2018年12月18日 (火)

有期契約労働者についての労働契約法20条違反が問題となった事案

松山地裁H30.4.24      
 
<事案>
各被告(グループ会社)と有期労働契約を締結し、同一施設内の工場においてトラクター等の農業機械の製造に係るライン業務を担っている各原告らが、同じ製造ラインに配属された無期契約労働者との労働条件の相違が労契法20条に違反すると主張

無期契約労働者に関する就業規則等の規定が適用される労働契約上の地位にあることの確認を求めたほか、
労働契約に基づく賃金請求(主位的請求)及び
不法行為に基づく損害賠償請求(予備的請求。ただし、厳密には、平成27年5月以降支給分については、不法行為に基づく損害賠償のみ請求している。)
をした。 
 
<規定>
労働契約法 第20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない
 
<判断> 
●労契法20条は、考慮要素として、 「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」を挙げているところ、

「職務の内容」については、各原告らと比較対象となる無期契約労働者との業務の内容に大きな相違があるとはいえず、

業務に伴う責任の程度
「相違していると認めることはできない」(①事件)
「一定程度相違している」(②事件)
とした。

「職務の内容及び配置の変更の範囲」については、
各被告では、無期契約労働者のみ「組長」(現場で部屋の始期をしながら自らも作業に携わる者)に就くことができ、無期契約労働者は、将来、被告における重要な役割を担うことが期待されて、教育訓練と勤務経験を積みながら育成されている
⇒人材活用の仕組みに基づく相違がある。

「その他の事情」
については、
中途採用制度により、無期契約労働者と有期契約労働者の地位が、
「ある程度流動的である」(①事件)又は
「必ずしも固定的でない」(②事件)
ことを挙げた。
 
●両事件とも、賞与については、
各原告らに賞与と同様の性質を有する「寸志」(無期契約労働者の賞与よろりも低額なもの)が支給されている

各原告らの無期契約労働者の相違が不合理なものであるとまでは認められない。

後記各手当を支給しないこと労契法20条に違反し、各原告らに対する不法行為を構成する
当該各手当相当額の不法行為に基づく損害賠償請求を認容した。

①①事件では、物価手当について、労働者の職務内容等とは無関係に、労働者の年齢に応じて支給されているものの、年齢上昇に応じた生活費の増大は有期契約労働者であっても無機契約労働者であっても変わりはない。
②②事件では、家族手当について、生活補助的な性質を有しており、労働者の職務内容等とは無関係に、扶養家族の有無、属性及び人数に着目して支給されているが、配偶者及び扶養家族がいることにより生活費が増加することは有期契約労働者であっても変わりがない。
住宅手当においては、住宅費用の負担の度合いに応じて対象者を類型化してその者の費用負担を補助する趣旨であるが、有期契約労働者であっても、住宅費用を負担する場合があることに変わりはない。
精勤手当には、少なくとも、月給者に比べて月給日給者の方が欠勤日数の影響で基本給が変動して収入が不安定であるため、かかる状態を軽減する趣旨が含まれる。
but有期契約労働者は、時給制であり、欠勤等の時間については、一時間当たりの賃金額に欠勤等の合計時間数を乗じた額を差し引くものとされ、欠勤日数の影響で基本給が変動し収入が不安定となる点は月給日給者と変わりはない。
 
<解説> 
労基法20条の解釈については、最高裁H30.6.1の①ハマキョウレックス事件と②長澤運輸事件。 
同条に挙げられた考慮要素のうち「その他の事情」については、最高裁②事件において、「職務の内容」や「職務の内容」に関連する事情に限定されるものではないと判断されているところ、大阪地裁H30.2.21においても、本件と同様に、正社員登用制度が存在し、正社員と期間雇用社員の地位が必ずしも固定的なものでないことが「その他の事情」として挙げられている。
 
賞与について「有為な人材の獲得のため」といった理由のみで賞与の支給における相違が是認されているわけではない。 

最高裁①事件では、契約社員については就業場所の変更が予定されていないのに対し、正社員については、転居を伴う配転が予定されているため、契約社員と比較して住宅に要する費用が多額ななり得るとして、契約社員に住宅手当を支給しないことが不合理であると評価することはできないとされている。

