほど強くない力で蹴った(自転車の足蹴り行為)⇒突然、Bは、被告人の顔面を手拳で殴打し、その後も何度か殴りかかってきた(Bによる殴打行為)⇒被告人は両手でガードしたり、Bに向かって足を前に出したりした(Bに対する足蹴り行為)⇒その後もBによる殴打行為が止まなかった⇒被告人が右手を突き出したところその顔面に当たり(本件暴行)、Bを転倒させて加療約6か月間を要する急性硬膜下血腫、脳挫傷等の傷害を負わせた。 
 
<争点>
本件暴行について、
①けんか闘争の一環として行われたものといえるか
②被告人が自ら招いた侵害(自招侵害)に対して行われたものとして、反撃行為に出ることが正当とされない状況にあったといえるか 
 
<判断>
●けんか闘争について 
①自転車の足蹴り行為は被害者の進路を妨害しようとするBにどいてもらうための牽制・威嚇の趣旨
②その後のBに対する足蹴り行為についても、あくまでBによる殴打行為に対して被告人が防戦して自己の身体を防衛するという状況にとどまる

本件暴行は、けんか闘争の一環の行為であるとはいえない
 
●自招侵害の点について 
被告人が自転車の足蹴り行為に至ったのは、Bの挑発的・誘発的行為も相応の原因になっており、被告人ばかりが大きく責められるべきではない
その後のBによる殴打行為は自転車の足蹴り行為に比べて量的にも質的にも上回っている

一般の社会通念に照らし、Bによる殴打行為が被告人による自転車の足蹴り行為に触発された一連、一体の事態としてなされたとしても、これに対して被告人が反撃に出ることが正当とされ得ない状況にまでは至っていない


本件暴行は、けんか闘争、自招侵害のいずれの観点からみても、正当防衛状況(急迫不正の侵害)の下における行為と認められるとして、正当防衛の成立を認め、無罪。 
 
<解説>
●けんか闘争について
最高裁昭和23.7.7も、闘争の過程を全般的に観察した結果、正当防衛の観念を入れる余地があるない場合があると説示
⇒けんか闘争と認定されれば正当防衛が成立しないと判示しているわけではない。(最高裁昭和32.1.22)

けんか闘争か否かで正当防衛の成否が直ちに決まる訳ではなく、結局は、「闘争」を全般的に検討する必要があり、けんか闘争を独立の争点とした争点整理には議論の余地。 
 
●自招侵害について 
最高裁H20.5.20:
傷害被告事件について、
相手方から攻撃されるに先立って暴行を加えていた被告人について、
相手方の攻撃は①被告人の暴行に触発された、②その直後における近接した場所での一連一体の事態ということができ、被告人は不正の行為により自ら侵害を招いたものといえる

相手方の攻撃が被告人の暴行の程度を大きく超えるものではないなどの本件の事実関係の下においては、被告人の本件傷害行為は、被告人において何らかの反撃行為に出ることが正当とされる状況における行為とはいえない

正当防衛を否定。

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侵害を予期した上で対抗措置に及んだ場合と正当防衛の「急迫性」

最高裁H29.4.26      
 
<事案>
被告人(当時46歳)が
①被害者(当時40歳)と何度も電話で口論
被害者からマンションの下に来ていると電話で呼び出され、刃体の長さ約13.8㎝の包丁を持って自宅マンション前路上に行き、ハンマーで攻撃してきた被害者の左側胸部を、殺意をもって包丁で1回突き刺して殺害 したという殺人の事案と
②コンビニのレジスターのタッチパネルを拳骨でたたき割ったという器物損壊の事案において、
①の殺人に関する正当防衛及び過剰防衛の主張に関し、刑法36条の「急迫性」の判断方法について職権判示したもの。
 
<規定>
刑法 第36条(正当防衛)
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
 
<一審・原審>
刑法36条の「急迫性」の要件に関し、
単に予期された侵害を避けなかったというにとどまらず、その機会を利用し積極的に相手に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはや侵害の急迫性の要件を充たさないものと解するのが相当である。」(最高裁昭和52.7.21)
が示した積極的加害意思論
⇒正当防衛及び過剰防衛の成立を否定。
 
