2018年6月23日 (土)

普通保険約款の定めと免責事由が問題となった事案

神戸地裁H29.9.8      
 
<事案>
X1及びX2が、火災によりX1所有の建物(本件建物)及びその内部にあるX2所有の家財一式が焼損(本件火災)
⇒X2とYとの間の火災損害保険契約(本件保険契約)に基づき、Yに対し、X1において本件建物に係る保険金2400万円及び遅延損害金の支払を、
X2において前記家財に係る保険金300万円および遅延損害金の支払を、
求めた事案。 

本件保険契約に係る普通保険約款:
①被保険者とは、「保険の対象の所有権で保険証券に記載されたもの」をいう
②Yは、本契約者又はその同居の親族等の「故意もしくは重大な過失」によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない
と規定。
 
<争点>
①被保険者の要件を「保険の対象の所有者」に加え「保険証券に記載されたもの」とする保険約款の定めが保険法2条4号イ、8条に違反するか
②本件火災が保険契約者であるX2の同居親族の「故意」又は「重大な過失」によって生じたのか 
 
<規定>
保険法 第二条(定義)
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
四 被保険者 次のイからハまでに掲げる保険契約の区分に応じ、当該イからハまでに定める者をいう。
イ 損害保険契約 損害保険契約によりてん補することとされる損害を受ける者

保険法 第八条(第三者のためにする損害保険契約)
被保険者が損害保険契約の当事者以外の者であるときは、当該被保険者は、当然に当該損害保険契約の利益を享受する。
 
<判断> 
●損害保険契約の「被保険者」 は、契約の一般原則に基づき、当事者の合意により定まるが、
保険法2条4号イ所定の要件を満たさない者であった場合には、当該契約は無効になる。
損害保険契約の当事者が、同号イ所定の要件を満たさない者を「被保険者」と定めた場合、当該契約は無効となるが、
たとえ客観的に同要件を満たす者が他に存在するとしても、その者は、当該当事者から「被保険者」と定められていない以上、「被保険者」に当たらない。

「被保険者」の要件に関する本件約款の定めは、保険法に反しない。
 
●Aは、本件火災の発生直前、油鍋を再び加熱し始めたのに、漫然と別室に移動して約10分間これを放置⇒油鍋の状況を継続的に注視するという基本的な注意義務すら遵守することができていなかった。

X2の同居親族であるAには、本件火災の発生につき重大な過失があった。
 
<解説>
保険法2条4号イは、損害保険契約の「被保険者」同契約によりてん補することとされる損害を受ける者と規定
この「被保険者」は、同時に保険給付請求権者であって、これ以外の者に保険給付を取得させるよう定めることはできない。

平成20年法律第57号による改正前の商法の下でも、
保険の対象が保険契約者の所有物であることを前提に損害保険契約が締結されたが、実際には当該保険契約者が被保険利益を有しない場合には、当該保険契約は無効と解されていた(最高裁昭和36.3.16)。

保険法は、損害保険契約において同法2条4号イの要件を満たさない者を「被保険者」と定めた場合には、当該契約を無効とする趣旨
but
保険法は、契約の一般原則(契約自由の原則)に基づき、あくまでも当事者間の合意により「被保険者」が定まることを前提とし、損害保険の趣旨及び目的等からこれを修正にするにとどまる。

保険法は、当事者の合意いかんにかかわらず、客観的に同号イの要件を満たす者を当然に「被保険者」として確定する趣旨は含まない。

本判決:
「被保険者」の要件を
「保険の対象の所有者」に加えて「保険証券に記載されたもの」とする本件約款が、保険法2条4号イ、8条に反するとはいえない

 
保険約款上の免責事由である「重大な過失」
民法又は保険法上の「重大な過失」と同様に、
通常人に要求される程度の相当の注意をしないでも、わずかの注意させすれば、違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、
漫然これを見すごしたような、
ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態
を指す。

(最高裁) 
通常人であれば、ガスコンロの火で油を加熱し続けると引火して火災に至るおそれがあるのを容易に予見できる
⇒その状態が放置されたことにより火災が発生した場合には、これを放置した者に「重大な過失」があると認めるのが裁判例の趨勢。

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2018年6月22日 (金)

面会交流の事案

東京高裁H29.11.24      
 
<事案>
XとYは平成21年に婚姻の届出をし、
同22年に長男Aを、同25年に二男Bをもうけた。
Yは、同26年12月に未成年者らと共にXの住所から出てYの住所に別居をした。
Xは会社を経営し、Yは薬剤師として稼働。
 
<原審>
非監護親と子との面会交流を実施することは、一般的には、子の福祉の観点から有用であり、子が精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応をするために重要な意義がある。
もっとも、面会交流を実施することがかえって子の福祉を害するという特段の事情があるときは、面会交流は禁止・制限されなければならない」
として、いわゆる原則実施論に立脚。 
 