判例時報2383

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2018年12月17日 (月)

放送受信契約の取次等の行う日本放送協会からの受託者の労組法上の労働者性(肯定)

東京高裁H30.1.25      
 
<事案>
X(日本放送協会)が、Xとの業務委託契約に基づいて放送受信者との放送受信契約の取次等の業務を行う地域スタッフにより結成された団体Z(Y補助参加人)から団体交渉(団交)を申し入れらられたものの、その労働組合性を否定してそれに応じなかった⇒Zの申立てを受けた大阪府労働委員会から団交拒否は不当労働行為に当たるとされ、中央労働委員会に対する再審査申立ても棄却同委員会の属するY(国)に対し再審査棄却命令の取消しを求めた。 
 
<争点>
地域スタッフが労組法上の労働者に当たるか
団交拒否の正当理由の有無 
 
<判断>
労組法上の労働者は、労働契約によって労務を提供する者のみならず、これに準じて使用者との交渉上の対等性を確保するための労組上の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者も含む

スタッフは、
①Xの事業収入の大部分を占める受信料の取次等への貢献度が高く、事業組織に組み込まれ、その契約条件はXにおいて一方的に決定しており、
②報酬は基本給的な部分や歩合給的なものがあって一定の労務対価性を有し
③個別労務の提供についての具体的な拘束はないものの、Xにおいて営業職員に対するものと類似するある程度強い指揮監督を行っており、
再委託や兼業が現実には難しいことなど顕著な事業者性は認められない

Xとの交渉上の対等性を確保するために、労組法の保護を及ぼすことが必要かつ適切
団交拒否の正当理由も認められない。
 
<解説> 
労働者性の概念について、労契法や労基法と、失業者等も当然にその対象に含む労組法とではその範囲が異なり、後者の方がより広いものと解するのが通説。 

その具体的な判断に当たっては、業務実態に即し、
①その者が当該企業の事業遂行に不可欠な労働者として企業組織に組み込まれているか、
契約内容が一方的に決定されているか
報酬が労務の対価としての性質を有するか
④業務の発注に対し諾否の自由がないか
業務遂行の日時、場所、方法などにつき指揮監督等を受けるかどうか
などの積極的要素と、

⑥その者に顕著な事業者性が認められるかの消極的要素を総合考慮するとするものが多い。

本件地域スタッフの業務は、担当区域内の受信者を訪問して放送受信契約の取次等を行うものであって、
稼働日・稼働時間・訪問場所・順序等は地域スタッフに委ねられているなど、業務遂行上の具体的指示はなく、時間的・場所的拘束が緩やかな場合(④⑤の要素)。

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2018年12月16日 (日)

適切な治療を受ける期待権の侵害(否定)

東京地裁H29.10.26      
 
<事案>
Yの開設する本件病院で脳腫瘍部分切除術を受けた後に頻脈や高熱等の症状が現れ、それから約4か月後にくも膜下出血で死亡するに至った亡Aの相続人(両親)であるXらが、Yに対し、損害の賠償を求めた事案。 
 
<主張>
①亡Aが死亡したのは本件病院の担当医が悪性高熱症の発症を見逃してこれに対する治療を怠ったためであり、適切な治療が行われれば亡Aは悪性高熱症から回復して死亡を回復できた。
②仮に亡Aが悪性高熱症でなかったとしても、適切な治療を受ける期待権が侵害された。

債務不履行又は不法行為に基づいて、合計6553万円余の損害賠償及び遅延損害金の支払を請求。 
 
<判断>
●争点①:亡Aが悪性高熱症を発症していたか 
①現在の医学的知見では、術後悪性高熱症自体が稀
②術後1時間以以上経過して体温が上昇した患者が悪性高熱症発症している可能性はさらに低いものとなるところ、亡Aの高体温が確認されたのが麻酔終了後約8時間を経過した後
悪性高熱症を発症していたとまではいえない
 