<判断>
●刑法36条は、急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したもの。

行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合侵害の急迫性の要件については、侵害を予期していたことから、ただちにこれが失われると解すべきではなく対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべき。

具体的には、事情に応じ、行為者と相手方との従前の関係、予期された侵害の内容、侵害の予期の程度、侵害回避の容易性、侵害場所に出向く必要性、侵害場所にとどまる相当性、対抗行為の準備の状況(特に、凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、行為者が侵害に臨んだ状況及びその際の意思内容等を考慮し、
行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、
前記のような刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を充たさないものというべき。

●被告人は、
①Aの呼出しに応じて現場に赴けば、Aから凶器を用いるなどした暴行を加えられることを十分予期していながら、
②Aの呼出しに応じる必要がなく、自宅にとどまって警察の援助を受けることが容易であったにもかかわらず、
包丁を準備した上、Aの待つ場所に出向き
④Aがハンマーで攻撃してくるや、包丁を示すなどの威嚇的行動をとることもしないままAに近づき、Aの左側胸部を強く刺突したもの。 
このような先行事情を含めた本件行為全般の状況
⇒被告人の本件行為は、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとは認められず、侵害の急迫性の要件を充たさない

本件につき正当防衛及び過剰防衛の成立を否定した第一審判決を是認した原判断は正当。

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2017年10月20日 (金)

給与規定変更による給与の減額に伴う退職金の減額について、変更に合理性があるとされた事例

大阪地裁H28.10.25      
 
<事案>
退職金規程及びその前提となる給与規程の改訂により、退職金が減額⇒原告X1~X5が差額退職金の支払を請求。
被告Yは、学校法人であり中学、高校、通信制高校を運営。
XらはいずれもYの元教員であり35年程度の勤務の後、平成27年、28年に定年退職した者(定年退職後、シニア講師としてYに就労)。 

Yは平成25年5月、新たな人事制度を導入し、給与規則と退職金支給規則を改訂(但し、退職金制度について実質的な変更はない)するとともに退職年金制度を廃止。

Yは平成13年度から消費支出超過を続けており、同17年以降は帰属収支においても大幅な支出超過⇒大幅な経費削減を行わなければ早晩経営破たんするとして、平成25年5月、月額給与を8万円程度引き下げ、これに伴って退職金は85~90%程度に減額
 
<規定>
労働契約法 第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。

労働契約法 第10条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
 
<判断>
●本事案は、退職金の計算基礎となる「基本給の額が減額となったことによるもの」で「新人事制度全体を踏まえて検討する必要がある」

①変更の必要性、②不利益の程度、③内容の相当性、④労働組合等の交渉状況を検討。 
 
●変更の必要性 
府下私立学校における退職給与引当率の平均値、日本私立学校振興・共同事業団「自己診断チェックリスト」における帰属収支差額費率、積立率、流動比率の評価や管理職手当の減額、理事の減員、役員手当のカットなどを認定

その経営状況は危機的なものであったとし、末期的な状況になってからでは遅いともいえると判示。
 
●不利益の程度 
Xらの請求額は300~400万円であるが、「不利益の程度は大きい」と認定。
 
●内容の相当性 
①基本給減額について経過措置(初年度95%、2年目90%、3年目85%の補償)が採られたこと、②新人事制度導入前に退職したと仮定した場合の退職金と、新人事制度導入後の退職金とを比較し、高い方の金額で支払ったことなど、一定の激変緩和措置を設けていることを認定。
公益財団法人大阪府私学総連合会の退職金事業における支給率と比較⇒「同一地域内において高いもの」

変更後の内容は相当
 
●労働組合等との交渉
①財政破綻のおそれがあることについては7年前から説明
②平成23年12月以降、教職員及び組合に対して情報(決算概要等)や改革案を適宜提示し、組合要求の資料を開示し、交渉においても強硬な態度をとることなく対応してきた。