<判断>
●父母が別居し、一方の親が子を監護するようになった場合においても、子にとっては他方の親(「非監護親」)も親であることに変わりはなく、別居等に伴う非監護親との離別が否定的な感情体験となることからすると、子が非監護親との交流を継続することは、非監護親からの愛情を感ずる機会となり、精神的な健康を保ち、心理的・社会的な適応の維持・改善を図り、もってその健全な成長に資するものとして意義があるということができる

他方、面会交流は、子の福祉の観点から考えるべきものであり、父母が別居に至った経緯、子と非監護親との関係等の諸般の事情から見て、子と非監護親との面会交流を実施sることが子の福祉に反する場合がある。

面会交流を実施することがかえって子の福祉を害することがないよう、事案における諸般の事情に応じて面会交流を否定したり、その実施要領の策定に必要な配慮をしたりするのが相当である。

◎Xによる未成年者に対する暴行行為、虐待行為があったとは認められず、
他方長男も試行的面会交流を重ねるに従いXとの親和度を増していて、未成年者らはXに一定程度の親和性を有していることが認められる。
⇒未成年者らとXとの直接的面会交流を禁止すべきとはいえない。

◎Xには、Y及び未成年者らとの同居中から、同人らの心身の状態、立場、心情等に対する理解・配慮を欠く点があり、
その行動・態度は自己中心的で、
自制心をもって面会交流のルールを行うことが順守できるか懸念がないとはいえない。

YはXの言動によって精神的負荷を受け、Xに対し信頼感を持てなくなっており、Yが安心して未成年者らを面会交流に送り出すことができる環境を整えることが必要

①直接面会交流を認めるのが相当。
②未成年者らは平成26年12月の別居後、これまで3回の試行的面会交流をしたのみ⇒短時間の面会交流から始めて段階的に実施時間を増やす。
頻度は、1か月に1回、面会時間は半年間1時間、半年後から2時間。
1年6カ月(18回分)の間は第三者の支援(面会立会い)を認めるのが相当。
 
<解説>
裁判官の中にも、
「面会交流実施論とそれに対する批判がありますが、
原則として面会交流お実施すべきであるとか、原則として実施すべきでないというような、原則はどちらかという問題ではなく、
あくまでも子の利益になるかという観点から、個別の判断をすべきである。
とするもの。 

従来の家裁の実務:
面会交流の許否等につきいわゆる比較基準論に従って双方の諸事情を丁寧に審理判断。

平成20年前後頃からいわゆる原則実施論が台頭

その見直し

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2018年6月21日 (木)

仲裁人が「自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある」事実の開示義務の違反となる場合

最高裁H29.12.12      
 
<事案>
● 一般社団法人商事仲裁協会(JCAA)における、米国法人X1、X2と日本法人Y1、シンガポール法人Y2との間の仲裁事件(「本件仲裁事件」)において、3人の仲裁人の合議体である仲裁廷がした仲裁判断につき、Xらが、仲裁法44条1項6号所定の取消事由があるなどと主張して、その取消しの申立てをした。 
● 本件仲裁事件の仲裁人として、平成23年9月20日までに、本件仲裁人(D法律事務所シンガポールオフィスに所属する弁護士)ほか2名が選任された。

本件仲裁人は、同日付で、
「D法律事務所の弁護士は、将来、本件仲裁事件に関係性はないけれどもクライアントの利益が本件仲裁事件の当事者及び/又はその関連会社と利益相反する案件において、当該クライアントに助言し又はクライアントを代理する可能性があります。また、D法律事務所の弁護士は、将来、本件仲裁事件に関係しない案件において、本件仲裁事件の当事者及び/又はその関連会社に助言し又はそれらを代理する可能性があります。」との記載のある表明書を作成し、これをJCAAに提出。

弁護士Eは、本件仲裁人が本件仲裁事件の仲裁人に選任された時点ではD法律事務所に所属していなかったが、遅くとも平成25年2月以降、D法律事務所サンフランシスコオフィスに所属。

本件仲裁人は、本件仲裁判断がされるまでに、本件仲裁事件の当事者であるXら及びYらに対し、Y1と同じくC社を完全親会社とする米国法人F社を被告として米国カリフォルニア州北部地区連邦地方裁判所に係属する訴訟においてD法律事務所に所属するEがF社の訴訟代理人を務めている事実を開示しなかった。
 
<規定>
仲裁法 第18条(忌避の原因等)
4 仲裁人は、仲裁手続の進行中、当事者に対し、自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(既に開示したものを除く。)の全部を遅滞なく開示しなければならない。
 