●争点②:悪性高熱症の疑いのあった12月7日午前0時又は8日午前0時までにダントロレンを投与しなかったことに過失があるか? 
同時点における亡Aの症状等は悪性高熱症の疑いの程度は高いものではなかった⇒Yの責任を否定。
 
●争点③:亡Aの適切な治療を受ける期待権を侵害したか? 
期待権の侵害が成り立ちうる前提として、当該医療行為が著しく不適切なものである事案である必要
but
本件はそれに当たらない。
 
<解説> 
適切な医療行為を受ける期待権について、
最高裁H23.2.25が、医療行為が著しく不適切なものである事案について検討しうるにとどまると判示。 

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2018年12月15日 (土)

土地売買の確認書に基づく地方公共団体の責任

福岡高裁宮崎支部H29.7.19      
 
<事案>
㈱A(スーパーマーケット経営)は、Y市との間で土地売買契約を締結。
Aの契約上の地位を承継したと主張するXは、Yが買取りをしないとして


(主位的請求ア)土地の所有権移転登記手続と引換えに売買代金請求(5847万円余) 及び
(主位的請求イ)売買契約不履行に基づく損害賠償請求として、過去の固定資産税相当額・建物解体費用相当額(5559万円余)とこれに対する遅延損害金の請求


(予備的請求ア)不法行為又は国賠法1条1項に基づく損害賠償として、土地の売買価格と現在価格との差額(5102万円余)とこれに対する遅延損害金の請求及び
(予備的請求イ)過去の固定資産税相当額・建物解体費用相当額とこれに対する遅延損害金の請求
 
<争点>
①XはAがYに対して有する契約上の地位を承継したといえるか
②本件確認書による売買代金支払請求の当否
③固定資産税相当額の損害賠償請求の当否
④建物解体費用相当額の損害賠償請求の当否
⑤本件土地を売却できなかった損害の賠償請求の当否 
 
<原審>
請求を棄却。 
 
<判断>   
原判決を変更し、Xの予備的請求を一部認容。
 
●主位的請求・・・本件確認書の締結と売買契約の成否
本件確認書には、売買の目的物及び代金額は確定されている上、Y市長の記名押印、A代表取締役の記名押印がされている。
but
①表題が「契約書」でなければならないのに「確認書」とされるなど、Yの財務規則所定の事項の記載を欠いている
②平成11年覚書の内容をその後の事情の変更に合わせて変更した本件確認書、平成12年覚書も売買契約書の形式をとっていない
③売買代金についての予算措置が必要であるのに、これが講じられていなかった

本件確認書をもって本件売買契約が成立したとは認められない
 
●予備的請求 
平成11年覚書をもって売買契約とは認められない。
but
その締結により、A及びYは、その内容に沿った売買契約を締結すべき義務を負ったものと解される。
平成12年覚書・本件確認書は平成11年覚書の内容をその後の事情の変更を踏まえて変更したものであり、いずれも、Y市長の記名押印、A代表取締役の記名押印がされている
A及びYは、その内容に沿った売買契約等を締結すべき義務を負ったものと解される。

Yは前記義務を負ったにもかかわらず、予算措置の問題を理由に売買契約を先延ばしにしていたところ、Yの一連の行為が、Yに買い受けてもらえると信じて他に売却することなく隣接地との境界か確定作業や建物の解体撤去を行ったA及びその地位を承継したXの信頼を著しく裏切るもの
信義衡平の原則に照らし、信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、Yの不法行為責任を生じさせる。

予備的請求ア:
本件事実関係
⇒土地の売買価格と現在価格との差額をもって、売買契約の成立を信じて行動したAらの信頼を裏切った不法行為と相当因果関係に立つ損害であると認められない。

予備的請求イ:
Aが土地の売却の機会を逸したことによる損害は、Yの不法行為と相当因果関係に立つ損害であるところ、本件事実関係の下では、再生手続終結後にA及びXが負担を余儀なくされた固定資産税相当額はYの不法行為と相当因果関係に立つ損害である(合計1313万円余)が、
建物解体費用相当額は相当因果関係を欠く。
 
<解説>
売買契約は、財産権の移転と代金の支払を合意さえすれば成立するもので、契約書ができてはじめて売買が成立したものとみなければならないものではない。(最高裁昭和23.2.10) 