Yの本件組合あるいは教職員に対する説明の内容・態度は適切なものであった。


本件変更については、
これにより被るXらの不利益は大きいものではあるが、
他方で、
変更を行うべき高度の必要性が認められ、
変更後の内容も相当であり、
本件組合等との交渉・説明も行われてきており
その態度も誠実なものであるといえる

本件変更は合理的なものであると認められる。 
 
<解説>
就業規則による労働条件の不利益変更の効力は、労働契約法9条、10条に、実定法化。 

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2017年10月19日 (木)

ゴルフクラブのシャフトデザインンの著作物性が争われた事案(否定)

知財高裁H28.12.21      
 
<事案>
グラフィックデザイン等を業として行う控訴人が、ゴルフ用品等スポーツ用品の製造、販売等を目的とする株式会社である被控訴人に対し、
(1)①被告シャフトが、
主位的には、控訴人の著作物であるゴルフシャフトのデザイン(本件シャフトデザイン)の翻案に当たり、
予備的には、控訴人の著作物である本件シャフトデザインの原画(本件原画)の翻案に当たる
⇒被控訴人の被告シャフト製造、販売行為が、控訴人の著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)を侵害し、

(2)被告シャフトの製造は、
主位的には、控訴人の意に反して本件シャフトデザインを改変してなされたものであり、
予備的には、控訴人の意に反して本件原画を改変してなされたもの
⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害し、

(3)被控訴人のカタログ(被告カタログ)の製作は、控訴人の著作物であるカタログデザイン(本件カタログデザイン)を改変してなされたもの⇒控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害

①被告シャフトによる著作権(翻案権、二次的著作物の譲渡権)侵害につき民法703条、704条に基づく使用料相当額の不当利得金5400万円等の支払
②被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき民法709条に基づく慰謝料850万円の内金425万円等の支払
③被告シャフト及び被告カタログによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき著作権法112条1項に基づく被告シャフト及び被告カタログの製造及び頒布の差止め並びに同条2項に基づく廃棄、並びに
④被告シャフトによる著作者人格権(同一性保持権)侵害につき、同法115条に基づく謝罪広告の掲載
を求めた事案。
 
<規定>
著作権法 第10条(著作物の例示) 
この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。
四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

著作権法 第2条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。
 
<判断>
応用美術の著作物性について、
一般論として、
「応用美術」は、「美術の著作物」(著作権法10条1項4号) に属するものであるか否かが問題となる以上、著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても、高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず、
著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては、著作物として保護されるものと解すべき

控訴人が本件シャフトデザイン及び本件カタログデザインに創作性が認められる根拠としてあげた点につき、いずれも創作的な表現ではないと判断。
 
<解説>
応用美術の著作物性について、近時の知財高裁判決では、
①実用目的の応用美術であっても、
実用目的に必要な構成を分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるもの⇒美術の著作物として保護すべき。
実用目的に必要な構成と分離して、美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないもの⇒著作物として保護されない。
(知財高裁H26.8.28)と、

②応用美術が「美術の著作物」として保護されるために、
応用美術に一律に適用すべきものついて、高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず、個別具体的に、作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきであるとしたもの(知財高裁H27.4.14)。

本判決は、後者②の判決の流れを汲むものであるが、応用美術の著作物性を肯定するためには、それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならない点を明確にした。

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企業買収の業務を受託した会社のために作業を行った個人に商法512条により相当な報酬を認めた事案

東京地裁H28.5.13       
 
<事案>
企業買収を受託した事業者のために作業を行った場合における仲介報酬の請求の当否、根拠、報酬額が問題となった事案。 

Y1株式会社(代表者はY2)は、A株式会社から、Aが買い手となり、B投資事業有限責任組合らが売り手となるD株式会社の株式譲渡を行う方法による企業買収につき業務委託を受けた⇒Xは、Y2の指示等によって助言、打ち合わせへの出席、書面の作成等の作業を行った。
AとBらは、Dの株式譲渡契約を締結⇒本件案件が完了した後、Y1は、業務委託契約に基づきAから本件案件の報酬として5250万円を受領。