<原決定>
本件事実が法18条4項の事実に当たるとした上で、
①本件仲裁人は、本件表明書において、将来、利益相反関係が生ずる可能性があることを抽象的に表明したにすぎない⇒本件事実を開示したことにならない。
②仲裁人は手間をかけずに知るとことができる事実について開示のための調査義務を負うべきであり、本件事実については本件仲裁人が所属するD法律事務所でコンフリクト・チェック(利益相反関係の有無を確認する手続)を行うことにより特段の支障なく調査することが可能であったといえるところ、これが実施されなかったために本件事実が開示されなかったとしても、本件仲裁人はその開示義務に違反し、このことは法44条1項6号所定の仲裁判断の取消事由に当たり、かつ、この開示義務違反は重大な手続上の瑕疵
⇒Xらの本件申立てを裁量により棄却すべきはないと判断し、認容。
 
<判断>
仲裁人が当事者に対して法18条4項の事実が生ずる可能性があることを抽象的に述べたことは、法18条4項にいう「既に開示した」ことに当たらない
⇒原決定①の判断は是認できる。

仲裁人が、当事者に対してい法18条4項の事実を開示しなかったことについて、
法18条4項所定の開示義務に違反したというための要件として、
仲裁手続が終了するまでの間に、仲裁人が当該事実を認識していたか、仲裁人が合理的な範囲の調査を行うことによって当該事実が通常判明し得たことが必要

この要件の有無につき確定することなく、本件仲裁人が本件事実の開示義務に違反したことを認めた原判決の②の判断は是認できない
⇒原決定を破棄し、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した。
 
<規定>
仲裁法 第44条
当事者は、次に掲げる事由があるときは、裁判所に対し、仲裁判断の取消しの申立てをすることができる。

六 仲裁廷の構成又は仲裁手続が、日本の法令(その法令の公の秩序に関しない規定に関する事項について当事者間に合意があるときは、当該合意)に違反するものであったこと。

・・・

6 裁判所は、第一項の申立てがあった場合において、同項各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるとき(同項第一号から第六号までに掲げる事由にあっては、申立人が当該事由の存在を証明した場合に限る。)は、仲裁判断を取り消すことができる

仲裁法 第18条(忌避の原因等)
当事者は、仲裁人に次に掲げる事由があるときは、当該仲裁人を忌避することができる。
二 仲裁人の公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき。
 
<解説>   
●法18条4項を事実である本件事実を本件仲裁人が開示しなかったことを理由として本件仲裁判断を取り消すためには、
①前記の不開示が法18条4項所定の開示義務に違反するものであり、かつ
②この開示義務違反が法44条1項所定の仲裁判断の取消事由のいずれかに該当することが必要。
仲裁判断の取消事由があると認められる場合であっても、事情によっては、仲裁判断の取消しの申立てを裁量により棄却することがあり得る(法44条6項)。
 
●仲裁人に「公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき」は、仲裁人を忌避できる(法18条1項2号)。

「公正性又は独立性を疑うに足りる相当な理由があるとき」とは、
一般論としては、
①仲裁人が事件又は当事者と一定の関係があるために公正な仲裁判断が期待できないこと、
②具体的な仲裁人の行動が仲裁人の公正性又は独立性についての合理的な疑いを生じさせること
を意味すると解されている。

法18条4項所定の開示義務(=自己の公正性又は独立性に疑いを生じさせるおそれのある事実(既に開示したものを除く。)の全部)との関係で主として問題となるのは、前記①。

「仲裁人が当事者又はこれを同視すべき者である場合」のみならず、
「仲裁人が、現在、当事者と密接な関係にある場合」
も前記①に当たるとされている。

具体例として、
仲裁人が当事者の顧問として日常的に助言等をしている顧問弁護士であるという場合のみならず、
仲裁人が当事者の顧問弁護士と同じ法律事務所に所属し、協力関係が確立されている場合も挙げられている。

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2018年6月20日 (水)

親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めたのが権利の濫用とされた事例

最高裁H29.12.5      
 
<事案>
離婚した父母のうちその長男の親権者と定められた父Xが、法律上監護権を有しない母Yを債務者とし、親権に基づく妨害排除請求権を被保全権利として、長男Aの引渡しを求める仮処分命令の申立てをした。 
 
<原審>
本件申立ての本案は、家事事件である子の監護に関する処分の審判事件であり、民事訴訟の手続によることができない⇒本案申立ては不適法。 
   
Xが抗告許可申立て⇒原審がこれを許可。
 
<判断>
離婚後の父母のうち親権者と定められた一方が、民事訴訟の手続により、法律上監護権を有しない他方に対し、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができる
but
判示の事情
①子が7歳であり、母は、父と別居してから4年以上、単独で子の監護に当たってきたものであって、母による前記監護が子の利益の観点から相当なものではないことの疎明がない
②母は、父を相手方として子の親権者の変更を求める調停を申し立てている
③父が、子の監護に関する処分としてではなく、親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求める合理的な理由を有することはうかがわれない