売買契約書が作成されていない場合には、間接事実から売買契約の成否を推認するという手法。
①契約当事者における売買契約の必要性、動機、目的
②交渉の経過
③契約後の当事者の言動(引渡し、占有の状況、登記手続、固定資産税の支払等)
が重要な間接事実となる。

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2018年12月14日 (金)

夫からの同居申立てを却下した事案

福岡高裁H29.7.14      
 
<事案>
X(夫)が、別居中のY(妻)に対し、同居するよう命じる審判を求めた事案。 
   
<事実>
平成21年に婚姻し、平成25年に別居。
Yは、別居の翌年に民法770条1項5号に基づき離婚訴訟を提起。

一審:婚姻関係が破綻⇒Yの請求を認容。

控訴審:平成28年、XとYが真摯に話し合えば婚姻関係の修復の可能性があり得ないとはいえないとして、Yの請求を棄却。 

Xは、Yに対し同居を命じる審判を求める家事審判の申立て(家事手続法別表第2の1項)。
 
<原審>
XがY及び長女Cのみと同居できる住居を定めたときに、Yに同居するように命じる審判。
   
Yが即時抗告
 
<判断>
同居義務が夫婦という共同生活を維持するためのもの
共同生活を営む夫婦間の愛情と信頼関係が失われる等した結果、仮に、同居の審判がされて、同居生活が再開されたとしても、夫婦が互いの人格を傷つけ、又は個人の尊厳を損なうような結果を招来する可能性が高いと認められる場合には、同居を命じるのは相当ではないといえる。

①YがXをストレッサーとする適応障害と診断されている
②当事者の作成した書面の内容等

同居を再開しても相互に個人の尊厳を損なうような状態に至る可能性は高いと言わざるを得ない

原審判決を取り消し、Xの申立てを却下。
 
<規定>
民法 第752条(同居、協力及び扶助の義務)
夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
 
<解説>
最高裁昭和40.6.30:
夫婦の同居に関する事件についての審判は夫婦同居の義務等の実態的権利義務自体を確定する趣旨のものではなく、これら実体的権利義務の存することを前提として、その同居の時期、場所、態様等について具体的内容の定める処分

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2018年12月13日 (木)

再生債務者が再生計画に従い弁済⇒保証人との関係では保証債務全体について債務承認として時効中断効が生じる

東京高裁H29.6.22      
 
<事案>
AがB銀行から借入をするに当たって、Aの委託に基づいてその債務を信用保証したXが、B銀行に対して代位弁済したとして、Aの信用保証委託契約上の債務を連帯保証したYらに対し、連帯保証債務の履行を請求。 
 
<主張>
Yらは、Aの再生計画認可決定確定日から10年を経過したことにより連帯保証債務は時効により消滅したとして、時効を援用。 
 
<規定>
民法 第457条(主たる債務者について生じた事由の効力)
主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。

民再法 第177条(再生計画の効力範囲)
2 再生計画は、別除権者が有する第五十三条第一項に規定する担保権、再生債権者が再生債務者の保証人その他再生債務者と共に債務を負担する者に対して有する権利及び再生債務者以外の者が再生債権者のために提供した担保に影響を及ぼさない。
民再法 第179条(届出再生債権者等の権利の変更)
再生計画認可の決定が確定したときは、届出再生債権者及び第百一条第三項の規定により認否書に記載された再生債権を有する再生債権者の権利は、再生計画の定めに従い、変更される。
 
<判断>   
●主たる債務者について再生計画認可の決定が確定した場合において、主たる債務者について生じた事由による時効の中断が保証人に対してもその効力を生ずることを規定した民法457条1項の適用上、主たる債務者(再生債務者)が再生契約の遂行として分割弁済をしても再生計画により減免を受けた部分の債務については保証人との関係において債務承認の効果が生じないとすると、再生計画が再生債務者の保証人に対して影響を及ぼすのと同様の結果をもたらすことになる。