Xは、Y1、Y2に対し、いずれかから委託を受けて本件案件に関する事務を行ったと主張⇒契約に基づく約定の割合に従った報酬として、又は商法512条による相当な報酬として前記報酬の半額の支払を請求。
 
<争点>
①XがY1、Y2のいずれと業務委託契約を締結したか
②同契約上Y1の受け取る報酬の半額を報酬とする合意があったか
③合意がない場合における相当な報酬額はいくらか 
 
<規定>
商法 第512条(報酬請求権)
商人がその営業の範囲内において他人のために行為をしたときは、相当な報酬を請求することができる。
 
<判断>
①本件案件に関する取引の経過、②Y2とXのやり取り、③Xの作業等を認定し、本件案件がY1の業務であった

XがY1から本件案件の交渉、書面作成、検討、助言等の業務を委託したものと認め、Y1とXとの間の報酬に関する合意の成立を否定
but
商法512条を適用
Xの行った作業の内容を検討
Y1が取得した報酬金額の15%程度に当たる800万円が相当な報酬額であると認める等して、Y1に対する請求を一部認容

Y2に対する請求は棄却。

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2017年10月18日 (水)

高層ビルの建物部分の賃貸借契約交渉過程での信義則上の義務違反(肯定)

東京地裁H28.4.14      
 
<事案>
高層ビルの建物部分の賃貸借契約の締結交渉がされ、交渉が打ち切られた場合における契約締結上の過失責任(契約準備段階における信義則上の義務違反)の成否が問題になった事案。 
 
<事実関係>
商業施設等の開発、企画等を業とするX株式会社は、A信託銀行から高層ビルの29回、30階部分を賃借する予定。
平成24年夏頃以降、ウエディング関連事業を行うY株式会社が賃借(転借)することを希望⇒賃貸借の交渉。

Yは、平成24年10月31日、出店申込書を提出し、Xに賃貸借契約の申込みをし、同年11月22日、役員会において本件物件への出店が承認され、その旨がXに伝えられた。
平成24年12月22日、契約書案の内容が確定。
Yは、バンケット区画の拡張を提案し、Xに拡張ができなければ出店が中止される可能性があることを伝えた。
Xは、平成25年1月31日、Aとの間で、本件物件の賃貸借契約を締結。
Xは、平成25年2月20日、Yに区画変更に伴う工事がYの試算した予算内で可能であることを伝えた。
Yは、平成25年3月7日、経営会議において本件物件への出店を打ち切ることを決定し、同月8日、Xに申し込みを撤回。

Xは、Yに対し、契約締結上の過失責任に基づき逸失賃料、完工済工事費用、人件費等、テナント賃料収入額につき損害賠償を請求。
 
<争点>
Yの債務不履行責任又は不法行為責任の有無
Xの損害の有無・額 
 
<判断>
①XとYとの間で賃貸借契約書の内容を確定させる等し、平成25年2月末頃にはYの要望も実現可能な程度に対応を進めた
その頃までにXが本件賃貸借契約の締結に期待を抱いたことは相当の理由がある

②Yの要望への対応に関するYからの信頼を失わせる帰責性を否定

この期待は法的保護に値するとして契約準備段階におけるYの信義則上の義務違反を肯定

完工済工事費用、人件費等の損害を認め、
逸失賃料相当額、テナント賃料収入相当額の損害に関する主張を排斥

請求を一部認容。

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賃料増額請求と管理行為・増額しない旨の特約の合意

東京高裁H28.10.19       
 
<事案>
本件建物につき持分2分の1を有するXは、Yに対し、賃料増額請求権を行使し、
適正賃料(月額898万円、税別)の確認と従前賃料(500万円、税別)との差額等の支払を求めた。
 
<規定>
借地借家法 第32条(借賃増減請求権)
建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。

民法 第252条(共有物の管理)
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
 
<判断>
原審請求棄却、控訴棄却。 
①本件建物の賃貸借契約について、消費税率の変動に伴って賃料が引き上げられた事実がない
②賃貸人と賃借人との間にはもともと密接な関係があり、相続による当事者の変更等はあったものの、円満な賃貸借関係を継続することが優先された