XがYに対し親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めることは権利の濫用に当たる
 
<解説>
●親権者が民事訴訟の手続により法律上監護権を有しない監護者に対し親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めることができる(最高裁昭和35.3.15)。
前記監護者が離婚後の父母のうち一方であっても同様(最高裁昭和45.5.22)。 

A:離婚後の父母間いおいては、親権者は民事訴訟の手続により親権に基づく妨害排除請求として子の引渡しを求めないとする見解

離婚後の父母であれば、親権者が、非親権者を相手方とし、監護者指定とは独立した子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てをすることができ、民事訴訟の手続による子の引渡請求を認める必要がない。
vs.
①民事訴訟の手続により子の引渡請求をすることができるか否かと、子の監護に関する処分として子の引渡しを求める申立てをすることができるか否かとは、既存の権利の発見と権利・義務の形成というように、次元が異なるもので、
同じ当事者間において同様の結果を得られる形成裁判を求めることができることを理由として、当該当事者間で給付訴訟をすることができないことにはならない。
②親権については、平成23年法律第61号による民法改正において、820条に「子の利益のために」との文言が入り、834条の2に親権停止の規定が新設されたものの、823条の懲戒権が削除されなかったなど権利性が維持

現時点において、前掲最高裁判例を変更し、離婚後の父母間における親権に基づく妨害排除請求権を否定するのは、時期尚早。

親権は子の利益のために行使されなければならず(民法820条)親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は申立てにより当該親権者について親権停止の審判をすることができる(民法834条の2)

子の利益を害する不適当な親権の行使が権利の濫用に当たることは明らか。 

●離婚後の父母のうち親権者と定められた一方は、法律上監護権を有しない他方を相手方として、独立の子の監護に関する処分として子の引渡しを求めることもできると解される。
子の監護に関する処分としてAの引渡しを求める申立てであれば、家事手続法に基づき審理することになる。

子の意思を把握し審判をするに当たりこれを考慮しなければならない旨を定める同法65条が適用されるなど子の福祉に対する配慮が図られ、Aの引渡しが繰り返されることを回避しやすい。

家事事件手続法 第65条
家庭裁判所は、親子、親権又は未成年後見に関する家事審判その他未成年者である子(未成年被後見人を含む。以下この条において同じ。)がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。
but
Xはあえて前記申立てをせず、民事訴訟の手続により親権に基づく妨害排除請求としてAの引渡しを求めている。
そして、そのことについて合理的な理由を有することがうかがわれない。
(親権者変更の蓋然性がほとんどないとか、明らかに子の奪取方法が違法であるなど子の福祉に対する配慮を特段しなくても適切な結論を得られる場合には、合理的な理由があるといってよいと考えられる。)

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2018年6月16日 (土)

大学院生に対する退学処分の事例

名古屋高裁H29.9.29      
 
<事案>
Xは、Y大学が設置する大学院医学研究科修士課程に在籍していた学生。
同大学学長は、Yの本件大学院に勤務していた派遣職員について同和差別を内容とする発言をするなどしてその名誉を毀損した行為や、派遣職員の派遣元会社に電話をしてその業務を妨害した行為等が、懲戒処分を定めた学則所定の事由に当たる⇒退学処分。

Xが、
本件退学処分が根拠のない事由に基づいてされたなどの点において違法かつ無効なものである旨主張し、
Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認と、
違法な本件退学処分により精神的苦痛を受けたなどとし主張して、不法行為に基づく損害賠償請求を求めた。 
 
<原審>
本件退学処分は違法

Xが大学院修士課程の学生の地位にあることの確認及び
Y大学に対して慰謝料等として55万円の支払を命じた。 
 
<判断>
最高裁昭和29.7.30、最高裁H8.3.8を引用し、
退学処分を行うかどうかの判断は、学長の合理的な教育的裁量に委ねられるべきものであり、裁判所がその処分の適否を審査するに当たっては、学長と同一の立場に立って当該処分をすべきものではなく、
学長の裁量権の行使としての処分が、全く事実の基礎を欠くか又は社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え又は裁量権を濫用してされたと認められる場合に限り、違法であると判断すべき。
②退学処分は学生の身分をはく奪する重大な措置であり、学校教育法施行規則26条3項も4個の退学事由を限定的に定めており、本件大学院の学則の趣旨も同様であると解される

当該学生を学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って退学処分を選択すべきであり、
その要件の認定については他の処分の選択に比較して特に慎重な配慮を要する。 