再生債務者の保証人に対する権利を保護した民再法177条2項及び主たる債務の履行担保を目的とする民法457条1項の趣旨に実質的に違反する

主たる債務者による再生計画の遂行としての分割弁済は、保証人との関係では再生手続が開始されていない通常の主たる債務の一部弁済がされた場合と同視すべきであり、保証債務全体についての債務承認として時効中断の効力が生ずるものと解するのが相当
 
再生計画の定めによる免責部分については絶対的に債務が消滅した、あるいは、仮に自然債務として存続する場合でも免除前の債務殿同一性はないとするYらの主張について、当該問題はもっぱら主たる債務者との関係で免責部分の法的性質をどのように解するかという問題であって、民再法177条2項の規定の趣旨に照らせば、その法的性質自体は保証人との関係では何ら影響がないというべきである。 

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2018年12月11日 (火)

親会社の子会社の従業員に対する信義則上の義務違反(否定)

最高裁H30.2.15      
 
<事案>
Y社の子会社である甲社の契約社員としてY社の事業場内で就労していたXが、同じ事業場内で就労していた他の子会社である乙社の従業員(「従業員A」)から、繰り返し交際を要求され、自宅に押し掛けられるなどしたことにつき、国内外の法令、定款、社内規程及び企業倫理(「法令等」)の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するためのコンプライアンス体制(「本件法令遵守体制」)を整備していたY社において、前記体制を整備したことによる相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反した⇒Y社に対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償等を求める事案。 
 
<事実>
Xは、甲社に契約社員として雇用され、Y社の事業場内にある工場において、甲社が乙社から請け負っている業務に従事。
従業員Aは、乙社に課長の職にあり、前記事業場内で就労。 
Y社は、自社とその子会社である甲社、乙社等とでグループ会社を構成し、本件法令遵守体制を整備し、その一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受けるコンプライアンス相談窓口を設け、前記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていた。
・・・・Y社は、本件申出を受け、甲社及び乙社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたが、甲社から本件申出に係る事実は存しない旨の報告があったこと等を踏まえ、Xに対する事実確認は行わず、平成23年11月、従業員Bに対し、本件申出に係る事実は確認できなかった旨を伝えた
 
<原審>
従業員Aの不法行為責任及び甲社の雇用契約上の付随義務(「本件付随義務」)違反による債務不履行責任を認めた上、Y社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求を一部認容。 
Y社は、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備⇒人的、物的、資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して、直接またはその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うところ、
①Xを雇用していた甲社が本件付随義務に基づく対応を怠ったこと、
②Y社自身もその担当者が本件申出の際に求められたXに値する事実確認等の対応を怠ったこと

Y社は、Xに対し、本件行為につき、前記信義則上の義務違反を理由とする債務不履行席にを負うべき。
   
Y社が上告受理申立て
 
<判断>
原判決中Y社敗訴部分を破棄し、XのY社に対する請求を棄却した一審判決は結論に置いて是認することができる⇒前記部分に関するXの控訴を棄却する旨の自判。

Y社が、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社である甲社、乙社等のグループ会社から成る企業集団の適正等を確保するための体制を整備し、その一環として、前記グループ会社の事業所内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける相談窓口を設け、前記の者に対し、前記相談窓口に係る制度を周知してその利用を促し、現に前記相談窓口における相談への対応を行っていた場合において、甲社の従業員が、前記相談窓口に対し、甲社の元契約社員であって退職後は派遣会社を介してY社の別の事業場内で勤務していたXのために、Xの元交際相手である乙社の従業員AがXの自宅の近くに来ているようなので事実確認等の対応をしてほしいとの相談の申出をしたときであっても、次の(1)~(3)など判示の事情の下においては、Y社において前記申出の際に求められたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、Y社のXに対する損害賠償責任を生じさせることとなる信義則上の義務違反があったとはいえない
(1) 前記体制の仕組みの具体的内容は、Y社において前記相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない
(2) 前記申出に係る相談の内容は、Xが退社した後に前記グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。 
(3) 前記申出の当時、Xは、既にAと同じ職場では就労しておらず、前記申出に係るAの行為が行われたから8か月以上経過していた。
 