消費税率の変更にかかわらず賃料総額を変えないという黙示の合意が成立していたもので、Xは本件建物の持分を取得したことによりその賃貸人の地位を承継

Xは本件建物につき持分2分の1を有するが、合意の変更は共有物の管理行為に該当
Xが単独で賃料増額請求権を行使できるものではない
 
<解説>
●賃料増減請求権は、経済事情の変動などによって賃料が不相当となった場合に、これを是正するために認められるもの。
その意思表示が相手方に到達した時から増減の効果が生じる(最高裁昭和45.6.4)。 
増額については、請求権の行使を特約によって排除することができる(借地借家法32条1項ただし書)。

特約については、一般の契約の合理的意思解釈に従い、本判決が説示するように、当事者の関係、賃貸借契約の締結の経緯、その後の賃料増額の有無その他の事情により、判断される。

共有物の管理(民法252条本文):共有物を利用しその価値を高めるもの

賃料増額請求権はの行使は、まさに共有物たる賃貸物件の価値を高めるもの⇒持分の価格に従い、過半数で決する必要がある。

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2017年10月17日 (火)

貸金についての支払督促と同保証債務履行請求権の消滅時効の中断効(否定)

最高裁H29.3.13      
 
<事案>
上告人と保証契約を締結していた被上告人が、上告人に対し、同契約に基づき、保証債務の履行を求めた。 

上告人:前記保証契約に基づく保証債務履行請求権の消滅時効を主張
被上告人:上告人に対する貸金の支払を求める旨の支払督促により消滅時効の中断の効力が生じていると主張
 
<事実>
①被上告人は、Aに対し、7億円貸し付けた。
②被上告人と上告人との間で、債務弁済契約公正証書が作成:
上告人が被上告人から借り受けた1億1000万円を、1000万円ずつ11回にわたって分割弁済。
③上告人が 被上告人に対し、Aの前記債務について1億1000万円の範囲で連帯保証する趣旨で作成。

被上告人は、上告人に対し、被上告人が上告人に対して貸し付けた貸金1億1000万円のうち、1億950万円の支払を求める旨の支払督促の申立てをし、上告人に送達。仮執行の宣言を付した支払督促は確定。
 
<判断>
AのX(被上告人)に対する貸金債務についてY(上告人)がXとの間で保証契約を締結した場合において、YがXから金員を借り受けた旨が記載された公正証書が上記保証契約の締結の趣旨で作成され、上記公正証書に記載されたとおりYが金員を借り受けたとしてXがYに対して貸金の支払を求める旨の支払督促の申立てをしたとの事情があっても、上記支払督促は、上記保証契約に基づく保証債務履行請求権について消滅時効の中断の効力を生ずるものではない
 
<解説>
●争点:
貸金の支払を求める旨の支払督促によって、当該支払督促の当事者間で締結された保証契約に基づく保証債務履行請求権について、消滅時効の中断の効力が生ずるか否か。 
 
●訴訟物の異なる請求による消滅時効の中断の問題に関連する最高裁判決 
消滅時効中断効を肯定したもの
最高裁昭和38.10.30:
株券引渡請求訴訟における被告の留置権の抗弁による留置権の被担保債権である立替金債権の裁判上の催告の効力を肯定。

①留置権の主張には被担保債権の存在の主張が必要
②留置権の抗弁が認められると引換給付判決がされることから、留置権の抗弁には被担保債権が履行されるべきであるとの権利主張の意思が表示されているものということができる
but
裁判上の請求に準ずる効力は否定。

最高裁昭和43.12.24:
農地の所有権移転登記手続請求による農地法3条の許可申請手続請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

所有権移転の主張は農地法3条の許可を当然の前提としている。

最高裁昭和44.11.27:
抵当権設定登記抹消登記手続請求における被告の被担保債権の主張の抗弁による同債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