原審:
Xが、派遣職員が部落出身者などと発言し、指導教授に対して派遣契約の解除をすることを求め、結果的に派遣職員を自宅待機にした行為は社会通念上許される限度を超えたもの
but
①当該派遣職員が本件同和差別発言があったことを認識していなかったこと
②派遣会社はXの「処分を求めておらず、指導教授は、派遣社員が自宅待機となったことで、Xに対する指導方針の変更は余儀なくされたが、研究室の運営が困難になったとまでは認められない

Xの行為により生じた結果が重大なものとはいえない

控訴審:
①本件同和差別発言が社会通念上許される限度を超えたものであり、派遣社員の名誉を毀損するものと認定。
②Xが指導教授らの指導に対して、人格攻撃を含めた反発をし、他の教員から懲戒の対象になるなどとの警告を受けたにもかかわらず、指導に従わない態度を継続
③Xのこれらの一連の言動は、社会的に許容された限度を超えるものであり、その結果、研究室の運営に重大な影響を及ぼすに至った等と認められる。

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2018年6月15日 (金)

重婚的内縁配偶者と厚生年金保険法59条1項の「配偶者」

名古屋高裁H29.11.2      
 
<事案>
厚生年金保険法に基づく老齢年金の受給権者であった訴外Aが死亡⇒Aと内縁関係にあったXが処分行政庁に遺族厚生年金の支給を請求⇒遺族年金を支給しない決定⇒その取消しを求めた。 
 
<原審>
①Aと婚姻関係にあったB(補助参加人)との婚姻関係は実体を失って形骸化し、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのない事実上の離婚状態にあったと認めるのが相当。
②AとXとの内縁関係は、Aの死亡当時、相当程度安定かつ固定化していた

厚年法59条1項所定の「配偶者」に当たると認めるのが相当。 
   
Bが控訴。
 
<判断>
原判決は正当。

B:長い間苦楽を共にしてきた夫婦であり、Aとの間に離婚話が出たことはない
vs.
AとBとは、平成12年以降完全に別居し、連絡も断絶状態
⇒その後の12年間は、苦楽を共にしてきた夫婦であるとはいえず、Aが死亡した時点では、事実上の離婚状態であった。

B:XがAの女道楽のうちの1人にすぎず、単に同棲関係が長時間続いただけであって、AとXとの間には婚姻の意思又は合意はない
vs.
AとXは、平成12年以降Xの自宅で同居し、
AとXの生活は、Aから支出された年金等で支えられており、
Aも第三者に被控訴人を内縁の妻と紹介


Xは、Aの女道楽の1人であり、Aとの同性関係が長期間続いただけであるとはいえない。

B:Bの生活がAの経済的援助によって維持されてきた
vs.
Bが受け取ったAの退職金は、AとBとの婚姻関係解消を目的とした清算金としての性質を有するものと見るのが相当であり、その後Aから定期的な金銭の交付があるわけではなかった
⇒Bの生活がAの経済的援助によって維持されていたとはいえない。

B:本件公正証書遺言によって、AがBの生活基盤を確保できるように配慮した
vs.
遺言において、不動産がXへの遺贈の対象から除外されたのは、XとBとの紛争を回避するのが目的であったと考えられる。

B:AがB方に電話を掛け、Bのことを常に心配していた
vs.
AがB方に電話を掛けたことをもって、AとBとが事実上の離婚状態にあったことを覆す事情とはいえない。

B:婚姻の意思すらない男女が同棲する場合に、容易に内縁関係を認めることは、法律婚制度に混乱を与えることになるし、Xに遺族厚生年金を支給することはXの年収が500万円を超えている以上、厚年法の制度目的に違背。
vs.
厚年法上、AとBの婚姻関係が事実上離婚状態にある以上、重婚的内縁関係にあるXを法的に保護しても、厚年法の制度目的に違背するものとはいえず、社会正義上許されないとは言えない。
 
<解説>
厚年法59条1項は、遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者の「配偶者」と定めるが、
同法3条2項は、この法律において「配偶者」とは、婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものと規定。 

法律上の配偶者と事実上婚姻関係と同様の事情にある者(いわゆる重婚的内縁関係にある者)とが競合する場合、いずれを遺族厚生年金の受給者と見るか?
「互いに協力して社会通念上夫婦としての共同生活を現実に営んでいた者」であるというべき(最高裁昭和58.4.14)であるが、
その場合、重婚的内縁関係にある者について生計維持の有無を判断するよりも、むしろ法律上の配偶者について「その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち、事実上の離婚状態にある」か否かを積極的に判断すべきものとされている。(最判解説)

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2018年6月13日 (水)

NHK受信料訴訟大法廷判決

最高裁H29.12.6      
 
<事案>
X(日本放送協会)が、Xの放送を受信することのできる受信設備を設置していながらXとの間でその放送の受信についての契約を締結していないYに対し、受信料の支払等を求めた事案。 
 