<解説> 
●Xが主張すするYの責任原因:
①Y社は、本件法令遵守体制を整備するなどしたこと⇒本件グループ会社の事業場内で就労する者に対し、信義則上、その安全に配慮し、法的保護に値する利益を保護すべき義務を負う⇒雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律所定の事業者として、前記の者が職場で行ったセクハラ行為についての安全配慮義務の一内容として措置義務を負担する、
②Y社は、本件行為1につき、Xが直属の上司に相談して対応を求めたことにより、本件法令順守体制に基づく措置義務を履行すべきであったのにこれを怠った、
③Y社は、本件行為1につき、Xが従業員Bの援助を受け、従業員Bにおいて本件相談窓口に対して本件申出をしたにもかかわらず、原告に対する事実確認を怠った、
④したがって、Y社は、本件行為につき、前記①の義務違反を内容とする債務不履行責任又は不法行為責任を負う。 
 
●甲社による本件付随義務の不履行との関係 
◎  使用者がいわゆるセクシュアル・ハラスメントに関して適切な対応を怠った場合につき、労働契約上の職業環境配慮義務違反を理由として使用者固有の債務不履行責任を認める裁判例
but
これらは、使用者が被用者を直接雇用していた事案に関するもの

大津地裁H22.2.25:
派遣元からの派遣労働者が、派遣先において、親会社から出向中の社員によるセクシュアル・ハラスメントを受けたとして、親会社の使用者責任又は債務不履行責任が問題となった事案において、
親会社の事業場は、親会社をはじめとする関連会社がそれぞれ独立して企業活動を行っているにすぎない⇒親会社がその事業場で働く全ての労働者に対して職場環境配慮義務を負うとは言えない⇒親会社の債務不履行責任を否定。 

直接の労働契約関係にない労働者間で安全配慮義務が認められるか否かについて、
最高裁昭和55.12.18は、
両者間に労務提供の場における指揮監督・使用従属の関係が存在するという実態に着目して、「雇用契約に準ずる法律関係上の債務不履行」として認める立場。

学説上も、労働契約と同視できるような関係(労務の管理支配性=実質的指揮監督関係)の存在が必要であると解されている。

親会社が、子会社の従業員間で行われたセクシュアル・ハラスメントにつき、労働契約上の職場環境配慮義務違反を理由として固有の債務不履行責任を負うとされるのは、少なくとも親会社が被害者(子会社の従業員)に対してその指揮監督権を行使する立場にあったり、被害者から実質的に労務の提供を受ける関係にあったことが必要であり、
親会社が法令遵守体制を整備したことのみをもって、子会社が被害者との間で使用者として負うべき雇用契約上の付随義務(労働契約上の職場環境配慮義務)を履行する義務を負うものではない。
but
例えば、親会社が、法令遵守体制として、子会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務(労働契約上の職場環境配慮義務)を親会社自らが履行し又は親会社の直接間接の指揮監督の下で子会社に履行させることとした場合は、親会社がそのような法令遵守体制を整備したことを理由に前記のような義務を履行する義務を負う余地はある。
 
男女雇用機会均等法は、セクシャル・ハラスメントに関する法規制として、事業主に指針に従ったその防止と苦情処理のための雇用管理上の措置を義務付ける規定(同法11条1項、2項)を置いているところ、
この規定は作為・不作為の請求権や損害賠償請求権を与えるような私法上の効力を有するものではないと理解されている。
but
同項所定の措置が不法行為法上の注意義務や労働契約上の安全配慮義務の内容に取り込まれることがあり得るとする見解もある。
but
男女雇用機会均等法上の「事業主」とは、事業の経営の主体とされており、同法11条1項の「その雇用する労働者」との文言等⇒同項の措置義務を負う事業主は、他の法令の定めがない限り、労働者を雇用する者をいうものと解される。
 
●本件相談窓口における本件申出への対応について 
◎ 甲社・乙社の親会社であるY社が、本件法令遵守体制を整備し、その一環として、甲社・乙社等の本件グループ会社の構内で就労する者に対して本件相談窓口を設けて対応するなどしていた場合において、甲社・乙社の従業員間で行われた不法行為について適切な対応をすべき信義則上の義務違反による損害賠償責任を負うか?