最高裁昭和45.7.24:
交通事故による損害賠償請求権につき、一部請求の趣旨が明示されていない訴えの提起による、債権の同一性の範囲内における時効中断効を肯定。

最高裁昭和53.4.13:
退職金債権の明示的一部請求による残部について裁判上の催告の効力を肯定した東京高裁の判決を維持

最高裁昭和62.10.16:
手形金請求訴訟の提起による原因債権の裁判上の請求に準ずる効力を肯定。

手形債権は、原因債権と法律上別個の債権ではあっても、経済的には同一の給付を目的とし、原因債権の支払の手段として機能する。

最高裁H10.12.17:
金員の着服を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権を訴訟物とする訴えの提起及び訴訟係属による、基本的な請求原因事実を同じくし、経済的に同一の給付を目的とする関係にある不当利得返還請求権の裁判上の催告の効力を肯定。

最高裁H25.6.6:
明示的一部請求がない場合、特段の事情のない限り、残部について、裁判上の催告の効力を肯定。
but
この判決は、明示的一部請求がされ、債権の一部が消滅している旨の抗弁に理由があると判断⇒判決において債権の総額の認定がされたとしても、残部に係る裁判上の請求に準ずる効力を否定した。

消滅時効中断効を否定したもの 
最高裁昭和34.2.20:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和37.10.12:
詐害行為取消訴訟の提起による被保全債権の時効中断効を否定

最高裁昭和43.7.27:
明示的一部請求の訴えの提起による残部についての時効中断効を否定

最高裁昭和47.11.28:
建物賃貸借契約の不履行による損害賠償請求権(逸失利益)を保全する仮差押えによる、借家権価格相当の損害賠償請求権の時効中断効を否定

最高裁昭和50.12.25:
貸金訴訟の訴え提起による、これと基本的事実関係を同じくする立替金債権についての時効中断効を否定

最高裁H11.11.25:
建築請負人からの注文者に対する請負契約に係る建物の所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟の提起による請負代金債権の消滅時効中断効を否定 
 
<解説>
訴え提起に時効中断の効力を認める理論的根拠
A:訴えが権利者の最も断固たる権利主張の態度と認められることに基づくとする権利行使説(権利主張説、実体法説とも言われ、通説)
B:判決の既判力により訴訟物である権利関係の存否が確定されることに基づくとする権利確定説(訴訟法説) 

本件では、支払督促に既判力がなく、権利確定説からのアプローチは困難。
 
被上告人が上告人に貸し付けた金員の支払を求めることと、被上告人がAに対して貸し付けた金員について上告人に保証債務の履行を求めることは、全く別個のもの
本判決の「上記の貸金返還請求権の根拠となる事実は、本件保証契約に基づく保証債務履行請求権の根拠となる事実と重なるものですらなく」としている部分は、貸金返還請求により、他の訴訟物である保証債務履行請求権についての時効中断効を認めるための拠り所となるものがないことを述べている。 

判例時報2340

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2017年10月16日 (月)

老齢厚生年金について厚生年金保険法43条3項の規定による年金の額が改定されるために同項所定の期間を経過した時点での当該年金の受給権者であることの要否(必要)

最高裁H29.4.21       
 
<事案>
Xが、厚生労働大臣から、厚生年金保険法(平成25年法律第63号による改正前のもの)附則8条の規定による老齢厚生年金について、法43条3項の規定による年金の額の改定(「退職改定」)がされないことを前提とする支給決定(「本件処分」)を受けた⇒Y(国)を相手に、その取消しを求めた。 
 
<制度等>
法は、国民年金法等の一部を改正する法律による老齢厚生年金の支給開始年齢の引き上げ⇒65歳以後に所定の要件を満たした者に対して老齢厚生年金を支給するものとし、
その経過措置として、60歳以上65歳未満で所定の要件を満たした者に対しては特別支給の老齢厚生年金を支給することとしている。 

特別支給の老齢厚生年金の受給権者が65歳に達したときは、その受給権(以下「基本権」ともいう。)が消滅し、他方、このうち法42条所定の要件を満たす者については、本来支給の老齢厚生年金の基本権が発生