<規定>
放送法64条1項:
「協会(X)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定 

Xは、日本放送協会放送受信規約を策定し、
同条3項に従い総務大臣の認可を受けて、これを受信契約の条項として用いている。

放送受信規約には、受信契約を締結した者は受信設備の設置の月から定められた受信料を支払わなければならないことなどが規定
 
<争点>
①放送法64条1項は、受信設備設置者に対し受信契約の締結を強制する規定か
②同項が受信契約の締結を強制する規定である場合
(ア)受信契約はどのような態様で強制的に成立するのか
(Xが受信設備設置者に対し申込みの意思表示をすることのみによって成立するのか、
受信設置者に対し承諾の意思表示を命ずる判決が確定して初めて成立するのか)
(イ)同項は憲法に違反するか
(ウ)強制的に成立した受信契約によってどの範囲で受信料債権が発生するか(受信契約成立時以降の分か、受信設備設置の月以降の分か)
(エ)前記(ウ) で受信設備設置の月以降の分の受信料債権が発生する場合、その受信料債権の消滅時効はいつから進行するか
 
<主張>
(ア)主位的請求:
Xの受信契約の申込みがYに到達した時点で受信契約が成立⇒受信設備設置の月の翌月である平成18年4月分から平成26年1月分までの合計21万円余の受信料の支払

(イ)予備的請求①:
受信契約の締結義務の履行遅滞に基づき前記同額の損害賠償を求める

(ウ)予備的請求②:
受信契約の承諾の意思表示をするよう求めるとともに、これにより成立する受信契約に基づき前記同額の受信料の支払を求める

(エ)予備的請求③:
不当利得返還請求として前記同額の支払を求める
 
<判断>
放送法64条1項は、同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の、日本放送協会の放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めた規定
⇒日本放送協会からの前記契約の申込みに対して前記の者が承諾をしない場合には、日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって前記契約が成立する。

放送法64条1項は、同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の、日本放送協会の放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めたものとして、憲法13条、21条、29条に違反しない

日本放送協会の放送の受信についての契約を締結した者は
受信設備の設置の月から定められた受信料を支払わなければならない旨の条項を含む前記契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合、
同契約に基づき、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生

日本放送協会の放送の受信についての契約に基づき発生する、受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(前記契約成立後に履行期が到来するものを除く)の消滅時効は、前記契約成立時から進行する。

判例時報2365

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2018年6月10日 (日)

強制採尿令状執行を確保するための留め置きが違法とされた事例

大阪地裁H29.3.24   
 
<事案>   
 
<判断・解説> 
●職務質問開始から強制採尿令状請求準備着手までの留め置き:
その必要性と手段の相当性を肯定し、適法。 

プライバシー侵害のおそれのある救急車への同乗と搬送後の病院内の動向監視:
①既に令状の請求段階に入っている⇒令状執行のために被告人の動向を監視しておく必要性が高かった
被告人が弁護士と連絡を取るなどの行動の自由が確保されていた
動向監視の手段の相当性を肯定して適法

有形力を行使したK5警察官の乗車阻止の行為
令状執行を確保するために留め置きの必要性がある場合に「一定程度の有形力を行使することも、強制手段にわたらない限り、許容される余地」があるとしつつも、K5警察官の行為は、任意捜査として許容される限度を超えた逮捕行為という他ない⇒違法

K5警察官が承諾なしに車両に乗り込んだ行為も違法。
 

職務質問から発展した覚せい剤事犯の任意捜査のための留め置き:
東京高裁H21.7.1:
令状請求の準備着手の前後で「純粋に任意捜査の段階」と「強制捜査への移行段階」とに区分。
後者においては、嫌疑が濃厚であることから被疑者の所在確保の必要性が高い⇒前者に比して「相当程度強くその場に止まるよう被疑者に求めることも許される」
(二分論) 

その後の高裁判例には、
二分論にしたがって、強制手続への移行後には、相当程度の有形力の行使があっても留め置きを適法とするものがある一方、
二分論に準拠せずに、留め置き全体につき諸般の事情を総合的に考慮して留め置きを違法とするもの
もある。

本判決は、
プライバシー侵害に当たりうる警察官の救急車への同乗と病室内に滞留しての動向監視につき、令状請求準備着手後であることを理由に令状執行に向けた被告人の留め置きを適法としている。
~二分論に準拠。
but
強制手続への移行後、とりわけ最終段階の令状発付後であったとしても、現実の令状呈示にいたるまでは任意捜査の段階⇒強制手段に至らない限度での有形力の行使が認められるのに止まり(最高裁昭和51.3.16)、二分論の下でも、強制手段である逮捕行為に至った場合には違法となる旨判示。
 