◎ 最高裁:
契約関係がなくても契約準備交渉段階に入った当事者間では、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の注意義務違反を理由とする損害賠償責任を認められる場合があるとし、
安全配慮義務に関しては、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」とし、元請企業が(直接的には雇用契約を締結していない)下請企業の労働者に対して安全配慮義務を負うとの事例判断を示したものもある。

直接の契約関係が存在しなくても、ある法律関係に基づいて(当事者の信頼が基礎にある)特別な社会的接触の関係に入った当事者間では、相手方に損害を被らせないようにする信義則上の作為義務が認められる場合があり得る。

学説でも、いわゆる附随的義務等については、債権・債務関係が既に成立している場合に限定されず、契約の準備段階において同種の義務としてその存在を認めることができるとされている。

関係的契約規範として「(当事者の信頼が基礎にある)一定の契約関係に入った当事者は、相手方の損害の発生や拡大を容易に回避しうるときは、そのための作為義務を負う」との契約的原理が認められる(内田)。

◎ 本判決は、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をした場合には、その申出の具体的状況如何によっては、Y社は、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組の内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合がある旨を説示。

判例時報2383

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2018年12月10日 (月)

普天間飛行場代替施設等の建設差止請求

那覇地裁H30.3.13      
 
<事案>
漁業権を管轄する地方公共団体が、国の進める普天間飛行場代替施設等の建設に際して、規則により必要とされる県知事の許可を得ずに岩礁破砕等の行為が行われるおそれがある
⇒当該行為の差止めを求め、また予備的に、かかる行為の不作為義務の存在の確認を求めた。 
 
<判断>
本件請求は裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に該当しない⇒裁判所が固有の権限に基づいて審判することはできず、Xによる各訴えをいずれも却下。

最高裁H14.7.9(宝塚パチンコ店等建築規制条例事件)に依り、
①国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであり、法律に特別の規定がある場合に限り、提訴することが許され、
例外的に、
②財産権の主体として自己の財産上の権利利益の保護救済を求めるような場合には、法律上の争訟に当たる。

判例時報2383

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2018年12月 3日 (月)

大崎事件の第三次請求即時抗告審決定

福岡高裁宮崎支部H30.3.12   
 
<事案>
原審の再審開始決定⇒検察官の即時抗告⇒即時抗告を棄却

第一次再審第一審:再審開始の決定⇒即時抗告審:再審請求棄却⇒特別抗告審:即時抗告審を維持「なお、記録によれば、申立人提出に係る新証拠の明白性を否定して本件再審請求を棄却すべきものとして原判断は、正当として是認することができる
第二次再審:第一審、即時抗告、特別抗告も棄却
第三次再審請求
 
<原審>
「法医学鑑定」(A鑑定)⇒死因を頚部圧迫による窒息死と推定した①旧鑑定の証明力を減殺、

供述心理学鑑定(捜査官が録取したDの供述調書を鑑定資料として実施したB・C新鑑定)⇒Dの目撃供述の信用性判断においては慎重な判断をする必要があることを明らかに⇒D供述によって補強されていたF、Gらの供述の信用性評価に影響を与える可能性

新旧全証拠を用いて(FGHの各供述の信用性判断を改めて行うことを含めて)事実認定全体の再評価を行うもの。
 
<判断>
●検察官の即時抗告を棄却 
B・C新鑑定(供述心理学鑑定)の明白性を肯定した原決定の判断は、何ら合理的根拠を示さない不合理な判断。
B・C新鑑定は、その鑑定手法及び鑑定内容も不合理⇒B・C新鑑定の明白性を否定。

A鑑定(法医学鑑定)につき、「頚部圧迫による窒息死であることを積極的に認定できる所見がない」という限度で肯定した原決定につき
A鑑定は①旧鑑定をいささかも左右しないのに、①旧鑑定の証明力を減殺したものと評価している点において不合理な判断。