各老齢厚生年金の額は、大要、所定の額に被保険者期間の月数を乗じて算出された額とされるが、在職中であっても(すなわち、厚生年金保険の被保険者の資格を有していても)所定の要件を満たした者に対して老齢厚生年金が原則として支給される⇒
法43条2項は、受給権者がその権利を取得した月以後における被保険者であった期間はその計算の基礎としない旨を定めている一方、
同条3項は、「被保険者である受給権者がその被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日(「資格喪失日」)から起算して1月(「待機期間」)を経過したとき」との要件の下で、被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の計算の基礎とするものとし、待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する旨を定めている(退職改定)。

<事実と争点>
平成19年9月に社会保険庁長官の最低を受けた特別支給の老齢厚生年金の受給権者であるXは、平成23年8月30日、勤務先を退職し、翌31日、被保険者の資格を喪失したが、1箇月の待期期間を経過する前の同年9月17日に65歳に達して特別支給の老齢厚生年金の最終月分である平成23年9月分につき、そのことを理由として退職改定がされないことを前提とする本件処分をした。

このような場合においても退職改定がされるべきか否かが争われた。
 
<一審・原審>
①法43条3項の「被保険者である受給権者」という文言は、その文理上、第2要件の主語として定められたものとは解せないこと
②退職改定制度の導入経緯や待期期間が設けられた趣旨⇒待期期間の経過時点で受給者である必要性は導かれないこと
③特別支給の老齢厚生年金から本来支給の老齢厚生年金への移行に関する制度設計の解釈や老齢厚生年金と拠出された保険料との対価関係等

退職改定の要件としては待期期間経過時に受給権者であることを要しないと解するのが相当である。

平成23年9月分の特別支給の老齢厚生年金の額については退職改定がされるべきであるから、本件処分は違法であるとして、Xの請求を認容すべきものとした。
 
<判断>
原判決を破棄し、第1審判決を取り消してXの請求を棄却。 
厚生年金保険法附則8条の規定による老齢厚生年金について厚生年金保険法(平成24年法律第63号により改正前のもの)43条3項の規定による年金の額の改定がされるためには、被保険者である当該年金の受給権者が、その被保険者の資格を喪失し、かつ、被保険者となることなくして被保険者の資格を喪失した日から起算して1月を経過した時点においても、当該年金の受給権者であることを要する
 
<解説>   
●本判決は、待期期間経過時に受給権者であることを要する必要説に立つことを明らかにした。 
 
●法43条3項の文言との関係
①法43条3項の要件を定めた部分は、全体として1つの条件を定めたもの(特に、第2要件の「被保険者となることなくして」の主語は、同項の文言からは第1要件の「受給権者」とみるほかない。)
②原判決のように同項の要件部分を「かつ」の前後で分けてよななければならない実質的根拠が見当たらない

同項の文言は必要説を前提としたものと理解するのが相当。
同項が退職改定の対象となる者を「被保険者である受給権者」と定めている
⇒必要説が「文理に沿う解釈」。
 
●必要説を相当とする実質的論拠 
法における基本権及び支分権に関する理解。
基本権は、支給要件に該当したときに発生するが、受給権者の請求に基づく厚生労働大臣の裁定において基本権の要素(年金の種類、基本権の取得日、年金額等)を確認されて初めて年金の支給が可能になるものであり(最高裁H7.11.7)、
他方、支分権は、裁定に係る基本権を前提として、各月の到来によって法律上当然に発生し、以後、基本権とは別個独立に存続すると理解される。
法43条3項の退職改定の効力に関する定め(①「その被保険者の資格を喪失した月前における被保険者期間を老齢厚生年金の額の計算の基礎とするものとし」②「待期期間を経過した日の属する月から、年金の額を改定する」との定め)は、
老齢厚生年金の基本権の基本権に係る年金の額を改定することにより(①)、
支分権の額も(既に発生したものを含めて)当該改定後の基本権を前提としたものに改定すること(②)

としたものと解される

法43条3項は、退職改定がされる待期期間の経過時点においても当該年金の基本権が存することを予定していると考られる。

判例時報2340

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