●K5警察官が「令状発付の有無という重要事項につき、未確認のままに確定的な回答をするという姿勢からは、同警察官において、令状主義の精神を軽視する姿勢が顕著であった」⇒前記違法行為と併せてK5警察官の留め置きには「令状主義の精神を没却するような重大な違法がある」と判断。
⇒尿鑑定書等の証拠能力を否定。 
 
◎留め置きを違法と判断した後の尿鑑定書等の証拠能力の判断:
二分論以降の高裁判例には、違法の重大性を否定して証拠能力を肯定したものが多い。
but
違法の重大性を肯定して証拠能力を否定したものもある。

証拠能力を否定した下級審確定判例の多くは、令状請求の際の疎明資料に捜査官が意図的に虚偽記載をしたと認定し、裁判官を欺罔する捜査官の主観面を考慮に入れた結果、「令状主義の精神を没却する重大ない違法がある」と判断(最高裁H15.2.14)。 
 
◎本判決は、裁判官に対する欺罔行為ではなく、弁護士からの問いに対しK5警察官が主観的には認識していない令状発付の事実を既成事実のように告知したことを重視。 

裁判官の令状審査を歪めたという関係にはなく、客観的には令状が発付されていた⇒必ずしも虚偽とはいえない前記告知の事実から直ちに「令状主義の精神を軽視する姿勢」を帰結するには異論もあり得る。
むしろ、違法の重大性を基礎付けた根拠は、K5警察官が任意捜査の段階であるとの弁護士の指摘を無視して逮捕行為に及んだ点にある

判例時報2364

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2018年6月 9日 (土)

警備対象である組長にけん銃等の所持の共謀共同正犯が成立

大阪地裁H29.3.24      
 
<事案>
配下組員P1及びP2がけん銃等を所持⇒AがP1及びP2と共謀していたかが争点。
 
<判断>
①本件当時、AらZ1組関係者に対するZ5会関係者からの襲撃の危険があるとの認識を有していた
②Z3会事務所やAの自宅付近に警戒態勢が取られ、Aはそれを認識していた
③JR浜松駅からZ1組総本部に至るまでの駅構内、新幹線等において、P1及びP2がけん銃を携帯しつつXの身辺に随行して警備しており、Aもそれを認識していた
④Z1組総本部から本件ホテルに至るまでの警備も同様
⑤本件ホテルにおいてもZ3会及びZ2会関係者がA及びZ2会組長を警護していた
⑥本件当日ロビーにおける警護状況も同様
⑦Z3会における同会組長の警護態勢との比較によって前記判断は左右されない

Aにおいて、P1及びP2がけん銃を携帯所持していることを認識した上で、それを当然のことととして受け入れて認容していたと推認するのが相当。 

P1及びP2は、けん銃等をいつでも発射可能な状態で携帯所持してAに随行し警護していたものであり、P1及びP2としても、Z3会組長であるAの立場からして、AがP1及びP2のけん銃等の携帯所持を認識、認容していることを当然に了解していたと推認できる

Aと、P1及びP2とけん銃等の携帯所持について、黙示的な意思連絡があった。

Aは、Z3会組長として、配下のP1及びP2らの意思決定や行動に大きな影響を与える支配的立場にあった上、本件犯行の利益は専らAに帰属する関係にあった

Aは本件犯行について共謀共同正犯としての責任を負う。
 
<解説>
最高裁平成15年及び最高裁平成17年で、組長が配下組員のけん銃所持を「概括的にせよ確定的に認識」していた点につき、 本判決は「確定的」という文言を使っていない。
but
一般的にいえば、非実行者の認識は未必的で足りるとされる(最高裁H19.11.14)。

判例時報2364

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2018年6月 8日 (金)

商標権侵害について過失の推定が覆され、不法行為が否定された事例

大阪地裁H29.4.10      
 
<事案>
登録商標「観光甲子園」の商標権者であるXが、その名称を使用して、
高校生が参加する「観光プランコンテスト」を共催校として第6回まで開催。

Yが共催校を承継したとして、Xに無断で、ホームページにおいて同登録商標を使用して同商標権を侵害するとともに、後継の大会として第7回を宣伝、開催することにより、本件商標権を価値を毀損
⇒不法行為を構成するとして損害賠償請求。
 
<争点>
不法行為の成否について
① 本件商標を使用して後継の大会として同コンテストを宣伝、開催することの許諾の有無
②Yの行為の違法性又は過失の有無
③権利の濫用等
④所有権に基づく優勝旗等の返還請求について、優勝旗等の譲渡の有無
 