●A鑑定の証明力につき、「『Kの死因につき窒息死と推定し、頚項部に作用した外力により窒息死したと想像した』とする①旧鑑定が誤りであり、『タオルで頚部を力いっぱい絞めて殺した』とする確定判決の認定事実とKの解剖所見は矛盾しており、Kの死因は転落事故等による出血性ショック死の可能性が高い」としたA鑑定の結論部分は、十分な信用性を有している
A鑑定が旧証拠に及ぼす影響につき詳細に検討し、さらに、確定一審判決の心証形成の過程も具体的に検討して、
A鑑定が確定審において取り調べられた場合には、確定審におけるF、G、Hらの供述は、信用性を基礎付ける客観的根拠が喪われることにより、その信用性には重大な疑義が生じる。
⇒A鑑定の明白性を認める判断。

 
<解説>
本決定:
「新証拠の証明力評価」を先行させ、「新証拠が旧証拠に及ぼす影響」を検討し、「確定審の心証形成の過程」を確認した上で、新証拠が旧証拠に及ぼす影響が確定判決の事実認定にどのような影響を及ぼしたのかを検討。

第一次再審即時抗告審と同様「限定的再評価説」の流れに属する。

判例時報2382

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2018年12月 1日 (土)

甲子園出場を決めた高校の後援会による補助金の目的外使用について、返還請求を求める住民訴訟

盛岡地裁H30.4.20      
 
<事案>
その硬式野球分が甲子園全国大会出場を決めたA高校を後援するために設立されたB後援会(権利能力なき社団)に対し、C市から1000万円の補助金が交付されたことについて、X(C市住民)が、執行機関であるY(C市長)に対し、本件補助金がC市の補助金交付規制及び要綱所定の用途(出場生徒の交通費・宿泊費)以外の用途に使用された⇒補助金交付決定を取り消して本件補助金の返還請求をしていないこと(怠る事実)の違法確認とB後援会に対して返還請求をすることを求めた住民訴訟
 
<差戻前一審> 
Xの主張する不当利得返還請求権は、補助金交付決定が取り消されて初めて発生するところ、これを取り消すべきか否かは行政管理上の判断事項⇒前記不当利得返還請求権は地自法242条1項所定の「財産」に当たらない 
 
<控訴審>
本件補助金が他用途に使用されたと認められる場合、その返還を求めるに際し交付決定の取消しをすることは手続上の要件にすぎず、Yには、特段の事情のない限り、本件補助金の返還を求めない裁量はない。 

同返還請求をしないことは、本件補助金の交付決定を行わないことも含めて、地自法242条1項所定の「財産」の管理を怠る行為に該当
⇒差戻前一審判決を取り消した。
 
<判断>
B後援会は、解散後も清算の目的の範囲内で権利能力なき社団として存続⇒本件訴えは適法。

①本件補助金は、根拠放棄であるC市の補助金交付規制及び要綱に従って交付されているところ、これら規定によれば、補助金の交付対象となる経費は大会出場者の交通費及び宿泊費(交通費等)に限定されている
②・・・目的外使用となるのは、本件補助金か1000万円から交通費等に充当された金額を控除した、420万6275円
補助金の目的外使用があった場合、補助金の返還を請求しないことを相当とする特段の事由が存しない限り、執行機関はその返還を求めん変えればならないと解されるところ、単にB後援会が解散したというだけでは特段の事情があるとはいえない。
本件補助金のうち目的外使用がされた部分以外については、これを取り消すかどうかはYの一般行政管理上の裁量判断による⇒当該措置の是非は住民訴訟の対象として想定されていない。

前記420万6275円の支払請求を怠ることの違法確認とこれをB後援会に対して支払請求することを求める限度で、原告の請求を認容

拘束力(行訴法33条1項)⇒本件補助金の交付決定を取り消す義務を主文に掲載する必要はない。
 
<解説>
認容判決に特有の本案上の論点に関し、
公金からの収入と他の収入とが混和し支出がいずれによるものか区分できない場合の公金返還の範囲の点について、
①公金と全体の支出の比による按分計算によって例と
②公金から目的内支出を差し引くことによる差額計算によった例
がある。

判例時報2382

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«被爆者援護法同法27条に基づく認定の申請がされた健康管理手当の受給権の一身専属性(否定)