<判断>
●争点① 
①本件事業は実質的にはXが主体となって行ってきたものであるといえる⇒共催校の変更を含む本件事業の承継は、Yの主張するところの大会組織委員会ではなく、Xの理事会の決議事項であると解すべき。
②X・Y間の本件事業の承継に関する具体的な協議は、X大学教授P1、Y大学教授P2及び双方の事務職員の間で行われたにとどまり、YがX代表者やXの理事に対して、本件事業を承継するとの意向を伝えたとは認められない
⇒Xの許諾は存在しない。

①Yは本件商標を無断でホームページ上において使用した⇒Yの行為者商標権侵害を構成
②後継の大会として第7回を宣伝、開催したことについても、少なくとも原告の許諾があったとは認められない。 
 
●争点② 
商標権侵害について過失が推定されることとされた趣旨は、商標権の内容については、商標公報、商標登録原簿等によって公示されており、何人もその存在及び内容について調査を行うことが可能であること等の事情を考慮したもの

侵害行為をした者において、商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合には、過失がないと認めるのが相当。

①本件事業の中心人物であるP1がX側担当者であるとYが信じて然るべき状況であった
②Xの理事や事務局担当者が出席する場でYが共催校であることが承認されていることなどの「種々の行動の積み重ね」
⇒Yにおいて、Xが組織としてYを共催校とすrことを了解していると考え、Yが第7回大会を行うために必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じることは極めて自然なこと。
③第7回大会の引き継ぎ準備の中で、本件商標のロゴのデータが事務職員P1を通じてYに引き渡されたことについて、登録商標の使用を許諾しない相手方に対して当該商標のロゴにデータを送付するとは考え難い


本件商標権の移転に関するXの理事会決議に先行して本件商標を使用することをXからあらかじめ許諾されており、必要な事項についてはX内部でしかるべき手続きが執られ、又は執られることになると信じ、また、そう信実につき正当な理由があった。
Yによる本件商標の使用には過失がなかったものと認めるのが相当。
 
●後継の大会として第7回大会を宣伝、開催した行為:
XがYに本件商標権の買取りを求めた時点で、それまで過失なく第7回大会の準備を進めていたYにとって、従前の大会との連続性を否定する行動をとることは極めて困難

違法性又は過失を欠くとして、不法行為の成立を否定

Yが保管している優勝旗等のX所有権に基づく返還請求に限り認容。 
 
<規定> 
商標法 第39条(特許法の準用)
特許法第百三条(過失の推定)、第百四条の二(具体的態様の明示義務)、第百四条の三第一項及び第二項(特許権者等の権利行使の制限)、第百五条から第百五条の六まで(書類の提出等、損害計算のための鑑定、相当な損害額の認定、秘密保持命令、秘密保持命令の取消し及び訴訟記録の閲覧等の請求の通知等)並びに第百六条(信用回復の措置)の規定は、商標権又は専用使用権の侵害に準用する。

特許法 第103条(過失の推定)
他人の特許権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があつたものと推定する
 
<解説>
過失の推定により立証責任の転換が図られた趣旨:
①公報等による公示がなされている
②業としての実施のみが権利侵害とされるため事業者に対して調査義務を課しても酷ではない 
公報未発行の期間の実施・使用については①の根拠を欠く⇒過失は推定されないという裁判例が展開

過失の推定は、理論上は、
権利の存在を知らなかったことにつき相当の理由があること
権利範囲に属することを知らなかったことにつき相当の理由があること
③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつきそうとの理由があったこと
につき立証すれば覆る。
but
実務上は推定が覆った例はほとんどなく、「事実上みなし規定に近い運用がなされている」(中山)

学説:
推定が覆るべき例として、
タクシー会社による特許権を侵害する自動車の運行や
小売業者が侵害品を販売する場合、
無数の特許権の存する機器類のユーザーによる使用
のように権利調査を履行することが事実上不可能な場合にまで推定規定を働かせることには問題。
⇒具体的事例に応じ、過失推定の覆滅を認めるべき。(中山)

最高裁H15.2.27:
輸入業者が使用許諾契約の存在、契約条項の内容、契約条項違反の事実の不存在等、公報に開示のないすべての事項についても調査を尽くさなければ本条の過失の推定は覆ることはない

本件:
前記①~③の3つの類型のうち、「③その他自己の行為が権利を侵害しないと信じるにつき相当の理由があったこと」についての立証に成功した事例。

裁判所が一般論として、
商標法39条(同条が準用する特許法103条)の根拠として「商標公報等による公示」を挙げた上で、
商標公報に開示されていない商標権者による当該商標の使用許諾を信じ、そう信じるにつき正当な理由がある場合に推定が覆るとの判示

同条の過失には商標権者による使用許諾の存在についての調査義務が含まれると解しつつも、これを商標公報及び商標原簿に開示された事実を区別し、異なる程度の調査義務を要求したもの。

判例時報2364

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